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貴族と言っても裕福な家ではないので、子供のおもちゃというものはないに等しい。
嗜好品に分類される子供のおもちゃは、正直高いのだ。
村の子供たちは、それこそ外がおもちゃみたいなものなので必要ないようだけれど、僕の場合は、高台だということもあって、現在のところ外に出れる要素がない。
つまり、暇!
なので、こうして本が唯一の僕のおもちゃなのだ。
え?本は高価じゃないかって?
その通り。本は高価なので、うちには本物の本はない。
写本ってやつだね。
これも決して安いわけじゃないけど、本物の本はその数十倍するため、うちでは購入なんてできない。
製本なんてもちろんされていない。
しかも紙ではなく、動物の皮の裏に記載しているので、文字もがたがたしていてわかりずらい。
写本のプロもいるようだけれど値段も高いのでうちの写本の文字はお世辞にも上手とはいいがたいというか…崩し字に近い感じだから読み難い。
まだ文字を覚え始めた僕ごときじゃ、わからないことも多い。
どちらかというと象形文字に近いこの国の文字は…人によっては「どっちだよ!?」ってぐらい似た文字を書くやつがいて困る。
そんな時はデューグにも協力してもらって解読するんだ。
デューグ曰く、わからない文字は前後の文章から推測するのだという。
最初の頃よりはだいぶ減ったとはいえ、デューグくらい読めるようになるには1年くらいかかりそうだ。
小さな体で懸命に運んでいる本は、最近お気に入りの場所へと持っていくことにする。
一応、僕の部屋はあるんだけど…二歳児の部屋に机も椅子があるわけもなく、かといって、書斎のテーブルは大きすぎて僕には使えない。
そんな僕にとってぴったりサイズの机。
それは、廊下の出窓。
大きめな窓は外側に向かって数十センチ程度張り出していて、机代わりにするには十分な奥行きがある。
背の低い僕にも届くちょうどいい高さだし、ナイスアイディアだと思うんだ。
ここに、デューグが木箱を加工して作ってくれた椅子を置いて、読書をするのが最近の僕のお気に入りだ。
「レイ様。しばらくここで読書を?」
後ろについてきていたデューグの言葉に、僕はゆっくりと頭を上下に振った。
二歳児になっても、まだ頭は重い。
調子に乗って大人と同じように首を動かすと、時々…転ぶ。
それもちょっと恥ずかしいお年頃な僕は、一つ一つの動きをゆっくりとするように心がけているのだ。
特にこうして座っていると余計に前のめりに落ちる傾向があって…とても痛い。
「そうですか。では、少しだけ席を外しても?」
「あい」
二歳児に許可なんて求めなくてもいいようなもんだが、デューグは生真面目にも確認する。
まぁ、放置されていると聞いたら流石にまずいからかもしれないけど。
戻ってくるときに飲み物を持ってくる、と言い残してデューグは去っていった。
デューグは期待のホープってやるだからね、きっと色々あるのだろう。
さて、借りてきた本をゆっくり読ませてもらおう。
僕は早速、本へと手を伸ばした。