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さて、ポップアップ事件?から早2年が過ぎ去りました。
ようやく転生した身体は少し動きやすくなってきたし、喋ることもできるようになってきた。
赤ん坊に生まれ変わる小説は数多にあるけれど、まさか意識がしっかりあるのに赤ん坊という状態が、これほどまでに恥ずかしいとは思わなかった。
色々な意味で色々なものが垂れ流しだし、感情コントロールが難しくてすぐに泣けてくる。
ばぶー、的なコテコテの表現を使わなきゃいけない状態にまさか陥るとは…黒歴史すぎる。
まぁ、意思疎通が会話でできない以上、仕方がないのだけれども。
そんな個人的な感情はさておき。
この2年間でだいぶ世界観が理解できるようになってきた。
私…いや、今は僕だね。
僕が生まれた先は、僕が前世?で生きていた現代社会とはだいぶかけ離れた世界のようだ。
地図もかなりアバウトにしか存在しないらしい。
地図というのは、要素としていくつかあるけれど、距離・面積、位置・方向、高さ、地形・地物・地名を正確に記述するには測量が必要なわけで、それには膨大な時間と手間がかかる作業だ。
それでも、地球においては紀元前600年前後には世界地図が存在したのだから、簡単な形などはこの世界でも流通している。
けれど、それは僕らが知っている地図…江戸後期くらいのレベルには程遠い。
つまりは、その程度の生活技術レベルだと思っていい。
なので、僕が知ることができた世界観はあくまで概要でしかない。
この世界には大きな大陸が3つあるらしい。
その中で最も大きな大陸の西側にあるファレントリア大国。
ここに僕が生まれたロスチャイルド家は属しているらしい。
んー…イメージは、ヨーロッパ風?
一応、貴族に分類されるらしいけれど、だいぶ田舎で…土地はたくさんあるけど、あまり裕福ではなさそう。
特産物もなく、農作も飢えをぎりぎり凌いでいる程度で、外に売りに行くにはあまりに細々としたレベルらしい。
なぜ2歳児が知っているかというと、時々父の執務室に街の代表が訪ねてきて相談しているので、子供無邪気パワーで、盗み聞きをしている。
あ、ちなみにうちは一応大きな土地を収めている貴族なので、屋敷っぽい感じになっている。
とはいえ、農地を優先するため、岩肌が露出している小高い土地に建てられた2階建てのレンガ造りの家はコの字型がカギのように繋がって建てられている。
だから使用人は買い物して戻ってくるのが大変なんだとか。
手入れ優先のため、色は茶色。白い家は金持ちの象徴らしい。
「レイ様。またこんなところにいらっしゃったんですか」
ぎぃっと少し重そうな音を立てて開くドアのほうに視線を向けると、一人の少年がたっていた。
彼は、デューグ。
今年13歳になる我が家期待のエースで、現在は僕付きの従者だ。
父に、しっかり主人として育ててみろ、と言わんばかりに僕を押し付けられた可哀そうな子。
きっと兄につきたかっただろうに、ごめんよ。
「また勝手に本で遊んでらっしゃると、父君に怒られてしまいますよ」
知識欲たっぷりなお年頃の僕は、よく父の書斎に潜り込んで、色々と情報を集めていることをデューグは何度も注意してくれる。
が、そんなこと聞く耳を持たないと言わんばかりに、何度も忍び込む僕に、最近は少し諦め気味のデューグだ。
ごめんよ、迷惑はかけたくないんだけどねぇ…何せ、暇なんだ。
二歳児になって動き回れるようになったけれど、所詮は二歳児。
そんな長距離は歩けないし、高台にある家から街まで行けるわけもない。
その結果、父の執務室か書斎で遊ぶことになるわけだ。
「レイ様。お片付けしましょう」
「ん―…ん」
おっと、考え事をしている間にどんどんデューグによって本は片づけられていく。
慌てて目の前にある本を僕はぎゅっと握りしめる。
すると、デューグは苦笑した。
「じゃあ、その本だけは父君に許可をもらってお借りしましょう」
「ん!」
デューグはさっさと他の本や地図をもとの場所に戻すと、書斎のドアをゆっくりとあけてくれた。
僕は少し重い本を握りしめて、よたよたしながら書斎を出る。
結構重いね、この本。
でも、部屋に戻っても時間つぶしにはなるし、頑張らねば。