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人生早33年。
色々あったけど、最終的には世の中的に言うところの勝ち組?というやつだと思う。
小学校の時に父が亡くなったこともあって、経済的には決して恵まれた学生生活じゃなかった。
けれど、母親はかなりしっかりとした人で、仕事もしてくれたこともあって食べ物に困るとかはなかった。
まだ小さい私にできることは、懸命に勉強して出来る限りお金をかけないで進学することだけだったので、中学・高校は公立に通いながら必死に勉強をして学費免除の資格をゲットし続けた。
塾などには行けなかったことも響いたのか…凡人な私が懸命に努力しても私立の工学部で学費免除が精いっぱいだった。
無事に卒業した私は二流大学出身なのに、面接で好印象だったのか…超一流企業のエンジニアとして就職して、結婚もしたし、30歳の時には部下を5人ほど纏めるチームリーダーになって、とにかく忙しい日々を過ごしていた。
あと数年で異例の速さで課長になるかも!?なんて言われていた、ちょっとできる女だったりする。
それでも、32歳を超える頃。子供がほしいなぁなんて思い始めた。
いっぱい働きすぎて正直自分の身体なんて…顧みなかった結果、子供をポンポン産めるような身体じゃなくなっていたから、少し力を抜いて生きるのもいいか…なんて考え始めた、そんな矢先のことだった。
「お大事にどうぞ」
そんな一言を聞きながら、私は薬局を後にした。
不妊治療といっても、周期が乱れているだけだという診断にホッとしながらも、もらった薬を片手に商店街を歩く。
平日の昼間に、街中を歩くなんて久しぶりすぎてちょっと嬉しい。
普段なら、会議だ資料作成だとバタバタ仕事をしている時間帯だけれど、街にはそんなこと関係ないと言わんばかりにのんびりとした空気が流れている。
そんな商店街を抜けて、自宅のある方向へと向かって歩く。
一応は都内と呼ばれる地域だが、オフィスビルが立ち並ぶような大きな駅から離れていることもあって、大きな公園も完備されたこの街でサラリーマンを見るのは朝晩だけ。
ちょっと裏に入れば静かなもので、こうして天気のいい日にのんびり歩くには実に気持ちのいい街だ。
ふと前方の横断歩道を渡るベビーカーを押して歩く女性が目に入った。
(―…いいなぁ)
ちょっと前の自分なら何も思わなかったであろう光景に、自然と羨ましいと感じるようになったことに、私は思わず苦笑した。
前方から目を離した時間…はわずか数秒だった。
けれど、その数秒が私の運命を決定づけてしまったらしい。
最後に覚えているのは―…凄まじいブレーキ音。
―…転生なんて、まさか自分が経験するとは思わなかった。