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君の描きたい物語  作者: 車輪
第3章 『夢を放つ』
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1−2 『告白』


「昨日、赤城が持ち主を探してたあのノート、あれ、お前のだろ?」

 秀一は言った。


 


 住野千秋の表情の遷移は、非常にわかりやすく驚愕を示す。機械のように硬く、ただそれだけを表している。

 それを見て、秀一はウンウンと頷いた。


「その表情を見るに、やっぱり、そうだったみたいだ」

「い、いや、昨日のノートの話が、なんで私に繋がるのかなって、それが分からなくて。それに、ほら、てっきり告白されるものだと思ってたから、驚くよ、やっぱり」


 白々しい嘘で誤魔化そうとしている、とすぐに秀一には分かる。

 告白の話だって、本気で信じていた訳ではないだろうに。ただ、なぜそこまでして知られたくないのかは、まだわからない。

 知られたくないのは秀一と同じだ。その考えはとてもよく分かる。


 しかし、もしも自分が昨日の住野千秋と同じ状態に陥ったとして、小説手帳を失ってまで黙秘を続けることを選択するとは、秀一には思えなかった。そのあたり、秀一と住野千秋の考え方には違いがある。

 自分の情熱を込めたノートを見捨てても構わないというくらい、住野千秋にとって、漫画の趣味は隠さなくてはならないものなのだ。

 であれば、素直に認めるはずもない。


「やっぱり、知られたくないんだよな。だったらいいよ。告白しよう。

 したくないけど、言いたくないけどさ。それでも認めないんだったら、もう、どうしようもない」

「何か、ワケがわからなくなっちゃった。今日の吉野くん、やっぱりちょっと変だよ」

「ああ、実を言うと昨日からおかしいんだよ、俺は。

 でも、俺たちって似てるからさ、だから多分、聞けば分かると思うんだよ」


 住野千秋は、その顔に困惑を浮かべている。

 そこに、秀一は全てを勢い任せにして、言葉を叩きつけた。


「俺、実は小説家志望なんだよ」


 そして、ポケットから出した小説手帳を、住野千秋の手に押し付ける。

 住野千秋はされるがままに、秀一の手帳を握った。


「ちょっとだけど、俺の書いた小説だ。読んでみてよ」


 響子以外は誰も知らないはずのこと、それも、自分から明かしたのは初めてだ。

 言いたくない言いたくないと思いながら、それでも、人一人に伝えるくらい、できなくてどうする。これは、これから大勢に小説を読ませることの、予行練習だ、と秀一は自分に言い聞かせた。

 見ると、住野千秋は少し落ち着いた顔に変わっていて、ペラペラと、小説手帳をめくっていた。

 最初の方は単なるネタ帳だが、学校で短めの話が思い浮かんだ時に書き込んだ小説が、真ん中あたりに幾つかあるはずだ。


 静かに手帳を読む住野千秋の様子を、秀一はじっと見つめた。

 手帳はびっしりとは言わないが、半分以上は埋まっているはずで、当然、住野千秋が読み終わるまでにもそれなりの時間を要する。

 そんなこともわかっていたはずなのに、この数分が数時間に感じるほど、時間の流れが遅く思えた。

 校内では放送が開始されたようで、秀一の元にも、校舎内から音が漏れて聞こえて来る。ハッキリとは聞き取れないが、今日も、放送部の先輩が司会をしているのかな、と思った。


 パタリと、住野千秋がノートを閉じた。

 そして、なんと言ったものかと困った顔をして、言った。


「あんまり上手じゃないね」

「ぐっ」


 秀一の顔がぐにゃりと歪む。自分が上手いと思ったことはなかったが、真正面から、それも困った顔をして言われると、苦しいものがあった。


「そんなことは分かってるんだよ。お前とは違って、俺はただの下手くそだ」

「なんで、私がノートの持ち主だと?」


 首を傾げるその姿は、まるで計算されているかのように可愛らしい。


「実は、金曜日に住野の席にぶつかってさ。それでノートが落ちたんだよ。その時から俺は、もしかしたら住野が持ち主なのかなと疑ってたわけ。あとは…………」


 お前の態度が分かりやす過ぎたんだよと続けると、住野千秋は驚いた。


「あれだけ表情がコロコロ変わったら、赤城も楽しかったろうな」

「あー、まあそうだとは思ってたんだけど、やっぱりアレ、ワザとだったんだ……」


 やや悲しそうな雰囲気が、彼女の小さな体に漂う。俯くと、後ろで結んだ髪が一筋、さらりと流れ落ちた。


「でも、なんでなんだろ。私、何かしたかなぁ」

「人気者は辛いってことだろ。羨ましいとか、ライバル心とか、いろいろあるんだよ」


 日曜日に住野千秋を見かけた際にも、秀一は、似たような感情の片鱗を見ていた。やはり、多方面から好かれるというのが気に入らない人間もいるのだ。

 それにしても、住野千秋のような人間でも人に嫌われることがあるのだから、やはり人間関係は難しい。人気者じゃなくて良かった、なんて安心してしまった。

 ふーむ、と住野千秋が大仰に頷いている。


「それにしても、吉野くんはよく見てるね、周りの事。アケミの考えだって、誰も気付いて無かったみたいなのに」

「まあ、ノートが住野の物だって知ってたからな。その前提で考えないと、多分分からないだろ。あとは、イメージかな」

「いめーじ?」

「赤城は人気者で、明るいイメージだろ。そんなことをするはずがないと、無意識に皆が思ってるんだよ。俺は、そう印象付けられるほど赤城と接点が無かった」

「なるほどー」と息を吐いている姿から、どうやら納得したようだ。


 秀一は頭が良いわけでも、特別に広い視野を持っているわけでも無かったが、皆が漫画ノートにざわめいていた時に、一人だけ冷静だった。

 そういうことが、偶然重なったのだろうと思った。


「で、本題に移るけど」


 と、言うと、住野千秋は「ほんだい?」と瞳に疑問符を浮かべた。

 そう、本題だ。

 正直、秀一にとって、ノートの持ち主が住野千秋であることは重要ではない。知りたかったのは事実だが、それは昨日完遂されている。今のやり取りは、あくまでも確認だ。住野千秋に自分から認めさせるための儀式と言い換えてもいい。


 これからの話、つまり『本題』は、そうしないと始まらないのだ。

 ノートの持ち主は住野千秋である。その上で話さなければ意味がない。



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