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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
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ウェンバーいわく、一人バトルドーム大作戦

 俺たちの1番の弱点。それはメンバーが揃いも揃って紙装甲だということ。2番目の弱点は俺が機動力を発揮できる条件が限定的で、俺を守るために周りがリソースを吐く形になっていること。3番目の弱点は、火力枠だったウェンバーにスキルキャップが適用されていることだ。これはシルフレアが参加することで一定の解決を見たようでいて、長期戦になれば再び露呈する弱点だ。

 

「っし!各自一撃入れてから起動する!」

「アイ!サー!」


 紙装甲はプレイスタイル的に対策のしようがない。だけど、機動力なら秘策あり!さらに言うならこれで火力も向上させる!

 相手はゴブリンアーチャーに鬼人、ホークマン2体のパーティーだ。最初の一射がホークマンの眉間を貫き、隣のホークマンには蔦が絡み締め上げる。

 銃のボルトを操作し、薬莢が飛び出してポリゴンとして散っていく。


「゛パルクール”起動!」 

「ほいさっ」


 後方から気の抜けるような掛け声に意識が向くが、今は目の前に集中だ。ゴブリンアーチャーが弓をつがえ、鬼人が投げナイフを振りかぶる。


「今!」


 その場に跳びあがり、ちらりと右を見る。鋭く伸びた蔦が足を叩くが、衝撃を吸収するように体を丸め、一気に跳ねる!

 俺に向かって放たれた矢とナイフは一瞬で視界から消えた。体を捻って跳んでいる方向に足を向ける。


「っしゃあ!どうだこの機動力!」


 木の幹に激突しそうな勢いだったけど、全身をバネにして何とか衝撃を吸収、落ちながら枝に乗って2射目を撃つ。

 っしゴブリンアーチャーにヒット!


「ウェンバー!どんどん行くぞ!」

「ほいさっさ~!」


 捕まっていたホークマンが蔦から逃れ、手斧を投げる。鬼人がアーツを使い、剣戟が飛んでくる。ソロなら厳しいシチュエーション。

 だが、遅い!

 枝から跳び、幹を蹴り手斧を避ける。アーツが届く前に蔦が伸び、俺を押し出す。


「後ろが、がら空きだ!」


 今度は敵を挟んでウェンバー達の対角線上に跳びこみ、片足で地面を全力で叩く。勢いを殺しきれていない上に、敵が手を伸ばすと届く距離にいる。けど、これでいい。体制が崩れて転倒するまでの間に3射目。

 

「あとは、一人っ!」


 目まぐるしく視界が切り替わる中、全力で歯を食いしばる。銃を片手で持ち、回転する体に力を込め、腕を突き出す。


「だあい!」


 顔面から地面に突っ込みそうなところに無理やり片手を差し込み、さらに体を回す。倒れる前に足は新しい足場を踏みしめた。

 鬼人は高速で飛来する俺に反撃をしようと振り返るが、そこにもう俺はいない。さらには俺を飛ばした蔓がそのまま足に絡みついている。


 空中で銃を構えて4射目を放ち、弾丸が鬼人に命中したことを確認して新しい蔦を踏みしめた。

 空から見るとダイヤモンド状に跳ね飛んだであろう俺は、口角が上がるのを抑えられなかった。これまでとは全く異なる高速の世界に、全身をアドレナリンが駆け巡っている。


 今の俺は、何でもできる!


「どんなもんよ!俺達も結構やるだろ!シルぶべら!」

「あ」


 後はウェンバーの真上に出された蔦のネットに着地するだけと気を抜いた瞬間、後頭部で何かが爆発したんじゃないかと思うような衝撃に襲われた。一瞬のブラックアウトの後、視界は空と地面を高速で映しだす。

 いや、こっからの着地はさすがに無理ゲーすぎる!


「へぶしっ」


 最後は踏まれたカエルのようなポーズで地面に叩きつけられ、もう一度視界がブラックアウトすることとなった。

 視界が戻るのをじっと待ちながら、自分が死んでいないか祈るように待つ。奇跡的にポリゴン爆散はせず、視界が戻ってきた。


 静かな、とても静かな世界の中で、グッと雪を押し込む音だけが響き、俺は起き上がった。一度大きく深呼吸をし、ポーションを取り出して飲み干す。隣を見上げると美しいエルフの戦士が立っていた。長い金髪は木漏れ日を浴び、瞬くように輝いている。

 せめてなにか言わなければ。この気まずい空気をなんとかしなげれば。いまだアドレナリンが活性化している脳みそだ。弾き出した結論に即座に従うことにした。

 サムズアップとさわやか笑顔。ここで一言


「ま、こんなもんよ」


 返事はない。それどころか即座に顔をそらされてしまった。あまりにもふざけた結末に怒り心頭かと思いきや、よく見ると肩が小刻みに震えている。

 ああ、どうやら面前で笑うのは悪いと思う心はあるようだ。

 そこにウェンバーが駆けつけてくるが、こっちもどうにも様子がおかしい。ツボに入ったのを隠そうともせず、盛大に笑いながら駆けてきた。


「ひ~、ふっふふ。見て下さいよこれ!僕のコボルトエリートとしての最っ高の判断の結晶ですよ!」


 モフモフの掌の上に載っているのはきれいな赤いクリスタルだった。

 俺は、これを知っている。なぜなら少し前に見たからだ。そう、具体的に言うならマナウスの城の会議室で見ている。

 赤いクリスタルからは光が伸び雪原に映像を映し出す。

 そこにはどや顔の俺が映し出され、決め台詞のように言葉を吐き出していた。


「どんなもんよ!俺達も結構やるだろ!シルぶべら!」


 そうして背後の太めの枝に気付かなかった俺は後頭部を殴打。高速で縦に回転し、それは見事に地面に叩きつけられる。映像はテンパった俺がサムズアップで決め損なうところまで、それはそれは克明にと記録されていた。


「いや~最高すぎます!ここ最近で一番面白い映像が撮れちゃいました!あだっ、いたいいたいいたいです!」

「ふっ、ふふ、ふふふふっ」


 輝くような笑顔のウェンバーの顔面を掴むと同時、隣からは抑えきれなくなった笑い声が漏れてきた。

 口を抑え、目尻に涙を浮かべながらも、なんとか平静を取り繕おうと頑張っている。まったく隠せていないがな。俺としてはとんだ赤っ恥ではあるけど、何となく以前よりシルフレアの雰囲気が柔らかくなった。予想外ながら少なくない成果でもあり、仕方なくウェンバーから手を離すと、すかさずウェンバーが追撃をしてきた。


「どんなもんよ!俺達もやるだろ!しるぶべら!」

「やめてっ、お腹がっ、ふふっ、あははっ」


 ついには息も絶え絶え笑い出す。結果、気づけば俺たちもつられて笑っていた。

 いやあ、こうして見るとあまりにも芸術点が高いな。

 笑いが落ち着いたシルフレアがこちらを見る。


「ごめんなさい。戦果は予想外だったのだけれど、結果も予想外すぎて」

「いや、俺も誰かがあの挙動したら死ぬほど笑うから気にするな」

「そうですよ!いやあ、やっぱりカイさんといると最高に楽しいことばかり起きますね!」

「いや、お前は少しは反省しろ。映像装置出す手間省けばあそこからでも俺をキャッチできただろ」

「ギクッ!」


 ウェンバーの頭をわしゃわしゃとかき回していると、再びシルフレアが微笑んだ。少しは肩の力が抜けたようだな。


「そうそう、シルフィーはもっと気楽でいいんですよ!良い結果を出すならば、緊張と弛緩のどちらも大事!これは昔から伝わる偉大なる者の言葉です」

「そうね。一族の失態を挽回しなければと確かに気負いすぎていたわ。あなたもありがとう、カイ」

「気にするな」


 恥はかき捨て、予想外にパーティーの絆が深まったようだ。時にはシルフレアも蔦を利用した高機動戦闘を時折取り入れ、これまで以上にスムーズに戦闘が終わるようになった。というか俺よりも圧倒的に蔦移動が上手いのが解せなかったが。

 その後は大きく蛇行しながらも進路は変えずに進み、あと少しで帰投しようかと話していた時に、それを見つけた。

 

「これは、なんだ?」


 石の台座の上に拳大の青いクリスタルが浮いている。起動していないのか輝きはないが、どことなく不吉な印象を受ける。


≪■■■■のクリスタル レア度■ 重量■≫

 用途不明のクリスタル。


 アイテム説明のほとんどが黒く塗りつぶされているな。アイテム鑑定のスキルがあれば読めるのかもしれないが、俺たちじゃ解析できない。

 スクリーンショットをとり、クエスト用の映像記録装置を使用し、証拠としてはこれで十分だ。


「触って大丈夫だと思うか?」

「う~ん、シルフィーはどう思いますか」

「台座は鬼人族の祈祷用の台座に近いわね。それに台座のこの模様、恐らく触っても大丈夫だけど、触れるとクリスタルが砕けるってとこかしら」


 3人で相談した結果、ひとまず触ってみることとなったが、もしもがあると恐い。2人には下がってもらって俺だけが触ることとなった。

 ゆっくりとクリスタルに手を伸ばす。指先が触れると、クリスタルには罅が入り、カシャンとガラスが割れるような音とともに、台座もろとも砕けて消えていった。


「アイテムの獲得もなしか」

「そうね。あの手の台座は魔法文字を刻むことで情報の攪乱、露見時の証拠の隠蔽を行うことが多いわ」

「まあ、少なくとも敵はここまで広く戦場を使ってるってことと、なにかは企んでるってことがわかったのを収穫ってことにするか」


 正直戦闘はまだいけるが、ウェンバーがどこからともなく見つけてくる食料のせいで、俺の背負箱は容量の限界が近い。探索はここまでとし、拠点までまっすぐに進むこととなった。のだが、視線の先では突然走り出したウェンバーが地面を掘り返していた。


「ほら、ここ掘ったらほら!このオグの根は絶品です!煮てよし!焼いてよし!蒸かしてよし!の美味しい冬の味覚ですよ!」

「はいはい」


 帰り道は戦闘も少なく、ウェンバーも自分の両手で持てるだけの食料を手にした後は確保を諦め、とても速やかに進めた。そうして拠点の直前まで戻ると、初日以来のプレイヤーからのコールが飛んできた。


「突然すみません。カイさん」

「かまわんよ。で、どうかしたのか?」

「それが、以前言った知り合いからカイさんを借りたいと連絡を受けまして。中央の戦場に興味があるなら行ってみませんか?」


 公式の映像で見た映像を思い出す。ある意味あそこは別ゲーの戦場と化していた。正直言ってみたい気もするが、基本はこのパーティーを優先したいしな。


「明日は無理だな。行けるとしたら明後日の夜が一番早い」

「わかりました。知り合いに確認して、大丈夫なら連絡します」


 こうして俺は一時的に森ルートを離脱し、平原ルートに足を踏み入れることになった。


 


カイの獲得ポイント

≪第一拠点の先の調査≫クリスタル発見ボーナスあり:550p

≪敵勢力の撃破≫ボーナスなし:600p

≪森の恵みを探して≫10種以上の食料発見ボーナス、希少食料発見ボーナスあり:600p


計 2900p

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