新たなパーティー
翌日、週末も終わり、平日はさすがに仕事だ。これからしばらくは仕事後の参加が中心になるな。VLOで目を覚ますと、もはや馴染を感じるまでになったウェンバー宅の天井が見えた。
「よし、今日も行くか」
ウェンバーの母やミミレルに挨拶を済まし、西ルートの作戦本部へと異動する。予定の時間よりも大分早いが、すでに二人が待っていた。
「すまない。待たせた」
「大丈夫です!遅れてませんよ」
「構わないわ」
今日は3人での戦闘に慣れることを目標に、戦闘や偵察、隠れた拠点候補を探すクエストを行うことになっている。受けたクエストはこんな感じだ。
≪第一拠点の先の調査≫
場所:マナウスの森北西部
日時指定:半日以内
必要情報:周辺にいる敵部隊の報告(討伐済み可)
敵部隊の行動調査
拠点化可能地点の探索
納品アイテム:なし
想定モンスター:ゴブリン、鬼人、ドワーフ、ホークマンなど
報酬:400p
≪敵勢力の撃破≫
場所:マナウスの森北西部
日時指定:1日以内
最低討伐数:10体
納品アイテム:なし
想定モンスター:ゴブリン、鬼人、ドワーフ、ホークマンなど
報酬:600p
≪森の恵みを探して≫
場所:マナウスの森北西部
日時指定:1日以内
必要情報:採集可能な植物の情報
採集可能な調合素材の情報
狩猟対象生物の群れの発見
納品アイテム:なし
想定モンスター:ゴブリン、鬼人など
報酬:300p
今回は、初日の午前中のように様子を見て回りながら進めていく予定だ。
「報酬が良くなってるな」
「敵も押されるほど必死になりますからね!大変になるからでしょう!その分を奮発してくれるのは素晴らしいことです!」
話しながら森を出る。ウェンバーは暢気なもので、今日もアイラ謹製のクッキーを頬張っている。
「なあ、そんな食ってて動けるのか?」
「な、僕を太っているとでも!?」
「いや、それはぱっと見じゃわからん」
「いいでしょう!それならば話して差し上げましょう。エリートコボルトの生活ってやつを…」
運動不足を指摘されたとでも思ったのか。ぷりぷりしながら日々をいかに過ごしているかを離すウェンバーだが、話を聞くと随分とのんびりとしたものだった。食事と間食を合わせて1日8食も食っていやがる。
そんな話を聞かされて呆れているのはシルフレアだ。よし、なにか言ってやってくれ。
「コボルトの生活などいつでもそんなものよ。それよりニンゲン、貴方も十分に緊張感がないわね」
呆れているのは俺達にだった。
それにニンゲン、か。信頼を気付く道のりは険しそうだな。
「二人とも」
シルフレアが立ち止まり、腰の短剣に手を添えた。俺が銃を取り出すのに一拍間があったのに対して、ウェンバーはすでに臨戦態勢だ。
「僕とカイさんから初めて、シルフィーは様子見て飛び込んでね」
「シルフレアと呼びなさい」
不満げな表情のシルフレアを一切気にも留めず、ウェンバーは杖を光らせた。
照準の先には、3人組の鬼人がいる。ウェンバーの魔法が放たれるのに合わせ、トリガーを絞った。
「先頭のはごつい手甲持ち!後ろは右が魔法使いで左が剣士だ。魔法使いは任せてくれ!飛び込みに合わせて攪乱する!」
音もなく飛び出したシルフレアの背中に声をかけながら、右に走る。腰の筒から魔法石を一つ取り出すと、3人の間に落ちるように魔法石を放り投げた。
シルフレアが飛び込む前に魔法石が炸裂し、若干のノックバックが起きる。シルフレアは爆発に合わせて手甲持ちの隣をするりと抜け、剣士の間合いに飛び込んだ。
「いいねぇ~、じゃあ僕もほいっ」
ウェンバーが放った魔法は、振り返ってシルフレアを狙った手甲持ちの手足を絡めとった。
初手で崩した後は魔法持ちに狙いを絞る。間合いに入られたのを嫌って距離を取ろうとしているが、雪のせいで速度が出ていない。こちらにも注意を向けられていない相手を抜くのはあまりにも簡単だった。
「やっぱり最初のあたり方が良いと一方的にいけていいですね!」
「シルフレア一人でこうも変わるとはなぁ。というか当たり前だけど、前衛がいなかったって意味の分からないパーティーだったよな。」
「まったくね。ただし、私は軽剣士としても戦えるけど、純粋なタンクほどには受けられないわよ」
「まあまあ、パーティー構成はとんちんかんかもしれませんけど、火力だけは高いパーティーですから!」
その後も戦闘は危なげなく進んだ。シルフレアの動きは水が流れるように静かで、回避能力が高く、避けタンクとしてあまりにも機能している。
サクサクと進む戦闘にウェンバーもホクホク顔だ。
「これはかなり良いパーティーですねぇ」
昨日と比較すると俺もそう感じるんだが、笑顔のウェンバーとは違ってシルフレアの表情はどこか不満気に見えた。
「シルフレア、意見があったら言っていいだぞ」
「いえ、特には」
多少の懸念点があるとすればそれくらいで、クエストは順調に進んだ。元より敵勢力との戦闘は探索をしていれば勝手に起きる。食料調達は俺でもできるがそれ以上のプロがいる。というわけで、拠点の先の調査だけを目標にしていれば自然と達成ができてしまう。
今日の日中に新しく確保したらしい拠点で補給を済ませると、俺たちはさらなる森の奥へと進んでいった。ただし、北西というよりは西北西に進んでいる。
どう考えても組んでいる2人の方がレベルが高いんだが、なぜか俺がパーティーリーダーのままのため、今回はわがままを言って道を選ばせてもらっている。
「カイさんが決めたことなので特に異論はないんですけど、どうして西にばかり進んでいるんですか?」
木の上を進むのに飽きたのだろう。俺の背負箱の上に軽やかに跳び乗ったウェンバーは、おやつが入った小袋を取り出した。
「ん?そうだな。ひとまず今回の戦いが始まって数日、今の戦況はどんなもんかわかるか?」
「ふふふ、僕は情報収集も抜かりありません!なんていっても僕はコボルトエリ・・・」
「御託はいい。ほぼ互角と言えるけど、若干こちらが優勢ね」
もったいぶった言い回しを横からの鋭い一言でバッサリと切られ、頭の後ろからはうめき声が聞こえる。
「まあそうだな。ただ俺たち冒険者のネットワークだと少し意見が違っててな」
「そうなんですか?」
「確かに優勢だけどな、冒険者も色々あって余裕がなくてな。ほとんどのリソースを正面からの戦闘に費やしてこの均衡を生み出しているらしい。でも、敵も全リソースを投入しているのかはわからない。もし余裕があるなら、奇襲なり奇策なりを使うか、敵の本命を投入して形成を逆転しにくると予想されてる。だから一見依頼でもらえるポイントにはなりにくくても、戦場の広い情報をとって不安の芽を摘みたいって呼びかけがあった」
「貧乏くじを自ら引くのね。自分の能力に自信がないのかしら」
「どうだろうな。こういう時に発見したことはこれまでもボーナスって形で評価が後からついてきた。それをねらう冒険者もこれからは増えるんじゃないかな」
「冒険者もマナウスの人たちもこれまでのことで学んできているんですね。あ、少し右に逸れて下さい、たぶんそのあたりを掘るといいものがありそうです!」
「わかったから!耳引っ張っぱるな!」
まじめな話から一転、この有様だ。隣からはため息が聞こえてくる。
仕方ない、少しばかり俺たちもやれるってところを見せて信頼度でも稼いでいくか。
「ウェンバー、あれやるぜ」
「ほほう!ついにですね!」
短剣を抜いたシルフレアを手で制して声をかける。
「今回は俺たちに行かせてくれ。今のうちに練習しておきたいことがあるんだ」
「ふふふ、慣れたらシルフィーも参加してくださいね!僕たちの次のステージを見せて差し上げましょう!」
「そう、期待せずに見ているわ」




