運営公式映像② 1日目1-2
ひっそりと投稿を再開してみようかと。
まだ映像は終わらない。場面は切り替わると、すでに戦闘が始まっていた。
拠点の高台から敵の動きを見ていた騎士団の男が声を張り上げる。
「新手が来ているぞ!右から2体だ!冒険者の援護をもらえ!」
騎士団が中央にいる体高3メートルはあろうかという巨大な狼型のモンスターを抑えている。20人近い騎士が連携をとり、右脚の薙ぎ払いを二人の騎士が掲げた盾で受けていた。あまりの衝撃に盾持ちの騎士が数メートルほどのノックバックを受けるが、別の騎士が盾を掲げて即座にスペースを埋めている。
巨狼の左に回った魔法使いが大振りの隙をついて畳みかけ、飛び出した剣士が輝く長剣を振り抜くと、巨体は大きな音を立てて倒れ、ポリゴンへと変わっていった。
戦っていた本人たちだけでなく、周囲からも鬨の声が上がるが、息つく間もなく新手がやってきた。どいつもこいつも大型の敵だ。サイクロプスのような見た目の巨人と、大型のカエルが1体。そこに数十人のプレイヤーが組み付き、新たな戦闘が始まった。
サイクロプスの目前で閃光が炸裂し、目くらましの直後にアーツの輝きが巨体を抉る。カエルが僅かに口を開けたかと思うと、数人の騎士が一瞬で舌に捕まり飲み込まれるが、拳を翳したプレイヤーの一撃で吐き出される。
「これは、この世の終わりを見ているようだわ」
「ああ、できることなら酒でも飲んで忘れちまいたいよ」
「もしも騎士団と冒険者が破れたら、あれがマナウスにやってくるんだ。あの都市でも一瞬で飲み込まれるんだろうな」
拠点で騎士団や冒険者を手助けしていた住人は、目の前で繰り広げられえる光景に驚き、呆然と手を止めていた。
大型のモンスターとのレイド規模の連続戦闘。つまりここは東の川辺ルートか。そこかしこで大型のモンスターが暴れ、それを騎士団が対応していた。拠点から敵の巨体が見える程には近い距離で戦っている。
視点は最初の騎士団の男に戻り、そこに女性士官が駆けこんできた。
「司令、想像以上に敵の勢いが強く、これ以上は支えきれなくなります!」
「もう少し敵を消耗させたかったが、致し方ないか」
司令と呼ばれた騎士が頷くと、拠点からは大きな銅鑼の音が響き、弾けるようにプレイヤーが飛び出していく。視点はその中の一人、俺も知っているプレイヤーにフォーカスされた。
「予定変更だ!1体ずつ打ち取り、敵を押し込む!僕についてきて!」
「「おう!」」
攻略組のクラン、forefrontのリーダーのエイビスが白銀の輝きを放つ剣を抜いた。住人から聖剣の遣い手とまで称される剣士だ。
サイクロプスがエイビスに気付き、巨大な棍棒を振り下ろすが、白銀の剣がそれを迎え撃ち、衝撃に空気が揺れる。一拍の後に棍棒は弾かれ、たたらを踏んだサイクロプスに冒険者の追撃が襲う。
カエルの元にはカンフー装備のプレイヤーが飛び込み、飛んでくる舌を的確にはじき返す。プレイヤーの数が増え、戦況は徐々にマナウス側へと傾き始めた。
「負傷した方はこちらに!治癒士の方もお願いします!」
続々と駆け込んでくる負傷者に、次々とポーションが渡され、ダメージの大きい者には回復魔法がかけられる。伝令が次々に駆け込み戦況を伝えている。
「サイクロプスが撃破されました!キングフロッグに冒険者が加わり、撃破が近いとのことです!」
「敵の増援は!」
「冒険者の一部が奥地に入り込み、足止めをしています!このままなら撃破まで保たせられるとのことです!」
優勢の情報に深く息を吐いた司令は、高台に置かれた簡易地図の石を動かす。
「緒戦は我等がとった!このまま押し込みたいが、敵の次の一手は…」
思考に沈む司令が戦場から目を離した隙に、冒険者の歓声が轟いた。
「キングフロッグも沈めた!さらに押し込もう!」
掲げた剣に気勢が応え、白銀に輝く聖騎士を先頭に、騎士団と冒険者はじりじりと拠点から遠ざかり、視点が切り替わった。
次に映ったのは太陽と大空だ。そこから視点が大地へとさがる。俯瞰した映像では大群同士がぶつかりあい、戦線が形成されていた。弓や魔法などの遠距離攻撃は戦線の後方に飛び、その度に大群に穴が開くが、すぐに後続が押し寄せる。すぐに反撃の攻撃が飛び、騎士団とプレイヤーに襲い掛かった。
映像は騎士団の本部を映している。8人の騎士とプレイヤーが中央の大きな地図を囲み、その周りでは士官とプレイヤーが誰かと交信をしていた。その中の一人、赤髪の士官が声を張り上げた。
「エリアEの2段目に直撃!6名の冒険者をロスト!中段の戦力維持困難!」
「アレク!Eー3前進、攻撃開始!ジェズは最も近い医療チームを向かわせてください」
指示を出した若い騎士は眉間に皺を寄せ、地図を睨む。地図には2色に分かれた対象様々な石が置かれており、そのうちの一つを取り除き、一つをずらす。
その後も入る情報に石の数と位置は次々に動いていく。一際大きな椅子に坐した壮年の騎士が小さくつぶやいた。
「厳しいな。冒険者の能力に疑いの余地は一切ないが」
その言葉に、プレイヤーが応じた。
「はい。我々にとってこのような大規模な戦いは初めてのこと。今は連携一つとるのにも手間取っています」
「ですが」
若い騎士が口を開くのと同時に、士官が声を張り上げた。
「中央を担当していた上位冒険者を率いていたエレメントナイツが敵戦線を崩しました!」
「ふむ、天翼とエレメントはやはり例外か」
「噂をすれば、ですね」
映像は戦場を低空から映し出していた。
マナウス騎士団とは違う様式で統一された騎士団が戦線を支えている。攻略組の中でも有名なエレメントナイツだ。攻撃の受け方、反撃の仕方一つとっても全体の統一感が他とは雲泥の差だ。
「メイ隊、次の敵のアーツ稼働に合わせて押し返し!サンタは合わせて斉射!」
戦線の少し後ろで声を張り上げるのは小柄な女騎士だ。その声に返事はないが、敵がアーツを使おうとしたのだろう。武器に輝きが灯るタイミングに合わせ、前線の騎士の盾も力強く輝いた。
「3、2、1、今!」
振り絞られた声に合わせ、両陣のアーツがぶつかり合った。爆発音のようなぶつかり合いの音の中、押し勝ったのはエレメントナイツだった。
押し勝ったとはいえ、敵は数歩よろけただけだ。しかし、それだけで十分だったのだろう。軽装の部隊が盾持ちを飛び越えて敵陣に入り、縦横無尽に敵を切り裂いていく。
「ここを起点に押し込みます。サンタ隊離脱まであと10秒!九尾隊、撃ち方始め!」
欠けた個所を埋めるように敵が進むが、切り込み部隊が抜け出したタイミングで、炎の魔法が雨のように降り注いだ。
「全体伝令!メイ隊をポイントに押し込みを広げます!前線は前方に押し込み型2級アーツ準備!」
そこからは圧巻だった。メイ隊と呼ばれプレイヤーがいた場所が突出して押し込んおり、そこを起点にノックバック型のアーツを使ったのだろう。波がうねるように、ゆっくりと前線が押し込まれていく。
「ここまで!各隊前線維持に方針を変更!攪乱は彼らに任せます!」
再び戦線が膠着し始めたところに、十数人の部隊が飛び込んできた。動きは洗練されているけど、統一された動きというわけではない。それなのに敵が次々と倒されていく。エレメントナイツとは正反対の、個々の強さを押し出した荒々しい強さだ。
「ここからは天翼の番だ!お前ら今のうちに楽しとけよ!」
流石は攻略組でもトップと言われる天翼騎士団だな。戦線なんてお構いなし、敵陣をまっすぐに突き進み、敵を鎧袖一触で蹴散らしていく。
そのまま敵陣まで到達そうな勢いだったが、さすがに無理がたたったのだろう。戦闘を突き進んでいたプレイヤーが声を張り上げた。
「だぁっ!さすがに届かねえ!ここまでだ!」
号令と言っていいのかもいわからない掛け声だけど、団員には伝わるのだろう。引き返し方は一糸乱れぬ動きで、再び敵を蹴散らしていった。
敵陣を突き破って帰ってきたプレイヤーがエレメントナイツの指揮をしていたプレイヤーに声をかけた。
「すまんリノセ!届かなかった!」
「構いません。我々ではあそこまで食い入ることが出来ませんし。ちなみに、あとどれくらい押し込んだら可能性がありますか?」
指揮をしていた時は打って変わって落ち着いた口調で尋ね、男は獰猛な笑みを浮かべて答えた。
「敵陣を抜くなら100あれば楽だな。帰り道を気にしなくていいなら50ってとこじゃねえか」
「わかりました。ではそれを起点に戦術を再設定します。よろしいですか、団長」
再び映像が本部に切り替わった。
団長と呼ばれたプレイヤーなのだろう。体格の良い騎士がほほ笑みを浮かべている。
「ゼファー閣下。天翼の団長の言を取り入れてもよろしいでしょうか」
「構わん。が、マナウス騎士団にも突破に優れた部隊がある。せっかくなら連動させて勝機を広げていこうか」
微笑みを浮かべたプライヤーは一つ頷くと地図の石をいくつか動かした。それを見てゼファーも石を動かす。
二人はわずかに視線をかわすと笑みを深めた。
「いいですね」
「そうだの」
その後は俺が参加していた戦場の映像に切り替わった。開かれた拠点候補を巡る戦いが映し出されているが、俺は先ほどまでの内容をぼんやりと思い出していた。
「いや、やってるゲームからしてちがうだろこれ」




