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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
96/102

運営公式映像① 1日目 1-1

カイの獲得ポイント


≪マナウスの森の調査≫ 敵部隊撃破、イベントアイテム納入ボーナスあり 220p

≪北西ルート食料調達≫ 水源発見、薬草群生地発見ボーナスあり 380p

≪補給拠点争奪戦1≫ 敵撃破、攻略時ボーナスあり 550p



計 1150p

 新しいクエストが発生したり、エルフのシルフレアがパーティーに参加したりと色々あった初日だったけど、今後の話し合いをして解散となった。

 ウェンバーの予定は変わらないため、その日はシルフレアも単独で動くそうだ。コンビを組む日がトリオになるってだけだから、わかりやすくていい。

 VLOからログアウトし、用事を済ませて晩酌を楽しんでいると、公式から動画があげられていた。事前に告知のあった、要点まとめ動画だな。このまま酒の肴に見てしまおう。



 映像はマナウス城の中央塔から始まった。塔を回りながらズームアップされ、止まった場所には豪奢な鎧とマントを纏った、老年の男が立っている。隣には緊急クエストで護衛したユーライアもいるな。

 老年の男の眼下には城の広場があり、そこには整然と騎士団が並んでいる。

 男は一つ、頷いて言葉を紡ぎ始めた。


「かつて、この大陸は多くの種族が住む豊かな土地だったという。我等が先達はかつて、この大陸に活路を見出して海を渡り、土地を切り拓いてきた。ああ、そうじゃ。彼等からすれば、我等は大いなる脅威と見えていたことであろう」


 男が一拍を置く。広場には静寂が広がり、物音一つしない。多数のプレイヤーがいては難しい、厳かな空間が広がっている。


「しかし、数多の種族を纏める妖精王は我等と戦う道を選ばなかった。悲しき邂逅を減らし、避けられぬ衝突を未然に防ぎ、未来を花開かせるため、忍耐と寛容をもって道を整えてきた。我らがそれに気づいたのは、今より60年余も昔のこと。我がまだ少年だった頃だ。子どものような風体の若者が秘密裏に城を訪れた」


 映像が切り替わる。カタカタと鳴る以外は音声のない、褪せたセピア調の画面だ。若い頃の男と思われる少年は、領主が数人の側近と共に、ハーフリング族の使者を小部屋に迎え入れるのを覗いていた。使者は、巻物と数冊の本を持っている。開かれたそれには読めない文字が書かれているが、内容を確かめた王と側近達は驚きを隠せていない。

 そこからカレンダーがめくられるように日々の経過が描かれ、最後には当時の領主が使者の差し出した巻物に署名をする。


「彼は人懐こく、少年だった私にも良くしてくれた。そして去り際に私に言った。人間が土地を切り拓いていく速さは予想の遥か上をいった。これ以上は見つからずに隠れ続けることは難しく、あまりにも見た目が異なる我等が突然に出会えば、血が流れる可能性が高くなると。流れる血が増える程に、互いに引くことができなくなってしまう。そんな哀しき運命を、手を携えて共存する未来へと変えるには、あの時に決断する必要があったのだと」


 以前、コボルト族の歴史(物語)に触れたことを思い出す。今回のこれは、異なる視点から見る人間サイドの物語というわけか。

 広場の騎士たちは身じろぎもせず、男の話を聞いている。


「あの時交わされた約束は、領主とその側近にのみ受け継がれた。そして騎士団、住民たちが異種族との邂逅を増やし、それが水面下の交流へと連なり、徐々にではあるが真なる出会いの準備が整えられていった。約束が交わされてから30年をかけた種族の融和政策であった」


 男の元に青年が近づき豪奢な杯が渡された。男は受け取るとゆっくりと中身を飲み干し、再び口を開く。


「思い返せば、すべてがあまりにも順調に過ぎた。故に、彼等からの警告を正しく受け取ることが出来なかった。調印式を1年先に控えた30年前のあの日、儂は息子を伴って会場の視察に訪れ、そこで悲劇は起きた」


 騎士団絡みの話だからだろうか。ふと春の終わり、野良鉱山近くの岩場でマナウス騎士のガイルと話したことを思い出した。

 そうだ。ちょっとした小話だったし、あれから時間が経ちすぎて忘れていたけど、ガイルは北に亜人種の国があるって言っていたな。もっと早く思い出していれば前回のイベントがスムーズだったかもしれないが、今悔やんでも後の祭りか。

 あの時、話していたのは。そうだ、モンスターの襲来。


「最初にモンスターの軍勢に襲われたのは確認に出していた騎士だった。恐るべき強さをもった軍勢に我等は飲み込まれた。騎士達は騎士団が半壊してもなお奮戦し、その果てに我は辛くも命を拾い上げた。」


 再びスライドのように回顧した映像が流れる。映像の敵はモンスターがほとんどだが、よく見れば指揮官のような敵は亜人種だ。恐らく、この時にギムレッド王国も同時に落ちているのだろう。


「襲撃の傷が元で息子を失った。30年かけて積み上げた融和の計画は潰えた。それでもなお、我が胸中にある記憶、異種族の青年と交わした約束は褪せなかった。マナウスの立場を堅持し、再び力を蓄え、ひそかに北を探り続けた。すべては、大陸の平和と、息子の最期の願いを叶えたいがためであった」


 男はどこか遠くを見ている。どこか、失ったという息子を偲んでいるようにも見えた。


「30年をかけ、我が欲してやまなかった情報をもたらしたのは、冒険者であったな」


 ここからがVLOのサービス開始後の物語だな。冒険者の異種族の出会いの報告や関連イベントの出来事が軽く触れらている。大きなイベントの度にお祭り騒ぎになる広場に映像が切り替わる。プレイヤーと住人の反応はまちまちだが騒めきは大きい。


「ついにその時がきた。先の北の戦いと時を同じくして、我らが元に妖精王の息女であるユーライア姫が逃れてきたのだ。姫から、我等は30年前の真実を知った。そして、妖精王の願いが変わらずにあることも知った。故に、我等には2つの道が示された。一つは姫の願いに応じて妖精王の治める王国を取り戻す道!一つは亜人種を敵とし、すべてを喰らう道!」


 演説は佳境に入った。老境の男は腕を大きく広げ、声を張り上げ、高らかに宣言する。


「亜人種は敵に非ず!思想の違いから敵対する者がいるなど、人間とて同じこと。我は、覚悟を決めたぞ。彼らを友とし、手を取り合い進む道を選んだ!これは過酷極まる道であろう。しかし、我が信頼する騎士団であれば!勇躍目覚ましい冒険者が在れば!必ずや成し遂げられると確信しておる!」


 プレイヤーの集まる広場は大盛り上がりだ。すでにイベント会場を目指して走り出すプレイヤーもいる。画面が切り替わり、騎士団もまた、声を上げていた。プレイヤーの雑多な声とは異なり、きれいに揃った発声で気勢をあげている。


「マナウスの騎士よ!冒険者よ!今こそ、守護の誓いと自由の翼に救国の意思を灯し、剣をとれ!これより、ギムレッド王国を解放するため、北に進路をとる!」


 ボルテージは最高潮だ。領主の決定に否やはないだろう。その上で騎士が、住人が、プレイヤーが結束した瞬間だった。

 道が決まり、今まで発言なく男の隣に立っていた妖精姫が口を開いた。


「皆様の助力に感謝します。両国の架け橋たらん救国の英雄に、精霊王の加護があらんことを!」

「マナウス領主、エルステン・リルハイムが号す!出陣である!」


 ユーライア姫の言葉の後、騎士団やプレイヤーがいる広場には色彩豊かな、柔らかな綿毛のような光が祝福として舞い踊る。領主の号令にさらなる声が答えて騎士団とプレイヤーが動きだし、映像は視点を上げ、鮮やかに晴れ渡る大空を映し出した。


「映画かよ」

クエストクリア情報を載せていなかったので

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