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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
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犬人族は気まぐれに走る

 クエストクリア後、作戦本部へと戻ってクエストカウンターで報告を終えた。

 広場は資材の搬出に忙しいのか、多くの住人とプレイヤーが行き交っていた。軽くクエストを確認すると、それらしきクエストが大量に貼られている。


「これからもう一仕事、いきますか?」


 にやりと笑みを浮かべ、ウェンバーが問いかけてきた。種族としての悲願もある上に、順調に進む戦況に士気も高そうだな。


「いや、さすがに補給しないとアイテムが尽きるから待ってくれ。それにこいつのことも聞きたいんだろ?」


 取り出したのは漆黒の銃身をもつ新銃だ。セルグ・レオンと比べると全体的に厳つく、銃身も長い。現実の歴史上では似た銃はなく、ガンスミスであるアズマ謹製のオリジナル銃となっている。

 形で特徴的なのは弾倉がなく、代わりに推進力供給用の圧縮魔力ポンプが装着されていることだろう。単発型のシングルボルトアクションの狙撃銃(スナイパーライフル)なのにも関わらず、突撃銃(アサルトライフル)のマガジンのようなものが飛び出している。

 だが、この銃が特別なのは形ではない。黒の結晶石をベースにいくつかの魔鋼を合わせることで、魔力弾専用の魔法銃となっていることだ。厳つくも威風堂々とした姿に惚れ惚れしつつ、改めて能力を確認する。


≪リグMB01 レア度5 重量4≫

攻撃力:B+

反動:D

正確性:B

連射性:G

耐久:D−

攻撃タイプ:射撃

使用弾:魔法弾

射程:600m

最大装弾数:1発


 取り出したリグMB01に興味津々なようで、様々な角度から眺めている。


「これって僕の森犬人の願い(ウィッシュドバレット)も撃てるんですか?」

「あれはちょっと特殊すぎるからな。まあ魔法弾専用だし、口径さえ合わせれば撃てはすると思う」


 悪戯を思いついた時の表情でウェンバーは何かを考え始めた。こいつがこの表情をしている時には碌なことにならない。早めに釘を刺しておこう。


「言っとくがこれであの弾は撃たないぞ。こいつは使ってる素材が特殊すぎる。日々の手入れとか簡単な修繕ならなんとかなるが、壊したら治せない」

「ふぅん、そうなんですね。てことは……」


 こいつ、まったく懲りてないな。あの時の緊急クエストクリアには必要な物だったが、おかげでログインするたびにリールを稼ぐ必要ができてしまったんだ。我が家の家計は火の車ってやつをゲームで体感することになるとは思いもしなかった。


「てことで、武器である以上必要なら使うけど、基本はこれまで通りセルグ・レオンを使う予定だ」

「了解であります!…ん?」


 答えながらもなにやらぶつぶつ呟いていたウェンバーだが、何かを見つけたのか、顔を上げる。視線の先は広場の端を向いている。そして突然俺の袖を掴むと、引っ張るように走り出した。


「なになになに。今度はどうした」

「いえいえいえ、なんでもないんですけどね。知り合いを見つけました!」


 そうして俺は服を引っ張られたまま、小走りで広場を抜けた。作戦本部の拠点を抜けると、資材搬入でできた林道を進む。これからイベントに参加するのであろうプレイヤーたちとすれ違い、手を振られるのにも反応せず、小雪が降る中森へと途中で進路が折れた。

 しばらくはされるがままに引っ張られていたが、諦めもつき、手をほどいて並走した。


「で、だれなんだ?というかなにしてるんだよ」

「え?だって、急がないと逃げちゃうから」


 俺が付いていく意思を示すと、ウェンバーは速度を上げる。森で出せる俺の全力の速さだ。この速さで駆けないといけないってことは、森に精通している誰かだと思うんだけどな。ウェンバーのプレイヤー関連の付き合いは知らないから、住人関連なのだろうか。

 目的もわからず走ることしかできない中、ぼんやりとそんなことを考えながら走っていると、ついにウェンバーは足を止めた。

 作戦本部からさらに西に数十分。木々が拓けており、小さな池が凍っているそこには誰もいない。それでも、奇妙な感覚がある。

 もしもに備え、気配感知をオンにしようとしたその時、頭上から声が聞こえた。


「また貴様か。私に何の用だというのだ」


 頭上の木から飛び降りてきたのは、金髪を肩で切りそろえた女性だった。動きやすい独特な装束は金属が見当たらず、布と革を中心に作り上げられている。腰には二振りのダガーが納まり、見慣れぬ冒険者()を連れていることに警戒しているのか、その手はいつでもダガーの柄を掴める準備がある。目鼻立ちがくっきりとした切れ長の瞳の美人だが、そんなことより気になることがあった。|金髪から出ている長い・・・・・・・・・・・だ。


「エルフ…?」

「人間。貴様が私に用があるのか」


 なぜ、突然エルフと邂逅することになったのか。さっぱりわかっていない俺はひとまず首を振って視線を隣のモフモフに向けた。2人からの視線を受けたウェンバーは、胸を張り、勝ち誇って宣言した。


「ふふふん、追いつけたから僕の勝ちですね!」


 え、それだけ?あんないきなり人様ひっつかんで走り出して、言い放つのがこれ?やばい忘れてた。こいつは基本ポンコツの残念なモフモフだった。というか、いきなり追い回された上に突然勝利宣言されたエルフの胸中や如何に。せめてさらっと流せる大人であってほしい。

 恐る恐る視線をエルフに向ける。終わった、小刻みに震えてる。どうしよう。今回のイベントっているより、異種族とのイベント的に色々終わってしまったかもしれん。


「ほ、ほほほほほう。あなた達コボルト族はよくもまあ、そそそんなぬけぬけと言えたものだな!」

「でもカイさん連れて追いつけましたからね!ね!」

「なにがだ!2人がかりで探しておいて勝ち誇るとは片腹痛い!」

「ふふーん、カイさんは何も知らないです~!僕が1人で探してます~!ね!」


 なにが「ね!」だ。その度にこっちを向くな。勝手にヘイトを俺に向けないでくれ。どうしてお前はいつもそうやって厄介事ばかり持ってくるんだ。

 冷たい視線が俺に向けられる。これはまずい。種族の融和的に考えても相当まずい。嫌だよ、俺のせいでエルフ好きから恨まれるの。

 …落ち着け、深呼吸だ。ひとまず落ち着こう。こういう時にできるのは基本的に1つしかないんだ。よし。

 素早くモフモフの頭を掴み、全力で下に押し込む。隣からはぐえ、とカエルを潰したような声が漏れるが気にも留めない。


「この馬鹿が本当に申し訳ない」


 ひとまず謝罪した。



 とりあえず許してはもらえたようで、せっかくなので池の傍で火を起こし、魔法で椅子を作らせ、腰掛けて話をすることになった。ウェンバーは涙目になっていたが、アイラ達から渡されたクッキー(賄賂)を献上するのも忘れていない。

 VLOのエルフも装備の様子から例に漏れず、自然と共に在るって感じの生き方なんだろう。嗜好が似るのかクッキーは嬉しそうに消費された。


「さて、そろそろ話を聞きたいのだが。まさか本当にあのようなふざけた理由で私を追ってきたのか」


 話を振られたウェンバーは、名残惜しそうにクッキーを食べ終え、口を開く。


「たまたま見つけたから追いかけたのはそうだけど」

「よし、落ち着こう。正直気持ちはよくわかるけど、堂々巡りになっちまう」

「はあ、まさか同じ森に生きるコボルト族よりも人間の方が話が通じるとは」


 ウェンバーに話させると本当に碌なことにならない。幸いにも俺とエルフは同じ結論に達したようで、先に2人で話を進めることとなった。


「私はエルフ族のシルフレア・ヒム・クァンターレよ」

「俺は冒険者をしているカイだ。えっと、呼び方はシルフレアでいいのだろうか」

「構わない」


 自己紹介が終わると気まずい沈黙が流れる。そもそも俺たちは意図せず引き合わされることになったわけで、話題も何もあったものじゃない。とりあえず無難な切り口として、先ほど渡したクッキーの味について話しながら、話題を探す。するとシルフレアは俺の装備が気になるようで、しきりにマントを見ている。


「不躾ですまないが、それはカメレオンベアの品で間違いないだろうか」

「ああ、自分で狩ってマントに仕立ててもらったんだ」

「狩人なのだな。どのように狩ったのだ。他にも大物を仕留めているのか」


 こうしてシルフレアの興味から、俺の簡単な来歴を伝えることになった。エルフは森で採集と狩猟生活をしているようで、狩猟者の実力には敏感らしい。曰く、カメレオンベアーは発見が難しく、たまたま出会える幸運と、準備を怠らない周到さと、出合い頭の戦闘でも勝てる実力があるのかを試されるんだそうだ。

 シークレットクエストのおかげで徹底した準備をした上で挑戦できたなんて、口が裂けても言えない雰囲気だ。とはいえ、おかげでシルフレアの心証は大分持ち直しせたようだ。


「シルフレアは1人で森で活動しているのか」

「ええ、私は大人数が得意じゃないから。でも、エルフ族の全員が等しく覚悟を決めているのは間違いないわ」


 勝利のために必要なら、自身の死すら受け入れてしまいそうな、そんな決死の表情だ。俺の頭に、各異種族で同時に起きた緊急クエストの顛末がよぎる。たしか、エルフ族は…

 俺の表情から簡単には事情を知っていることを察したのだろう。顎をわずかに引いて肯定を示した。


「その通りよ。私達は決して許されない敗北を喫した。このままでなんて、終われない」


 静かに握りしめられた拳は、血が滴るのではないかと思うほど固く結ばれている。その拳に緊急クエストの悔恨が現れているように感じれらた。


「この戦いに勝ちたいんですよね」


 空気を読んだのか、しばらくは黙っていたウェンバーがポツリと呟いた。その瞳は意外なほど真剣にシルフレアを見据えている。


「ええ、この戦いでなんとしても私たちは姫様に報いなければならない」

「エルフ族のために?」

「違う!私たちの誇りなぞ、姫様が負われた苦痛に比べれば何ということもない。私達エルフ族は、この戦いに勝って再び姫様の御力の一つとなりたい。それだけを願っているわ」


 コボルトとエルフの問答が続く。そして、結論が出たのか、ウェンバーがにこりと笑った。あ、絶対に変なことを言い出すぞこれ。


「それじゃあ、シルフィは僕たちと一緒に戦いましょう!」

「はい?」


 口を挟むつもりはなかったが、聞かずにはいられない。どうしてそうなった。


「え、だってエルフ族はこの戦いに勝ちたいんです。僕も勝ちたいですし、カイさんもですよね。じゃあ3人集まっちゃった方が強いですよ」


 幼児のような暴論をさも当たり前のことのようにウェンバーは振りかざす。言っていることはわかるけども。

 案の定、シルフレアは首を振った。


「聞いていたかしら。私は大人数は性に合わないのよ」

「でも、1人より3人の方が多くの敵を倒せます。その方が勝ちは近いのに、姫様のためと言いながら協力は出来ないのですか?」


 なんというか、これ以上ないほどに勢いよく誇り(プライド)に切り込んでいきやがる。とはいえ、1人でできることの限界は俺も知っているし、シルフレアもわかっているようだ。彼女の言い分が大分苦しくなってきた。


「ウェンバー、そこまでだ。シルフレアにもやり方ってもんがある。こっちのやり方ばかりを押し付けちゃいけないな」

「そうですか、いい案だと思ったんですけど。ごめんなさい」


 尻尾が垂れ下がるウェンバーを見て、視線をシルフレアに向ける。


「シルフレア、俺は普段は一人で狩人をしている。その気楽さも、限界もよく知っているつもりだ。その上で言っていいなら、俺たちと組んだ方が戦果が上がるのは事実だと思う」

「…」

「でも、君には同じエルフの仲間もいるはずだ。いきなりさっき会ったばかりの冒険者と組むべきなのか、判断するのは君だ。当然選択肢には一人で戦うってのもあるわけだしな」


 沈黙が続く。俺としても展開がいきなりすぎてついていけてないが、それは目の前のシルフレアもだろう。だが、せっかくウェンバーが立ててくれたフラグを無下にするのも気が引ける。恐らくこれも異種族のイベントクエストの一環だろうし、可能なら進めたいところだ。


「俺たちと一緒に戦ってくれるなら、俺はいつでも歓迎する。でもまだ俺たちは互いをほとんど知らない。パーティーを組むのをためらう理由がそれだけなら、信用を得るためのチャンスをもらえないか。俺はいつでも自分の力を示すだけの準備はしてあるつもりだ」

「カイの力はそのマントと背負箱を見ればわかる。でも、信頼出来るかはわからない。だから、貴方が偉大なる踏破者、アランの道を追うものか、試させてほしい」


 予想の斜め上なんてものじゃない。まさかの装備が俺を試す理由の一押しとなった。え、見た目重視のインベントリー用の装備だったのだが。

 急いで装備のフレーバーテキストを確認しようとした時、アナウンスが響いた。


≪偉人伝:偉大なる冒険家の旅路が開始されました≫

≪シルフレアがパーティーに参加しました≫


 え、いきなり?

当時の設定より

カイのインベントリ用装備であるアランの背負箱とアランの竹筒は偉人シリーズ(運営が設定、プレイヤーには公表していない)と呼ばれる装備の一種。

アイテムを制作すると、既存の名前が割り当てられる場合とオリジナルの名前を付けられる場合があるが、偉人シリーズは作成時にオリジナルの名前を付けると偉人シリーズ判定から除外される。

他にも偉人シリーズは多数存在しており、各シリーズで定められた一定の条件を満たすことで偉人の旅路クエストが開始される。

クリアすると偉人にまつわる何かを得られるが、すべてが有用とは限らない。

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