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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
94/102

広場をめぐる攻防

これで初日がほぼ終了ですね。

流石に次は週末とかの投稿になると思います。

 VRシステムを終了し、現実の体を起こす。そのまま冷蔵庫に向かい、作り置きしておいた昼食を冷蔵庫から取り出し、電子レンジにかける。

 大きく伸びをして手元の端末に目を向けた。動画サイトでは、すでにマナウス領主の演説が動画サイトでアップされていた。数日ごとにまとめ動画がアップされるらしいし、これは後の楽しみにとっておこう。

 公式掲示板のイベント関連の板をのぞくと、攻略情報から最前線での苦労話、果てはイベントに乗じた異種族との接近エピソードまで幅広く展開されていた。どの板も盛況なようだ。

 レンジのアラームが鳴り、温めが終わった昼食をもって席に座る。ソースとマヨネーズ、鰹節に青のりをふりかけたそれは、程よく湯気が上がり鰹節が踊っていた。


「さて、まずは腹ごしらえだな」


 昼食を食べ終え、お茶を飲みながら森ルートの掲示板を探す。すでに最初の広場についたという情報が載っていた。さすがは攻略組のルートだ、中央は侵攻が早いな。中級のルートは広場での戦闘が始まったくらいで、初心はまだ広場に到達していない感じだな。

 イベント進行の情報を簡単に見た後は、藤達からの連絡を確認していた。どこも楽しみながら頑張っているようだ。俺も午前中にこなしたクエストと今日の午後の予定を打ち込んで送っておく。

 

「そろそろか」


 時間になり、VLOにログインする。ウェンバーと待ち合わせた時間までにはまだ余裕はあるが、先にクエストの受注を済ませることにした。

 森ルート本部の休憩所で目を覚ますと、クエスト受注カウンターに向かう。その中から1つのクエストを選び受注した。 


≪補給拠点争奪戦1≫

場所:マナウスの森北西部

日時指定:最大3時間

必要情報:拠点予定地の広場周辺の敵部隊の討伐

納品アイテム:なし

想定モンスター:ゴブリン、鬼人など

報酬:400p


 今回は本格的な戦闘になるはずだ。スキルの設定を調整し、装備の点検を行う。


「カイさんお待たせです!」

「いや、こっちも準備してたところだ。もうちょい時間もらっていいか?」

「どうぞどうぞ」


 そのままアイテムの在庫もチェックし、準備を整えると2人で午前中と同じポータルの前まで移動する。


「それじゃあ行きましょう!」

「ああ、早いところ北への足掛かりを作っておきたいしな」


 俺とウェンバーがポータルに入るとアナウンスが鳴る。


≪クエスト、補給拠点争奪戦1が開始されます≫


 アナウンスを詳しく確認すると、一覧が現れた。

討伐モンスター:0体

討伐ネームドモンスター:0体

戦局影響:0

クエスト進捗率:36%


 受けたばかりだというのに、すでに進捗が上がっている。てことは拠点の争奪は全プレイヤーの戦果を基に推移するのか。ここは最初の拠点だ、強い敵がいないなら急がないと終わってしまうかもしれない。


「ウェンバー、他の冒険者達も奮闘してるみたいだ。少し急いでもいいか?」

「構いませんよ!」


 最初は見つけた敵を片っ端から倒していこうかと考えていたが、予定変更だ。ステルス性能を最大まで上げ、最速で拠点予定地を目指す。


「ウェンバー」

「見えてます、すこし右回りしましょう」


「カイさん左に1部隊います」

「右にもいるからやり過ごしたほうが早そうだな」


 敵を見つけるごとにルートを相談しながら進む。2人だと索敵が格段に楽になり、進むのがスムーズだな。争奪戦中の広場は遠くないこともあり、すぐに到着した。

 広場には騎士団の部隊が到着しており戦闘中だが、数が少なく苦戦している。敵で目立った活躍をしているのは、あいつだな。大剣両手持ちスタイルで近くのマナウス騎士を薙ぎ払い、近づく隙を与えていない。大剣は大振りが世の常だけど、その隙を埋めるような遠距離攻撃の掩護が効いている。


≪鬼人騎士 状態:アクティブ 階級:部隊長≫


 階級なんて初めて見たけどこの際は置いておくとして、鬼人騎士ね。攻撃に寄せているにしても防御も高そうだし、俺たちの組み合わせだとあれから落とすのは無理だな。まずは騎士団の援護をしながら広場奥にいる部隊の殲滅だ。

 アランの竹筒からポーションを取り出し、鬼人騎士の薙ぎ払いで吹き飛ばされた騎士に投げつける。


「っ、援軍か!感謝する!」

「奥の援護部隊は俺たちがやります!それまで近接部隊をお願いします!」


 それだけ言うと、返事を待たずに駆けだした。広場を左に迂回し、広場からは少し遠ざかる。木々を遮蔽にでき、何かあったら引くことのできる位置をとり、銃を構えた。


「ウェンバー、援護を頼む」

「あいさー!」


 すぐにウェンバーの気配が消える。それに構うことなく、敵の弓兵部隊に照準を合わせた。見えているのは10人。ゴブリンと鬼人の混成部隊だ。


「あそこにいるぞ!近づけさせるな!」


 鬼人の弓兵もすぐに気づき、声を上げた。しかし、鬼人の体を銃弾が撃ち抜く。木を遮蔽に身を隠すと、顔を出していた場所に数本の矢が突き立った。

 今度は別の場所から身を出し、トリガーを引き絞る。発砲音の後にゴブリン弓兵が倒れた。しかし、風切り音と同時に左肩が後ろに弾かれる。見ると肩には矢が突き立っていた。HPが一気にもっていかれている。


「いくらなんでも寡兵すぎるだろ」


 さすがに顔を出すのが俺だけだと集中して狙われるな。矢は抜くとポリゴンとなって消え、ダメージエフェクトが出るが、すぐにポーションを振りかける。

 手ごたえを感じたのだろう、弓兵が何かを叫び、ダガーをもったゴブリン兵が2体でこっちに走ってきていた。

 まずい、直感でそう感じる。ゴブリン兵に銃口を向けるが、回復しきれていないのか、銃を持つ腕に違和感を感じる。


「大丈夫です!」


 木の上からそう聞こえると同時に、ゴブリン兵の足元から生えた木の根が飛び出し、拘束されて動きを止めていた。あっちは任せて大丈夫だな。


「まずは敵の射撃を減らすところからか」


 背負箱を下ろしてアイテムを取り出す。1つは煙玉、もう一つはスリングだ。細かなコントロールは難しいが、手投げでは届かない場所にまで飛ばすことができる。

 右手に持ったスリングに煙玉をひっかけ、くるくると回す。勢いがついたところで紐の片方を離すと、煙玉が飛んでいった。煙玉は浅い放物線を描いて飛び、弓兵部隊の目の前で炸裂し、視界をふさいでいる。


「気配感知オン!」


 煙越しでも気配感知はかなり正確な敵の位置を把握できる。これで少しは安全に撃ち込める。


「敵の遠距離攻撃が弱まったぞ、今だぁ!」

「あ、やばい」


 遠くで、騎士の檄が飛んでいる。俺が銃を撃つための時間稼ぎのつもりが、俺の攪乱をチャンスととってしまったらしい。それなら、十数秒で戦局を動かすしかない。


「ウェンバー!敵の援護部隊を一気に叩く!」


 返事はない。しかし、木魔法で作られた槍が煙の中に飛んでいく。俺もあらん限りの銃弾を撃ち込んだ。

 煙が晴れると敵の数は3人まで減っている。しかし、敵だってここを取りたいんだ。すぐに後続がくるはずだ。

 予想以上にアイテムを使わされたけど、遠距離の打ち合いはこれで五分、前より撃つことに集中できるようになり、戦いを有利に展開できている。さらに打ち込もうと銃を構えるが、敵の反応が突然消え去った。


「あ、MP切れた」

「キサマカ!」


 MP切れ(ガス欠)で気配感知がきれた瞬間を狙ったように、ゴブリンレンジャーが近寄ってきていた。短剣を振りかぶりこちらに飛び掛かってくる。

 とっさにアランの竹筒に手を突っ込み、魔法石を投げつけた。

 パキンと魔法石が割れる音がし、魔法が発動する。突風が吹き荒れゴブリンレンジャーを弾き飛ばした。

 近距離で炸裂させたため、魔法の勢いで俺も吹き飛ぶ。HPの確認をする余裕はなく、後ろに転びながらもすぐに立ち上がると、騎士団のいる方へと全力で下がる。


「よくやった、こっちは我々に任せてくれ!」


 HPを確認すると4割ほど削れていたため、騎士団を盾にポーションをがぶ飲みした。

 正直今死ななかったのはラッキーだな。たまたま取り出した魔法石が風魔法のウインドインパクトじゃなきゃ、あそこで死んでいたかもしれない。


「カイさん!大丈夫ですか!」

「ああ、気にしなくて大丈夫だ」


 死にかけて上がった心拍数を深呼吸で落ちつけながら、騎士団の様子を観察する。

 最初は広場の端で戦っていた騎士団だが、今は中央の手前まで押し込んでいる。俺とウェンバーの援護で遠距離部隊を減らした効果だろう。しかし、敵の増援が到着すると、弓矢の援護が復活し、再びじりじりと押され始めた。


「なるほど、そういうことね」

「なにか思いついた顔してますね!」


 要するに、騎士団の位置を広場の向こう側まで押し込めばいいんだろうな。騎士団は鬼人騎士を抑えられるけど、遠距離攻撃が足されると押されだすわけね。少し前にこの手の条件戦をやらされた経験がこんなところで生きるとはな。


「俺が左側、ウェンバーが右側から敵の遠距離部隊を叩き続ける。鬼人騎士は余裕あるときに攻撃で騎士団が広場をとれるようになるはずだ」

「僕は大丈夫だけど…」


 まあ、今失敗したばっかりだからな。でも、予想通りなら手順を間違えなければ大丈夫のはずだ。


「今度は任せろ。作戦はある」

「それじゃあ左は任せますね!」


 元気に尻尾を振るとウェンバーは広場を右回りに走っていく。俺はすぐには動きださず、敵の展開状況を観察した。


「どうした、へばったのか?」


 動かない俺を見て騎士の1人が声をかけてくる。心が折れたとでも思っているのだろうか。まさか住人に心配されるとはね、思わず口角が上がる。


「まさか。ちょっと時間もらいますが、左は俺が崩します」

「口だけは一丁前、なんてことにならないようにしろよ」

「任せといてください。その代わりちょっと皆さんの盾をあてにします!」


 騎士の体を盾に体をわずかに出して射撃を行う。狙うは遠距離部隊、ではなく遠距離部隊が狙われたときに動きだす救援部隊だ。広場に居ながら戦闘に参加していない敵を順番に狙っていく。


「アソコダ!アイツガコッチヲネラッテイル!」


 狙われた部隊が俺を目指して動き出すが、騎士団が押しとどめる。近接戦闘なら膠着を保てるな。敵の救援部隊は騎士団に任せ、今度こそ左の遠距離部隊に狙いを定めた。

 発砲音が響き、敵が倒れる。頬を矢が掠めたのか視界の端にダメージエフェクトが見えている。一度体を引っ込め、別の場所から顔をだす。再びトリガーを引き絞ると、さらに一人がポリゴンへと変わる。さらに3体のゴブリンアーチャーを倒したところで、


「よし、ちょっと行ってくる」


 背負箱をその場に置き、広場の外を左回りに走り出す。足元に矢が刺さるが、何とか木々の陰に転がり込む。そこからは近接部隊が援護にこないよう気を付けながら遠距離部隊を排除していった。来る前に5体のゴブリンアーチャーを倒したことで、俺への攻撃はかなり減っている。これなら増援が来てもいけるはずだ。

 そこからはアイテムを惜しみなく吐き出し、敵の視界を奪いながら一体ずつ倒していった。敵の抵抗も激しく、何度か騎士団の元に逃げ込むことになったが、敵の崩し方をパターン化させられそうだな。


「っ、痛った!」


 左の脇腹に矢が突き立つ。予想以上の消費ペースにアイテムリキャストが間に合わなくなり、騎士団の方へと走る。何度目かもわからない出戻りだが、騎士たちは険しい顔をしながらも満足気だ。すでに広場の大半は占拠し、部隊長の鬼人騎士はかなりの傷を負っている。


「猟師の坊主!最初はちょいと心配したが、いい働きじゃねえか!」

「そりゃどうも!あと一押し、互いに頑張ろう!」


 右の遠距離部隊はウェンバーが抑えきり、左の部隊も数は少ない。騎士を倒すなら今だ。ウェンバーもそう判断したのだろう。広場の外から木の槍が何本も鬼人騎士に向かって飛んでいく。

 セルグ・レオン標準型を背負箱に戻し、アイテムを取り出す。そして美しく輝く漆黒の銃を取り出した。アランの竹筒に手を入れ、これまでとは違う弾丸を取り出し、セットする。

 

「隙ができますので、少しだけ守ってください」

「任せておけ!」


 銃を構える。漆黒の銃身が僅かに鈍く輝き、準備ができたことを告げる。


「撃ちます!射線を開けてください!」

「応よ!」

「ウェンバー!」

「あいあい!」


 鬼人騎士の足元から蔦が伸びて足を絡めとる。トリガーを引くと銃身の先にエネルギーが集まり、一拍置いて低いレーザー銃のような音を響かせ、銃弾が飛び出す。銃弾は白い軌跡を伸ばし、一直線に鬼人騎士を撃ち抜いた。


「がああああああ!」


 鬼人騎士はよろけて膝をつく。そこに地面から4本の蔦が伸び、鬼人騎士の体を貫いた。鬼人騎士がポリゴンへと変わる。


「今だ!マナウス騎士よ!突撃!」


 部隊を指揮していた騎士が叫び、騎士が剣を掲げて奥へと駆け出していく。俺も追撃に参加しようと背負箱まで戻って銃を交換した。しかし、騎士に続こうと立ち上がったところを残っていた騎士が制した。部隊の指揮を執っていた騎士だ。


「カイ殿、ありがとうございます。貴殿のおかげで広場の確保は目前、残りはマナウス騎士だけでも十分でしょう。今回の働きは私からも本部に伝えさせていただきます」


 クエストはここまで、ということか。深く息を吐くと同時にアナウンスが鳴り響いた。


≪クエスト、補給拠点争奪戦1をクリアしました≫


 空間にひびが入り、ガラスの割れる音とともに、クエスト空間から本来の空間の広場へと戻ってきた。外に出ると同時に再度アナウンスが鳴り響く。


≪クエスト、補給拠点争奪戦1の達成率が100%となり拠点候補地を確保しました≫


 おお、他のプレイヤー達も頑張っていたようだ。タイミングよくクリアできて、騎士が広場を拠点化するための話し合いを始めるのを見ることができた。 


「カイさん!さっきのがとっておき?」


 ウェンバーは興奮しながら戻ってきてしきりにさっきの銃撃を気にしている。説明するのはいいんだけど、さすがに疲れたな。


「見せるのも説明するのもいいんだけど、さすがに疲れた。いったん戻ってからでもいいか?」


 話しながら空腹度補給用のクッキーを取り出す。ウェンバーにも放ると嬉しそうに受け取った。


「いいですとも!」


 嬉しそうに話すウェンバーは、すでにクッキーを笑顔で頬張った。

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― 新着の感想 ―
[一言] パワーを!…もう書かれてた(ง˘ω˘)ว ウェンバーきみ、ごるべーやったんやな…
[一言] パワーをセルグに!
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