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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
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初日の森

たまにはたくさん投下、ということで読み飛ばしにご注意ください。

 森は静まり返っている。スキルで雪を踏む音すら消しているため、ほぼほぼ無音の世界だ。時折遠くで狼の遠吠えや鳥の鳴き声が聞こえている。


「で、どうだ」

「そうですね。スキルレベルが下がってるのと、召喚魔法は使えないですね。まあこれくらいなら気にするほどじゃありませんけどね!」


 ウェンバーも気にしていないならなによりだ。

 出発前にヒーコと話していた通り、今回は様子見だ。受けてきたクエストも偵察と採集系のものだけにしてある。


≪マナウスの森の調査≫

場所:マナウスの森北西部

日時指定:1日以内

必要情報:周辺にいる敵部隊の報告(討伐済み可)

     敵部隊の行動調査

     拠点化可能地点の探索

納品アイテム:なし

想定モンスター:ゴブリン、鬼人など

報酬:200p


≪北西ルート食料調達≫

場所:マナウスの森北西部

日時指定:1日以内

必要情報:食料の採集情報(要サンプル)

     狩猟対象の調査

     水源調査

納品アイテム:制限なし

想定モンスター:小鬼、鬼人など

報酬:250p


 報酬のポイントは、イベント専用だな。今回は報酬でアイテムやリールを得ることはできないようになっている。ドロップはあるみたいだからアイテムはそっちに期待だ。

 最初は楽しくこなせるものをと考えて受けたが、案の定ウェンバーは食料採集に興味津々だ。とはいえここもリゼルバームからそう遠くはない以上、新しい食料が見つかるわけではないだろう。探索が不十分なだからこそ、今後も使える新しい採集ポイントが見つかるかもしれない。


「問題は季節だけど」

「まあこのくらいの雪なら探せます!」


 話しながらスキルセットを変更する。魔力強化と魔力操作を外し、植物知識と動物知識をセットして身近な植物をじっと見ると、名前が視界に表示された。

 まだ雪に埋もれていない木の根元に、小さな茸が生えている。毒もなく、食べられるようだ。


≪エミー茸 レア度2 重量1≫

 傘が平たく、肉厚なのが特徴の茸。炒めものや煮込み料理に合うとされ、人気が高い。

アイテム分類:食材


「カイさん、こっちにいいものありますよ!」


 ウェンバーが手にしていたのは、ごぼうのような茶色い根だ。植物知識で調べると確かに食べられると表示される。


≪ユングの根 レア度2 重量1≫

 越冬のために根に栄養をためる性質があるのユングと呼ばれる植物の根。煮込み料理で使われることが多い。土臭さがあるため好みは分かれる。

アイテム分類:食材


「雪の下から掘り出したのか」

「そうです。匂いでわかりますからね!」


 そうして、道中見つけたものを次々に採集し、地図に記録をしていく。ただ、今までみつけたものは群生地ってわけじゃないから、採ったらそれでおしまいだ。

 採集を続けていると、不意にウェンバーの雰囲気が変わった。毛が僅かに逆立ち、尻尾が下がる。敵を見つけたようだ。


「隠者、気配感知オン」


 ここから少し東、2体の反応があるな。大きさからしてゴブリンだろう。ウェンバーの方を向くと、静かに頷きが返ってくる。

 可能な限り音を消し、気配感知のオンオフを細かく切り替えながら進む。途中からウェンバーはするすると木の上に登っていった。

 

「あそこか」


 遠くにかすかに人影のようなものが動いているのがわかる。アランの背負箱から遠見の筒を取り出してのぞき込むと、間違いなくゴブリンが2体いるのが見えた。

 装備は革製の軽鎧で、一人がナイフ装備、もう一人は弓装備だな。周辺を見回して警戒しているとこから見て、あっちも偵察中って感じだな。


「ウェンバー、どうしたい?」

「そうですねぇ、僕がどれだけ弱くなったかも知りたいですし、やっちゃいましょう」


 ウェンバーはそう言うとするすると木の枝を渡っていく。いくら葉が落ちたとはいえ、あれで一切の音を出さないのは脱帽の技術だな。

 俺は一度木から降り、MPを確認してから進む。精密投擲の効果範囲まで入ると、アランの竹筒から投げナイフを取り出した。


「オイ、ダレカイルゾ」


 おっと、弓使いの方はかなりいい索敵能力をしている。恐らく気づかれたのは俺だな。相手は周囲を見回している、細かな居場所はばれていないな。2人の視線が俺から外れたタイミングを狙い、木の陰から投げナイフを放った。

 ナイフは弓使いの首元にまっすぐに飛んでいくが、ナイフ持ちのゴブリンが素早く弾く。


「ウェンバー!」

「がってん!ウッドスネイク!」


 弓持ちゴブリンが懐から笛のようなものを取り出すが、咥えるよりも早く木魔法で拘束して締め上げている。ナイフ使いはもう一本の枝が刺し貫いていた。最後に弓使いにナイフを投げ、戦闘が終わる。周辺から敵の反応がなくなったのだろう、音もなく頭上からウェンバーが飛び降りてきた。


「どうだった?」

「威力が弱いですね。これなら僕が援護の方がいいかもしれません」


 ふむ。

 俺からすれば大概な威力に見えるが、本人的には不満ありか。てことはあとはもう一つだな。


「次は俺が火力担当で、銃でどれくらい敵が来集まるか試すか」

「そうしましょう」


 話しながら今回のドロップを確認すると、よくわからないアイテムを手に入れていた。


≪小さなメモ紙 レア度:2 重量:1≫

 偵察兵が持っていた小さな紙片。戦闘で破れたのか、内容は読み取ることができない。

アイテム分類:イベント


 ここだと取り出す事すらできないな。これを大量に集めるのか、完全版のドロップを目指すのかはわからない。が、イベントの進行に必要なのだとしたら、戦闘を避け続けるのは具合が悪そうだ。

 その後は見つけたものを採集しながらさらに北西に進んでいく。広場を見るには遠回りになるが、敵の索敵の範囲も知っておきたいところだな。


「カイさん、またいるね」

「ああ、任せろ」


 セルグ・レオンを試作型から標準型にアップデートする過程で、性能以外に手を加えたのは、遠見の筒を少し小型化してスコープとして取り付けられるようにしたことだ。おかげで視力強化をセットしなくてもある程度の距離で狙えるようになった。


「今度は3体か」


 200メートルほど先に2体のゴブリンと見知らぬモンスターがいる。


≪双頭蛇 状態:アクティブ≫


 ふむ。途中から二股になってる蛇だな。それぞれが別の方向を見れるのは索敵においてはかなり強い。蛇系なら温度感知をもっていそうだし、やるならこいつからだ。

 可能な限り距離を詰める。大体100メートルってところだな。敵の進行方向から斜線を通せるポイントを見つけ、あとはひたすらに待つだけだ。肉眼で移動を確認し、ポイントに近づいたところでスコープを覗く。

 静まり返っていた森に1発の銃声が響く。狙いを外すことなく、銃弾は双頭蛇の片方の頭を撃ち抜いた。続けて放った2発目ももう一つの頭を抜き、双頭蛇はポリゴンとなって消えていく。

 銃声に気付いたゴブリンはすぐに笛を取り出すが、ウェンバーが素早く拘束を始めていた。


「ナイス」


 拘束から逃れようと身を捩るゴブリンに2発の銃弾を撃ち込み、残ったゴブリンを見る。そっちはウェンバーが仕留め、戦闘は終わった。


「ウェンバー」

「ええ、きますね」


 そのまま俺たちは素早く木に登り、枝を渡って少しだけ距離をとる。


「ココダ」

「ドコカニイルゾ」

「警戒するぞ」


 やってきたのはゴブリンが2体と鬼人が1体だな。ゴブリンが索敵系で、鬼人は戦闘系か。この距離で気づかれていないってことは、気配察知系のスキルはもってないな。直接見られない限りはやり過ごせそうだ。


「ウェンバー、連戦するか?」

「う~ん。敵の強さも何となくわかったし、無視してもいいかな、と」

「了解だ」


 そのまま数分気配を殺して待っていると、周辺を見回っていた部隊は去っていった。

 安全を確認してからドロップを確認するが、さっきと同じアイテムをドロップしていた。今回もドロップは一つのため、恐らくだが、敵のパーティーごとに1枚のドロップが確定のようだ。

 ソロやコンビだと単発の戦闘はいいが、連戦になると辛くなる。紙片を集めるのはパーティー参加のプレイヤーに任せる方が効率はよさそうだ。

 その後は、適当に戦闘を続けつつ、西側に膨らみながら進んでいった。ウェンバーも踏み込んだことのない場所らしく、予想に反して俺が知らない植物もあるな。今が冬じゃなければもっと見つけられるだけに残念ではある。


「あ、カイさん!あれ見て!」


 不意にウェンバーが声をあげ、空を指さした。かなり低い位置を小型の鳥が飛んでいる。


「あの鳥は水場の近くで巣をつくるんです。渡り鳥でそろそろ南に飛んでいくはずだから、見つけられたのはかなり運がいいですよ!」


 そう言って、鳥の飛んでいった方へ走り出した。置いていかれないように走りながら、この辺の地図を確認する。

 これまでの付き合いでわかったことだが、コボルトは森への適性がありすぎる。適当に走り回っても迷子になることが少ないんだ。地図を感覚的にしか把握していないから、場所を書かせるとあの時みたいになってしまう。クエストとして報告するには、俺がしっかり把握していないとな。


「ほら、ありました!」

「さすがだな」


 10分程進んだ先に、小さな池があった。地図には載っていないな。場所を記録して周囲を探すと、ポーションの原料になる薬草の群生地を見つけられた。


「なるほどな」

「どうしました?」


 一人頷く俺に、不思議そうな表情でウェンバーがこてんと首をかしげた。これをあざとさなしでやってるんだから恐ろしい。


「いや、進軍に必要なことがわかってきたってだけ」

「それはよかったです!」


 にっこりと笑い、尻尾が嬉しそうに振られる。


「いいポイントを見つけたし、ちょっと休むか」

「いいですね!いいですね!」


 アランの背負箱を下ろし、そこから簡単な調理器具を取り出すと、お湯を沸かす。沸くまでの間にカップを二つと軽食を取り出した。ウェンバーは軽食に目が釘付けになりながらも、木魔法で即席の机と椅子を作ってくれた。


「これはアイラと楓とミリエルからな。新作らしいから今度お礼しとけよ」

「いつも美味しいアイラさん!新しいんですか!」


 机に置いたのは包装されたクッキーだ。今日の朝にもらったやつだな。これで依頼は果たした、後は自分たちでがんばれ。空を見上げると、アイラたちが笑顔で親指を立てている姿が浮かぶ。


「それにしても、火を使うんですね」


 お茶が入るのを今か今かと凝視しながら、すでによだれが垂れているウェンバーが疑問を口にした。凄いな、視覚と欲望と言動がすべて一致していない。


「実験だな」

「実験ですか」

「敵が気付くのか知りたくてな」

「敵ですか」

「空は青いな」

「空は青いですか」


 だめだ、欲望が強すぎてポンコツと化してやがる。俺がしっかりしないと。

 気配察知をオンにして周囲を探りながら、ポットに茶葉を入れる。しっかりと蒸らさなければ。待つ間に尻尾の振れる速度が1割増しになる。敵は来ない。

 アイラ謹製のお茶の香りが漂い始める。ポットにお湯を注ぐ。尻尾の動きは2割増しによだれは量が追加された。敵はまだ来ない。

 アイラから聞いていた時間をしっかりと待ち、一度カップにお湯を入れて温める。お湯を捨ててからお茶を注ぐ。尻尾の動きは5割増しになり、よだれは止まらず、すでに片手は無意識にクッキーに伸びている。敵はまだ来ない。


「思っていたよりも来ないな」

「おも…」

「敵はここまでは広がっていないのか」

「てき…」

「よし」

「いただきます!」


 凄まじい速さで包装が剥かれ、気づけばクッキーはウェンバーの口の中に消えていた。早すぎて目で追えなかったんだが。

 目を閉じて幸せそうな表情で口を動かし、時間かけてゆっくりと食べている。体は心なしか震えているように見える。


「これは、素晴らしいですね」

「うまいよな」

「ええ、小麦の豊かな香りと味わいが最初にきますが、生地はシンプルに仕上げている分、ドライフルーツの甘さが引き立ちますね!それに塩味を感じるナッツを黄金比で組み合わせます!ドライフルーツはいくつか使ってますけど、最後には主役のエルトラントの実が生きるように構成されています!小麦、ナッツ、ドライフルーツ!3つの異なる食感の良さも計算されつくした、素晴らしい逸品です!」


 ええと、急にグルメ漫画の解説役みたいにしゃべりだしたんだが。それにしてもエルトラントの実か。アイラたちのねらいからは執念すら感じるな。

 その後はお茶を飲みながらこのクッキーがどれだけ美味しいのかを聞き、俺の分のクッキーも追加でプレゼントし、このクッキーをコボルト族に普及させたいとそれはそれは熱く語るのを適当に流しつつ、周囲の索敵を続けた。どれだけ待っても敵は現れなかった。


「…帰ろうか」

「わかりました!」


 こうしてイベント最初の探索は、俺が無駄に疲れ、ウェンバーの毛並みの艶が増して終わることとなった。

カイの獲得ポイント


≪マナウスの森の調査≫ 敵部隊撃破、イベントアイテム納入ボーナスあり 220p

≪北西ルート食料調達≫ 水源発見、薬草群生地発見ボーナスあり 380p


計 590p

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≪マナウスの森の調査≫ 敵部隊撃破、イベントアイテム納入ボーナスあり 220p ≪北西ルート食料調達≫ 水源発見、薬草群生地発見ボーナスあり 380p 計 590p 220+380=590?
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