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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
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イベントの始まり

「久しぶりだな。お前は今回どこメイン?」

「よう、俺は…」

「こちら、前衛2人、魔法1人です!ヒーラーと補助で動ける人を…」

「あれって騎士団のディラック君じゃない?」

「うそ!声掛けたら…」


 大型イベント『北部侵攻作戦』が始まる日の朝、俺は雪がちらつくマナウスの広場の人込みをかき分けながら進んでいた。イベントの開始は9時からと告知されているが、すでに広場は人であふれている。とはいえ、マナウスの周辺調査イベントの時のような気楽さがあるのは俺達プレイヤーだけだ。プレイヤーを遠巻きに見つめる住人は、緊張感からか表情が固い。中には祈るように手を組み、プレイヤーを見つめる者さえいるくらいだ。

 イベントは領主の檄から始まる予定だが、これまでの予定を詰めすぎて大事な話し合いができていないため、今回はパスだ。正直どんな檄を飛ばすのか興味はあるから後日動画でも見るだろうけど。

 広場を抜けるとそこまで混んでいることはなく、目当ての場所にはすぐにつくことができた。いつ見てもこの小さな家の中にあれだけのスペースがあるのは不思議だな。

 中に入ると、そこには昨日一緒に飲んでいた男の顔があった。イベントの開始が待ちきれなくてうずうずしているようだ。


「よう、今からそんなだと最後にガス欠しないか?」

「はっ、ざけんな。俺がイベントでガス欠なんてするもんかよ」

「そうよね。むしろリソースが尽きても笑顔で突貫しそうだわ」

「いいじゃねえか。それも楽しみ方の一つだ」


 リビングには富士とアキラがおり、軽口を叩きあっている。

 富士は動きやすさと防御力を両立した防具に、腕にはゴツいガントレットを装備している。戦闘中は片手剣と盾を装備し、タンクに専念する際には両手盾という変則装備で戦うタンクだ。

 アキラはアラビア系の踊り子を彷彿とさせる身軽な装備で、曲刀を二振り腰に差している。リアルで言うなら見た目はシャムシールが一番近いだろうか。ちなみに夏ごろには魔法剣を使った戦闘スタイルまで辿り着き、今では東雲に次ぐ火力枠だ。


「カイさん、久しぶりですね。今回のイベントはよろしくお願いします。」

「あ、その、お久しぶりです」


 続いてやってきたのは東雲とミリエルだ。アキラがすかさずミリエルに絡みに行こうとするが、動きだすと同時に富士が首根っこをつかんでいた。まあ平常運転だな。

 東雲は袴に少し洋風を足したような軽装だ。今は手にしていないが、槍を手にして戦うプレイヤーだ。前に本人から聞いたんだが、最近は管槍なるものをVLOで再現したいと色々試行錯誤しているらしい。

 ミリエルは白をベースに金の装飾が入った装備をしている。いかにもファンタジー世界のヒーラーといった見た目をしている。特徴的なのが背中に背負っている不思議な素材感のある杖だ。見た目にも華やかで、繊細な細工のされた芸術面でも評価されそうな装備だ。


「きたか。今回もよろしく頼む。」

「ふふ、楽しいイベントになりそうですね」


 最後にやってきたのはヨーシャンクと楓だ。リビングの中央には大きなテーブルがあり、2人によって人数分の飲み物が置かれていく。

 ヨーシャンクは黒をベースにしたローブに身を包み、いかにも黒魔導士といった装備をしている。雷をメインに様々な属性を使いこなす器用な魔法使いだが、参謀としての側面もある、このクランの頭脳だ。

 楓は、典型的な和装の弓使いという装備だ。これについてはゲームの初期から一貫しているな。火力を出し切るというよりは、視野を広く保って味方の援護をするスタイルだ。ちなみに調理スキルもちの料理仲間で、ミリエルと2人でこのギルドの胃袋を支えている。


「こっちも相当無理して装備を整えてきたが、そちらも順調だったのか?」

「ああ、なんとか間に合ったよ」


 これまでは古き良きファンタジー世界のマタギだったが、今回は冬という季節を考え、装備を一新している。銃も修理だけじゃなくアップグレードを施し、今の俺の装備はこんな感じだ。


武器:セルグ・レオン標準型

頭:グルタンゴーグル

上半身:ミストネアシャツ

下半身:ミストネアズボン

腕:ミストネアグローブ

足:ミストネアブーツ

マント:カメレオンローブ

アクセサリー:迷彩熊のネックレス(爪)   

アランの背負箱

アランの竹筒


 見た目の変化から丸わかりだが、気に入って使い続けているアランシリーズと変えが利かないカメレオンローブ以外は装備がすべて変わっている。ミストネアシリーズは寒さ対策を施したズボンとシャツで、雪が積もりきっていない今は木の幹に擬態できる茶色で統一だ。例のごとく防御力よりも動きやすさを重視している。カメレオンローブはフード付きのため、今回は耳あてとゴーグルがセットになっている装備を選んだ。昭和のマタギの服装を現代風にアレンジした感じだな。自分で言うのもなんだが、錦のセンスが光る渋い装いだ。


「装備は全体的に底上げ、コンセプトは変わらずに寒さ対策をしているな。見た目が一番大きな変化ではあるが」

「そうだな。その辺は錦のセンスだ。後はとっておきがいくつかあるってくらいかな」

「ほう」


 セントエルモの装備についても、やはり寒さやスリップ対策を念頭に準備をしているようだ。装備について情報交換をしていると、ギルドハウスの扉が開かれる。


「お待たせ~!みんな揃ってるかな」

「ふむ、待たせてしまったかな」

「いえ、むしろちょうどよい時間ですね」


 扉を開けて入ってきたのは、生産職(クラフター)クランであるハンドメイドの面々だった。あれから人数は増えることなく活動を続けており、今回もおなじみの6人が顔を揃えている。

 鍛冶屋の鉄心、料理人のアイラ、食材調達と調理補助の青大将、皮革職人の錦、木工のウッディ、アクセサリー職人の黒べえだ。いつもの装備は目立つのだろう。全員が住人風の服を着ている。

 ハンドメイドのクランハウスは1階がアイラのレストラン、2階が装備に関する受注受付や相談窓口となっているため、今回のイベントも多くのプレイヤーで混雑することが予想される。そこで余計な火の粉にならないよう、情報共有はセントエルモのギルドハウスで行うことになった。

 セントエルモのクランハウスに集まったのは総勢13名、全員が集まったのはかなり久々な気がする。というか前回のイベントの打ち上げ以来じゃなかろうか。

 あの時は全員いただろうかと記憶をたどっていると、各々がその辺の席に座っていく。中央の円卓には富士とヨーシャンク、鉄心と錦、青大将が座った。楓とミリエルとアイラは早々にキッチンへと消え、東雲やアキラはウッディたちと一緒に集まっている。

 最後に俺が中央の席に座ると、錦が口を開いた。


「イベントの初日にすまないな。時間がない中だ、早速本題に入ろう。まずは今回の集まりの意義を確認しておきたいのだが、いいだろうか」


 特に否定の意見は出ず、そのまま錦が言葉を続ける。


「今回のイベントはあまりにも大規模に過ぎる。もはや我々のような小さなクランやソロプレイヤーではイベントの全容に触れることは難しい。だが、ハンドメイド(うち)のような中途半端に知名度のある生産系のクランだと、連合は反発を生みかねないのでそう簡単に決断ができない。そこで、今回はそれぞれのプレイスタイルを生かしながらイベントに参加し、情報を共有することで連携を取りたい。それがこの集まりだ」


 そう、今回の参加の方法についてはハンドメイドから打診があった。

 ハンドメイドは小規模な生産系クランでありながら、新しい生産技術の発見、ソロや小規模の生産職のために連絡会を組織して運営するなど注目度が高い。実力も中級ではトップクラスということもあり、イベント前には勧誘合戦が繰り広げられていた。今回のイベントの性質と以前の探索イベントの出来事もあり、他のプレイヤーと組んで常に一緒に活動するのはリスクが高いと判断したようだ。


「ぶっちゃけ俺たちとしてもありがたい話なんだよな。今回のイベントは3つのルートの戦いに注目がいってるけどよ、生産職(クラフター)採集職(ギャザラー)、商業職にもかなりでかいタスクがあるんだろ?」


 ちょうど楓たちがリビングに戻り、それぞれのテーブルに軽食を配膳していく。秋の間に集めたフルーツを乾燥させて練り込んだクッキーだな。俺の前にだけ、それとなく包装されたおまけがついて

いるのはそういうことなんだろう。視線を向けると、3人は力強く頷く。勝率100パーセントの賄賂だな。

 話を戻そう。富士の問いには鉄心が答える。


「それについては俺から話すよ。まずは前提なんだけど、今まで必死になって集めたリソースだけだと、イベント期間の2週間を戦い抜くことは難しいかもしれない」

「ふむ。マナウスにも相当の備蓄があるときいているのだが、それでもか?」

「マナウス騎士団だけなら問題ないよ。でも、今は冒険者があまりにも多すぎる。平時にリソースが尽きないのは採集職(ギャザラー)の努力だけじゃなく、戦闘職(バトラー)がドロップ品を供給することで、消費と供給のバランスをとれているからなんだ。その供給がほぼなくなり、戦闘が激化することで今まで以上の消費が始まるわけだからね。マナウス騎士団と商業ギルドが共同でリソースの予想消費速度を計算した結果、このままでは最終日まではもたない可能性があると結論付けた。これを解決するために頑張るのが、僕たちやるべきことってわけだね。」


 さらに言えば、これまでのイベント時の出来事から考えても十中八九、クエストの関連で採集や生産職に対して突発型の何かが起きると予想されている。それがどのタイミングなのか、マナウス内外のどちらで起きるのかもわからないけどな。

 正直言ってこれにも参加したい。が、さすがに難しいだろうな。


「我らハンドメイドは採集職(ギャザラー)や商業職も兼ねた働きができるが、今回は基本に忠実に、生産を中心にやっていくことになる。当然、例外はあるがな」

「面白いじゃねえか」

「それでいうなら、私達セントエルモは川辺ルートの踏破が目標だが、日によっては別の場所を見に行く。最終的には3ルートすべてに顔を出すだろうな」


 俺も以前に伝えた動きを再度確認し、話題は基本以外の動きついてになった。

 錦はマナウスに置かれる今回の作戦を運営する統合本部から助力を頼まれているし、ウッディと黒べえは錦と連携しながら連絡会のネットワークを運用していく。青大将は平原ルートの作戦本部に呼ばれており、最前線の拠点で活動するそうだ。採集から調理、果ては戦闘参加までとバランスよくすべてをこなせる貴重な人材だしな。

 セントエルモはそういった特殊な任務はないが、これまでに知り合ったプレイヤー達と連携をとっていくと言っていた。エイビス達が川辺ルートを進むようで、その縁から攻略組とも動くことを予定しているそうだ。俺だけだと知ることの難しい情報を得られそうだ。

 俺は森ルートがメインだが、重要なのはこのゲームの住人で亜人種のウェンバーとパーティーを組むことで、他とは異なるイベントが起きる可能性があることだな。ここにいるメンバーと組むこともあるだろうけど、可能ならウェンバーとの行動を優先してほしいと頼まれている。その他だと完全商人プレイの妹と関わることで、商人の特殊なクエストを知れるかもしれないことくらいか。

 最後にマナウス騎士団の動きについて聞いた後、アナウンス音が鳴り響いた。イベントが始まったな。


「せっかくだ。富士」

「俺かよ。それじゃあ、今回はこのメンバーで骨の髄までイベントを楽しみつくすぞ!」

「おお!」


 全員の掛け声とともに2つのギルドが動きだす。俺も負けてられないな。

 ギルドハウスを出てマナウスの森を目指す。もうすぐで森というところまで来た時に、コール音が響いた。相手を確認すると、随分と珍しい名前だ。


「どうも、お久しぶりです」

「ヒーコか、久しぶりだがどうしたんだ?」

「ちょっと確認をしたくてね。カイさんって今回はずっと森ルートにいるのでしょうか」


 特に隠すことではないし、行動予定について簡単に伝えると少し安堵したのか話を続けた。


「よかった。私は今回、エレメントナイツの参謀補佐として森ルートの作戦本部にいるんです。何かあったら遠慮なく連絡するから可能なら助力をお願いしますね」

「マナウスのお偉いさんがヒーコのことを知っていたからな、その方面の有名人なんだろうとは思ってたけど、やっぱり攻略組だったのか」

「攻略組といっても、私自身は戦闘メインといえるほど強くはないですよ。そうそう、私としてはずっと森にいてほしいんですけど、もし平原に行くなら連絡もらうことってできますか?」

「大丈夫だけど、なにかあるのか?」

「私の知りあいに紹介するだけですよ。カイさんって偵察兵向きのビルドしてるでしょ。知り合いに話したら、平原に来るなら射撃隊に組みこむか別任務にするか、状況で変えたいって言ってたので」


 中世の戦争規模の戦いが繰り広げられてるフィールドで、偵察兵としての仕事か。一体なにをやらされるのか一抹の不安はあるが、まあなるようになるだろ。了承して通話を終了し、森の中を進んでいく。

 さあ、俺もそろそろウェンバーと合流するか。

こぼれ話

説明回の補足です


①今回のイベントの統合本部と各本部の役割ついて

②ギルドとクランの違い(こっちは以前にも出したかもです)


統合本部=各本部とギルドのとりまとめ、侵攻作戦における戦略指示

本部→森、平原、川辺の3ルートに各1か所、具体的な侵攻方法の指示

拠点→進行度合いと必要性に応じて設置、補給だけでなく、防衛時の拠点としても機能

※生産、採集、商業については、マナウスの該当ギルドが運営し、協力要請に応じた一部プレイヤーが運営を補助(統合本部を手伝う錦と同じような立ち位置)


ギルド=VLO運営が最初からマナウス内に設置してあるプレイヤーを補助するための組合

   (例:生産ギルド、冒険者ギルド)

クラン=プレイヤーが自主的に作る集まり、冒険者ギルドに申請して設立

   (例:ハンドメイド、セントエルモ)

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