危急を告げる使者
長くて本当に申し訳ありません。場面が大きく変わるのですが、分けると文字数少ないしどうしようかなと悩み、結果まとめちゃいました。
草原を進んでいると、森からホークマンが飛び出して俺たちを追ってくる。空高く飛び上がり、滑空しながら剣を振りかぶる。タイミングを合わせて草原の茂みに隠れていたゴブリンが飛び掛かってくる。しかしゴブリンの石斧はフィーリアに弾かれ、流れるような斬撃で切り刻まれる。石斧で防御しようとしているが、小刻みな足さばきと手数で圧倒しているな。
クリスは背中に背負う大剣を手に取ると、一息に振り抜いた。大剣が輝きを放っているから何かしらのアーツを使ったのだろう。一振りでホークマンが遠くへ飛ばされる。倒れたホークマンには俺が銃弾を撃ち込み、ポリゴンへと変えてしまう。
それにしても、これが攻略組か、戦闘の次元が一つも二つも違うな。今の一撃だって火力に秀でている銃の威力にも引けをとっていないはずだ。それを連続で振り回せるってのが何よりも恐ろしいが、味方になるとそれ以上に頼もしい存在だな。
「さあ、みんな今の銃声で敵がこっちに押し寄せてくるはずだ。僕たちができるだけ敵を引き付けて護衛部隊が進みやすくしよう!」
「おう!」
そこからは絶え間なく敵が押し寄せてきた。クリスが薙ぎ払い、俺も可能な限り撃ち続けるが、これまで以上の連戦だ。すぐに手数が足りなくなり、結局ウェンバーの援護を受ける形になってしまう。消費MPの少ない魔法を使ってくれているが、それでもいつかは限界がきてしまう。そうして敵の増援が来るたびに、真綿で首を絞めるように、じわじわと追い詰められていく。
「クリス!またきたわよ。敵の増援!」
「さすがにしつこいね!でも、これで護衛部隊が僕たちを越えた!あと少しだ!」
俺たちが切り開いたルートを通り、護衛部隊がすぐ横を追い抜いていく。口々にねぎらいの言葉をかけてくれるが、さすがに言葉を返す余裕がない。常に周囲を見渡し、敵を見つけたらすぐに撃つ、その繰り返しになっていった。
通り抜けたはずの護衛部隊の中から、大きなリュックを背負ったコボルトが立ち止まり、こちらに歩み寄る。
「さてと、ここらでコボルト助けに人助け!必要な商品はおいらにお任せ!いつでもどこでも品数豊富で良心価格!チャナルの臨時交易所の開店だよ!」
のんびりとした声で参戦を告げたのは、リゼルバームで交易所を営んでいたはずのチャナルだった。
「まあ、ここでティタンを取ろうとは思わないけどね。それじゃあエリアヒール!それからウェンバーにはこれあげる!」
地面に淡く魔法陣が浮かぶ。クリスとフィーリアは即座に理解して魔法陣の中に入る。ウェンバーは投げ渡された瓶の中身を一気に飲み干す。
「美味しーい!元気100倍だ~!」
ここにきて、最大の弱点だったヒーラー不在が解消された。しかもヒーラー兼アイテムヒーラーという回復特化型だ。これで魔力運用にも多少の余裕ができるだろう。
でも、敵だって黙って見守っていてはくれない。続々とこちらに押し寄せてきている。
「北西からオーガ2体!西からはゴブリン部隊3つ!南西からは見たことない種族が1部隊だ!」
「あれは狐人族ですね!搦手の魔法が得意な種族だから戦いにくいんです。あれは僕が戦います!」
「ウェンバーには私がフォローに入るわ!」
「あ、そうだ。カイさん、本当に困ったらこれを使ってね!でも、迂闊につかっちゃだめだよ?とっても危ないですからね!」
最後に俺にアイテムを手渡し、ウェンバーとフィーリアが飛び出していく。なんてタイミングでとは思うが、さすがに今はアイテムを確認する時間がない。ちらりとチャネルを見ると、にっこりと笑顔を返したきた。
「あ、僕は戦えないですので、敵はお願いしますね」
「ですよね~」
そりゃあこれで戦闘もこなせるとなるとさすがに万能すぎる。とはいえ攻撃系のアイテムで支援くらいならと思ったら、それもできないらしい。
「僕のアイテムスキルは進化して回復系の使用に特化しちゃったんですよねえ」
さいですか。てことはあれをクリスと2人で捌くわけだ。
「とにかく撃ちまくるから後は任せた」
「任された!」
クリスは鈍足のオーガを後回しにしてゴブリンの群れに突撃する。俺は竹筒から取り出した最後の魔法石を握りしめて振りかぶる。
「閃光!5秒!」
叫びながら魔法石を投擲する。鋭い軌道を描いた魔法石は、クリスを通り越してゴブリンの群れの前で炸裂し、フラッシュの魔法が起動する。手をかざして一瞬の光を遮り、ゴブリンの群れに向かっていたクリスを確認する。そこには後ろを見て光をやり過ごした笑顔のクリスがおり、俺の方に向かって拳を伸ばし、親指を立てていた。
「あとは大丈夫だ!オーガの足止めを頼む!」
振り返りながら大剣を横薙ぎに振るい、目がくらんで動けないゴブリンを切り飛ばす。クリスならあそこは大丈夫だな。
俺はオーガを何とかすることに集中する。2体のオーガはのっそのっそと、力強く前進してきている。
「集中、起動!」
おそらくMPがもつのはあと1分程度だ。引き付ける時間すら惜しく、続けざまに射撃を繰り返していく。1射目は右のオーガの肩をかすめる。2射目は右のオーガの太腿を貫いた。それでもかまわずオーガは前進を続けている。3射目は左のオーガに当たるが、右腕で弾かれる。4射目はオーガの足の間を抜ける。
「早く、もっと早く、正確に」
ボルトを操作し、チャンバー内に銃弾を装填していく。スムーズな動きで装填を終えると、照準をつけて射撃を再開する。
5射目、左オーガの眉間を撃ち抜き、オーガの足が止まった。6射目は右のオーガの横に逸れ、7射目も弾かれる。ここでMPが尽きて集中が切れた。でもまだ時間はある、まだ撃てる。8射目は外れ、もう一度装填を行う。オーガとの距離が近くなり、2発分だけ装填してすぐに構えた。9射目は右のオーガの左足を撃ち、オーガが転倒した。10射目を撃とうとボルト動かし薬莢を排出する。金属のこすれるような鈍い音が鳴る。ボルトを締めるのが早すぎて、薬莢を挟んでしまっていた。
「げ、やらかした」
急いでボルトを操作しなおすが、すでにオーガが目の前で棍棒を振りかぶっていた。回避は間に合わない。直撃すれば一撃でHPを削りきられてしまう。そう直感するが、それでも最後まであがき続けることはできる。せめて相打ちにと構えた銃口の先で、オーガが動きを止めていた。木の蔓が腕に絡んでいる。
さすがは相棒、最高の仕事をしてくれる。
「うおおおお!」
夢中でトリガーを引き絞り、発砲音が響くと横っ飛びで転がった。しかし、オーガは棍棒を振り抜くことなく倒れる。そこには大剣を担いだクリスが立っていた。
「いい腕じゃないか」
「死にかけたんだが」
「それでもまだ生きている。そうだろ?」
ああ、まだ生きている。つまり、まだできることがあるってことだ。俺は半ば無意識に中身のほとんど入っていない竹筒に手を突っ込む。インベントリが現れると、そこには見覚えのない、先ほどウェンバーからもらったアイテムが入っていた。
「まずい、カイさん!」
クリスの声にはっとして顔を上げる。オーガがきた北西、俺たちを大回りで追い越すような動きを見せる一団がいた。明らかに人やゴブリンが出せる速度ではない。見たこともない、オオトカゲに跨るのは、3人の鬼人だった。
「あれの足を止めないと、護衛隊が追いつかれる!3体を一度には僕でも…」
クリスの叫ぶような声が響く。護衛隊も3人の鬼人に気付いているのだろう。速度が上げて全力で走っている。それでも、このままだと間に合わない。城門手前で追いつかれてしまう。
竹筒から取り出したアイテムをセルグ・レオン試作型の中に詰める。なんの効果か銃が明らかに重くなった。立射ではポジションを維持できる気がせず、地面に伏せる。。
「なにをやって」
スキルの集中はとうに切れている。MP切れで発動もできない。だからこれはスキルじゃない。ただ俺自身が集中することで、クリスの声が遠くなる。ボルトを操作し、装填を完了する。わずかに銃が輝く。俺の頭の中を直前に見たアイテムの効果がよぎっていった。
≪魔法弾森犬人の願い レア度10 重量1≫
分類 魔法付与弾
攻撃力:?
木製の銃弾。火薬を使用しておらず、すべては弾丸に込められた魔力によって作動する。込められた魔力により発動効果が変わる。
それは敵を貫くことはない。それは敵を狙うものではない。ただ、自然を育む特殊な魔法が込められるのみ。犬人は調和を願う。しかし、過ぎた力は調和を乱す。しかしそれもまた、犬人は自然の一部として受け入れている。願わくば、犬人の願いが友の助けとならんことを
詳しい効果が分らない以上、フレーバーテキストの文面から考えるしかない。これは敵を貫かない。敵を狙うものでもない。そして自然を育む魔法が込められている。ならば狙うのは。
照準をつけてトリガーを引き絞ると、普段とは異なり反動が訪れることはなく、炸裂音も響かない。不発かと不安になるが、銃身が震えだして異変に気付いた。銃の輝きが増し、目に見える魔力が迸る。全力で銃を押さえつけていると、銃口の先に光が集まり、次第に大きくなっていく。これ以上は抑えられない、スタミナも切れて息も絶え絶えの状態で押さえつけていると、甲高い音を響かせて銃弾が放たれた。
銃弾は一直線に飛び、鬼人たちが駆ける先にある小さな灌木に直撃した。
「え、外れた?」
クリスの方から落胆したようなつぶやきが聞こえる。いや、これであっているはずだ。なんの根拠もありはしないが、謎の確信だけはある。
着弾後、一拍を置いて灌木がむくり、と大きくなった。そのまま灌木は溢れ出す洪水のような激しさで大きくなり、枝を地に這わせて大きくなる。根が急激に成長し、地面を歪めて地表へと飛び出してくる。
「嘘だろ」
灌木が成長を止めた時、そこには怪物のような大樹が横たわり、鬼人たちの前進を阻んでいた。
「カイさーん!どう?僕のとっておきの魔法を込めておいたんだ!いい銃弾でしょ?」
「おいおいおいおい、待て待て待て、ちょっと待って。なにこの弾」
「僕が魔法付与した魔法弾だよ。カイさんがリゼルバームに来た後に、面白そうだから作っておいたんだ!」
想像を絶する銃弾の効果に突っ込みの言葉すら出てこない。漫画やアニメだったら間違いなく目玉が飛び出してるところだ。あまりの衝撃に何も言えないでいると、隣から大きな笑い声が聞こえてきた。心底楽しそうに笑っているのはクリスだな。
「さすがはコボルト族、とっておきの隠し弾だね。これだけいいものを見せてくれたんだ。僕も全力の技を披露させてもらうよ」
急生長した灌木に足をさらわれ、2体のオオトカゲは身動きが取れていない。しかし後方を走っていたオオトカゲは急停止することで難を逃れていたらしい。巨大な樹の根をよじ登り、乗り越えて再び走り出す。
「ここで決める!限られし秘伝の技をその身に受けよ!剣王一刀!」
敵が動きだしたことに気付いたクリスがアーツを叫ぶ。銃身がひしゃげたセルグ・レオン試作型を抱えたまま、俺はクリスが飛び出すのを見ていた。護衛部隊に迫るオオトカゲに一瞬で追いつき、そのまま両手持ちの大剣を突き込む。恐ろしくシンプルな動きだ。しかし、魔力で身体能力を強化して発動したアーツの威力は凄まじく、オオトカゲは悲鳴のを轟かせて横倒しになる。
「俺の一撃はウェンバーの魔力だからまあよしとしよう。でも、これって単独のプレイヤーが出していい火力じゃないでしょうよ」
ここまでの奮闘を見せてなお、鬼人の心は折れていない。槍を手に取り、倒れるオオトカゲから飛び降り、アーツの反動なのか動けないクリスを捨て置き、一気に護衛部隊との距離を縮める。暗いオーラのようなものを纏った槍が突き出され、コボルトの使者が背負うクリスタルに迫る。しかし、刃は魔法で作られた盾に阻まれていた。コボルト達を走らせ、最後尾で鬼人を迎え撃ったのはヒーコのように見える。
「あれはあれでかなりの魔法だろうな。いやあ、さすがは攻略組だ」
呟くように漏れた感想を尻目に、満身創痍の護衛団はゴールとなる特殊エリアの出口に到着し、エフェクトを残して姿を消してゆく。
≪緊急クエスト コボルト族の使者をマナウスへと送り届けることに成功しました≫
アナウンスが流れるとエリアが輝き始め、次の瞬間、俺たちは光に包まれ、強制的に移動させられていた。
移動先は、どうやらマナウスの城門の内側のようだ。俺以外にも、クエストに参加していた全プレイヤーが揃っている。周りを見回すと、町の人々はコボルトの姿に驚き、衛兵が慌てて集まり、俺たちを包囲し始めた。それにしても衛兵の数が尋常じゃない。普段の数倍じゃ聞かない数だ、何かあったのだろうか。
疲れ果てているコボルトの使者だったが、衛兵を気にする余裕などなく、背負っていたクリスタルに傷がないかを丁寧に調べている。
使者の手によってクリスタルが1か所に集められると、ゆっくりと浮かびあがる。クエスト開始時と同じようにクリスタルが輝きを放ち、光がおさまるとそこには出発前と変わらない姿のユーライアが浮かんでいた。
「コボルト族の勇敢なる戦士の皆さん、そして人間族でありながら私たちのために戦ってくれた冒険者のみなさん。この度は本当にありがとうございました。おかげで、私は無事にマナウスへとやってくることができました」
ユーライアは俺たちにたいして深々と頭を下げる。頭を上げると、今度は振り向いて全員を代表して前に出る。
「私は山脈の北よりきました、ギムレッド王国の第2王女のユーライアと申します。私は、過去にギムレット王がとある人間と結んだという盟約を頼り、ここまでやってまいりました。私たちは人間族に危害を加えることはありません。ただ、マナウスの領主へと協力を願いにきた者です。どうか、領主への目通りをお許しいただけないでしょうか」
そういって衛兵の元まで滑るように進み、懐から取り出した見慣れない指輪と一通の手紙を差し出した。しかし、衛兵は動かず、武器を手に警戒を続けている。まあ、いきなりおとぎ話で語られるような異種族が現れたらこうなるのも当然か。
「妖精族?ギムレッド王国?そんなの聞いたことないぞ」
「でもさ、あの子すごいかわいいよね」
「一緒にいるのは冒険者だよな」
「私、あの人知ってる!」
衛兵よりも、周りの人たちの方が反応が大きいな。中にはコボルト達だけでなく、クリスたちを見て噂話をする住人もいる。まあ、クリスは住人の手助けを積極的に行っていることでも有名で、住人からの信頼が厚いタイプのプレイヤーだしな。住人が語るいくつかの逸話は俺だって聞いたことがあるくらいだ。
衛兵はどのように対応すれば良いのか判断がつかずひたすら困惑している。すると奥の方から声が響き、住人が避けていく。現れたのは数人の騎士に守られ、老いてなお威厳溢れる見た目をした男だった。
「お前たち、下がってよい」
「はっ、しかしよろしいのでしょうか。あまりに怪しい風体をしておりますが」
「構わんのだ。この者たちの身元は、領主様が保証しておられる」
葛藤はあるのだろうが、遥か上の役職に就く者からの命令だ。衛兵たちは武器を納め、人だかりとなっている周りの人々へと声をかけていく。しばらくすると、町はいつも通りの落ちつきを取り戻していった。
「よくぞ参られましたな、我々貿易都市マナウスはギムレッド王国第2王女、ユーライア姫を歓迎いたします。それにしても、まさか私の代であなた方と見える栄誉を賜れるとは思いもせず、望外の喜びに体が震えております。人間の風習はなじまぬものが多いとは思いますが、窮屈な思いをすることがないようにもてなさせてください」
「ありがとうございます。それにしても、貴方は私やコボルト族の姿を見てもあまり驚かれないのですね」
「異種族の存在はマナウス城の一部の者のみが知る、秘匿された情報でしたからな。私は幸運にも領主より打ち明けられて存じておりました。さて、早速ですが、斯様の理由で我々以外は異種族のことを知る者が少なく、皆様の見た目は周囲からの注目を集めてしまいます。お城までお連れ致しますので、我々の用意する馬車にお乗り頂けますかな」
「マナウスの領主との謁見が許されるのであれば喜んでお供しますわ」
こうして、コボルト族とユーライア姫は貴族の用意した馬車に乗り込み、城へと向かっていった。残された騎士の一人が俺たち冒険者へと、労いの言葉をかけ、後日褒賞を渡すことを告げる。
≪緊急クエスト 危急を告げる使者 をクリアしました≫
こんなにもタフな1日は滅多にない。これまでにない疲労感と達成感を得て、緊急クエストはコボルト族にも被害の出る結果となりながらも、成功のもと幕を下ろした。
こぼれ話
文字数的にとこれ以上長いのは、ということで省いちゃった設定です。
実は今回の作戦は、ヒーコが単独で考えたのではなく、今回のクエストには参加していない所属クランのメンバーに相談し、基本的な内容が練り上げられています。
作中では敵の攻撃に耐えるだけの戦力がないという理由で3ルートに分けていますが、実際には別がメインだったりします。ソロや単独パーティーでの活動しか経験が中心の寄せ集めメンバーでのクエストのため、密集するとフレンドリーファイアが頻発する可能性がありました。そこで、大体のプレイヤーが経験のある各個撃破のパーティー戦を主軸に立案しました。さすがにこの程度の連携力じゃ無理!とは言えないですしね。ちなみに彼女が所属しているクランなら迷わず集団戦を選んでいます。レイド規模以上が専門みたいなところにいますので。




