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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
7章 森の暮らしと危急を告げる使者
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道半ばにして満身創痍


 森の中を東へと駆ける。視線を走らせ、敵の音を聞き逃さないように耳を澄ます。集団で声を上げている音が聞こえてくる。


「南側にいる」

「あの敵は足止めしないと本体にあたるよ」


 短く情報を伝えあい、そこからは無言で動きだす。投げナイフを取り出し、物陰から投げる。カメレオンマントに魔力を込めることで、特製のミラージュが発動し、木々の色彩に紛れる。

 ナイフが刺さり、ゴブリンたちはこちらを探すが、俺を見つけられずにきょろきょろとあたりを見回している。注意が散漫になった瞬間を狙い、ウェンバーが魔法を発動した。地面から木の槍が突き出ると、全員が貫かれてポリゴンへと変わっていく。

 戦闘後に竹筒からMP回復ポーションを取り出し、ウェンバーに投げる。キャッチしたウェンバーは嬉しそうに飲み干している。


「よし、次だ」

「カイさん、そろそろ本隊が森を出るよ」

「時間はかなり稼げたが、まだ足りていない。森の出口付近で敵を狩りたいな」


 こうして発見次第即撃破の奇襲戦を仕掛け続け、北側で大いに暴れまわっていた。主にウェンバーが。俺も戦闘に参加はしているが、ウェンバーとは殲滅力が違う。そのため攪乱やヘイト稼ぎを中心に動き、逃げ出した個体の追撃を中心に攻撃を行っていた。


「またいた。でも誰かと戦ってるよ」

「援護しよう」


 この辺りは頻繁に訪れて活動していた地域だ。目を瞑っても走れるくらいには熟知している。さらに速度を上げて距離を詰める。うっすらと見えたのは倒れたコボルトに剣を突き立てようとするオーガの姿だった。


「まずい!」

「一瞬でいい!時間を稼いで!」


 最速で銃を構えて発砲し、そのまま竹筒に手を突っ込みインベントリから投げナイフを取り出す。これが最後の1本か。

 発砲音に気付いたオーガがこちらに気付き、顔を向ける。その顔面に刺さるように全力で投げられた投げナイフは、軽く首をひねることで避けられる。銃弾とナイフの両方が外れたことで、間に合わないと考えたのか、オーガはにやりと笑顔を浮かべていた。


「ありがとうございます!」


 ウェンバーの魔法が発動する。どんな魔法かはわからないが、相棒(バディ)を信じて全力で駆け抜ける。ゆっくりと振り上げた右腕が動く瞬間、周囲から蔓が伸びて手首に巻き付く。振り下ろそうとした腕が止まり、その間に俺は倒れたコボルトを抱えて跳んだ。同じタイミングで蔓を引きちぎったオーガは、剛腕を生かして大剣を振り下ろし、地面を抉った。俺はコボルトを抱えながら転がる。間一髪、蔓が支えた時間のおかげで間に合ったな。


「やれ!」

「任せて!ウインドカッター!」


 ウェンバーから放たれたのは不可視の斬撃だ。風がオーガを切り裂き、オーガがよろける。さっき仕留めようとしていた相手(コボルト)のことなんて忘れてしまったのか、怒りの声を上げてウェンバーに突進を始める。


「こっちがお留守だ」


 コボルトを抱えて座り込んだままの無理のある体勢だが、当たれば儲けものだ。ほとんど偶然だったが、放たれた弾丸はオーガの心臓を撃ち抜いた。そこへ追撃のウインドカッターが直撃してオーガは倒れた。


「カイさん!生きてる?」

「大丈夫だ。ぎりぎりだったけどな」

「いやあ、信じて走ってくれたから間に合ったんですよ」


 残り2本だったポーションをリキャストタイムが明けるごとに倒れたコボルトに使う。意識がないため、瓶の蓋を開ると傷のエフェクトに直接かけていく。ウェンバーもコボルトの様子を見るため、てくてくと歩み寄り、意外そうな顔を見せていた。


「う、ん」

「あれ?フィーリアじゃないか。君は護衛部隊にいたんじゃないの?」


 フィーリアと呼ばれたコボルトは、勢いよく跳ね起きると俺の肩をつかんで揺さぶった。コボルトらしからぬ腕力だな。うお、脳が揺れる。

 

「あ、待って!ここにいた冒険者は?髪の短い女の子で」

「落ち着け、俺たちがきたときには君一人しかいなかった。だが、まずは安心しろ。そいつは冒険者なんだろう?それなら不死の呪いがある」

「そう、そうよね。あの子私をかばってくれたの。それじゃなかったら今頃は」


 時間がないため、移動しながらフィーリアに事情を聞くとになった。どうやら。北ルートを進んでいた本隊を急襲した敵がいたらしい。最後は2人が囮になって逃がしたようだが、そこまで大勢の護衛をつける余裕がなかったというのもあるが、護衛部隊は目立たないように少数精鋭で固めている。そこから2人以上が脱落しているのはかなり拙い。


「なんとかして追いつけないか?」

「大丈夫だよ。ここまではっきりしてれば匂いを追っていける」


 ウェンバーの言う通り、追跡は10分もかからずに終わった。この辺りには珍しい巨大な樹木の根元の窪みを利用して、周りから見えないように偽装されて簡易テントが設営されていた。中には3人のプレイヤーと3体のコボルトが休んでいる。その中には参謀のヒーコも混ざっていた。


「最後に連絡を取った際にはかなりの距離があったと思うのですが、やはり地形特化の方がメタに適応した時の爆発力は凄まじいですね」

「俺というよりウェンバーの魔法のおかげだけどな」

「何を言うんですか!僕一人じゃこんなに早くは来れないですよ!」


 さて、無事に本隊に合流できたが、すでに全員が何かしらのダメージを受けているような状態だ。満身創痍に近い。しかし敵は際限なく現れては襲ってくる始末、この周辺が敵で埋め尽くされるのも時間の問題だ。消耗はしていても、動きださないと敵に囲まれてしまう。何か考えはあるのか、ヒーコに今後の動きを聞いてみることにした。


「ここから先のプランはあるのか?」

「実は南の戦闘部隊が敗走しました。それにより南のルートを進んでいた護衛部隊は中央ルートに合流しています。消耗はしているでしょうが、合わさることでまとまった戦力になっているはずです。彼らと合流するか、彼らを囮にして進む。このどちらかを選ぶことになります」


 その時だった。普段は連絡を取っていないプレイヤーからのコール音が響く。北の戦闘部隊にいたプレイヤーだな。鬼人の足止めに参加していたが、まさかこちらも敗北したのだろうか。


「カイだ。鬼人はどうなったんだ」

「あいつはやべえ、こんなところに出てきていいレベルの敵じゃねえっての」


 すべてを出し尽くし、疲れ果てた声でありながらどこか達成感に満ちた声だった。


「でもよ…こっちもほぼ全滅したけどよ、やったぜ!あのクソ野郎を撃退した!」

「ナイスすぎる!最高の戦果じゃないか!」


 思わずガッツポーズが出る。その様子に結果を察し、明るい表情を見せるヒーコの元にも何やら連絡がきたようだ。少し話すが通話はすぐに終わる。


「北はやり切った。鬼人を撃退したらしい」

「西は敗北はしました。かなりの数の敵が防衛線を抜けたそうですが、その後も少しずつ戦線を下げて抵抗を続けているそうです。可能な限りの足止めを継続するとのことでした」


 何かを考えるように視線が宙をさまよい。ヒーコは再び口を動かした。


「こちらが敗北した経緯から、敵は南側が最も侵攻され、北に寄るほど進行されていない状態だと考えられます。ですので」

「俺たちは北寄りのルートを進むべきか」

「はい。できれば中央も合流できれば良いのですが。まずは確認をとってみます」


 最も安全だと思えるルートをヒーコが中央の部隊に伝える。俺たちと同じ情報は中央の護衛部隊も手に入れていたようで、合流して北寄りのルートを進むことになった。俺たちの方が後方にいる分、移動スピードを調整しなくても森の出口あたりで合流できそうだ。

 俺にできることは何が残っているのか。このまま敵に追いつかれないよう、後方の警戒を続けるべきかと考えていると、ヒーコから前方の索敵と敵の排除を頼まれた。恐らくは北の鬼人を撃退した効果なのだろうが、北の敵は動きが弱まっているらしい。それならこの先の障害を少しでも取り払ってほしいとのことだ。

 竹筒の中身はMP回復ポーションが1本と攪乱用の魔法石が一つ、それにそこそこの量の銃弾が残るのみだ。俺もここが最後の働きどころになりそうだな。


「ウェンバーはどうする?」

「一緒に行かない選択肢があると思ってるんですか?」


 そこにフィーリアが立ち上がり、参加を表明する。


「あなたたちに助けてもらった命よ。ここで力を貸さないなんて女が廃るわ」

「なんか、コボルト族には珍しい熱血派じゃないか?」

「フィーリアは小さいころから変わり者なんだ」


 ウェンバーの尻尾が嬉しそうに揺れる。チャナルと同じで幼馴染らしく、一緒に戦えるのが嬉しいようだ。


「それじゃあ、道を切り開きに行きますか」

「前衛は任せなさい!2人のことは私が守って見せるから」

「え~、いいなあそのセリフ!僕が言いたかったなぁ」


 どこまでも緊張感のないコンビに熱血コボルトのフィーリアが追加され、トリオになる。護衛部隊が出発するよりも早くにテントを後にし、再びマナウスの森を出口に向かってひた走る。

 ちなみにフィーリアはナイフ使いのインファイターで、魔法は身体強化につぎ込むタイプらしい。俺たちコンビに足りなかった前衛役が加わることで、バランスが良くなったからかスムーズに森を進むことができる。そしてついに、俺たちは平原へと到達した。最近はリゼルバームを拠点に動いていたから、森を出たのは随分と久しぶりな気がするな。


「あそこに見えるのが人の住まう都、交易都市マナウスだ」

「あれが」

「あと少しですね」


 ここからは、俺たちを隠してくれるものは何もない。俺たちも敵を見つけやすいが、敵からも俺たちが常に見える、そういう状態での戦闘が続くことになるはずだ。


「2人はあとどれくらい戦える?ちなみに残りの回復アイテムはMP回復ポーションが1本だ」

「カイが使わないなら、ウェンバーに使わせてあげて。私よりここからの戦いに向いているから。私は全力ならあと数戦ってところかしら」

「回復できてもあと4戦とかかなぁ」

 

 かなり切羽詰まってきたな。冒険者の身体能力をフル活用して全力で走るなら、10分程度でマナウスにつくが、使者のコボルトはもっと時間がかかるだろう。

 必要なのは可能な限り長く戦い続け、使者が安全にマナウスに入れるようにすることだ。


「それならここからは俺の出番だな」


 魔力を温存するため、ウェンバーとフィーリアが敵を探し、俺が銃弾を撃ち込む方法に変更して草原を進んでいく。これまでの射撃は敵の注意をひければ良いだけだったが、今度は俺がダメージリソースにならなければならない。一射ずつ丁寧さを心がけて撃っていく。

 平原の様子を一望し情報が伝えられたことで、護衛部隊も草原へと進み始める。さっきまでより人数が増えているのを見ると、どうやら無事に合流できたようだ。


「カイさん、お疲れ様です」

「お疲れクリス。こっちに来て大丈夫なのか?」

「いやあ、最初の作戦からいろいろ変更続きだったけど、結果として護衛部隊が全部合流できたからね。後は僕も一緒に暴れて道を切り開くだけだよ」


 まさか攻略組(トッププレイヤー)と肩を並べて一緒に戦う日が来るとはな。クリスは掲示板でも名前が上がるような有名人だ。一緒に戦えるってだけでも安心感が違う。


「それじゃあ行こうか」

「ああ、頼りにしているよ」

こぼれ話

コボルト族は種族特性上、水、風、地の基本属性、木の複合属性と相性が良いです

近接戦闘系もいますが、ほとんどは魔力で身体能力を底上げする魔力依存型近接戦闘ビルドになります。

身体能力は非力ですが敏捷系に優れ。手先が器用です。

ギムレッド王国では、隠密働きのほか農業やアクセサリー制作などを行い生計を立てる者が多かったようです。

種族全体の性格はひたすら明るく楽天的、楽しいことを好み、すぐに遊びたがるちょっと残念な子ですね。

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