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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
7章 森の暮らしと危急を告げる使者
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東へ 後

数時間前に前話を投稿しています。読み飛ばしにご注意ください。


「ウェンバー、作戦をちょっと修正だ。南で敵に見つかってヒーコがかかり切りになっている。北は俺たちでもたせるぞ」

「おお、なんかいいですね!俺たちでもたせるって言葉の響きがいいです!」


 ウェンバーはいつだって自然体、この状況でそれができるのは羨ましいことこの上ない。なりたいかって言われるとなりたくはないけどな。

 その後は、敵を誘導したら味方がポイントを間違えていた。敵の数が多すぎてスキルのリキャストが間に合わないまま敵をぶつけてしまった。等々順調とは言えないまでも北の戦線を維持し続け、森の中層を完全に抜け出した、といえる地点まで使者を進めることができていた。

 何度目かもわからない敵部隊の誘導を終え、北側の偵察に戻ろうとした時、巨大な咆哮がこだました。迫力が凄まじく、身震いが出るほどだ。ランバックからのコールがとんでくる。


「何が起きやがった!」

「わからん。だが、間違いなく面倒なことになるな。奥に入って敵を見つけてくる。場合によっては数部隊じゃきかないかもしれない。ランバックは周りの部隊をいつでも動かせるようにしておいてくれ」


 それだけを伝えると、森をさらに北へと向かっていく。道中では、咆哮で正気を失った小動物とすれ違うことが増えていた。


「珍しいですね。あのネズミ、普段ならよほどのことがないとあんなふうには逃げ出さないのに」

「今、動物知識セットしておけばなぁ」

「何か言いました?」

「いや、こっちの話だよ」


 それにしても、自然の動物がここまで一心不乱に逃げ出すって災害か何かかよ。

 ウェンバーが立ち止まるのに合わせ、隠密を起動する。適当な木に登り、木々の葉の隙間から観察する。地図情報だと少し奥に開けた場所があるはずだ。敵はそこに集まっているのだろう。素早く木から降りると出来る限り静かに進んでいく。


「このあたりが限界か」

「それじゃあ僕もこの辺から確認しようかな」


 今のスキル構成だとMPが圧倒的に足りないから、回復アイテムのリキャストを考えると隠密だけでの維持は10分もつかどうかってところだ。まあ、敵の規模と亜人種の種類だけ分かればいいし、何とかなるだろ。

 広場まであと少しというところまで来ると、誰かが演説をするような声がかすかに聞こえてくる。


「敵は南にいる!ユーライア姫は人間の住処へと向かい、助力を請おうとしている!何としてでもユーライアが人間の住処に到着するまでに捕らえるぞ!」

「オオオオオオオオ!」


 空気が揺れたかと思うような声があがり、敵はいっせいに動きだした。数は30はいるな。ほとんどはゴブリンだけど、オーガや有翼亜人種までいるようだ。演説をしていたのは鬼族だが、種族が分らないな。かなり人型に近い、というか暗灰色で角の生えた人間って見た目だな。


「ウェンバー」

「はい、翼があるのは有翼族(ホークマン)ですね。リーダーは鬼人族です」


 初めて聞く種族だ。クリスたちからも聞いていないし、多分掲示板でも出ていない種族だろう。


「鬼人とホークマンはどちらも積極的に鬼族に協力しているわけではないと聞いていたんですが、中には変わり者もいるんですね」

「そりゃあ数がいれば考え方も様々さ。で、あれはいけると思うか?」


 戦うことに対して、ウェンバーはいつだって自信を失うことがない。事実コボルト族の中でも相当の腕前らしいしな。そのウェンバーが即答を避けてなにやら考え込んでいた。しかし、時間がたつごとに、少しずつ広場にゴブリンが増えていく。すでに40は超えたかもしれない。


「勝てるかどうかなら大丈夫。でも、それだと使者と姫を守れなくなるかもしれないです」


 戦うのは下策か。でも、この数が一斉に来たら守り切れない。使者がマナウスに到着できるだけの時間を稼げる足止めは必要か。


「一度ここを離れよう。ヒーコに連絡をとってみる」

「そうしましょう。いい案が出ることを期待しますね」


 広場から距離をとり、ヒーコに連絡を入れる。出られないかと思ったが、すぐに通話がつながった。


「北でも非常事態が起きましたか」

「知ってたのか?」

「いえ、南と西でも同時に起きた以上、そういう場面(フェーズ)なのだと思いまして。カイさん、申し訳ありませんがグループ通話に切り替えてもよいでしょうか」

「ああ」


 すぐに通話が切り替えられ、クリスやランバックも通話に参加してくる。他にも顔なじみになったメンバーが続々と参加する。


「揃ったね。それじゃあヒーコ、手短に頼むよ」


 クリスの一言を皮切りに、ヒーコが現状を伝える。戦闘中のメンバーもいるのだろう、時折周りに指示を出す声も入るが、情報共有には問題ない。


「なるほど、それじゃあ僕が」

「いえ、クリスさんを前線から抜くとルート開拓ができなくなります」

「じゃあ他の策があるのか?」

「あるのですが…」


 珍しくヒーコの歯切れが悪い。その様子になんとなくだが内容を察することができた。そもそも足止めが必要なのは間違いない。後はその潰れ役を誰に命じるか、だ。クエスト遂行上必要とはいえ、いつも一緒のクランメンバーやパーティーメンバーが集まったけじゃない。むしろほとんどリゼルバームではじめましてのメンバーだ、捨て石になれは言いにくいだろうな。


「やりたいことはわかってる。俺が」

「カイ、お前じゃ力不足だ!」


 潰れ役を立候補しようとしたその時、ランバックが乱入してきた。俺と同じ中級くらいの実力、役割が違うのは隠密系のスキルがあるかどうかというだけだ。


「お前は森に特化してんだろうが!森を抜けきってねえんだから、お前の力はこの先で必要だ。それに北がここまでもったのはお前とウェンバーの力がでけえ。それは一緒に戦っていた俺たちが一番よくわかってる」

「おお、毎回指定時間にびたで敵を引き入れてくる上に、部隊の情報も隊列すら完璧だからな。奇襲が捗ってしかたねえ。他より楽させてもらってるさ」

「違いない!」

「は?西はてんてこ舞いなんですが~?危うくオーガとオーガにサンドイッチされかけたんですけど?」

「きりもみしながら飛び出してきたときは、戦闘中に笑いそうになったなあ」

「何それ絶対絵面最高だろ。腹筋鍛えたいから映像希望するわ」


 普段はあまり発言しないようなメンバーも加わり明るい笑い声が響く。俺もそうだけど、めったにない緊急クエストへの参加にハイになってるのかもしれない。笑い声が納まると真剣なランバック達の声が響いた。


「だからよ」

「ああ、北は俺たちが受け持つ!」

「じゃあ西はあたしらかしら?」

「それなら南は俺だな。だが倒してしまっても構わんのだろう?」

「「「それフラグだから」」」


 戦闘部隊のメンバーはここが自分たちの戦場と定めた。この熱量だ、どうせ引きはしないだろうから、後はトップが決定すればすぐにでも動きだせる。


「ふふ、探索をしてた時から思っていたんだけどさ、偶然集まったにしては僕たちってかなり良いチームだね」

「うわ、くさい!」

「はは、わかる。でも俺も悪くないと思ってるよ」


 クリスが場を和まし、全員がひとしきり笑うと今度は引き締まった声が響いた。


「遊撃戦闘部隊だったメンバーは指定のポイントまで急行!戦力を整えて迎撃だ!みんなの戦いがこのクエストの成否を決める!頼んだよ!」


 先ほどのゴブリン部隊に負けないだけの声が響く。こういうのがあると、直接戦闘系のビルドにしなかったことを後悔しそうになるな。


「ウェンバー」

「あいあい」

「ランバックたちが足止め役になる。てことで」

「ふふーん、わかってますよ。森の中なら僕らが最速ですからね」


 みなまで言わずとも察してくれるってのも凄いな。二人でこの後のルートを確認し、敵部隊が集まっていた広場に向かう。

 通話が終わったのはついさっきだってのに、そこではすでに戦闘が始まっていた。

 二刀流の剣士がホークマンに切り込み、山賊さながらの大槌を構えた男がオーガの足元に飛び込んでいく。ゴブリンに囲まれた忍者風の女性は切られると丸太に代わり、敵が集まるのに合わせて爆発魔法が投射される。


「なんで北のメンバーこんなに血の気多いんだよ」

「血沸き肉躍る、ですね!」


 すでに敵の数は50を超えている。助太刀のコボルトもいるがこっちは合わせても12人だ。実際はかなり押されているな。

 奥で戦闘指揮を執っていた鬼人が動きだす。忍者が我先にとクナイを手に飛び掛かるが、抜き打ちの一刀で切り飛ばされる。いや、切ったのは身代わりか。


「次のタイミングで一撃だ」

「任せて下さい!」


 杖を取り出したウェンバーは自信満々に準備を始める。俺も負けてはいられないな。


「集中、起動」


 鬼人が動いた。うっかり八兵衛を思わせる、いやそれ以上の踏み込みで一気にホークマンと切り結んでいた剣士に迫る。そこに木でできた人形が割って入る。一瞬で切り捨てられるが、そこじゃ剣士は射程外だ。


「まずは一発」


 発砲音とともに、鬼人の頬にエフェクトがはしる。煩げにこっちを睨むが、いいのか?よそ見してると危ないぞ。


「っしゃああ」


 視線がそれた瞬間を逃さず、ランバックが銃を撃ち込む。刀で弾くが、そこで新たな木人形が両腕の蔓を伸ばして乱舞する。連撃を嫌がって切り払うが、後ろをとった忍者が背中に何かを張り付ける。忍者が跳びさると同時に札は盛大な音とともに爆ぜた。


「2発目、3発目」


 爆発の衝撃に大きくよろけたところを狙い、2発の銃弾を撃ち込む。1発目は右の太腿を貫いたが、2発目は避けられてしまった。とんでもないい反応速度だけど、これでいい。ヘイトが分散することでウェンバーへは一切の注意が向いていない。


「完璧な支援ですね。それじゃあいきますよ!森の声を聴かぬ愚者に制裁を下さん!森の裁きドムオーバースコーゲン!」


 ウェンバーの魔法が発動する。地面が揺れ、鬼人の周りから6本の樹人が大地を貫いて現れる。鬼人は木の幹に切りつけるが、幹の半ばで刀が止まってしまう。そのすきに別のコボルトが魔法を放ち、鬼人の右足を蔓が拘束する。6本の樹人からは次々と枝が生え、槍となって鬼人に殺到する。しかし、ホークマンが飛び込み、鬼人を拘束していた蔓を切って鬼人を突き飛ばした。鬼人は多少かすった程度だな。代わりにホークマンが大量の枝に刺し貫かれている。ホークマンは攻撃の途中でポリゴンへと変わっていった。


「4発目!」


 ホークマンが散ってゆく様子を呆然と眺めていたところに、最後の1発を撃ち込む。ヘッドショットとなり後ろに転がり、そのまま戦いに参加したい衝動に駆られるが、あくまで俺たちは支援(アシスト)に立ち寄っただけだ。


時間(タイムリミット)だ!」

「ほいさ!」

「ランバック!あとは任せた!」


 脱兎のごとく戦場を後にする。俺たちを追いかけようと立ち上がった鬼人にプレイヤーが殺到して抑え込む。


「ナイスアシストだぜ!あとは任せて先に進め!」


 支援を終えた俺たちは最高速度で東を目指す。仲間の献身を無駄にしないためにも、使者をマナウスまで送り届けなければ。


こぼれ話~当時のメモから~

ウェンバーが使った魔法は木魔法ではなく召喚魔法になります。

樹人と契約を結ぶことで使えるようになります。

召喚魔法には取得型と契約型があります。

契約できるのは、魔力体の生物だけになります。ちなみに妖精族も種族によっては契約できます。


ちなみに、魔法の読みはグーグル先生に手伝ってもらっているので、読み方が違ったらごめんなさい笑

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