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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
7章 森の暮らしと危急を告げる使者
81/102

現実(仮)コボルト物語

閲覧数が過去最高を更新して何事かと思いました。

日間と週間でランクインしたようです。見てくれた方、感想をくださった方、ありがとうございます。


 突然現れたウェンバーに半ば強制的に導かれてリゼルバームを歩いている。

 周りを見回すと、他のメンバーもこの展開には戸惑いを隠せないようだ。しかし、クリスとヒーコは特に普段と変わった様子はないように見える。

 特に大きくはないリゼルバームだ。そこまでの時間はかからずにウェンバーは足を止めた。


「ここです」


 ウェンバーの視線に合わせて全員が空を見上げる。そこには、展望台を兼ねているというリゼル古木がそびえ立っていた。


「ここを登れってか?今のところ誰も登れていないんだがな」


 ランバックが呟いている。確かにここを登るのは現状では難しい。しかし、つぶやきをしっかりと聞いていたのか、ウェイバーは朗らかに言葉を続けた。


「今回は特別に登りやすくしておきますから、遅れずについてきてくださいね」


 ウェイバーが足を踏み出すとリゼル大木から木の枝が階段状に伸び、それを足場に軽々と登っていく。


「この細い足場を進んで行けってことか」


 命綱すらない場所で、頼りない木の枝を足場にしなければならない。そんな状況にしり込みはしつつ、さすがにここであきらめる者はいないようだ。木の枝を足場にすることに慣れているため、俺は率先して先頭を歩く。

 コボルト族たちのシンボルツリーにされている見上げるほどの大木だ。幹回りをらせん状に登っていくのだからどうしても時間がかかる。それでも、徐々に高くなっていく視点は悪くないな。

 それなりの時間をかけて登り切った場所は、幹が枝分かれした場所に足場を作った展望台だった。


「まだ時間あるのでしばらくは楽にしていてくださいね」


 ウェンバーが展望台から飛び降り姿を消すと、展望台には冒険者(プレイヤー)しかおらず、それぞれが絶景を楽しんでいる。

 展望台の東側に目をやると森は大分下になり、マナウスの森の東の切れ目が見えている。うっすらとだが、あれはマナウスか。北側は切り立つ山々が見えている。もっとも高い山にはすでに雪が見える程だ。


「お待たせ~」


 俺たちが景色を堪能しているとウェンバーが再び姿を現した。そのあとに続いて登ってきたのは、初めてリゼルバームを案内してもらった際に話した長老だ。相当な年齢に見えるが、老いてなおコボルト族、この木を登るのはわけもないってことか。


「お待たせしたのう、客人方」

「いや、お気になさらずに。それよりも、我々をここに連れてきた理由については聞かせてもらえるのでしょうか」

「そうなるじゃろうな。じゃが、その前に一つ聞いてみたいことがあってのう。客人方は隠れ里にきてから我らコボルト族のことを探っておったな。その調べた内容を聞いてみたい。頼めるだろうかの」


 コボルトの長老は全員に対して話しているようだが、俺達側のメンバーはそれとなく俺を見ているように感じる。正直一度話して方針として確認もしているから、俺じゃなくても大丈夫な気がするのだが。

 誰が話すのか、沈黙の中で押し付けあっていると、埒が明かないと感じたのかクリスが案を出した。


「全員が話すと話が混乱する。情報を取りまとめていたヒーコと方向性を打ち出したカイに頼んでもいいだろうか」


 クリスが自分で話す事だってできるはずなのに、律儀な奴だ。ヒーコが頷くのを見て、俺も少しだけ前に出る。そして、俺たちはこれまでの調査についてと今後の方針について、コボルト族が置かれているかもしれない状況についてを話していった。さっき話したばかりの内容で、ヒーコが話の流れを作ってくれることもあって、スムーズに話を終えることができた。

 話の間、長老は一度も口を開くことなく、何かを吟味するように静かに聞いていた。口を開いたのは、俺とヒーコが話を終えて数分した後だ。


「いやはや、これは驚きましたな。まさか冒険者と呼ばれる客人方が、これ程までの力を備えているとは」

「ひとまずは合格って感じかね」


 ランバックがひそひそと話しかけてくる。俺は軽く頷く程度にしておき、長老の言葉を待つ。


「里での依頼や森の中での調べ物を繰り返さねば、このような答えに行き着くことができまい。まこと、天晴と言えような」

「では、長老もよろしいので?」

「うむ。ウェンバーよ、そなたらの話通り、いや話以上じゃったからのう。客人方には我らの悲願を伝えてもよいじゃろう」


 長老の話を聞き、ウェンバーは展望台に備え付けられているテーブルにいくつかの書物を取り出していく。そのうちの一つは地図で、そこにはマナウスの森が詳細に描かれていた。


「かつて、ここに人間たちが入植するはるか昔より、この地はいくつもの種族が溢れ、活気に満ちた生を謳歌しておった。当然儂らコボルト族もその中で様々な種族とともに過ごしてきた」


 これは、遥か昔にあった亜人種族の物語(むかしばなし)だ。まだ誰も知らないサーガであると同時に、俺たちが想像したコボルト族の物語の答え合わせでもあるのだろう。


「時に争いながらも、長き時を共に歩み繁栄してきたが、その日々は突然終わりを告げた。力持つ鬼族や巨人族、狡猾な狐人族や蜥蜴人族などが中心となり強大にして残虐な王国を打ち立てんとしたのじゃ。あらがうことのできなかった力なき種族は虐げられ、従わされる、終わりのない支配の時代がきたのじゃ」

「そのあたりの伝承は今も書物に残っています。良ければ後ほどこちらをご覧ください」

 

 いつの間にか増えていたコボルト族の青年が書物を広げる。恐らくはレプリカなのだろう、当時の物としてはあり得ないほど新しい書物だ。ヒーコや数人が読みたそうにそわそわしているが、さすがにこの場で書物を読み始めるようなことはしない。


「一つ、また一つと彼らの支配は広がっていった。コボルト族は森を拠り所にしておるため、比較的安全ではあったが、攻められるのも時間の問題となっていった。力の差は歴然としておったそうだからのう。コボルト族全体に悲壮な空気が流れていたとのことじゃ。しかし、彼らの攻勢は長くは続かなかった。力ある種族に対抗し、他種族が手を取り合える国を作る。そんな絵空事を一人の男が掲げて立ち上がったのじゃ。」


 興でも乗ってきたのだろうか。周囲のコボルト達が木魔法で人形を作り、長老の話に合わせて魔力で動かし、即興人形劇を始めている。長老の話し方も、伝承を伝えるというよりは、抑揚をつけた劇の台詞のようになってきていた。

 うん、コボルト族。お前ら本当にそういうところだと思うよ。


「立ち上がったのは力なき妖精族の男、ギムレット。多くの者から無知を笑われ、大言壮語に石を投げられながらも、一度として志を捨てることのなかった英雄じゃ。彼の者は支配を受けていなかった種族を一つずつ回って説得し、手を携えていった」


 耳の長い人形、翼のある人形、小太りな小さい人形と様々な人形が現れる。そしてやたらと精巧な作りのコボルト族とわかる人形が小さな羽をもつ人形の周りに集まる。いや、なんで自分たちだけそこまで精巧な作りになるんだよ。


「支配を逃れた者たちと手を携えると、彼は支配されし者たちをも救っていった。言葉にならぬほどの幾多の困難を退け、絶滅に瀕した者たちを救っていったのじゃ。次第に、ギムレットは数多の種族の希望となっていった。そして、気づけば力ある者たちと肩を並べる存在となった」


 場面転換なのだろう。一度すべての人形が消える。再び現れた人形は黒と白に色を分けられ、争いを始める。いや、着色できるのかよ。

 次第に突っ込みを我慢できなくなる自分に気づくが、周りはよくできた人形劇を楽しみ始めている。適応力に脱帽だ。


「そうしてその日はやってきた。新緑の芽吹く春、開かれた平原で両軍はにらみ合う。力ある者を束ねる鬼族の王と、力なき者を束ねる妖精族の若き王となったギムレット。二人の号令でかつてない規模の争いが始まった!台地は血に濡れ、多くの同胞が凶刃に斃れ、幾つもの悲劇が生まれた!それでもなお、互いに理想を掲げる限り、どちらかが折れねば争いは止まぬ!英雄ギムレットは走った!その身に幾筋もの傷を負い、それでもなお走った!その征き先は残虐なる鬼族の王、グリム!その身に携えるは一振りの杖!一度振るえば雷が落ち、突風が吹き荒れ、炎が渦を巻く。多くの敵を屠り、鋭き(まなこ)はグリムを見据える!しかし敵も然る者、卓越せし者達が行く手を阻む!しかし、我らが英雄ギムレットは一人に(あら)ず!その傍には常に、4人の若武者がおった!」


 なんか、どんどん盛り上がっていく。秘密の雑談風を装って始まったが、この場にはコボルト族がどんどんと押し寄せ、壮大な物語(サーガ)の演目を楽しんでいる。ウェンバーも尻尾を振り、何やら食べながら声をあげていた。


「その中には、我らがコボルト族の祖にして魔法の大家!緑樹のエルベリオの姿もあった!」

「うお~!」

「よっ男前!」


 俺は何を見せられているのか。そんな思いをよそに、人形劇は佳境へと向かっていく。


「エルベリオはギムレットをグリムの元へと送り届けるために力の限りの魔法を使った!魔力を使い切り、倒れたエルベリオにギムレットは勝利を誓い、ついにグリムと対峙する!」

「くっそう、魔法使いの宿命か!」

「今度は魔力が切れなかったお話も作りたいね!」

「壮絶な戦いじゃった。7日7晩戦い続け、精神力のみで肉体を支え、もはや次の一撃で勝負が決まる!両者は最後の力を振り絞り、渾身の一撃を見舞った!」


 コボルト族のテンションが最高潮に達し、歓声が響き渡る。長老が大きく頷くと、声は次第に小さくなり、静寂が戻ってきた。


「最後に立っておったのは、英雄ギムレットじゃった。そうして力なき者はこの地に平穏をもたらし、一つの王国を作った。それが現在まで続く我らがギムレッド王国じゃ!」


 ギムレットの人形が高々と杖を掲げ、その周りに多くの種族の人形が集まってくる。コボルト達は声が大きすぎてもはや何と言っているのかわからないほどの声で歌っている。恐らくは何かを讃えているのだろう。俺としては耳がばかになり、意味の分からない民族音楽を聴かされているような心地だ。

 争いの中で倒れていった人形たちも立ち上がり、人形が一列に並ぶ。観客に向かって礼をし、手を振っている。コボルト達は歓声をあげて手を振り返している。

 途中で思ったんだけどもう一回言わせてくれ。お前ら本当にそういうとこだぞ。

 自然発生的に始まった演目が終わり、コボルト達は長老や人形を動かしていた者に声をかけて帰っていく。どの顔も満足げで何よりだが、俺たちはいったい何を見せられているのか。クリスやヒーコを見ると、クリスはコボルトと一緒になって嬉しそうな顔をしており、ヒーコは物語が興味深かったのか、手には先ほど紹介されていた書物があり、近くのコボルトに声をかけている。

 

こぼれ話

長老の話はあくまで“コボルト主観”の物語です。歴史の大筋は正しいですが脚色や創作が盛り込まれています。

ちなみに、ドワーフのほうでは途中から酒盛りが始まり、ミュージカル的に話が展開し、最後にギムレットを助けるのは剛腕のバルガンドというドワーフになります。対して蜥蜴人族は淡々と事実が告げられるなど、伝え方は種族により変わります。力なき者陣営に対して、酒をいれた上でギムレットを最も助けたのは誰かを聞くと、最終的に喧嘩祭りが開催されます。

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