空想コボルト物語
要注意
昔の自分の雑すぎる構成と伏線に加え、今の自分の修正力のなさにより、カイやほかのプレイヤーが恥ずかしいほどのガバガバ理論を振りかざします。
いっそなくそうかとも思ったのですが、戒めとして笑
ウェンバーとの地獄を乗り越えてから2週間が経った。その間俺は地道に調査を進めていた。とはいえウェンバーの家の突発パーティーを経験し、方向性は変更している。俺はほかの冒険者ほど戦闘に長けているわけではない。ここはマナウスの森の深層に近い場所にあるだけに、場合によっては死に戻ることもあるくらいだ。そこで、目先を変えてコボルトとの関係構築をメインにし、コボルトから情報を得られるように動くようにしている。情報はまだだが、大分住民たちと仲良くなったな。
俺がコボルトとの関係構築に力を入れるようになったのには、リゼルバームに滞在する冒険者の増加がある。クリスやヒーコたちが情報を上手く広げてくれたこともあり、40人くらいには増えていた。さすがに滞在用のログハウスが手狭になってきて、キャパオーバーを起こす前に新しいログハウスが建築されているくらいだ。
ちなみに俺は最近ウェンバーたちから勧められてウェンバーの家に住まわせてもらっている。マナウスから持ってきた食料や香辛料の類がとても喜ばれたな。初めて会ったときにウェンバーが話していた母親にも挨拶をすることができた。今は元気そうで何よりだ。
話は戻って調査の進捗だが、正直言って頭打ち感はある。冒険者間での調査の共有が上手くいっていないこともあるが根本はそこ以外にある。限界を感じているのは俺だけではないようで、今日は久しぶりに集まって情報共有を行うことになっている。
俺がログハウスに到着してから10分程で今回のメンバーが揃う。今回もクリスとヒーコが中心になって声をかけ、代表して6人が参加していた。
「全員揃いましたね。それでは始めてもよいでしょうか」
「ああ、いつでもいいぜ。今回は情報共有と方向性の再確認なんだよな?」
「そうだね。僕とヒーコが集めた情報を地図に書きこんであるから、追加を確認していこうか」
話しながら広げられた地図には驚くほどの情報が書き込まれている。書き込みスペースが足りなくて地図が一回り大きくなっているな。この地図はログハウスの談話スペースに置いてあるから前にも見ているけど、改めてすごい情報量だ。そこに新しい情報が加わっていく。一通りの情報共有が終わると、クリスが話を始めた。
「今回は現状の確認と今後の方針をどうするかの話をさせてほしいんだ。今まではコボルトの目撃例や亜人種モンスターが多かった西と南が調査の中心だった。西に進めばマナウスの森の深層に入ることになるから、そっちからきたのではという考えだね。でも、今の調査が順調だと感じているプレイヤーは少ないと思う」
「その通りです。特にマナウスの森での調査では、痕跡から敵の想定や使用武器などが推測されています。ゴブリンマジシャンの発見や、討伐こそ逃しましたがゴブリンに指示出しをしている個体を見つけるなど成果も上がっています。しかし、当初予想していた文章や手紙といった成果はなく、コボルトやゴブリンなどの敵がここにいる理由、目的などの有用な情報の取得がありません」
「まあ、南はある程度で森が切れちまうから南ってか南西だけどな」
そう、ここまで調査を進めてきたのは、コボルトがなぜここにいて、いったい何と戦おうとしているのかを知りたいからだ。ここにいるメンバーは次のイベントは異種族が関わってくると感じ、少しでも良い結果につなげようと参加している。実際にここ以外でも一斉に交流をもてる異種族が見つかっており、掲示板でも次回の大型イベントで関わるのではと言われている。
「みんなはこのまま西側の調査を進めた方がいいと感じるだろうか?」
そこで口元に手を当てていた考え込んでいた侍風の男が手を挙げる。今回が初めてみた顔だ。
「少しいいだろうか」
「構わないよ」
「俺はクリスたちの情報提供からここにきた口だ。そうやって集まった後発組でパーティーで探索をしている。俺たちはここに来たばかりだからまだしばらくは西側で調査を続けたいと思うが、俺たち以外の後発組は有用な情報が得られないなら別の場所や方法を探す方がいいと話すことが増えている」
男の話では、最初の10人以外はクリスたちの情報提供を受けて粘りに粘ってコボルトに出会い、ここまで来た。しかし、来てみるとすでに調査が予想以上に進んでいて、調査に慣れていない後発組ではあまり貢献ができないことを不満に思う層がいるらしい。
リアルタイムで物語が進行しうるゲームの宿命として、ある程度はあきらめてもらうしかない。が、いまだに異種族に会えていない冒険者が大半を占めている以上、せっかくユニークに関われたのだからという気持ちもわからなくはない。
もう一人いた後発組と思われる大剣使いの男も後発組とのことで、自分たちも何かしらの方法で効果的に貢献をしていきたいと考えており北側の調査を進めたいとのことだった。
「まあこのまま西を調査するか、新しく北側を調査するかってことだよな」
「そうなりますね。可能なら西と北を同時に調査するべきです。しかし、この状況がどこまで続けられるのかがわからないことが懸念点となります」
「しかし、もし西側が間違っていて、それが今後の展開に悪影響を与えたらどうするんだ?」
「どっちの言い分もわかる。だが、調査にかかる時間を考えると両方はどっちつかずになるかもしれねえし。悩みどころだよなぁ」
「掲示板でも話題に上がっていたけど、焦って異種族から情報を聞き出そうとして関係がこじれたなんて話もある。できる限りコボルトたちに迷惑のかからない方法も考えないとね」
参加者がああでもないこうでもないと議論を進める中、俺はこれまでのウェンバーたちの言葉を思い出していた。
ウェンバーと出会ったときに探していたエルトラントの実。リゼルバームにくるまでは南側では出会えないコボルト。ここにきてからであったコボルトたちの話。予想なんて上等なものではなく、どちらかといえば妄想に近いストーリーをくみ上げていく。
先ほどから静かにしていた俺の様子をクリスは気にしていたようだ。
「カイ、なにか気になることがあるのかな」
「気になるってほどじゃないんだけどさ、一つ聞きたいんだ。依頼だったり気分転換だったりで森の北側に行ったことはあると思うんだけど、こっち側でエルラントの実って見つけたことあるか?」
「森の東でフォレストモンキーが投げてくるやつ?あれってたしか北側で採集できるはず。フォレストモンキーは北側から持ってきてるんじゃなかったっけ」
北にあるのかい。それは盲点だったな。当たり前といえばそうだけど、ウェンバーたちは突然現れたわけじゃない。彼らには、少なからずここまでの生活の流れってやつがある。でも俺は春からのサービス開始、さらに言うならリゼルバームにきてからのことばかり考えてしまっていたな。これで妄想の域だった考えが、想像くらいの域にまではきただろうか。
「カイ、なにかあるなら話しちまえよ」
「ほぼ根拠のない話だぞ?」
「構いません。今は一つでも案が欲しいところですから」
頭の中で散らばっている言葉を忘れないようにしながら、俺はこれまでまとめてきたことを話し始めた。
「ちゃんと話すと時間がかかる。みんなも時間だってあるだろうから先に結論だけ言うと、さらに調べるなら北に重点を置く方がいいと思う。あと、痕跡を探すというよりは、奥地を目指すって感じの方がいいかもしれない。ルートは西側から回りこむ感じかな」
「想像以上に具体的だな。今時間やばいとかの奴いたら抜けてもいいと思うがどうする?」
ランバックは周りに問いかけるが場を離れる者はいない。長い話になると聞き、各々が地図を広げた机の周りに椅子を移動してきて座る。
「俺はコボルトのウェンバーとはこのゲームが始まって最初のイベントで出会っている。今のところここにいるメンバーだと最速だと思う」
当たり前だけど、当時コボルトと接触したのは俺だけじゃない。でも、あれからずっとマナウスに居残っていたのはそう多くはない。そりゃあ装備や戦力が整ったら次の街を目指すのが王道だしな。
「あの時、ウェンバーはエルラントの実を探しに来たと言っていた。ここから北にも実があって、ウェンバーなら苦もなく集められる。それなのにどうしてフォレストモンキーから奪うなんて方法をとったのか」
「たまたま東側に用事があったとか?」
「十分にあり得るな。だけど、考えると他にも疑問はあるんだよ。この中でマナウスの図書館の亜人種文献読んだことあるやつはいるか?」
多くが首を振る中、ヒーコが手を挙げる。
「今回の調査を始めるにあたって軽くですが読みました。マナウスの入植期辺りの書物ですね。コボルトだけでなく、ハーフリングやワーウルフなど様々な異種族の発見や遭遇が描かれています」
おお、ちゃんと読み込んでる猛者がいるな。掲示板でも話題になっていたようだし、俺の言いたいこともわかるだろう。
「疑問とは、発見例があるのに居住地や生活に関する記述が一つもないということでしょうか」
「そうだな。で、リゼルバームにきて思った。ここにずっと住んでいるならさすがに誰かしらは会っていないとおかしいんじゃないかって」
「プレイヤーかどうかではなく、ということでしょうか」
「そうそう。システム的にとか言われたらどうしようもないんだけどな。マナウスの猟師なら相当量が森に入っているわけだし、入植初期なんて食料確保に近くの森で狩猟をするのは当たり前だろう」
おやっさんたち狩猟者たちの間で、教訓や珍しい出来事というのは口伝なんかで残っている。でも俺はこれまでにそんな話を聞いたことがない。
「つまり、彼らがここに来たのは最近ということか?」
「具体的な時期はわからないけど、今の世代の祖父母の代が可能性の一つじゃないかと考えている」
「そのように考えた理由はなんでしょう」
これは俺が関わってきたコボルトたちの言動や行動から考えたことだ。根拠と呼べる程のものではない。信じるか信じないかは相手に委ねるしかない。
「俺が依頼で知り合ったコボルトにシム婆っていう老婦人がいる。依頼でなくしたペンダントを探したんだが、その中の写真は青年のコボルトが描いてあった。シム婆はそれを夫と呼んでいたんだ。そして、少しここのコボルトのことを思い出してほしい。ここの集落はあまりにも高齢者が少ないと思わないか?」
「そういえば」
「僕も何人か会ったことはあるけど、父母世代と子供世代がほとんどを占めてるっていうのもおかしいか」
個の意見は弱いが、集めればそれなりの説得力がある。ただし、この意見は信じてもらうことが目的ではない。コボルト関連のクエストをよりよく進めるための情報提供ができるかどうかだ。
「あとは、そうだな。ウェンバーと前に会った時に話していたんだけど、彼らは自分たちのことを『逃れた者、伏せる者』と言っていた。そして、マナウスの森の様子を聞いたときには不穏だと話していて、北が特に危ないって言っていたんだ。実際に妹のミミレルはコボルトの子どもは森の外に出ることができないと話していた。最初は北側のほうが単純にモンスターが強いからだと思っていたんだが、コボルトが隠れ里であることと、会話内容を考えると、北に何かあるってのが一番すっきりするかな。北にあるエルラントの実をウェンバーが採りにいかないのも、食料のために危険を冒さないためだと思う。」
話しながら地図の北側を指さす。参加者は俺の言葉に信用が置けるのかを考えているのか、沈黙が続いていた。
数分は待っただろうか。不意にヒーコが声を上げた。
「私は面白いかと思います」
「どの辺を面白いって感じたんだ?」
ランバックは面白がって尋ねる。実際に気になるというよりは、他が考えをまとめる時間を作るためという感じだろうか。わかっているのかヒーコも頷いて話を続けた。
「そうですね。私たちはコボルト族全体の口が重いことから、証拠を集めることで真実に近づこうとしてきました。今回のカイさんはコボルトたちの物語を主軸に情報を繋げて真実に近づこうとしています。北に重点を置くという点では根拠が乏しいと感じますが、わたしからも補足ができそうです」
「補足?」
クリスの問いに、ヒーコはなにやらインベントリを操作をしている。そしてすぐに掌にアイテムを取り出した。
「こりゃあここで使える通貨だよな」
「うん、ティタンだね。もしかして、これのフレーバーテキストかい?」
「はい。ここにはとある王国で使用されていたと書かれています。先ほどの話と繋げるなら、伏せているコボルト族は、王国の復権を願っているのではないでしょうか。王国が突然移動することはないでしょうから、今もどこかにあるのでしょう」
ヒーコはマナウス周辺の地図を取り出し、いくつかのティタンを置く。一つはリゼルバームだが、残りは山岳部や大きな川の近くなど俺の知らない場所だ。一つがここを指しているから残りの場所が示すものの予想はできる。
「先ほどカイさんが話した亜人種文献ですが、そこには亜人種との遭遇については書かれていますが、王国の記載はありません。掲示板に他種族の話はいくつか挙がっていますが、他の種族との関連は一切示されていません。おかげでイベント予想では各種族にプレイヤーがついての王国再興レースになる、というものが人気のある案の一つになっています。それもあって私は最初は各地に種族ごとの王国があり、この近くにはコボルト族の王国があるのだと考えていました。ですが、これがもし、異種族全体での王国なのだとしたらどうでしょう?」
やはり、他に置かれているのは他種族の集落のある地なのだろう。ティタンは5つ置かれている。確か今見つかっているのは、コボルト、ハーフリング、ドワーフ、ワーウルフ、エルフだったかな。かなり前に見たうろ覚えの情報だから、もしかしたら全然違うかもしれないけど。
「マナウスを半円状に囲うように集落がある、か?」
「はい。というよりは先ほどの話通りに北に王国があるだとすれば、マナウスを意識したのではなく」
「いつでも王国に戻れる位置を選んでいる」
さて、話は佳境に差し掛かっただろうか。俺から出せる案はあと一つだ。
「北が怪しいと思ったのはもう一つあるんだ」
「おいおい、まだあるのかよ」
「ああ、コボルトの動きだ。南では同じルートを巡ってるが、それって巡回とか警備とかの動きに近いよな。本来なら自分たちがいることを見せつけるって効果があると思うんだ。でも、ウェンバー達は隠れ里にいる。本来は見つかっちゃダメなはずだ。それに対して北は俺達でもほぼ捕捉できないハイレベルなコボルトを揃えている」
「言いたいことはわかるね。見つからないことが前提の場所で、南なら見つかってもいいように動く理由はわからないけどね。それでも南より北を特に警戒している理由にはなる。西で見た不規則に動くコボルトも北側寄りではあったし」
ここに揃っていた冒険者たちの中でも結論がでたという雰囲気になっている。クリスは真剣な様子で地図を見つめ、そして顔を上げた。
「集まってくれたみんなはどうかな。僕としては北に懸けてもいいのかなとは思える内容だったけれど」
「賛成だな」
「俺たちもだ」
意見がまとまったその時だった。ログハウスの入り口が開かれた。探索を終えて誰かが帰ってきたのかと見ると、そこには嬉しそうに尻尾を揺らすウェンバーが立っていた。
「ふふふふ。ついに、時がきたのかもしれないね。客人にして恐れを知らない冒険者諸君、少し時間をもらってもいいかな?」
何度か行動を共にしているからこそわかる。ウェンバーの瞳はかつてなく真剣で、爛々と輝いていた。
こぼれ話~過去のメモから~
各異種族関連クエストは異種族全体のプレイヤーとの関係値と異種族に関する取得情報量によって進行します。
つまり、カイもほかのプレイヤーも正しく攻略しています。
なお各種族が使っている通貨は全て異なります。




