老婦人のペンダント
数年ぶりの投稿にも関わらず見てくれた方ありがとうございます。。
返信できてはいませんが、更新を待つ旨のメッセージをくれた方々、本当にありがとうございます。
ログハウスを後にした俺は依頼を確認するため酒場まで来ていた。扉を開き、掲示板に貼られた依頼を確認していく。リゼルバーム内での依頼、森に出ての素材集め、モンスターの討伐と依頼は多岐にわたっているが、数はそこまで多くはない。まあ住んでいる住人の数を考えれば当然か。
今後の方針として、俺は外の調査だけではなく中の調査も進めていくことにしている。住人との信頼関係を構築できれば、そこから情報を手に入れられる可能性もあるからだ。というのは建前で、滞在する場所の住人とは良い関係を築きたいというのが本音だけどな。マナウスでも猟師のおやっさんたちには良くしてもらっていたのを思い出すな。っと脱線したな。気を取り直して、今回手頃な依頼として選んだのはこの2つだ。
『失せ物探しの頼み』
リゼルバーム住宅区に住むシム婆からの依頼だ。大切にしてきたペンダントを部屋のどこかで落としてしまったらしい。シム婆は体を悪くしていて探し物は難しい。ぜひ手伝いを募集する。
報酬 500ティタン
『薬草採集』
医者のテムからの依頼だ。最近リゼルバームの周辺でモンスターが増えている。今のところ負傷者は少ないが、何かが起きてからでは遅い。そこで今のうちに薬草を集めて傷薬を作っておきたいんだ。傷薬になるブラミアの根はここから南に少し行ったところにある。とりあえず20本ほど持ってきてくれ。
報酬 980ティタン
見たところ、内容も報酬額も最初の頃に受けていた依頼に見える。が、今回はここの環境調査を兼ねているからな。信頼関係の構築も、周辺の調査も、一歩ずつ進んでいこう。まずは失せ物探しからだ。
依頼書に載っている住所を探すが、やはり新しい場所は土地勘がなく迷ってしまった。所在なくきょろきょろと見まわしているとふと懐かしい気持ちが沸き上がってきた。大人になって迷子なんてものとは無縁になったけど、子どもの頃にスーパーで迷子になったなあ、と。
「ねえねえ、こんなところでなにしてるの?」
懐かしい思いに浸っていると不意に声をかけられた。声のほうに視線を向けるとそこには小柄なコボルトが立っている。好奇心に瞳を輝かせ、ぱたぱたと揺れる尻尾は感情が強くあらわれている。
うん、このわかりやすい尻尾には確かな血のつながりを感じるよ。
「えっと、ミミレルであってたかな?」
「うん!あなたはお兄ちゃんが良く話していたカイだよね!こんなところで何をしているの?」
別にやましいことをしていたわけでもないし、隠さないといけない依頼でもない。現状数少ないリゼルバームでの知り合いだ。素直に事情を説明すれば道案内を頼めないだろうか。
「シム婆って方から探し物の依頼を受けてな。住所はわかったから行こうと思ったら少し迷っちゃったんだよ。ミミレルはシム婆を知ってるかな」
「知ってるよ!シム婆はいつもミミに飴玉をくれるの!最近元気がなかったんだけど何かなくしちゃったんだね」
そういってミミレルは少し考えこみ、顔を上げた。顔には『いいことを考えた』と書いてあるように感じる。
「それじゃあミミも手伝ってあげるから、一緒にいこう!」
ミミレルは俺の返事を聞かず、袖をつかんで走り出す。するとアナウンスの音が響いた。
『ミミレルがパーティーに加わりました。クエストを中断すると強制的にパーティーを離脱します』
何の変哲もないクエストで、こんなイレギュラーが起きるとはな。まあ、小さな共同体なら横の繋がりが強くなるのは世の常だ。こんなこともあるだろう。
ミミレルに連れられやってきたのは、小さな一軒家だった。この広さなら探し物にはそこまでの時間はかからなそうだな。そう思っているとミミレルは勝手知ったる家なのか、ノックもせずに扉を開ける。いや、鍵かかってないのかい。
「シム婆いる?」
ミミレルの声掛けに応じるように、ゆっくりとした足取りで一人のコボルトが姿をあらわす。全身の毛が白銀に輝くコボルトだ。
「あらミミ、どうしたのかしら」
「あのね、カイがシム婆の落とし物探してくれるって。ミミも手伝うんだよ!」
「あらあら、そうなの?依頼を受けてくれたのかしら」
シム婆は俺に向き直る。ミミレルは元気がないと言っていたが、それでもとても穏やかな表情をしている。
「はい、マナウスからきた冒険者のカイといいます」
「ご丁寧にどうもねえ。私はシムというの。今回は依頼は私のネックレスを探してほしいのよ。たぶんどこかの隙間に落としたんだと思うのだけれど、もう年で家具を動かすのは難しくてね。本当に助かるわ」
「いえ、気にしないでください。それよりネックレスの色や形を教えてもらうことはできますか?」
聞くとシム婆は色や形などを教えてくれ、すぐに家での捜索が始まった。家の中は掃除が行き届いていて、とても品の良い調度品がそろっている。
これなら棚の隙間を見るだけですぐに終わるかもしれない。そう考えて臨んだ捜索は1時間をかけても終わらず、ミミレルは飽きてシム婆とお茶を楽しみ、ついには家具を移動させて隙間という隙間を探すことになった。
「本当に、この、家の中で、落としたんですよね…?」
質の良い家具だからなのか、一つ一つが想像よりはるかに重い。ありとあらゆる家具を壊さないように注意しながら移動させ続け、すでに息も切れ切れだ。
「ええ、あのペンダントは外には持ち出さないようにしているから」
「あ!」
シム婆から聞き取りを進めながら家具を動かしていると、突然ミミレルが声を張り上げた。そのまま椅子を飛び降りて駆け出し俺の足元にしゃがみ込む。
「シム婆、これがそのペンダントじゃない?」
ミミレルが掲げたのは、話に聞いた通りの金色のペンダントだった。
「あらあら。そうそれよ。やっと見つかったわぁ」
嬉しそうな声でシム婆はミミレルからペンダントを受け取る。丁寧な仕草でペンダントに触れるとペンダントが開き、内側には写真のようなものがついている。ロケットペンダントか。
大切な品なのだろう。家具を戻しながらちらりと見えたのは漆黒の毛におおわれたコボルトだ。どことなく愛嬌があるな。息子か誰かなのだろうか。
「これはね、私の旦那なのよ」
「モンスターですか」
「いいえ、でも、似たようなものかしらね」
当時を偲んでいるのか、どこか遠くを見つめている。その姿を笑顔で見つめていたミミレルがそろりと寄ってきて袖を引っぱってくる。手を離すとそのまま家の外に出て行った。
「ありがとうね。酒場の坊には私から言っておくわ」
「いえ、見つかってなによりです。それでは失礼します」
家の外ではミミレルが待っていた。俺を見るとにっこりと笑う。
「シム婆の大切なペンダント、見つかってよかったね」
「そうだな。さて、次の依頼は外に出ることになるな」
「いいな~。でもお兄ちゃんから結界の外には出るなって言われてるから行けないんだ」
「外は危ないからな。気持ちはわかるがウェンバーも正しい」
そういうとミミレルは頬を膨らませ不満を伝えてくる。しかし、外の危険はよくわかっているのだろう。すぐに笑顔に戻ると力いっぱいに手を振り勉強に行くと駆け出していった。
ミミレルが見えなくなると、パーティーから抜けたことがアナウンスされた。これでこの依頼は完了だな。
今日はまだ時間があるし、ついでにもう一つの依頼もこなしてしまうことにした。こっちの依頼もブラミアが採集できる群生地が地図に載っている。ついでにブラミアのイラストも添えてある丁寧さだ。町中と違って森ならそこまで迷わないだろうし、そこまで時間はかからないだろう。
リゼルバームを出ると、気配察知のオンオフを細かく切り替えながら南に進んでいく。道中ではクリスが複製した地図を手に進むが、特に何事も起きてはいない。南方面でよく見るというコボルトを見かけることもない。
「群生地に近い採集系の痕跡は…木の幹についた斧らしきものの傷跡か」
今回のクエストの採集場所にかなり近い。もしかしたらこのクエストを受けたついでに周囲を調べて見つけたのかもしれないな。せっかくだ、今後のために見ておこう。
採集は後で行うことにして、印の場所に先に移動する。印のおかげでそこまで苦労することなく痕跡を見つけることができた。
俺の腹周りくらいの太さの木で、肩の高さに傷がついている。斜め下から10センチ程の深さで切られているな。俺たち冒険者がつけたにしては明らかにおかしい傷だ。
無理やりこじつけるなら、そうだな。130センチくらいの大きさの奴がいたとして、俺くらいの大きさの奴を相手に胸元狙って剣を振えばいけるか。いや、剣にしてはあまりにもきれいに切れている。いっそウインドカッターなんかのほうが近いのかもしれないな。
「見つけても何のアナウンスもないのか。これをこの数見つけるには、果てしなく根気のいる作業だな」
見た角度が悪ければそもそも気づくことすら難しい。それをこれだけ探して情報をまとめた努力は脱帽だ。
ほかにも少し見回ったが、特に何もないようだった。確認を終えると採集地に向かいブラミアを集めていく。
その後は特に何事もなく採集を終え、モンスターを避けてリゼルバームに帰還した。リゼルバームにきて最初の探索で劣鬼に出会ったのは相当運が良かったんだな。
酒場で依頼の報告を終え、ログハウスに戻ると、伝言用の掲示板に俺宛のメモが貼ってあった。差出人は、ウェンバーだな。
どうも一緒に採集をして秋の食を満喫したいようだ。森の恵みは俺も興味がある。次のログインではウェンバーと遊ぼう。後でミミレルに怒られるかもしれないから、お土産は多めに採ることを忘れないようにしておこう。
こぼれ話~当時のメモから~
他のプレイヤーもそうですが、自分をリゼルバームに連れてきたコボルトとは基本的に別行動になります。彼ら彼女らはほとんど森に出ています。そのため意図して予定を合わせない限り、一緒に行動する機会は少ないんですね。
その分、町の中にいるとその友人や家族に出会うことが多く、その時の行動記録が伝わり好感度が上下動します。
ミミ「あのね、今日カイがね~」
ウェ「へえ、カイがんばってるじゃん」 好感度アップ!
みたいな感じのイメージです。




