見覚えのないようで見覚えのあるもの
激しく期間が空き、設定を思い出せない面があります。以前と大きく異なる設定があれば教えてください。小さな違いはこいつ忘れてやがると思いながら、いっそのこと見逃してくれると助かります笑
森から戻った後、アイテムをもう一度確認するが、やはり魔核を手に入れていた。めったに手に入らないレアアイテムを、たまたま出くわしたばかりのモンスターからドロップするとかどんな幸運だよ。住処の情報が伏せられているのも気になるけど、その辺は今後のストーリーかイベントに絡んでくるだろうし、リゼルバームに滞在していれば調べる機会はいくらでもあるだろう。
てことで、今回手に入れた魔核についてだ。武器制作に関わるスキルを持っていない俺では当然性能はわからない。が、もしかしたら制作依頼中の銃に組み込めるかもしれない。報告だけでもと思いアズマ工房に連絡をいれてみることにした。
「おう、どうした。さすがにまだ銃の完成までは時間がかかるぞ」
「いや、実はな…」
ひとまず入手した魔核について伝えて銃に組みこめるか聞いてみた。結論から言うと可能ではあるらしい。
「そりゃあ、鍛冶場仕事が好きな奴なら使ってはみたい代物だ。ただ魔核ってのはちょいと特殊な素材でな、同じ魔核でもモンスターの強さや生息環境で使った場合の効果が変わるのさ。だから現物を見てみんことにはどうするかは決められん」
「この辺でドロップする劣鬼の魔核の効果ってある程度は把握してるのか?」
「当たり前だろう。ちょっと待ってろ」
そう言って一度通話が切れ、数分ですぐに折り返しの連絡がきた。
「ずいぶん早いな」
「まあ魔核ってのはそう簡単にドロップする品じゃあねえんだ。扱った記録は全て残して他の信頼できる職人とも共有してある。でだ、リゼルの森の劣鬼の魔核だが、単純な性能向上だけってのもあれば特殊スキルが付与されるものもあった。まあ、なんにしても実物を調べてみないとわからないが、使って損ってことにはならないだろうな。顧客に公開してる情報を送るから確認してみろ」
送られてきた情報を見る。魔核にはいくつかのタイプと質があり、タイプによって伸びやすい能力があり、質が良いと能力向上の幅が大きいようだ。あとは素材との親和性らしいけど、劣鬼の魔核なら鉄関連との素材との相性も悪くない。これは使わない手はないな。
「でだ。結論からいくが、内容次第で組み込むってことでいいんだな?」
「ああ、頼む」
「よし、じゃあ可能な限り早く持ってこい」
たまたま日程の都合がつき、翌日には魔核をアズマ工房に持ち込み確認をしてもらった。今回の魔核はレア物だったようで、作成中の銃との親和性が高いもので、当然組み込むことになる。もともと十分な性能のはずだったんだが、完成がさらに楽しみになったな。まさか、ログイン時間のほとんどを往復に費やすとは思わなかったけど、間違いなくそれだけの価値があった。
さらに翌日、俺は仕事後にログインしたのだが、滞在しているログハウスの談話スペースには俺以外の6人の冒険者が揃っていた。
昨日のログアウト後に情報交換の連絡が来ていたんだけど、予定外の残業で時間ぎりぎりになってしまった。
「すまないランバック。俺が最後か?」
「事前に連絡ももらってるし、そもそも間に合ってるから気にすんな。それじゃこれで全員だ。クリス、進行は任せるぞ」
クリスと呼ばれた男は、一つうなずき立ち上がった。長身だが肉厚な、軍人を思わせる男だ。金髪の髪を短く切りそろえている。
「みんなVLOを楽しんでいるところに申し訳ないね。今回の集まりを企画したクリスという、よろしく頼むよ」
全員がそれぞれに小さく挨拶をしている。なんとなくだが、周囲の反応をみるにクリスがこの中で最も優秀な冒険者のようだ。
「今回集まってもらったのは情報の共有をしたかったからだ。リゼルバームでは間違いなく今後のイベントに関わるような出来事が起きている。運営のことだ。イベント開始前までにできることが隠されていて、それを進めていないと不利なスタートを強いられる、なんてこともあるかもしれない。だからこそ、いつでも最善の対応をとれるよう情報の共有を行っていきたいと考えているんだ。事前に趣旨は説明してあると思うけど、大丈夫だろうか」
クリスが周囲を見回すと、クリスの近くにいた女性が手を挙げる。クリスが頷くと長い黒髪をポニーテールにしている女性は確認したいことがあると言って話を始めた。
「私はヒーコと言います。よろしくお願いします。今回の集まりの趣旨は理解していますし、賛成もしています。ただ、中にはユニークにかかわる情報を秘匿したいという思いをもつ方もいるはずです。知っている内容をどこまで他のプレイヤーと共有するのか。そして個人でユニークを抱えている場合にその情報をどこまで話さなれければならないのか。最初にそれを確認した上で情報を共有するか判断してもらう、という方法が適切だと考えています」
とても柔らかい口調で話す内容に合わせ、数人が頷いている。この質問は予定にあったのか、クリスはすぐに返答し、どういった内容を掲示板に上げるのかを話していく。
「まず、基本的には僕たちがコボルトの隠れ里に居て、今後のイベントに関わりそうなクエストを進めていることが報告することになる。あとは彼らにはまず間違いなく敵がいて、何かに備えるためにここに留まっているということ。そしてここにもう少し多くのプレイヤーを呼び込みたいと考えていること。掲示板を見る限り、ここは最もプレイヤーが少ない異種族の集落の一つだ。イベントの内容にはまず間違いなく戦闘が伴う。その時までにもう少しここにプレイヤーを増やし、コボルトたちと信頼関係を築いて連携をとれるようにしたい」
「まあ、ここに来れること自体がユニークみたいなもんだ。可能な限り隠したい思いはあるが、せっかく見つけた新種族がプレイヤーが足りなくて全滅しました、は笑えないからな。俺は賛成するぜ」
ランバックは即座に賛成し、俺にとっても特に問題のない内容だったのでその場で賛成した。
意見の調整が済むと、まずはそれぞれがリゼルバームに来たきっかけの確認からだった。事前にランバックから聞いていた通りほとんどは同じような経緯で来ていたこともあり、話はすぐに進んでいく。調査イベントで知り合っているという俺の経緯に驚きはあったようだけど、それも話を終えるとすぐに次の議題に移った。
「まず、この滞在についてだけど、みんなが一番気になっているコボルト族の外敵への警戒について話をしようか」
「賛成します」
気付けばクリスが進め、ヒーコがそれを補足し、疑問点をランバックが確認するという流れで話が進んでいく。
「僕とヒーコは最初にこのリゼルバームに到着したプレイヤーだった。一番長くここにいた分、外敵に対する調査も最も長く行っているんだ。まずはこれを見てほしい」
そう言ってクリスとヒーコは大きな地図を広げ、様々なアイテムをテーブルの上に並べていく。モンスターの素材もあれば、採集系のアイテム、中には折れた剣まである。そして地図にはいくつかの印とそこから延びるぐにゃぐにゃと曲がる矢印、ところどころに数字も書き込まれている。
うん、意図もわかるし俺も前に似たようなことをやったことがあるからそれぞれが何を示しているかもなんとなくわかる。あの終わりの見えない調査の日々を思うと、この情報を包み隠さず開示してくれる二人に頭が上がらなくなるな。
周りのプレイヤーもなんとなくは理解できているようだ。それだけに、この地図の作成に必要な労力がわかり言葉がでないようだった。
「まさか、実際に歩いて地図を作ったのか?」
「ああ、彼らはまだ僕たちを信頼してくれているわけじゃなくてね。周辺の地図を売ってはくれないから自分たちで作るしかなかったんだ。」
必要だと感じたら地図すら自分たちで作る。なんてことなさそうに言い切るクリスは、なぜかこっちを見ていた。
「実は知りあいからあなたのことを聞いたんだ。詳細な地形調査やモンスターの行動調査とスニーキングのスペシャリストだと。カイならこの地図の書き込みのない内容にも当たりがついているのかな」
その辺のこと知っている知りあいって限られるのだが、と思いながらもまずは改めて地図を見直す。
地図には等高線のような線が引かれているが、ここはそこまで高低差のある地形じゃない。リゼルバームから西に向け放射状の範囲で印や矢印が集中している。印は丸がもっとも多く、次が四角、少ないのが三角とバツとなっている。矢印は赤と黒の2種類で赤は何本も引かれているが、黒は1本しか引かれていない。赤い矢印は途中ですべての種類の印と被っており特に丸が圧倒的に多い。赤い線の終わりのいくつかはバツと重なっている。黒い矢印は丸とは重ならずに四角や三角が多く重なっている。ふむ。
「一つ聞いてもいいか?答えにくかったら答えなくていいんだが」
「構わない、僕たちは全ての情報を開示すると決めている。何でも聞いてくれ」
「二人で調査をしたって言ってたが、二人とも隠密系のスキルを持っているのか」
「いや、ヒーコはあるんだけど僕はなくてね。とはいえ戦闘があるから一人で行動するわけにもいかないし大変だったよ」
周りは戦闘をしながらこの地図を作ったことに感心している。まあ情報はそろったといえそうだ。テーブルに広げられたアイテムを眺めながら口を開く。
「等高線みたいなのは期間ごとに広げた調査範囲で、この丸と四角と三角は恐らくこれらのアイテムを見つけた場所だな。というか丸は戦闘があった場所か。四角は採集品を見つけた場所だろうな。となると三角は何かしらの戦闘の痕跡を見つけた場所だ。黒い矢印は移動の仕方が俺が知っているコボルトの動きに似ているから、おそらくコボルトを追跡した時のルートかな。赤は2人で探索したルート。バツはさすがに勘だけど、全滅したか相当強い敵とあったかってところか。」
「おっしゃる通りですね」
「というか、これって俺の調査記録を参考に作ってるのか」
「ああ、誰かと共有する上でわかりやすかったからな」
ヒーコは微笑み、クリスも頷いているが、さらっとエイビスの名前が出るあたりやはり攻略組8と言った感じだな。
まだ名前の知らない3人は、ランバックと話していた。
「おい、ちょっといいか。俺たちもそれぞれ個別に調査をしてたんだが、その情報を共有してもいいか?」
「ぜひ頼む。これは個人で終わらせられる規模じゃないからね」
それぞれの冒険者が順番に自分たちの成果を報告していく。俺よりも早くからここに来ていたこともあり、其の情報は多岐にわたる。全員で情報を確認しながら地図に書きこみを入れていくと、少しずつ全体像が見え始めてきた。
「ふむ、コボルトの追跡情報は西と南が多いな。コボルトたちの警戒はそっちがメインってことか?」
「これだけのデータで決めるのは早いかもしれません。継続して情報を集めるべきでしょう」
「そっちは俺たちが請け負うことにするか」
小ぶりの弓を背負ったプレイヤーと短剣を二本腰にした軽戦士プレイヤーがそちらを担当するようだ。2人はここでは行動を共にすることが多いらしく、コボルトの生態にも興味があるようで、特に異論が出ることはなかった。
二人が装備や行動方針の話を詰める傍らでクリスが口を開く。
「あとは戦闘や採集の情報系だね。」
そう言われてランバックは地図を睨み、難しそうな顔を見せた。ヒーコも何とも言えない表情をしている。
「多いのは西と北か。しかし、東と南も無視できるほど少ないってわけでもないな」
「情報が足りませんから残りはコボルト追跡は後回しで情報収集を進めてはどうでしょう」
そもそもが情報が足りないからこそ、共有の場を設けたわけだしな。それでも足りないなら森に入ってさらに情報を集めるしかない。しかしどう考えても果てしなく地道な作業がまっている。本格的に人手が足りないな。
情報不足は全員が感じているようで、ひとまずはこのまま情報を集めることになった。俺はあくまでソロでうごき続けるが、これもチームワークの一つの形だ。できることを一つずつやっていこう。
情報の共有が済み、隠したい情報の開示は無理強いなしということに落ちつき、残る議題は一つだけだ。
「クリスはここに来るプレイヤーを増やしたいんだよな。俺も賛成だが、どの程度の人数を考えているんだ?あまりにも増えすぎるとそれはそれで問題が起きるかもしれない。リゼルバームにくるための情報の拡散方法は考えないと掲示板が荒れるぞ」
「うん、人数が増えることの不安は僕にもある。でも少数じゃクリアできないようにも感じられる。だからある程度までは許容するしかないとは考えているよ。まずはみんなの知りあいの信頼出来るプレイヤーには詳細な情報を知らせたいね。横の繋がりで信頼できるプレイヤーを増やしたい。あとはもう少しざっくりした内容を掲示板に載せようかと思ってるんだ」
「まあ、妥当だと思うぜ。マナーの悪い奴が来たらこっちで対処することも考えておかないとな」
俺が信頼出来るソロプレイヤーってそこまで多くはないんだが、少しでも協力はしたいところだな。富士のパーティーや鉄心のところから紹介してもらえるか確認してみよう。
大体の情報は共有できたということもあり、クリスが締めて解散となった。パーティーを組んだわけではないけど、共通の目的をもって協力して動く。なんかワクワクするな。そんなことを考えながら今後の動きを決めているとクリスとヒーコがこっちを見ていた。
「どうした、まだ何かあったか?」
「はい、実はこの情報をまとめる際に力添えを御願いしたいのです」
「力添え?」
どうやら2人はそれぞれがクランに所属しているが、今回はたまたまソロでうごいていた時にコボルトのユニークを発生させていたらしい。パーティーで動くときにはここまで詳細な情報収集は行っていないようで、情報の処理の手伝いが欲しいと感じていたようだ。
「俺がカメレオンベアで情報を集めたときは最初からやることが明確だったからな。その時とは状況が違うから力になれないこともあると思うぞ?」
「構わないよ。二人だけでまとめるよりもはるかに良いと思うから。」
「わかった。それじゃあ相談があるときには随時連絡をとるってことでいいか」
「よろしくお願いします」
2人とフレンド登録を済ませると、ログハウスを出る。
「俺がやるなら、コボルトの依頼と単独での情報収集だな」
適度にウェンバーとも遊ぶことを忘れないことも加え、方針が明確になったところでコボルトの依頼を見に行くことにした。
ちなみに、リゼルバーム到達組の中での戦闘能力は
クリス、ヒーコ>>名前出てない短剣、弓>>ランバックと他の名前出てない人>カイ
ですかね。カイとランバックの差ですが装備更新されてないのでその分弱といった感じです。
クリス、ヒーコは攻略組上位
名無し短剣、弓はソロでの上級
ランバックたちは中級上位
カイは中級中位勢…でも状況特化型だからカメレオンベア戦みたいに装備整えて徹底的にハメれば上級下位くらいはいけるはずだから…