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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
7章 森の暮らしと危急を告げる使者
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遭遇

 リゼルバームを訪れた翌日。ウェンバーは次は数日後じゃないと時間が取れなそうとのことで、俺はここでいくつかの依頼を受けながら、その周辺を探索することにした。酒場に向かうとそこには一人のプレイヤーが依頼ボードと向かい合っている。

 他に客がいなかったこともあり、プレイヤーはすぐに俺の姿に気付いたようだ。それはいつかのイベントでやりあった懐かしい顔だった。


「おうカイじゃねえか。お前もコボルト関連のユニーク進めてたんだな」

「久しぶりだなランバック。正直狙って進めてたわけじゃないんだけどな。運よくこうなったというか、運悪くこうなったというか」

「なんだよそりゃ」


 豪快に笑いながら、指で近くのテーブルを指し示す。俺も情報を交換したいと思っていたから渡りに船だ。席に着くとランバックは店主に手を挙げた。


「おやっさん。軽くつまめる物とテテ茶を二つ頼んでいいかい」

「あいよ」


 静かな酒場に調理と食器を準備する音が鳴る。店長が持ってきたのは温かな湯気をあげるお茶は香ばしい香りがし、軽食はナッツとチーズのようだ。


「さて、一応情報の共有をしておきたいんだが、構わないか」

「ああ、それじゃあ先に俺からかな」


 それから、短くまとめたこれまでの経緯を話した。時折なにか聞きたそうな様子ではあったが、最後まで話を聞いてくれていた。話が終わるとランバックは気になる点を挙げてくる。


「マナウス周辺調査の時に会ってるのか。あの時にコボルトに遭遇したプレイヤーなんてそんなにいなかったんだが、さすがだな。俺もサンブレード討滅戦は参加したんだが、その時には見なかったな」

「俺が会ったのはその前の探索の時だからな。もしかしたらサンブレードの砦探しである程度奥まで森に踏み込まないと会えなかったのかもな」

「なるほどな。その後にもう一度会ってメモ貰ってるってのも驚きだけどな。今回きてる連中はほとんど最近出会ってここに来ているはずだったし。さて、じゃあ今度は俺だな」


 どうやら俺のルートはかなりレアらしい。俺はマナウス周辺調査のイベント、カメレオンベア戦の資金調達、昨日の3回の遭遇を経てここに来ている。しかしどうやら他は違うようだ。俺が口を開かないのをみて、ランバックは話を続けた。


「俺の場合は2週間くらいまえだな。森で狩りをしている時にモンスターに追われているコボルトを発見してな。モンスターを始末してコボルトの保護をしたらそのままここまで護衛することになったんだ。遭遇したのはここから少し東に行ったところで、襲っていたモンスターはゴブリンだった」

「ゴブリン?最近少し発見報告が増えてるんだっけ?」

「ああ、とはいえ俺も初めて遭遇したから他のゴブリン発見報告は知らないけどな。ちなみに他の連中も似たようなもんで、森でソロで活動していて自分が死にそうか向こうが死にそうかの所で遭遇しているのが多いな」


 ここにきてのゴブリンか。たしか以前金策中にガイルに会った時に聞いたのは、ゴブリンの派閥の話だったか。コボルトを追うゴブリン、これはほぼ確実にガイル達の件と繋がっているんだろうな。


「この辺の話に関しては追々詳しくできるはずだ。今度ここにいるプレイヤーで集まって情報を交換しようってことになっている。カイも良かったら参加しねえか」

「ぜひ参加したいな。細かな日付は決まってるのか」

「まだだ。ここに最初に着いたプレイヤーがその辺取り仕切ってるからわかったら連絡するぜ」


 その場でランバックともフレンド登録を済まし、ランバックは依頼を受けると言って去っていった。

 俺で10人か。色々な話が聞けそうで楽しみだな。

 その後は依頼を眺め、周辺でこなせる採集クエストとモンスターの生態調査を受けることにした。2つのクエストを受注して酒場を出ると、そのままリゼルバームの入り口に向かう。


「採集と周辺のモンスターの調査の依頼を受けたんだが、このまま通ってもいいだろうか」

「ちょっと待っておくれ。えっと、どれだっけな。ああこれこれ、これを必ず持っていってね。それじゃないと外に出たら戻れなくなっちゃうから」


 手渡されたのは小さな琥珀のような物だ。これを持っていると外に出ても戻ることが出来るらしい。


《しるべ石 レア度5 重量1》


コボルトの隠れ里への入り口を見付けられるようになる特殊なアイテム。高度な魔法陣が組み込まれており、所持者は隠れ里の隠蔽魔法の影響を受けなくなる効果がある。

売却・トレード不可


 レア度5のアイテムなんてそうそう見れないんだが、さすがは隠蔽魔法破りのアイテムだな。売却トレード不可はまあ当然か。


「ありがとう。それじゃあいってくるよ」

「あい、がんばってね」


 来た時と同様に小さな木のトンネルを進んでいくと、藪の中に出る。振り返ると里の様子は見えないが、リゼル大木ははっきりと見えていた。なるほどな、これを目印に戻って来いってことか。

 

「まずは、採集とモンスター調査だな。これは俺でもできるから良いとして、せっかくだから北西に進んでみようかな」


 今のところはここがマナウスの森での踏破最奥ポイントとなっている。せっかくここに拠点を持てたことだし、もっと奥も見てみたい。


「今日は北西かな、昨日のウェンバーの話だと何かしらの鉱石も見つけられるかもしれないし、鉄心へのいい土産になりそうだ」


 スキルのチェックを終え、隠密を作動する。定期的に周辺を気配感知を使って調べながら進んでいく。このあたりはマナウスの森の中層の少し奥側だ。でもここから寄り道なしで20分も進めば深層に入る。俺にとっては未知の領域だし、用心していかないとな。

 知らない道ではあるけど、さすがに森は主戦場だ。警戒は緩めずに、それでいて手早く進んでいく。お、テテの葉発見。


《テテの葉 レア度2 重量1》


 マナウス中層で自生しているテテの木の葉。煎じて茶にすると香りのよい茶となるため、マナウスでも人気がある。


 なるほど、これなら俺でもお茶に出来そうだし、土産にもいいな。依頼以外にも自分用に採っていくことにしよう。

 小さな茂みを見つけては採取できるかを確認しながら進んでいく。その他目についた物もなるべく採取するようにしながら進んでいくと、気配感知でモンスターを感知することが出来た。


「このサイズなら蛇だけど、正直当てるの難しいんだよな」


 とはいえ周辺のモンスター調査に必要なのは20匹のモンスターの討伐だ。避けて通るわけにもいかない。覚悟を決めるとセルグ・レオンを構え、モンスターの方へ向かっていく。件のモンスターは、大きめの木の幹に絡みついているようだった。


《石眼の蛇 状態:アクティブ》


 やはり蛇系は温度で感知してくるから隠れ切れないな。敵がこちらに攻撃を始める前に構え、発砲する。乾いた炸裂音とともに石眼の蛇は幹から離れて地面に落ちる。さすがに一撃では仕留められない。ボルトアクションですぐに次弾を装填し、動き出す前にさらに発砲した。石眼の蛇が動かなくなったのを確認して剥ぎ取りナイフを突き立てる。


《石眼 レア度3 重量1》


 マナウスの森に生息する石眼の蛇の目。その眼には魔力がこもり、視界に捉えた対象を石化させる能力を持つ。


 うん。本来ならかなり厄介な相手なんだけど、遠距離戦闘職は比較的相性が良いモンスターだ。蛇系の中では体も大きいし。まあ細長い形が当てにくいことに変わりはないけども。


「さて、そろそろモンスターも増えてきたな」


 銃声を聞きつけて、好戦的なモンスターが集まってくる。気配感知を常時アクティブにし、集まってくるモンスターに見つからないように移動する。

 しかし、1匹だけ、明らかにこちらを捕捉して動いているのがいるな。隠密、消音、気配感知の3スキルを併用してなお逃げきれそうにない。

 少しずつ距離を詰められたことで、その形もおぼろげながら分かるようになってきた。


「なんかゴブリンくさいけど、こんなスピードのある相手だったっけ。これ絶対撒けないな」


 さて、もういずれ捕まるのは目に見えているわけだし、戦い方を構築しなくては。走りながら竹筒に手を突っ込みいくつかのアイテムを取り出す。

 アイテムを左右に投げ、少し開けて立ち止まる。振り返ると、そこいるのはゴブリンではなかった。体格はゴブリンを一回り大きくしたようで、赤黒い肌に発達した四肢、手には身の丈と同様の大きさのロングソード。上半身は何もつけずに下半身は毛皮の腰蓑をつけている。


 劣 鬼 (レッサーオーガ) 状態:アクティブ》


 あ、これゴブリンの上位互換の奴じゃん。もしかしてかなりやばいのでは…

 背筋を冷たい物が流れるような感覚があるが、こうなった以上は仕方ない。とはいえ、もしかしたらの可能性も考えては見るか。


「あー、俺の言葉は分かるか?話が分かるなら」

「ゲギャギャ、オマエ、クウ、オレ、ハラヘッタ、シネ」


 ですよね~。端から無理とはわかっていたので一瞬で切り替える。劣鬼が動き出すのに合わせてナイフを2本順番に投擲した。

 1本目のナイフは切り落としで、2本目は返す刃、切り上げで払う。その表情は歪み嗤っているのが分かる。最初の攻防を制したのが分かったのか、さらにスピードを上げて飛び込んできた。


「さすがにプレイヤー程の警戒心はないか」


 突然劣鬼が何もないところで足を引っ掛けたように転倒する。それを逃さずに発砲、すぐに距離を取り、同時に次の手に移る。竹筒から取り出したのは魔法石。立ち上がったばかりの劣鬼の目の前に魔法石を投げると、音もなく発光した。


「グ、メガ」


 以前の閃光玉と異なり、光量はかなり落ちるが炸裂の音がほとんどないタイプだ。それでも数秒目をくらませることはできる。その間に音を立てずに移動する。


「コシャク、オマエ、クッテヤル」


 怒り心頭といった様子で頭を振り、目がまだ見えないことに苛立たし気ではある。しかし、その後周囲を確認すると、見えていないはずの目は真っ直ぐにこちらを捕えていた。


 視覚情報だけじゃない。聴覚もまあ人間程度か。てことは、銃声の後に移動した俺をあいつは別の方法で捕捉した。周囲の確認、温度か、匂いか。あの時の距離を考えたら匂いだろうな。

 新たにアイテムを取り出すのと同時に、反射的に身をかがめて走り出す。すると先程まで隠れていた木立を劣鬼は袈裟切りで両断してしまっていた。


「いやいや、あれ俺が受けたら確殺だろうよ」


 もう一度魔法石を投げる。しかし、今度は発動の前に切り払われる。もう一度アイテムを投げる。それを劣鬼はさらに切り払った。


「かかった」


 それは、マナウスの森にあるありとあらゆる植物を試して作り上げた臭い玉だ。火をつけるのではなく、ただ当てて使用する。これなら切り払われても問題ない。


「ガ、クア!」


 想像以上の臭いに顔をしかめているが、さすがにこのタイミングで立ち止まりはしないだろう。一足飛びでロングソードの届く間合いまで距離を詰められた。


「この距離なら俺の方が早い」

 

 発砲し、劣鬼が俺の横を転がっていく。その隙に再度、俺は姿をくらませた。痛みに顔を歪め、それでもなお立ち上がった劣鬼は、今度は俺の姿を見付けられないようだった。

 それを確認すると静かに狙いをつけ、劣鬼の頭を撃ち抜いた。


「危なかった、てか複数と遭遇したらどうにもならなそう」


 剥ぎ取りナイフを突き立てると中身は確認せずに、まずはこの場を離れる。かなりの距離を移動して、安全を確保できたところでアイテムを確認することにした。


《劣鬼の魔核 レア度3 重量1》


 ???に棲んでいる劣鬼の魔核。インゴットや毛皮と合わせることで強力な素材を作り出せる。ゴブリンが存在進化し、さらに経験を積んだ個体からしか手に入らない。


 うん、ちょっと一回帰ろうか。俺は最初の目的を一旦忘れることにし、安全第一でリゼルバームに戻ったのだった。

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