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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
7章 森の暮らしと危急を告げる使者
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アイラの依頼 後

本当は11日の投稿だったのですが、300万pv記念という事言う事で。

感想下さる方、読んで下さっている方本当にありがとうございます。


風切音とともに弧を描いて飛んでいった矢はタルネウの実を射抜く様に見えたが、直前で触手に弾き落とされてしまった。以前に遊び半分で撃とうとした時と同じような結果に終わったことがある。その様子を見ていたヨーシャンクが口を開いた。


「そもそも樹木型なのだから視覚感知という線は薄かったな。外見に目がついていない点でこれは除外か。残る方法も想定しつつ攻撃して反応をみてみるか?」


 一応の案としては出してはいるものの、ヨーシャンクにもその方法で突破口を掴める気はしていないようで口調は幾分弱々しい。


「10分くらいを目途に順番に攻撃してみますか?その後にまた相談してみればいい案が出るかもしれませんし」

「他に方法もないよなあ」


 その後の結果は言うまでもない。すべての攻撃がタルネウに阻まれ、解決の糸口を見つけることも出来なかったのだ。

 まず、俺の弾丸は触手に弾かれる。限界まで距離を伸ばして250メートルから狙撃した時にはさすがに感知が遅れたのか、葉を盾代わりにして防がれていた。ヨーシャンクの魔法も同様で、触手に撃ち落とされてしまう。というか触手で火系統の魔法を落とすってどういう事なんだよ。

 そんな中一番可能性が合ったのは楓の矢だろうか。すべて触手に弾かれたのは変わらないのだが、一度だけ触手をすり抜けていた。触手は迎撃に動き出していたから触手を掻い潜ったってことでいいはずだ。

 とはいえこれでは奇跡を祈るばかりで成功には程遠い。通常の攻撃では歯が立たないことがわかると、一度作戦を練り直すことにした。周辺のモンスターに警戒しながら有効そうな方法を検討していく。


「これって本当にクリアできるんでしょうか」


 楓は自信なさそうに話している。気持ちは分からなくはないが、依頼を受けた以上最善を尽くしたい。まだ、諦めるには早いはずだ。


「ここまでの攻撃への反応を見ると空間感知系のモンスターだよな。でも、機械みたいに完全な反応ではないと思うんだけどどう思う?」

「それは俺も思っていた。特に、カイの長距離狙撃と楓の矢への反応はその時々で差があるように感じるな。そのあたりに攻略の鍵があるのだろうか」


 ヨーシャンクが打開策を考える中、俺も先程までのタルネウの迎撃を思い返す。なぜ、攻撃への反応に差が出るのか。こればかりは、遊び半分での挑戦者ばかりだったことで情報が不足している分、自分で考えるしかない。


「む?」


 それはかなり間の抜けた声だった。声の主はヨーシャンク。何かを掴みかけたのか先程の戦闘データを見返している。


「これは、もしかしたらもしかするかもしれんな」

「なにかわかったの?」

「まだ糸口を掴みかけているだけだがな。とりあえず、これから俺の言ったとおりに攻撃をしてみてほしいのだが」


 そうして俺達はヨーシャンクの指示通りに配置についた。最前線にヨーシャンクが陣取り、その50メートル程後方に楓が。俺は射程限界の300メートル後方だ。配置につくとヨーシャンクからボイスチャットがとんでくる。


「まずはカイの射撃の慣らしからだ。タルネウの実を狙う必要はないから、その付近に着弾するように撃ってくれ」

「りょーかい。それじゃあいくぞ」


 トリガーを絞り、放たれた弾丸はタルネウへと吸い込まれていく。これまでで最も遠くからの狙撃にタルネウの反応はさらに遅れ、触手はピクリとも動かなかった。辛うじて葉が前回同様に弾丸を逸らしてしまう。

 まあ反応は遅れているけど、タルネウに当たるかはかなり微妙なラインの射撃だったけど。


「ふむ、やはり本体でも当たるのであれば反応があるか。では次は楓だ、出来るだけ緩やかな軌道になるようにしてくれ。出来る限りタルネウの実に当たるようにな」

「当たらなくても許してね」


 自信なさげな楓だが、それでも矢はしっかりとタルネウの実に当たる軌道を描いた。唯一惜しかった時の様に、1本目の触手は矢を止められず、2本目の触手が矢を払う。


「なるほどな。攻略方法はなんとなくだがわかった」


 今のが最終確認だったことを考えると、俺と楓の攻撃の差がポイントってことなんだろう。最初に楓の矢が触手を掻い潜った時の状況も合わせて考えてみる。


「もしかして、銃と弓の軌道の差か?」

「気付いたか。恐らくだがタルネウは自身に向けられた攻撃を感知するだけでなく、その軌道を学習していると思われる」


 さっきの攻撃は、銃の速く直線的な軌道に慣らした後に弓の遅く緩やかな軌道をぶつけたことで触手の反応に誤作動を起こしたという事か。


「これが正しければ残る検証は一つだけ。この学習がどこまで適応されるかだ」


 そう、この学習が個体にどこまでも反映されるなら、いつかはすべての攻撃パターンが見切られるようになる。でもここはマナウスの森の中層だ。いくらなんでもそんなとんでも設定の筈はないだろう。考えられるのはタルネウの状態がアクティブではなくなった時に学習内容もリセットされるってところじゃなかろうか。

 3人で知恵を絞り、検証を繰り返し、立てた仮説が正しいことを確信する。後は徹底して誤学習をさせて矢で実を落とすだけだ。


「それじゃあ最終確認ね。ヨーシャンクがタルネウを常にアクティブになるように直線軌道のライトニングで狙い続けて、その間により警戒が必要なカイさんの射撃を繰り返す。直線軌道の攻撃に慣らした後に私が弓で実を射抜く。これであってますよね?」

「問題ないはずだ。あるとすれば俺がタルネウが反応する射撃をどれだけできるかかな」

「まあ、あとは試行回数さえ増えていけばどこかでクリアできるだろう。それではそろそろいこうか」


 迎撃システムは理解した。攻略方法も確立した。必要な人員も揃っている。万事整ったことを確認して本格的な挑戦を行い、それでもそこからクリアまでには3時間を要した。もう2度と挑戦はしないぞ。

 楓の矢がタルネウの実を射抜き、ヨーシャンクがそれをキャッチした時には思わずガッツポーズが出たほどだ。それほどまでに辛い3時間だった。

 アイラに実を確保したことを伝え、マナウスに戻った時には俺達は疲れ切っていた。主に精神的な疲労だな。精密な作業を続けすぎた。

 ゾンビのような足取りでハンドメイドのギルドハウスに戻ると、そこにはアイラと錦が待っていた。なぜ錦がいるのかはわからないが、とても頭の回る状態ではない。通された応接室の椅子に力なく座り込み、報告を先に行うことにした。


「終わった。ようやく終わった。ていうか俺達は3人でこれだぞ、最初に採集した弓プレイヤーはどうやってクリアしたんだよ」

「おそらくだが、我々3人分の作業を1人で行ったのだろうな。アクティブが切れないように絶え間なく直線軌道の矢を放ち、どこかで曲線軌道の矢を混ぜる。人間業ではない」

「それを300メートル先から?私はどれだけ練習しても無理です…」

「なんていうか、お疲れさま。というかごめんなさい?」


 俺達の様子をみて思わず謝るアイラだが、正式に依頼を受けて行ったクエストだ。特に謝られる必要はない。ただし、問題が1つある。


「とりあえず依頼はこれで達成だけど、これって今後も安定供給は無理なんじゃないか?」

「それなんだけど、知り合いの農業系プレイヤーファーマーに依頼して栽培できないか頼もうと思ってるの。最近の挑戦で、モンスター素材からでも育成が出来ることが分かってきてるから」


 どうやらモンスター素材からの育成が成功すると、物によっては品質が下がるが安定供給が出来るようになるらしい。良かった。これ以上あいつとやり合う気にはなれないしな。

 アイラからクエスト達成報酬を受け取り、他のメンバーと合流するらしいヨーシャンクと楓とはここで解散する。俺も冒険者ギルドにでも顔を出そうかと立ち上がると、錦に声を掛けられた。


「そういえば富士から例の件がなかなか進まないと聞いているが、調子はどうだ?」

「それを聞くためにわざわざ顔を出したのか?正直言って八方塞がりだよ。仕方ないから中層をしらみつぶしに探してる」

「それなんだが、私も少し考えてみたんだ。しらみつぶしよりも行動パターンから探す方が良いのではと思ってな」


 それは俺も考えて試してみた。しかし、出会った2か所付近では結局出会えなかったのだ。それを伝えると錦はさらに話をつづけた。


「うむ、以前聞いた話を思い出していたのだが最初に出会ったとき、件の獣人は日常的に利用している木の上で日向ぼっこをしていて落ちたのだろう?ということはだ、あの付近に日向ぼっこに適した樹木はあるのではないか?もしそれが見つかれば後はそこを張っていればいいだろう」

「まじか、よくそんな以前の話を覚えてたな。俺もすっかり忘れてたよ。いや、ありがとう。試してみるよ」

「ああ、吉報を期待している」


 こうして多大な疲労と引き換えに、僅かな光明を得て俺ははた迷惑な友人(いぬっころ)探しを再開したのだった。

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