アイラの依頼 前
ちょっとビクビクしながらアクセスをみたら、思っていたよりもずっとたくさんの人が見れくれていて嬉しくて更新笑
後編と合わせて1話の予定が、中途半端に長かったので分割です。
藤との飲み会の翌日、VLOにインするとすぐにアイラからの連絡があった。アイラの方も時間があるらしく、話はハンドメイドのギルドホームで聞くことになった。楓とヨーシャンクは一足先にギルドホームに向かっているらしい。
ハンドメイドのギルドホームに着き、2階に上がる。受付の住人に話しかけるとすぐにアイラのいる部屋へと案内をしてくれた。部屋に入ると打ち合わせ用の個室といったシンプルな造りになっており、すでに3人は依頼の話を始めている。
「悪い、少し遅かったな」
「いや、俺達もちょうど来たばかりでな。ちょうどいいからもう一度話を聞き直すとしよう」
俺が空いている席に座ると、コホンと咳払いをしたアイラが3人を見回しながら話を始める。
「それでは、今日は集まってもらってありがとうございま…」
「アイラちゃん、いつもの口調でいいんだよ」
仕事モードなのか、丁寧に話し始めた瞬間に楓からつっこみが入った。まあ、今さら改まらないといけないような間柄でもないし俺達の誰が気にするでもない。思わず笑いが漏れるが、アイラは恥ずかしそうに笑うといつもの調子で話し始めた。
「あはは、最近は騎士団関係のクエストが多かったからつい。じゃあいつもの感じでお願いするね。実はお店のスイーツバリエーションを増やしたくてお菓子作りも力を入れてるんだけど、結構いい感じのタルトが出来そうなの。でも、上に乗せるフルーツにパッとしたものがなくて困ってて。でもね、最近採集されたタルネウの実っていう果物が合いそうでね、なんとかして取ってきてもらえないかなっていうのが今回の依頼だよ」
森での果物採集か。しかもまさかのタルネウ関連か。これでも俺はマナウスの森で活動しているプレイヤーだ。一応図書館で植生についても調べてるし、実際に見たこともある。が、あれって何とかなるものなのか。
「しかし、多くのプレイヤーが足を踏み入れているマナウスの森にある新食材という事は、少なからず採集の難易度が高いのだと思うが、この3人で問題なく達成できるものなのだろうか」
全員が抱いたであろう疑問を口にしたのはヨーシャンクだった。楓はアイラの新作スイーツを想像でもしたのか、すでに依頼を受ける気であるように見える。まあ、アイラの事だからさすがに達成困難な依頼を無茶振りなんてしてこないだろう。その辺は錦が上手いこと調整してくれているはずだ。
「その辺は任せて!ちゃんと錦さんに相談して決めたから。タルネウの実はそのまんまなんだけどタルネウの木の上にあるの。だけど木の表面がツルツルで登攀系のスキルでも登れなくてこれまで取れなかったみたいだよ。それが最近弓プレイヤーが苦労して射落として採集方法がわかったの」
「なるほど、それで遠距離攻撃手段のある俺達に声をかけたのか。とはいえ、あの木の実を射落とすってそのプレイヤーは何者だよ」
「そっか。カイさんはマナウスの森がホームみたいなものだし、タルネウの実について知ってるんだよね。それなら詳しくは道中に説明してもらおうかな」
アイラは明るく笑いながら俺に丸投げしてきた。あれについては事前の説明をどれだけ受けても、どんなものかは実際に見てもらわないとわからないから仕方ないか。まあ錦としてはこのメンバーでいけると判断したみたいだし、挑戦はしてみよう。
「とりあえずは見に行ってみるとしよう。しかし、だ。一応その弓使いが射落とした方法とやらを聞いておいてよいだろうか」
「そうだね。もしかしたら私達に向いてるかもしれないし」
ヨーシャンクと楓が話しているが、正直嫌な予感しかしない。だって、あのタルネウだし。2人はあの厄介さを知らないからな。
まっとうな方法ではないという意味では予想通りで、予想だにしない方法という意味では予想外。アイラの答えはとても短い一言で終わった。
「300メートル先からタルネウの実の付け根を狙撃したんだって」
その場を沈黙が支配する。あれ、それなら試行回数さえ稼げればいけるんじゃないかという表情をしている2人と絶望的な表情をしている俺。反応は対照的ではあるが、このままというわけにもいかない。タルネウの説明については道中で行う事にして、とりあえずは出発することにした。
タルネウはマナウスの森の中層に広く散らばるように存在している。とりあえずはかつてフォレストホースと戦った泉を経由してそこから中層に突入、タルネウを探すことにした。
俺の短い説明を受けて出発し、森に入った辺りでヨーシャンクから質問が出た。
「聞きたいのだが、タルネウはマナウスの森の中層に入ってから探すと言っていたな。だがカイはタルネウを知っているのだろう。それを探すというのは違和感があるのだが」
まあ、これについては道中に説明しようと思っていたし、疑問が出たのは丁度良い。まずは大前提として押さえておかないといけないことを知ってもらおう。
「ああ、中層に入ったら探さないといけない。タルネウってのはモンスターで、根っこが足になって、動くんだ。ついでにいうと、図書館で調べることも出来るんだけどな、あいつには別名がある。ダンシングツリーって言うんだよ」
「つまりは自立歩行して移動ができる樹状モンスターか。ダンシングツリーというのは常に踊っているということか?」
ヨーシャンクの質問になんと答えたものか。奴からしてみれば防衛行動に過ぎなくて、別に踊っているわけではないし。言葉を選びながら伝えていくことにした。誤解があればその都度訂正すればいいわけだしな。
「別に踊っているわけではないんだけどな。攻撃を自動で感知して蔦で迎撃してくるんだよ。で、その蔦は攻撃を捌くのに必要な数だけ出てきて個別に対応してくる。その時の奴の動きがまるで踊っているみたいだってんでダンシングツリーなんだと。でだ、あいつの幹はすべてコーティングされたようにつるつるで、ほとんどの攻撃を無効化するから討伐が出来ないときてる」
感心したように楓が頷く。その隣で難しい顔をしているのはヨーシャンクだ。まあ気持ちは俺も分かるんだけどな。正直、あれを何とかするなら蔦の総数を越える遠距離攻撃系プレイヤーを揃えた上での物量作戦くらいしか可能性がないと思っていた。それを3人でやるのは無理があるし、攻略の糸口を掴みかねているんだろう。同じことを考えたようで、ヨーシャンクが口を開いた。
「そうなると物量での攻略は不可能か。クエスト達成のヒントは唯一成功している長距離狙撃のプレイヤーの例だが、楓とカイはどう思う?」
「ええっと、私に300メートル先から狙えるかっていうことですか?それなら偶然当たらない限りは無理だと思いますけど、そういう意味では可能性はゼロではないですよね。カイさんはどうです?」
「俺か?一応銃のスペックだけで見るならぎりぎり狙えなくもないかな。ただし、敵が不規則に動き回ってる時点で超低確率の運ゲーってとこだな」
「ふむ。距離的には雷か炎系統の魔法でいけなくもないが、どう考えても現実的ではないな」
それからしばらくは沈黙中で森の中を進んでいった。そろそろ泉を越えて中層に入るあたりだ。いきなり見つかることはないだろうけど、遭遇するまでには方針くらいは固めておきたい。
ただ、3人の思いとは裏腹に効果的な方法が思い浮かばず時間だけが過ぎていく。そんな中、最初に対策を思いついたのは楓だった。
「そういえば、そのタルネウはどうやって私達の攻撃を感知しているのでしょうか」
攻撃の感知方法。つまりはタルネウの感知タイプは何ベースなのか。考えられるのは視覚と聴覚、熱源に空間認知系統ってところか。その辺と蔓の自動迎撃システムがセットってところだろう。そんな考えをとりあえず候補として挙げていく。一通り上げると、ヨーシャンクが可能性を絞り始めた。
「まずは視覚だが、これなら長距離かつ物陰からの一撃が有効だな。実際の成功例から考えてもその可能性はある。とはいえこの方法が可能なら必要なのは隠密性能と遠距離攻撃性能の両立くらいだ。だとしたらどうしてこれまで成功例がでなかったのかというのが疑問だな。感知タイプがなんであれ必ず攻略方法は浮かぶのだが、どれも一度はプレイヤーが試しそうなものばかりだな」
「蔦ごとに違う感知タイプが積まれてるとかな。それならそもそも詰むか」
話し合った結果、とりあえずは身を隠しての長距離攻撃を試し、その結果から改善点を探すこととなった。そうして探索を続けること30分。ようやくお目当てのタルネウを見つけることが出来た。初めて実物を見た二人は根元からゆっくりと視線を上げていき、ちょうど木の実がなっている部分で止まる。たぶん、おれが最初に感じたのと同じような感想を持ってるんだろうな。ひととおり姿を眺めた二人は静かに後退を始めた。
「いや、なんというか、これは無理じゃないか?」
「そうですね。諦めても仕方ないかと思うのですけど」
わかる。その気持ちは痛いほどよくわかる。二本に分かれた根、そこから伸びる10メートル程の幹。更に上は細かく枝が広がり若々しい緑の葉が茂っている。そして葉の合間から垂れ下がる蔦、これがどう見ても15本はくだらない数がある。幹は鉱物で出来ているのかと思うような光沢を放っていた。
「とりあえず、あいつの位置を把握しながら距離をとるぞ。とりあえずは150メートルくらいから狙ってみよう」
タルネウを見失わないようにしながら移動して、距離を取ってから誰が攻撃をするかじゃんけんをした。結果、負けたのは楓だ。当たるだろうかと不安そうにしながらも弓を構える。狙いをつけると勢いよく矢が放たれた。