天ぷらの美味しい季節の飲み屋にて
ほぼ2年…正直設定をほぼ忘れかけている自分がいる…
にぎやかな酒席。そこは明るく、多くの人で賑わっている。今日も例に漏れず、藤に呼ばれて集まることになっていた。
「それにしてもよ、今度のイベントは期間だけ出てるのに、いつになったら詳細でるんだろうな」
ぼやきながらビールを呷っている藤だが、気持ちは分からなくはない。つい先日、次回のイベントの日程が公式HP上にアップされたのだが、そこに載っていたのはイベントの日程と詳細はVLO内にて公表という短い内容のみ。掲示板ではイベントの内容予想を巡って色々と盛り上がっている。
「俺は今回こそは大規模戦闘系だと思うんだけど海はどう思う?」
「どうだろうな。というか大規模戦闘ってことはレイドになるのか?大型のモンスターなら狙いやすいから良いけど、プレイヤーが取りついたら誤射が恐いな」
「気になるのはそこかよ」
笑いながら突っ込まれるが、俺にとっては大切なことだ。銃を代えてから射撃の正確性はかなり上がったけど、それでも百発百中には程遠い。銃は火力が高い分その辺のリスクコントロールを怠ると大惨事になってしまうし。
「レイドも楽しそうではあるんだけどよ、前回の探索からの防衛イベントって覚えてるか?」
随分と懐かしい話しを振られたな。あのイベントはとても楽しめたし、かなりはっきりと記憶に残っている。
「そりゃ覚えてるけど、それがどうしたんだよ」
「掲示板の予想スレでの一番人気はあれの進化版って感じなんだよ。あの時は同じ場所にいても違うパーティーの戦闘には干渉できなかっただろ?あれの干渉が可能になるやつ」
そのスレについては少しだけ目を通したので知らないわけでもない。最も多いのは騎士団が敵勢力を見付けてそこに攻め込むってやつだったか。拠点攻略になるのか、フィールドでの乱戦か。プレイヤーの中には来たるイベントに向けて準備を進めているところもかなりあるらしい。
「可能性はあると思うけど、正直そうなったとして、俺がどう立ち回るのかイメージが出来ないんだが」
「俺もそうだよ。使っていいアーツとそうじゃないアーツとかを考えながら戦わないと周りに迷惑かけるとか書いてあったし、ある程度の制限下での戦闘とか燃えるよな」
そっちか。まあ藤がイベントに燃えるのはいつもの事だし、なんだかんだセントエルモはイベント好きが多いしな。また無茶をしながら楽しむんだろう。
「でよ、次のイベントがどんな形になるかはわからないからあれだが、海はまたソロでの参加なのか?」
「そうだなぁ、イベントの形式にもよるけど周りのギルドも人数揃ってきてるし多分ソロかな。もし本当に多数対多数の戦争系なら銃部隊とかは考えてるよ。隠密系プレイヤーと共闘して偵察任務とかもあるかもしれないから臨時パーティーは積極的に参加するかも」
頷きながら藤はジョッキに手を伸ばし、残りを一気に飲み干す。俺達はどうやって参加しようかなどと悩みながら近くを通った店員を呼び止めた。
「すいませーん!秋野菜の天ぷら盛り合わせと激辛モツ煮にビールを2つ!」
「相変わらず辛い物が好きなんだな…」
それからも暫くはイベントの話をしていたが、ふと気づいたように藤が話題を変えてきた。
「そういや、最近はプレイスタイルを変えてるんだよな。あれからはどうなんだよ」
「う~ん、正直まだ芳しくはないな。結局はそれに合わせて装備更新が必要になったし、いくつかのスキルをとって育ててる最中だし。イベントまでに形にしたいとは思ってる」
そう。あのプレイヤーイベントでリュドミラとうっかり八兵衛に指摘されたこと。猟師プレイをこれからも続けていく上で、理想の猟師を実現するためにどんなビルドにしていくのか。一応の形は決めてあり、今はその実現に向けてスキルを育てているところだった。
藤は俺が新しいスキルのレベリングを始めたばかりという事を知っている。だからだろうか、にやにやと笑いながら続ける。
「形になったら見せてもらうつもりだけどよ。戦闘がどんどん地味になってると思うんだが」
「そもそも猟師ってそんな目立つものじゃないだろ」
その後もカメレオンベアを討伐した時のトラップをみた攻略組のプレイヤーが大規模戦闘でトラップを導入しよう考えていること。セントエルモの最近の活動の様子や到達したばかりの都市の様子など話は多岐にわたった。
新しい都市の近くにある森の話が出た時、藤は何かを思い出したような表情になった。森関連の話をしていて気づいたことみたいだし、あれだろうか。
「あれから全然進展した話しを聞いてないんだけど、コボルトの集落は見つかったのか?」
そう、カメレオンベアの討伐を終えた後、俺はすぐにコボルト集落の捜索を始めていた。発端はイベントで知り合ったコボルト族のNPCであるウェンバーと偶然遭遇したことにある。仲良くなったことは良かったものの、遊びに来てと渡されたメモが地図の役割をまったくといっていい程に果たしていなかったのだ。
かつてウェンバーから受け取った全く分からないメモ。これに頼ることは早々に放棄し、図書館と森を行ったり来たりしながら捜索するも成果はまったくなし。正直詰んでるんじゃないかと思っている。
「てな感じでさ、はっきり言って手がかりなし。森の中層から深層辺りじゃないかと当たりはつけてるんだけど、リゼル大木ってのが中層以降ならそれなりにあるみたいでさ。しらみつぶしに探してみたりもしたけど、あの辺のモンスターは強いからリスクしかないっていう…」
「せっかくの亜人種系のサブイベだし、頑張って見つけてほしいとこではあるけどな。まああのメモで探し出せってのは無理があるよな」
「そうなんだよ。一応今後も探していくけど、最悪見つからなくても仕方ないと思ってる」
藤は笑いながら天ぷらをつまんでいる。まあそう簡単にはいかないことは最初からわかっていたんだけど、正直ここまでの難易度があるとは思ってもいなかった。
「実際のところ進捗状況っていうか、どのくらいの手がかりがあるんだ?」
「最初の情報はメモ帳にあったリゼル大木から日の昇る方向、つまりは東に村があるということ。あとは推論になるけど2度目に遭遇した時の地理や生息モンスターへの精通度合いから、村の場所がマナウスの森の中層から深層だと考えられること。それを手がかりに該当エリアの詳細な地図とリゼル大木の分布図を見比べて東側からしらみつぶしに探してるとこ」
「で、一切成果なしってか。他人事だから良いけど、自分でやっててそれなら投げてしまいそうだな」
言いたい放題言ってくれる。とはいえ、正直この方法で見つかる気はあんまりしていない。他にも森の食材採集がしやすい場所や風見鶏の生息域をリストアップし、それをリゼル大木ある地域と比べて可能性の高いところから探す案もあるけど期待感が持てないところだ。
「まあ俺の話は置いとくとしてさ、そっちは亜人種系の遭遇はないのか?」
「俺達は都市とか町でのクエスト受けて、クリアして戻るが多いからな。遭遇条件は未だにわかってないけど、少なくともそれなりの時間を外で過ごしてないと遭遇してないだろう。それなら俺達は多分遭遇しないんじゃないかってヨーシャンクも言ってたな。」
「まあ、クエストと対象モンスターがいるエリアを往復するだけで出会えるなら、ここまで希少性は高くはないか」
そろそろ良い時間にもなってきた。会計を済ませて外に出る。また次もよろしくと話しながら地下鉄までの道を歩いていると藤からこんな話を聞いた。
「昨日うちの楓とヨーシャンクにハンドメイドのアイラから名指しで依頼があってな。話を聞いたら内容的にカイにも適性があるらしい。昨日はインしてなかったから話せなかったみたいだし、次にインしたらアイラから依頼の話があると思うぞ」
アイラからの依頼。最近は風見鶏の家畜化にも成功したし、肉を卸す以外は連絡を取っていなかった。果たしてどんな依頼なのか。次にインするのが楽しみだ。