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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
6章 プレイヤーイベントと中級猟師
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迷彩を捉えて


 ≪イベント:カメレオンベアを発見せよ!≫が開始されました。


 いつものログが流れる。すると、森の入り口に光の壁のようなものが出現する。それを目にした瞬間、最初にしたのは弾丸の装填だった。装填を終えると銃を肩にかける。

 一つ、深呼吸をすると静かに壁を通り抜けて森へと踏み込んだ。これで、森としては普段とまったく同じ場所、それでいて他のモンスターだけがいない特殊なフィールドに通されることになる。唯一の違いがカメレオンベア以外のモンスターがいるかどうかのみ。まさかと思って事前に仕掛けた罠が残っていた時に、初めてこいつを狩る未来図を描くことが出来た。俺は最初にすこしだけ寄り道をして、そこに背負箱を置いていく。これで準備は整った。

 最初の関門、カメレオンベアを見つけることだが、カメレオンベアはこちらの匂いや音に敏感で、近づいたことを察知するとあっという間に逃げてしまう。まずは、見つからずに見つける、それが大切だ。なにせ先に見つかるとその時点でイベントクエストは失敗。またハヤシと戦わないといけなくなる。


 森の木々の合間を抜けて、拓けた場所よりは涼しめの風が吹き抜ける、森の奥から平原へと。これで、匂いで感づかれる可能性が随分低くなった。気配探知・集中・隠密、本来なら長時間の併用を避けてきたスキルをフル活用し、自身の五感すらフル動員して森の中を進んでいく。柔らかな地面を踏みしめる音、木の葉と装備が擦れる音、手入れが行き届き鈍く光る銃身の輝き。それ以外にもあらゆる要素に気を巡らして進んでいく。

 慎重に森を進むこと数分、何も変化のないはずの風景で視界の端に一瞬の揺らめきを見たように感じた。それは20メートルほど離れた大きめの藪の合間から見える木の幹だ。そちらを注視しながら進むと、今度はパキリと小枝を踏む音が聞こえる。

 離れた位置の藪の先での発見、これはかなりのアドバンテージになる。あとはここからどうやってルートに乗せるかだ。これまでのお試しとは異なる、本番だからこその緊張感が汗となって頬を伝った。

 藪の近くまで忍び寄って幹の方を見ていくと、今度は明確に空間に透明のペイントをぶちまけたように風景が歪んだ。


 ≪イベント:カメレオンベアを発見せよ!≫をクリアしました。


 ≪イベント:カメレオンベアを討伐せよ!≫が開始されました。


 アナウンスとともに竹筒に手を突き込み、取り出したアイテムを投げつける。木の幹に向かって飛んだそれは直前で破裂し、辺りに赤い液体を撒き散らした。それは空中に斑模様を浮かび上がらせる。

 そういえば、かつてこんな感じで最初にペイントを仕掛ける狩猟ゲームがあったってのをレトロゲー板で見たことがある。その時の情報曰く飛んでいれば閃光玉が特に有効らしいけど、よく考えたらあれをこっち向いたタイミングで完璧に当てるのって難易度が高すぎると思うんだが。


「グルルルルゥ」


 カメレオンベアは液体を落とそうと腕で体中を拭うが、粘り気の強い液体はどんどんとのびて全身のシルエットを現していった。隙をみてもう一つのペイント玉を投げつけ、木陰に隠れる。この様子だとまだ見つかってはいないようだ。

 ここからが戦闘の始まり。静かに銃をホルダーから取り出し、狙いを定める。トリガーを絞るように握り込むと、ペイントで斑に染まった体の中心を銃弾が穿った。それでもカメレオンベアは地面を転がることなく、低く唸り声を上げる。ゆっくりと顔を上げ、こちらを睨みつけた。


「相変わらず、タフすぎるだろ」


 低く呟くと藪から身を離す。ここからはいかに攻撃を受けずに戦うかが大切になる。音を出さないように静かに後退を始めるが、さすがに一撃を入れると見つかってしまう。低い唸り声を上げながら、ゆったりとした動きで追ってくる。この段階ではまだ誰だこいつはくらいの認識しかされていない。動きはゆっくりとしているが、かといってこのまま放っておくと逃げてしまうから、すぐに安全を確保して射撃態勢に入る。

 2発目の銃弾を撃ち込むと、明らかにこれまでとは異なる、痛みを表現するかのような動きを見せた。これでようやく第一段階ってところか。これまではゆっくりとした動きで、歩きながらこちらを追っていたカメレオンベアが咆哮を上げながら走って追ってくる。


「ガァァアアオゥ!」


 その姿こそ見えないものの、赤いペイントが揺れ動き、腕を振り回し、噛みつこうとしてくる。その腕が大きな木を抉り、木に深々と1本の爪痕を残す。

 森の中では全力で走っても思ったような速さでは動けない。しかし、相手はここで生まれ育った生粋のモンスター。逃げることに全力を出してなお、距離が縮められている。


「それでも、方法はなくはないんだよっ」


 敵の攻撃の瞬間は少しの間移動が止まる。その隙を狙って距離を稼ぎ、振り向きざまに射撃を行う。牽制にもなってはいないが、当たればラッキー程度のものだ。簡単な威嚇射撃を続けながらカメレオンベアをあらかじめ決めてあるポイントに誘導していく。よし、ここだな。

 突然、カメレオンベアの圧力が消え、振り向くと四肢が一か所にまとまっていた。跳び込み攻撃の予備動作だ。跳ぶための力がたまる直前を見計らい、用意していたトラップを自らの足で踏み抜く。足から伝わる衝撃とともに、全身に感じるのは浮遊感。強力なバネ仕掛けの板が俺の体を空中に放り出す。すぐに手近な枝を掴んで体を乗せる。カメレオンベアは俺を捕えることなく周囲を見回している。

 銃を構えて素早く一撃を与え、こちらの位置に気付いたところでさらにもう一撃。痛みから頭を振るが、それでもそこまでのダメージにはなっていないらしく、お返しとばかりに俺が飛び乗った木に登り始めた。


「リアルの熊も木登り上手はだって聞くけど、こいつの体格でも難なく登れるってのが本当に厄介極まりないっての」


 そう呟きながら用意するのはこれだ。こっちを向く瞬間に使うのが難しいなら、確実にこっちを向いている状況を作り出せばいいだけの事。紐を引き抜いて着火した瞬間に手から落ちた玉は、体格を物ともせずに木を登るカメレオンベアの顔面で炸裂し、強力な閃光を放った。影響を受けないように上を向いて目を瞑る間に、悲鳴のような鳴き声とともにその巨体が地面にたたきつけられた重低音が響く。

 閃光が収まると、すぐに銃を向けて攻撃に移る。間にリロードを挟みながらも6発の銃弾を撃ち込むことができた。転がっていたカメレオンベアが起き上がりそうになるとすぐに木から木へ、太い枝を伝って移動していく。

 そう、今回最も悩んだことの1つ、それは戦場の指定だった。徹底して行った地形の調査で、すべての条件を満たしたからこそ選ばれた場所。ここは丁度良い高さに俺が乗れるくらいの太い枝が連なっているエリアだ。本来は登攀系のスキルがなければ登れないが、枝の上に立ってさえしまえば特にスキルがなくても移動に不自由はない。気を抜くと落ちそうにはなるけども。

 そうして安全な距離を保ちながら銃弾を浴びせていく。ただし、相手も大したもので、数発の銃弾を受けると今度は上部からの射線を予測して攻撃をかわし始める。これまで何度も分析の為に戦ってきて分かったことだが、カメレオンベアには恐らく学習能力がある。当然すべての戦闘を学習して次回は同じ戦法が効かないという類のものではない。そんなことされたら挑戦するごとに難易度が上がってしまう。

 カメレオンベアのもつ学習能力、それは戦闘開始から終了までの1戦闘の間のみ、相手が使ってきた戦法を学び対応しようとする、というものだ。だから、全く同じトラップは使えない。少しずつ変えていき、対応されるぎりぎりを狙っていかなければならない。だからこその創意工夫だ。


「グウルルル」


 唸りながらも、助走をしっかりとおこなって一気に近くの木を駆けあがる。今度は閃光玉を使う間もなく樹上に上がってきた。ペイントによって赤く染まった顔が獰猛に笑ったようにも見える。こいつはこれで対等になったと思っているんだろう。だとすれば甘いにもほどがある。お前が登ってくるであろう木についても予測はついている。

 木に登ったことで本来の持ち味である速度を犠牲にしつつも、それでいてなお俺との距離を詰めてくる。

 俺は反撃をやめて逃げることに専念していた。樹上で攻撃を喰らい、地面に叩き落とされるとその衝撃で気絶のバットステータスがつくことがあるからだ。丁寧さと慎重さを意識しながら次のポイントへと誘導していった。


「さ、次はこれだ」


 俺は木の枝を踏みしめながら走り抜けていく。同じ場所を走ったカメレオンベアだったが、ある枝を踏んだ瞬間に、その枝は木の裂ける音を響かせながら折れた。カメレオンベアは両手で折れていない枝を掴む。樹上で枝にぶら下がるカメレオンベアとそれを見下ろす俺。なんともシュールな絵面になってしまった。当然このチャンスを見逃すなんてことはしない。

 この状況下では躱しようのない閃光玉が再度瞬き、カメレオンベアが地面へと叩きつけられる。落下ダメージもそうだが、ここで落とすことを念頭に仕掛けてあった剣山が奴の体を貫いているはずだ。それなりの範囲に仕掛けてあるから、転がりまわることでどんどんダメージが増えていく仕掛けになっている。

 落下ダメージと剣山のコンボに苦しんでいる隙に6発の銃弾を叩き込んだところで、カメレオンベアの様子に変化が見られた。もがいていたカメレオンベアの赤く染まった毛が逆立ったのだ。そのままこれまでとは異なる咆哮がこだまする。そして、全身にこびりついていたペイントが一瞬で弾け飛ぶ。

 咆哮に衝撃ダメージがあるからか、立っている枝が細かく振動している。咆哮が収まるのをまってすぐにペイント玉を次々と投げつける。ほとんどは避けられたが、2発は背中と腕に当たっていた。しかし、こんどは敢えてペイントを落とそうとはしない。こっちについても学習しているな。まあ、今は腕のペイントがあれば事足りる。


「予定通り第2フェーズを開始、樹上の戦いはここまでだな」


 カメレオンベアに背を向けて走り出すと枝に絡ませてあったロープを解く。その僅かな時間にカメレオンベアは驚くほどの速さで木を登っていた。すぐにでも俺に飛びかかってこようとしているが、先程の経験がその足を鈍らせる。その隙に俺はロープをしっかりと握りながら枝を蹴り空中へと飛び出した。


「あああぁぁぁああぁぁああああぁぁぁ!」


 俺の中ではお約束となっているターザンロープの叫び声もばっちりにかなりの速度で空中を流れていく。一足遅れて俺を捕まえようとカメレオンベアも飛び出してくるが、奮闘虚しく地面に着地していた。

 一定の速度を越えると呼吸が苦しくなるような感覚がありHPが徐々に減っていく。その後に蜘蛛糸製の巨大なネットにぶつかった。柔らかに受け止められた後は、転がりながら地面へと向かう。地面に着くとすぐに近くに張ってあったロープに向けてナイフを投げつける。

 カメレオンベアは動きの止まった今をチャンスと見たのか、こちらに向かって駆けだしてきた。跳び込みながら振るわれた腕は地面から突然飛び出してきた鋼鉄の板に阻まれ、激突の衝撃音が響く。反対側から見てもわかるほどにくっきりと、2本の爪痕が見える。そして一瞬の間を置いて頭上から鋼鉄の檻が降ってきた。こちらも負けじと轟音を響かせている。

 何が起きたのかと動きを止めた隙にペイント玉を4個連続して投げつけた。


「いくらなんでもこの隙をケアしないとかないだろ」


 そう言って再び銃を構える。鉄の檻はカメレオンベアの腕がぎりぎり通るくらいの間隔を空けてある。鉄の壁についても一撃を止められればいいだけだったので、かなりの大きさの穴をいくつもあけてある。つまり、今の俺にとってはそこまでの障害にはならない。

 乾いた発砲音が断続的に響く。撃って次弾を装填し、残弾がなくなったらリロードを行う。滑らかに行われる射撃は14発に及んだ。外したのは3発、十分すぎる戦果だ。鋼鉄の檻の様子を見ているとそろそろ耐久値が限界に近そうなので、欲張らずに撤退を始める。相当の距離をとったところで、檻の砕ける音が遠くで聞こえる。平地での速度差は言わずもがな、この程度ではすぐに詰められるだろう。正面切っての対戦とならないように次のポイントへと急ぐ。


「グゥルルゥガアアアアア!」


 背後でカメレオンべアの声が聞こえ、風属性をもったブレスが飛んでくる。直前のモーションと一緒に聞こえる声を頼りに振り返ることなく横にずれて方向を外すと、すぐにポイントが見えてきた。ポイントに到着すると足を止め、カメレオンベアの方を向いた。

 これまでは逃げながら戦っていた獲物が自信ありそうに立っていることで警戒心を掻き立てられたのだろう。カメレオンベアは奴にとっての射程距離である10メートルぎりぎりの所で止まる。すべての脚を地につけ、いつでも跳びだせるようにしている。それでも中々動き出さないのはこれまでのトラップに嵌められ続けた経験からのはず。とてもいい場所で止まってくれているし、いい感じだ。


「来ないなら、こっちから行くぞ」


 俺は右脚を踏み出した。地面を踏みしめるとカチリと何かが作動する音がする。続いて左足を踏み出す。今度は足に糸が掛かる感覚があり、何かから引き抜かれた。さらにもう一歩右脚を踏み出してそこにMPを流し込むと地面がうっすらと光る。トラップがすべて発動したのが分かる。そしてそれはカメレオンベアにも伝わったはずだ。周囲の様子を5感を駆使して探っているのが分かる。

 すると、カメレオンベアの左にあった茂みがガサリと音を立てた。次いで刃玉が飛び出し、炸裂する。元から大した威力ではないけど、反射的に飛び退こうとするカメレオンベア。しかし、その動きを咎めるように背後の茂みからも枝をかき分けるような音が鳴った。跳びだしたのは少量の配合にした煙玉だ。カメレオンベアの視線を悪くする程度の煙がまう。飛び退けば視界の悪い煙の中という事もあって足が止まる。

 いや、逆に俺を攻撃することにしたようだ。跳びだそうとした屈んだ時に森の中から次々と罠が作動したかのような音が鳴り、跳びだす動きが鈍った。迷いが多ければ多いほど、注意が逸れるほどこっちのトラップに掛かりやすくなる。最後に発動した罠は、俺の背後から細い矢が飛んでいく。余りにもストレートな発動だが、動きの鈍った今なら当たる。3本の矢がすべて命中し、すぐにカメレオンベアは震えだした。


≪カメレオンベア  状態:麻痺≫


 最後の矢に塗ってあったのは麻痺毒だ。3本とも刺さったのでかなりの時間麻痺していてくれるだろう。すかさず攻撃に移り、今度は7発を撃ち込む。リロードを終わらせると追撃をやめて再び距離をとった。先に他の準備を済ませていく。終わったころには麻痺も解けていたようで、怒りの声がここまで届いている。  

 これで、今回仕掛けておいたほどんどのトラップを消費したことになる。大きなトラップはあと2つ、これで仕留められなければゲームオーバーだな。今回は決戦のポイントに向けて1本の蛇行するルートを作っていた。ここからはこれまでとは趣が異なっている。相手が知らない、こっち側の世界に引き込むための疑似フィールドだ。


「よし、ここだな」


ちなみに今回はは特殊フィールドでの戦闘になっています。

①実際のフィールド情報をスキャンして同じ状況のフィールドを作り出してそこで戦闘を開始する

②事前に仕掛けていた罠などのアイテム類は自分か関連する相手(今回は依頼してるので該当)が設置したものは特殊フィールドに引き継がれる

ですね。わりと強引な設定にしてしまいましたが、ソロプレイヤーしか挑めないクエストになるので救済措置だと思って頂ければと思います笑

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >装填を終えると銃をホルスターにしまう。 主人公の銃はストックがついてる猟銃かライフル銃の様なイメージだったので上記の表現だと違和感があります。ここだけ読むと拳銃を使っているように読…
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