表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
6章 プレイヤーイベントと中級猟師
64/102

見落としていたこと


「やっと見つけたわ。今日こそ勝たせてもらうわよ、変態ござる」

「いやそれ、拙者の名前の名残すらござら…」

「いいから撃たれなさい」


 リュドミラは八兵衛を見付けたと思うと一方的に宣告し、返事を待つことなく弾丸を撃ち込んだ。弾丸はバラバラと音をたて、八兵衛がいた近くの木に当たっている。八兵衛は直前に木々を上手く使って躱したようだ。突然の攻撃の対応としては信じられない反応速度だな。

 とはいえ、八兵衛の回避能力も十分驚きではあるんだが、それよりも気になるのはリュドミラが持っている銃についてだ。正直あれはこのルールに置いては禁じ手に近い選択のような気がする。だってあれ、着弾音からして間違いなくショットガンだぞ。通常戦闘ならまだダメージが低すぎて実戦レベルでは使えないはずだけど、3回当てればいいだけのこの勝負なら最凶最悪の武器といえる。

 俺も立ち位置を考えないと被弾してしまいそうだ。移動しようと木の陰からから出た瞬間、2つの声が重なった。


「出ないで!」

「甘いでござる」


 踏み出した足に衝撃と違和感があり、確認するとライフが一つ減っている。すぐに木陰に戻るが、さすがにおかしい。八兵衛は今、リュドミラを見ていた。俺は八兵衛を挟んでリュドミラの反対にいるわけだ。この状態でどうやって俺の動きに気付いたのか。


「まだ死んでないようね。それとこんなんでも八兵衛は攻略組よ。いくらなんでも飛び出しがお粗末すぎよ」


 リュドミラの言う通りだな。攻略組同士が対峙したことで、こっちに構う余裕がないと思ってしまった。油断以外の何物でもないな。


「すまん。正直この状況で気付くのは無理だと油断していた」

「私もそうだけど、普通ならカイみたいに自分のスキル構成や戦法を簡単には晒したりはしないわ。したとしても切り札は伏せておくものよ」

「ごもっともだ。さすがに初めて攻略組を相手にしたから精神的に消耗したのかなと言い訳してみる」

「楽しそうでござるな。拙者も混ぜてほしいで候」


 様子を見ようと顔を出そうとすると木の幹に弾丸のめり込む音がする。いったい何を根拠に俺の動きを察しているんだ。鳥のように一定のエリアを俯瞰で見れるようなスキルでも持っているのだろうか。いや、それなら枝や葉が邪魔でこのフィールドでは視界を確保できないはずだ。それならまだ透視とかの方が可能性があるけど、あいつこっち見てないしな。

 そんな答えの出ない疑問が頭の中を巡る。今はこんなことを考えている余裕はないはずなんだけど、さっきの言い訳もあながち外れてはいないのかもしれない。そんな思考を断ち切ったのはリュドミラの言葉だった。


「決めた。カイ、変態妖怪ござる退治に付き合いなさい」

「それは構わないけど、策はあるのか?」

「あるわ。私とござるの力の差はそこまで大きくないもの。あとはカイがサポートしてくれればそれでいいわ。出来れば妖怪の注意を分散させてくれれば最高ね。あぁ、きっちり合わせてみせるから方法は任せるわよ」


 それは策とは言わない。そう伝えようとしたが、話を聞いていた八兵衛の雰囲気が明らかに変わった。これまでのような、余裕を持って俺の出方を見ていたような気の抜けた表情ではなく、引き締まった表情をしている。


「それは困ったで候。さすがにリュドミラ殿にカイ殿を合わせて戦うのは厳しいでござるし、1人には退場願うで候」


 リュドミラがどれだけ攻撃を受けているのかはわからない。でも、どっちか1人を落とすならたとえ俺が万全でも俺を狙うだろう。悔しいが今回八兵衛と戦う事で、攻略組とはそれだけの差があることがわかってしまった。だからこそ、今すぐ埋まらないその差は工夫で何とかするしかない。

 背負箱を下ろすと棚を引き出しアイテムを取り出す。煙玉、閃光玉だけでなく、予備で準備していたアイテムを竹筒に移していく。それが終わると刃玉の着火紐を引き抜いて八兵衛の足元に放り投げた。今度は撃ち抜かれることなく炸裂する。

 刃は八兵衛を捕えることなく躱されてはいるが、気にせずに魔法石を滑らせて銃を構える。爆発は八兵衛の右側を塞ぐように発動し、銃弾は左を抜けていくように撃ち込んだ。これは間違いなく当たらないが、重要なことはそこじゃない。

 今度は八兵衛の見せた隙を見逃すはずのない攻略組トッププレイヤーがいる。リュドミラは躱す動きに合わせるかのように距離を詰め、散弾銃の引き金を引いた。


「本当に、これは厳しいでござるな」


 目の前から消えたかと思うほどの速度で3メートルくらいの距離を左に移動した八兵衛だったが、その肩には銃痕のように赤くエフェクトが光っていた。即興にしては良い連携だと思っていたが、あの散弾を浴びて被弾が1発ってどういうことだよ。


「まったく、嫌になるくらいの即断即決ね。実は脳みそがなくて反射だけで生きてるんじゃないの」

「拙者には褒め言葉でござるよ」

「というより八兵衛、前に聞いた時に自分にはキックバードいるから敏捷性はいらないって言ってなかったか?今のなんだよ」

「おんや?そんなこと言ったでござろうか。まあ最前線じゃこれはそんなに役に立たないし、いつもとはビルドも違うでござるからなぁ」


 話していた八兵衛が突然バックステップを踏んだ。それはさっきの横っ飛びのような速さはないが、それでも相当の速さで下がっていく。俺のいる方向に向かって。リュドミラからは目を離せないという事なんだろう。

 なんとか木で射線を遮ろうと動いたが、俺が全力で走る早さよりも八兵衛のバックステップの方が早い。みるみる追い詰められてしまった。


「先に落ちてもらうで候」


 撃たれる、そう感じるよりも先に八兵衛は距離を取っていた。立っていた場所には二つの弾痕が残っている。俺の気配感知には何も引っ掛かっていなかったんだけど、木陰からは2人のプレイヤーが姿を現した。


「おいおい、あれが当たらないのはおかしいだろう」

「知るかよ。それより誰から狙うかな」


 ここにきて、ようやく他のプレイヤーが集まってきたようだ。あらためて集中を併用して周囲を探ってみると、いくつか気配感知に引っ掛かるプレイヤーもいる。ここからは多数が入り乱れる戦場になるな。

 身を低く、木々を盾にしてプレイヤーの密集地を抜ける。その間に投げたり置いていったりと色々なアイテムを仕掛けていった。

 自分で呼んでおいて逃げるなんてと思わなくはないが、なにせ俺のライフは残り1しかないんだ。中心にいて流れ弾を食らうなんて笑い話にもならない。最初から戦闘中のプレイヤーを横から狙う漁夫の利作戦を考えていたわけだし。


「さて、ここまで来れば一安心。後はどのタイミングで発動するかだな」


 間断なく銃声が響き、完全な乱戦と化した戦場ではタイミングもなにもないような気はする。でも、せっかくなら見極めて使いたいのが人情ってものだろう。

 様子を窺っていると、八兵衛とリュドミラの戦いが佳境を迎えつつあるようだった。肩で息をしているのはリュドミラ。それに対して八兵衛はいつもの表情を崩さずに飄々としている。

 乱戦でうやむやにはなったが一度は共闘をした相手だし、リュドミラは俺の射撃の師匠でもある。気付けば、なんとなく助けてみようかという気になっていた。


「それにしても、模擬戦じゃなかったらこれって何万リールの損失なんだろうな」


 そんなことを独り言のように呟きながら、設置した魔法石に魔力を通していく。魔力に反応して薄く光った魔法石は、次々と大きな石柱を生み出していった。その数12本、1人では抱えられないほどの太さだ。

 その石柱を少しでも有利に利用しようと考えたのだろう。後続がないとわかると、細い木々では身を隠せなくなったプレイヤー数人が動き出した。石柱で身を守りながら戦っている。


「次はこれだ」


 石柱のあとに発動させたのは、足元に低く広がる火魔法のフレイムを再現した魔法石だ。これは石柱で作ったフィールドを囲うように発生させてある。攻撃の為ではなく、ばら撒いたアイテムを起動させるため為の一手。

 魔法石の火で着火した玉は次々と爆ぜた。煙と光、音と刃をまき散らしている。

 突然の出来事にプレイヤーは石柱を背にして身を守ったり、これを機に攻勢に出たりと様々だ。俺もこの機を逃すつもりはなく、ここでもう一人くらい仕留めたいと気配感知を使いながら照準を合わせた。


≪合計3発の被弾を確認しました。バトルフィールドから退出します≫


 撃つよりも早く、アナウンスが流れていた。体が光の粒となる前に確認すると、心臓部分に赤いエフェクトが輝いている。周囲を見回しても、そこに俺に銃を向けている人影は見当たらなかった。





「それじゃあ、今回の成功を記念して、乾杯!」


 打ち鳴らしたゴブレットにはなみなみと酒が注がれ、それを全員が美味そうに飲んでいる。俺はそこに混じり、今日のプレイヤーイベントの成功を一緒に祝っていた。


「さて、今回はカイ殿には本当に世話になったでござる。なんせ拙者らはいまだ学生の身、あのような企画立案や運営のノウハウはござらん。本当に助かったで候」

「本当ね。これまでの運営がどれだけ杜撰だったのかが改めて分かったわ。ありがとう」


 俺は座敷の端で静かに飲もうとしていたのだが、八兵衛とリュドミラはそれを許すつもりがなかったらしい。2人の座っていた中央の席へと強制召喚されていた。実はこの乾杯は2回目だったりする。遅れてきたプレイヤーと手伝ってくれた住人も合流し、再度の乾杯となっていたのだ。

 賑やかな酒席、プレイヤー同士だけでない住人との交流。みんな思い思いに楽しんでいるようだった。そして会話は弾み、いつしか最後のPvPの話題となっていく。座敷では数グループに別れて気になるプレイヤーの動きについて話していた。


「私は外から観戦していたからわかりましたけど、あれはカイさんのトラップでしたよね。それにしては最後に攻撃する前に落ちてしまったのが気になるのですけど」

「あれは俺もよくわからないんだ。後で映像がまとまったら誰にやられたのか確認しようとは思うんだけど」


 俺も例に漏れず、近くにいた住人とPvPの話をしていた。すると、そこに赤ら顔の酔いどれ侍が割り込んでくる。


「それはぁ、撃ったのは拙者れあります。うむぅ、遠くから狙われている様な気がしてお見舞いしたのでござるのです」

「そうか。いや、それよりも誰だ八兵衛に酒を飲ませたのは。責任をとって回収してくれ」

「無理よ。それにこんなに弱いなんて私も思ってなかったのよ」


 リュドミラの方は顔色一つ変えずに手酌で酒を飲み続けている。こっちは相当な酒豪のようだ。住人が八兵衛に水を勧めるのを尻目に、今のうちに確認しておきたいことを聞くことにした。


「本人があんなだし、このままじゃ消化不良になりそうだから聞いてもいいか。当然明かして問題のない範囲で構わない。あの戦いの中で少なくとも2回、俺は八兵衛を仕留めたと思った瞬間がある。しかし、結果はあの様だ。あれは一体なにが起きていたんだ?」

「そうね。これは本人が掲示板にも上げている内容だから話すけど、多分それだけじゃないはず。気になるなら今度自分で聞きなさいね」


 俺が頷くと、ちらりと八兵衛を見てからゴブレットの酒を呷り、リュドミラは口を開いた。


「あれは直感っていうのよ。誰かから視線を向けられているなとか、攻撃されるとかの情報を直感で感知するのよ。とはいえどこから見られているかとか攻撃の種別や方法に方向とかもわからないけどね。それに発動中は自動ですべてに反応するから使い辛いって言われてて、今じゃ死にスキルの1つね。でも前に聞いた時に八兵衛は、自分には逆に合っていた、って言ってたわ」

「あってる?」


 詳しくはよくわからない、そう言ったリュドミラの後ろには、さっきまで酔っぱらっていたはずの八兵衛がにこやかな顔で立っていた。顔色は元に戻り、ふらつきも見られない。その横には呆れたような住人の姿もあった。


「その辺は拙者が説明するでござるよ」

「それよりも、いきなり立ち直ったな」

「変態侍はずっと酔い潰れていればいいのよ」


 リュドミラは容赦なくそう言い切ったが、本人はどこ吹く風。いつも通り飄々といたまま受け答えをしていた。


「まあ、さっきまでのは演技で候。なにせ拙者は未成年、お酒は飲めないでござる。課金アイテムの赤ら顔と子どもエールの賜物でござるな」


 なんとも意味のないことをしたものだ。だが、本人には一応の理屈があるらしく、せめてああして酔っぱらいの姿を見せれば周囲の空気が明るくなり、飲み会が楽しくなる、だそうだ。本気で心配していた住人は呆れて物も言えないといった様子である。

 そんな俺達のやり取りには興味がないのか、リュドミラは話しをばっさりと切り捨てて話題を変えた。


「で、直感があんたに合っているっていう説明はしてくれるの?」

「そうでござるな。とはいえこれは直感だけの話ではないし、他のスキルについては明かさないでござるよ?リュドミラ殿が直感を使い辛いと言ったのは攻撃のタイミングだけが分かっても攻撃を防げないという点にあるのでござる。要はそれを克服してしまいさえすればいいのでござるよ」


 八兵衛はそこで説明をとめてこちらを見ている。後は自分達で可能性を考えろという事だろう。まず考えられるのはスキルのシナジーを考えるという事。例えばリュドミラの銃撃を躱し、俺との距離を一気に詰めたのは多分ステップというスキルを使っているはずだ。本来はあんな非常識な移動は出来ないと思うが跳躍強化と敏捷強化あたりと組み合わせれば可能かもしれない。

 思い付きではあったものの、話を聞いた八兵衛は何度も頷いて見せた。


「ふむ、さすがはカイ殿でござるな。その3つは確かに入れてあるでござる。嘘つき呼ばわりされたくないので言っておくでござるけど、相棒に乗っている時には敏捷強化も跳躍強化も使っていないでござる。騎乗中に必要なスキルではござらんからな」

「そこはもういいわよ。それよりも、あの非常識な回避距離についてはいいとして、カイのトラップ時には使ってなかったわよね。それは別口かしら」

「ふふふ、こればかりは明かせないでござるな。ただ、拙者のとっておきの1つではあるでござる。少なくともカイ殿にあれを使わされるとは思っていなかったのでござる。さすがはカイ殿でござるよなぁ」


 1人でしみじみと頷いているが、俺としては一番知りたかった回答は得られなかったな。まあ攻略組の奥の手の1つを使わせたってのは見方によっては収穫なのかもしれないけど。

 これ以上の説明はないと感じたのか、リュドミラは近くにいた住人と話を始めた。それを待っていたかのように八兵衛からのチャットが飛んでくる。


「さてと、拙者を追い詰めた工夫の数々見事でござった。賞品というわけではござらんが、ヒントを1つ、カイの銃撃を防いだのはスキルの効果ではござらん。拙者なりの工夫の成果に候」


 それだけを伝えると、八兵衛はすぐにチャットを切ってしまった。今後のPVPイベントを見越すならリュドミラには話せない。そういう事なんだろう。

 さて、リュドミラもまだ移動していないし、せっかく戦闘の話になったんだ。今のうちに聞いとくことがある。


「そういえば2人に聞きたいんだけどさ。俺の戦闘はどうだった?」


 これまで笑いながら話していた2人がこちらを向き、PvPの戦闘を思い出すように視線が宙をさまよう。先に口を開いたのは八兵衛だった。


「正直に言って、今までで一番やりにくいタイプでござった。今回のPvPで拙者は2発被弾したでござるが、それは両方ともカイ殿のトラップの発動が起点となったでござる。見えない位置からの的確なトラップ発動技術は称賛に値するで候」

「隠密系の技術はどうだった」

「どうでござるな。拙者は感知系のスキルはないでござるから、近くに潜まれても気付けないと思うでござる。というか、同じ攻略組のプレイヤーで1人、今回の戦闘でカイ殿のストーキングをしてた者がいたでござる。その者はカイ殿をべた褒めしていたでござるよ。スキルレベルが拮抗した状態なら確実に見つけられない自信があると」


 これまでの努力が実を結んでいることに、すこしホッとした自分を感じた。それにしてもあの戦闘の間、ずっと見られていたことに気付けもしなかったってことか。しかし、それ以上に感じていることがある。それは、すぐにリュドミラが口にした。


「そうね、サポートとして考えるなら上等なんじゃないの。でも、それだけよね。だって、1対1で戦ったとしたら同じスキルレベルでも負ける気がしないもの」

「まあ、そうでござるな。びっくりはしたけど、あれなら何回やっても負ける気はしないでござる」


 そう、こういう評価になるのは分かっていた。なにせ、あの戦いで俺が得たポイントは中級のプレイヤーにトラップを成功させて得たポイントだけだからだ。動いているプレイヤーには一発も当てていない。これが俺の課題なんだろう。


「動いてる的に当てる訓練はこれからやってけばいいわ。それより気になったのは、かなりのチャンスがあったのを全部ふいにしてるってこと。トラップを意識しすぎて戦闘が雑なんじゃないかしら」


 これには言葉もなかった。俺は必要だから罠を使っている。そう考えていたからだ。罠の設置の技術も、使用の技術も、銃撃を当てる為に磨いてきた。それが逆に戦闘の足を引っ張ってると聞き、言葉がでなかったのだ。


「そもそも、今のトラップの構成って、足止めまでにかなりの手数を必要としてるわよね。最後の土魔法の魔法石と火魔法のトラップもそうだし、煙玉と痺れとらばさみのトラップもそう。しかも発動に音が鳴るものばかりじゃない。隠密をメインにしてるから他の音で目くらましでもしてるのかもしれないけど、大前提を忘れてない?銃使いの最大の弱点ってなに?それはカイが自分でソロ希望者に言ったことじゃないの?」

「なるほど、1体多の戦場、乱戦、他にもあるでござるが、基本的には相手が複数いる戦闘は概ね苦手でござるな。特殊なフィールドならいざ知らず、普段の狩りであんな大音量のトラップを大量に使えば、近くのモンスターがさらに寄ってくるという寸法で候」


 2人の言葉は頭を鈍器で殴り飛ばされたような衝撃だった。ここ最近の俺は、カメレオンベアへの対策ばかりを考えてプレイしていた。いつの間にかあの常に姿を隠している相手と、特殊フィールドで1対1で戦えることを前提に、どうするかばかりに考えが傾いていた。だからこそそれ以外の戦闘に対する考えが疎かになっていたということか。要は本当の課題が見えていなかったわけだ。


「なによ。はっきり言われてムッとでもした?」

「いや、むしろ今の俺の現状に気付かせてくれたなと思ってな。勝ちたい相手ばかり見て、本来のスタイルを見失っていたんだな。2人とも貴重な助言をありがとう」


 礼を言われて言葉に詰まるリュドミラと、それをからかう八兵衛を尻目に、俺はこれからやることがはっきりとしたことに喜びを感じていた。一先ずはカメレオンベアの討伐だけど、そこからは本当の意味での猟師を目標に、ビルドから見直して戦術をもう一度組み直す必要がある。

 こうして、初めて参加したプレイヤーイベントは、俺に多くの発見をもたらして終了した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ