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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
6章 プレイヤーイベントと中級猟師
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酒場にて

出来れば今日か明日にはもう一話あげたいと思います。

プレイヤーメイドのイベントはプレイヤーイベントで合ってたでしょうか。間違っていたら章題はいずれ直そうと思います。


「おい、こっちだ」


 指定されていたバーの扉をくぐると、カウンターに座っている藤の呼ぶ声が聞こえた。相変わらずの調子で、手招きをしている。

 店内は煉瓦造りになっており、小さな電球が煉瓦を薄く照らしていた。聞き覚えのないジャズが流れ、雰囲気はとても良い。


「とりあえずビールにしとくか?」

「ああ、カクテルは次からにしとく」


 バーテンダーが静かに動き出すのを尻目に、藤は最近の動向を話し始めた。とはいっても、リアルであればここ数か月は月に1度程度は飲みに出ているだけに、そこまで目新しい出来事はない。そうなると話題は自然とVLOへと向いていく。いくらでもという程に話題が尽きないのもあるが、VLOではそこまであっていないというのもある。VLOでは俺が金策に血眼になっていたのもあり、こないだのサブイベントを見に来た以外には藤が拠点を移す直前に会ったくらいかもしれない。


「そろそろ目途はついたのか?」

「装備とアイテムについてはね。問題は金だよ。色々知り合いの依頼受けたけどまだ足りないんだよな」

「ま、そっちは気長に待つけどさ。やっぱりソロは資金繰りが厳しいよな~。銃とか弓とかって弾丸とかの消費アイテムを馬鹿みたいに消費するからリール貯まりにくいし」


 藤の発言はまさに俺の今の状況を表すものだった。特に、俺が今狩っているモンスターの多くはちょうど1発で倒せなくなるラインなのもあって、余計にリールを消費する形になっている。更には弾丸1発分のリールは大した額ではないけど、俺はそれを必ず命中させるだけのスキルがない。

 言ってしまえば実力不足なんだけど、色々不足している日々という事だ。ただし、この問題が最も大きく圧し掛かっているのは間違いなく弓使いだ。銃使いは次点かその少し下くらいってところか。弾丸代くらいで弱音を吐いている場合ではないな。


「まあ相対的に見ればそうなのかもしれないけど、俺としてはスキル外スキルが足りてないって感じだと思ってるよ。多少の訓練はしたけど、資金繰りがメインだったからまだまだだと感じるし。それはともかくだ、そっちは色々イベントにも参加したろ?武闘大会は前に聞いたけど、他はどうだった?」


 ゲームなら当たり前という考え方もあるけど、今は色々な都市でイベントが開かれている。マナウスは貿易都市としての特色以外に軍事的な特色があるからか、武闘大会が定期的に開かれている。その他に服飾を売りにしている都市ではデザイナー系のイベントがあったり、海に面した都市ではリアルでいう潮まつりのような祭りに合わせて海モンスターを狩るイベントが開かれたと聞いている。そうやって様々な都市に親しんでもらい、色々な都市に移り住むようにデザインされているのかもしれない。俺はマナウスの森があるから当分の間は移り住む気がないけど。


「ちょっと前までは全員そろう事も多かったんだけど、最近はそれぞれの事情で全員そろう事が難しいんだよな。いちおう新しい都市には進んでるけど、その辺はぼちぼちだな」

「パーティーメンバー増やしたりはしないのか?」

「それなんだよなぁ…」


 軽い気持ちで聞いたが、藤は難しそうな顔で何か言葉を探している。俺はこれまでオンラインゲームには親しんできていなかったし、その辺の機微は分からない。そのあたりの難しさを知っているのは藤の方だ。俺は黙って話の続きを待った。


「正直、活動のしやすさを考えるなら人数は多い方がいいんだよ。ただ、今のメンバーの性格を考えるとあまり増やすと遠慮しだすのが目に見えてるんだよな。小規模だから在籍してくれるし、俺も今の雰囲気が好きだ。それに昔あったようなオンラインとは違って、かなり現実に近い感覚でプレイしている分、おかしなプレイヤーってのは少ないけど、誰かが入ることでギルドの崩壊を招くってのはさすがになぁ」

「なるほど、難しいもんだな」

「そういう意味じゃ、海には助けられてるんだよ。タイミングがあった時だけ来てくれる助っ人で、メンバー全員とも打ち解けててさ。厚かましい言い方だけどよ、そういうソロのサブメンバーを探す方が俺達にはあってるんだろうな」


 藤の性格なら大型のギルドに入っても楽しくはやれるのだろうけど、それと求めているプレイが一致するわけでもない。その辺は人それぞれってところか。

 話題が途切れ、しばし静かにグラスを傾けていると、端末を見ていた藤が突然声を上げた。


「おい、来月のアップデートの情報がまた上がったぞ。これは、俺より海にダイレクトに関わってくるな。いや、むしろ俺らもかなり影響を受けるのか」


 藤の意味深な言い方に、俺も思わず端末で情報を探す。公式にアップされていることもあり、情報はすぐに見つかった。


「えっと、モンスター討伐数に応じたリポップ制限の強化について…嘘だろ、てことはつまり」

「ああ、簡単に言えば大量に狩られたモンスターは今よりさらに数が減る。さってと、実際のところ海はどう思う」


 酒が入っていることもあってか、考えることを放棄したようにこちらに投げてきた。藤は悠々と酒を呷り、美味そうなつまみはないかとメニュー表を眺めている。これは俺が何か言わないと、ひたすら酒のつまみを頼まれることになりそうだ。

 チェイサーの水を飲み、一息つく。まず、最初に思い浮かんだのは自分のプレイへの影響についてだ。これについては資金繰りがしやすいモンスターから数を減らしていくだろうから、どうしてもプレイ効率は落ちていく。が、正直効率重視のプレイはしてないから今よりそれなりに効率が落ちるくらいのものだ。新しくターゲットにしたモンスターに合わせた狩猟方法を考える必要が出てくるくらいで、狩りやすいモンスターが減ってもプレイスタイルに変化は生まれない。

 そんなことを考え、藤に話しながらもふと新たな考えが浮かんだ。こっちの方が多方面に影響が出るし、度合いも遥かに大きい。むしろそっちが先に思い浮かばなかったのが不思議なくらいだ。


「なあ、リポップ制限が入ることで生産と流通にどれくらいの影響が出ると思う?」

「ん?物価変動ってことならそれなりに商品の値段は上がるんじゃねえかな」

「それなりで済めばいいけど、最悪飢饉とかまであるのかなと。これまでの調査で住人も買い物をするのが分かってるし、俺も知り合いの住人と食事をしたことがある。てことは需要と供給のバランスが崩れれば最悪の事態も起きうるのかなと」


 正直、その辺は専門ではないから今のVLOにおける需要と供給のバランスがどうなっているのかはわからない。この辺は生態学なんかに詳しいプレイヤーがいればわかるのだろうか。そんなことを考えていると、物価による食費の高騰が気になるのが、真剣に考えていた藤が口を開いた。


「この辺の設定ってさ、正直なところ運営にその気があれば最初から導入できたんじゃねえかと思うんだよな。それを今の段階で導入するってことは、その辺の問題が解決したからこそかもしれん。生産系クラフターとは海の方が交流あるけどどの辺の状況はどうよ」

「なるほどな、確かに最近だと風見鶏の家畜化に成功したらしい。他にも安定供給が出来そうなモンスターが増えたから踏み切ったってことか」


 話題はすぐに流れ、楽しく飲んだ後にもう1軒、今度は大衆居酒屋へと繰り出した。ここは個室で安くて様々なつまみを食べられることもあってよく行く店の1つとなっている場所だ。藤と飲んだ際に2次会で行くことの多い店なのだが、それには理由がある。個室に通されると、すぐに通路を挟んだ個室から声が聞こえてきた。


「これで俺らの店も軌道に乗るかもしれない。供給が減ったことでより隠れ家的な展開も出来るな」

「私達としては追い風、なのかしら。仕入れとしてはもともと希少モンスターの素材を扱ってるから変わらないけど、多分色々な値段は上がるしこれまでより商品の値段の差とか品質にも意識が行くと思うのよね。そこで、しっかりと作り込んだお店があれば安定した評判が呼べるかもしれないし」

「そうなんですけど、僕ら3人だとすぐに限界がきそうですよね。仕入れを手伝ってくれるプレイヤーが欲しいところです」


 どうやら3人で店を営んでいるプレイヤー達のようだ。今後の店の展望について話している。隣の個室からはまた別の話が聞こえてきた。


「そろそろ俺達もギルドを作ろうと思うんだけどどうだろうか」

「ようやくかよ。俺達はお前がいつ話すのか待ってたんだが。お前らも準備できてるよな」

「当り前だろ。これでようやくギルドでの活動ができるな」

「さて、待ちに待ったかいあって俺達はようやくギルドになるわけだが、名前はどうしようかね。名前なんてなんでもいいし、金太郎とかにするか?」

「よし、お前はもう帰れ。ちゃんと恥ずかしくない名前を決めるぞ」


 この店のオーナーがVLOファンを謳っていることもあってか、ここはVLOプレイヤーが集う有数の店の1つとなっている。少し耳を澄ますだけで、様々なプレイヤーの話が聞こえてくるほどだ。この空気が心地よくて、よく通うようになったわけだ。

 改めて飲み物が来てから乾杯をすると、赤ら顔になった藤が話し始めた。


「俺らはそろそろ新しい都市を目指そうかって話しになってるけど、海は今後の展望はあるのか。ずっとマナウスにいるつもりか」

「そうだな。まあマナウスの森の探索を終えてない以上しばらくはここだな。それに、最近は色々な関係も増えて離れ難さもあるし。むしろやることがありすぎて離れられないよ」


 そんな言葉を聞いて爽やかな笑い声をあげる藤。その後は酔った勢いもあってか、ひたすらこれからの展望を繰り返し話すという生産性のない、それでいて楽しさの詰まった時間を過ごすことになった。


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