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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
1章 初めて尽くしの猟師道
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プレイヤーマーケット

 ログインし直して最初に行ったのはプレイヤーマーケットを探すことだった。スレで調べた通りに宿屋外通りと宿屋通りの間の中規模の広場、そこはプレイヤーが露店を開くことが出来るスペースとなっている。

 狩りで得たアイテムは冒険者ギルドで清算出来るが、物によってはプレイヤーの方が高く買ってくれるのだ。まだ二日目だというのにすでにマーケットには多くの露店が出ていた。

 端からすべてを見て回る中で毛皮と革製の防具を扱っている露店を探し、アイテムを換金することが目標だったのだが。まさかこんなに露店が出てるとは思わず、さすがにこの数ではすべて見て回るのは厳しいな。


「お、銃装備」

「え?」


 早くも心が挫けそうになっていると横から声を掛けられた。丁寧な言葉とは裏腹に、ごわついた毛に覆われたむくつけき男がどっかりと商品の奥に座っている。一瞬ドワーフかとも思えたがマーカーは緑。プレイヤーはヒューマンしか選べない為この男はこれでもヒューマンということか、なんというキャラメイク。

 見た目通り無骨な装備を作るようで、簡素な長机には青銅製や鉄製の武具が並んでいた。


「あ、はい。銃ですね」

「毛皮か肉を捌きに?」

「ええ、火薬と弾を使い切ってしまったんですが、手持ちが厳しくて」

「あ~、やっぱ銃と弓は消耗痛いですもんね。ちなみに売るのって何ありますかね。あぁ、すいません。俺は鉄心といいます」

「カイと言います。えっと、売れる物ですか」


 随分とグイグイと来るなとは思いつつ、毛むくじゃらの奥に瞳をくしゃりと潰して笑う様子になんとなく親しみも感じたこともあり、アイテムの在庫を伝えて買い手がいないか尋ねてみた。ちなみに俺が所持しているアイテムは野兎の皮が6枚と野兎の肉が4個。野生猪の皮が7枚、野生猪の肢肉が10個、野生猪の三枚肉が3個。薬草が17束だ。薬草は納品分もあるから売れるのは7束になる。実際にアイテムを見せると鉄心は野生猪の毛皮が気になるようだった。


「これってボアの皮ですよね。7枚ってことはパーティーで狩ったんですか?」

「俺一人で狩りましたよ。当たれば1発で済むので」

「おぉ、やっぱ銃だと一撃ですか。うらやましい限りですけど、それが当たらなくて銃辞めちゃうプレイヤーって多いんですよね。というかよく当てられますね」

「そこはあれです、チキンレース戦法というか」


 戦い方を話すと無茶な戦い方と笑うが、俺としてはこれが一番確実だと感じていた。数をこなしたことで恐怖心も薄れてきている。


「俺は鍛冶系なんで買い取れないですけど、フレで裁縫系と調理系がいるんで紹介しましょうか?多分喜んで買うと思いますよ」


 これは渡りに船。マーケットを回ってないだけに相場も分からないが鉄心の友人なら大丈夫だろう。半分ほど思考を放棄して了承すると鉄心からフレンド登録が来た。迷わずYesを選ぶ。生産職ではこれが初めてのフレンドということになるな。

 鉄心は真剣な表情で突然黙り込んでしまっている。恐らくはフレンド同士で使えるチャットを利用しているのだろうが、俺が使ってもこんな感じの顔になってしまうのだろうか。


「お待たせしました、今から2人来るから紹介しますね」

「助かります。あと敬語じゃなくていいですよ、その方が話しやすいですし」


 その後はスキル関係の雑談で時間を潰していた。驚いたのは知識関連のスキルだ。当たり前といえばそこまでなんだけどどうやら名前の判断だけでなく、対応したスキルを所持しているとその詳細を見ることも出来るらしいのだ。名前のウインドウの端にマークがあり、それを選択すると対象の説明を見られるとのこと。取得していながら一度もその使い方をしていなかったことに我ながら呆れてしまう。

 まだ鉄心のフレンドが来るまでは少し時間があるという事だったし、せっかくなので自分の荷物で試してみることにした。


《薬草 レア度1 重量1》

負傷回復度〈極小〉

揉み込んで傷口に当てたり、煎じてポーションにすることで微弱ながら傷を癒すことが出来る。連続しての使用は中毒を引き起こすため注意が必要。


《野兎の皮 レア度1 重量1》

マナウス周辺に生息する野兎の皮。サイズが小さく、服を仕立てるには数が必要となるが柔らかな素材は加工が容易であることからよく使用される。


《野兎の肉 レア度1 重量1》

マナウス周辺に生息する野兎の肉。サイズは小さいが狩猟がし易く口にする機会が多い。少し筋張っている。


《野生猪の皮 レア度1 重量1》

マナウス周辺に生息するボアの皮。毛皮はごわついており、腰簑やマントに加工される。


《野生猪の肢肉 レア度1 重量2》

マナウス周辺に生息するボアの脚の肉。肉質は固いが味は濃い。焼いてもなお固さが残る為煮込み料理での使用が多い。かなり獣臭い。


《野生猪の三枚肉 レア度1 重量1》

マナウス周辺に生息するボアの肋骨周辺の肉。バラ肉とも呼ばれる。肢肉に比べて柔らかく、煮込みの他に焼き物での使用も多い。獣臭い。


 なるほど、説明を読むと価値以外にも用途もある程度わかるようだ。今後はしっかりと調べていかなければならないな。その他にも戦闘系スキルに対応した装備品には大雑把なパラメーターが表示されていることも初めて知った。俺の初心者のハンドキャノンだとこうなる。


≪初心者のハンドキャノン+ レア度1 重量5≫

攻撃力:G-

反動:D

正確性:G+

速射性:G-

耐久:∞

攻撃タイプ:射撃

射程:10メートル

新米冒険者が手にすることが多い安価な銃。銃身は青銅製だが、長期に渡って整備がされていなかったためか銃身は錆ついている。持ち手をラブナ材で製作し、グリップとストックをつけることで射撃時の正確性が向上している。


 攻撃力すら数字じゃないのかよと心の中で真っ先に突っ込んだが、それよりもこの事実こそ今日の出来事の中で最も驚いたかもしれない。この銃身が青銅製なのは予想通りだ。で、錆びている?明記されているとは思いもしなかった。そもそも10円玉だって分類は青銅だ、あの色と比較すればすぐにでも気づきそうなものだったな。

 基本的には切ったり打ったりするわけではないし、耐久も無限になってるから強度的には問題ないのかもしれない。狩猟を考えると光沢のない今の色の方が都合がいい。だが、銃身の内側は大問題だ。錆びによって凹凸が生まれ、場合によっては暴発だってあり得る。これはすぐにでも対応しなければ。

 …しかし、この世界にお酢はあるのだろうか。

 新たな課題も生まれつつ、せっかく鉄心は鍛冶師なので一つ聞いてみることにした。


「鉄心、依頼したいものがあるんだけど」

「俺に?銃は俺には作れないよ」

「いや、この銃身の先にバイポッドをつけたいんだ」

「バイポッド?」

「二脚って言うんだけど、まあカメラでいう三脚の二本足版だな。今はグリップを地面につけて安定させてるけど、それでも今のままだと不安定すぎるんだよ。基本は伏せて撃ってるからその時にバイポッドと地面を接地させて揺れと反動を抑えられないかなと。今でもかなり重いから出来る限り軽量化をしたいんだけど木製はさすがに強度が足りないかもしれないし」

「なるほど、それなら一番安い銅で作るとして、嵌めるのはスキルでいけるか。バイポッドってのを別に作っておいて、表面を軽く削って溝を作ってそこに輪を嵌めるとかでいいのかな。」

「出来そうか?」

「頭の中では上手くいってる、かな。材料費はカイが持つことになるけど大した量じゃないしほとんどは工賃だね。300リールから600リール辺りになると思うけどいいかい?」

「…すまん、アイテムの清算後の懐事情をみてからでいいか?」


 鉄心の和やかな笑い声が響く。改めて思い出すことになったのは現在の懐事情のことだ。アイテムの金額にもよるがここから火薬と弾を買わなければならず、即答は出来そうにない。


「鉄心、待たせた」

「お疲れ~」

「全然、こっちこそありがとな~」


 鉄心に親しげに話しかけたのは長身の落ち着いた男と中学生くらいに見える女の子だった。鉄心の様子からこの二人が生産職のフレンドなのかと思い、少々身構えてしまう。この結果によって今後の方針が変わってしまうのだから、緊張も仕方ない。そんな心の内など知る由もなく、鉄心は人懐こい笑みを浮かべて二人を紹介してくれた。


「カイ。この二人がさっき話したフレで男の方が服飾系をやってる錦、女の子の方が調理メインのアイラだよ」

「よろしく頼む」

「よっろしく~」

「初めまして、猟師をやってるカイといいます。二人とも自分のプレイもあったはずなのにありがとうございます」


 気にしないでくれ、そう言って錦は穏やかに笑みを浮かべ、早速で悪いがとアイテムの確認に入っていた。売れるアイテムはすべて二人に手渡していく。二人とも一つ一つしっかりと確認を行っていた。アンティークを渡したわけでもないしなんとなくではあるのだが、今なら電光掲示板を前にひとつづつ明らかになる数字に祈りを込める依頼者の気持ちが理解できる。


「うん、こっちは終わったよ~」

「私も大丈夫だ」

「お、それじゃあ清算しようか」


 生産職の3人はさすがにやり取りに慣れている。俺が初めてアイテムを持ち込んだ超初心者であることも理解したうえで、金額の内訳についてもしっかりと教えてくれた。


「それじゃあ最初は私からだね。まずは野兎の肉なんだけど、これは今かなりの量が流通してて、値崩れ?って状態なの。1つ10リールだから4つで40リールだね。ボアのお肉はまだそこまでの量がなくて今は肢肉の方が40リール、三枚肉は110リールで買い取ってるんだ。肢肉が10、三枚肉は3つだから全部で770リール。錦さんはどう?」

「私の方も野兎の皮は値崩れ寸前でね。小さい分数が必要だからまだましではあるけど、それでも1枚10リールで6枚60リール。ボアの皮は1枚150リールで取り扱っているから7枚で1050リール。合わせて1110リールかな」


 二人は算定価格を教えてくれた後、静かに俺の返答を待ってくれていた。受け身で待ってくれているのはぼったくりや詐欺を疑われないようにとかも考えているからだろうか。滅相もない、全部合わせて1880リールという予想以上の金額にこんなにもらってしまっていいのかと感じてしまったのだ。


「あの、貰いすぎな気もするんですが。これで二人には利益が出るんですか?」

「でるよ~。それに他の大手の生産職の人達もこのくらいの額で買い取ってるはずだし」

「良かった。それじゃあその額でお願いします」

「こちらこそありがとう。有意義に使わせてもらうよ」


 二人からお金を受け取るとこれで残金は2430リールだ。バイポッド、作れますな。考えが表情に出てしまったのか、鉄心の方から話を向けてくれたこともあり、550リールで製作を依頼することになった。

 技術的には簡単に作れるようで明日以降なら受け取れるとのことだ。初心者のハンドキャノンを鉄心に渡してサイズを測ってもらう間にもう一つの交渉を進めることに決め、アイラに尋ねることにした。


「ちなみになんだけど、マナウスでお酢って手に入ったりする?」

「あ~、お酢はものすごく不味いのでよければあるかな。私はあれを料理に使いたいとは思わないけど」

「いや、料理じゃなくて、あの銃の銃身の内側の錆とりに使いたくてね。すっぱければ問題ないはずなんだけど」

「それなら問題ないよ!死ぬほど酸っぱいから!」


 さすがに料理メインのプレイヤーだ。しっかりと味見済みで不味いと言いながらもとても楽しそうに話してくれる。販売しているのはNPCのお店らしく場所を教えてもらった。これで初心者のハンドキャノンの問題を一つ解決できそうだ。


「そういえばカイ。こちらからも頼みがあるのだが」

「なんだ?」

「実は、生産職の中でアイテムを売りに来るプレイヤーを囲う動きがある。特に中規模以上の集まりになると一定以上の供給がないと活動が立ち行かなくなるし、それ自体はある意味当然の流れともいえるな。問題はその流れもあって、私たちのような小規模の集まりだと買い取れる量に限界がある分、まとめ売りを望むプレイヤーが敬遠するようになってきているんだ。今はまだ問題とまではいかないが、それでも少しづつ必要な量を確保できなくなってきている。カイはソロプレイ主体のようだし、厚かましい願いではあるのだがアイテムを売る際には私たちのところにも卸してもらえないかと思ってね」


 俺にとっては願ってもない話だ。最初に知り合った生産職というだけでなく、この短い時間のやり取りだけでも3人には好感を持てる。向こうからもそう感じて貰えるならこんなに嬉しいことはない。だが錦とアイラは緊張を隠せないようで、アイテム不足とはやはり相応に堪えるのだろう。


「こちらこそぜひお願いします。正直俺はアイテムの相場がわかりませんし、これからも頼らせてください」

「良かった~。フレンド申請を送っておくから、何かあればいつでも連絡してね!」


 錦、アイラともフレンド登録を行い、鉄心から初心者のハンドキャノンを受け取ると3人と別れて冒険者ギルドに向かった。そう、お金はまだ増えるのだ。


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