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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
4章 VLOの日々徒然~閑話集~
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セントエルモ、PvP大会に挑む 後編


 男はそれから抵抗することはなく、ギブアップを選んだ。勝利の文字が出ると観客からは歓声があがる。2人は互いに礼をすると闘技場を後にした。


「さて、次は俺の出番だ」

「次は真のトップランカーだが勝報を期待するとしよう」


 東雲にアキラにヨーシャンク、うちのアタッカーは本当に頼りになる連中ばかりだ。なら俺も少しはいいところを見せないとな。闘技場に着くとすでに対戦相手が待っていた。攻略組でもトップを走るギルドの1つ「forefront」のリーダー、エイビスだ。男としては長めの金髪に銀色に輝く鎧、盾と腰に下げた長剣。二つ名に違わず、まさに『聖騎士』って見た目の男だ。


「やあ、君が富士君か。先のイベントではかなりの活躍だったからね。いつかは手合わせをお願いしたかったんだよ。こんな機会はめったにないし今日はよろしく頼む」

「こっちはここでFFのリーダーかよって感じなんだけどな」


 聞いていた以上に爽やかな、というより爽やかすぎる男だ。爽やかな挨拶とともに差し出された手を握ると向こうも力強く握ってくる。目の前に立つプレイヤーには油断も慢心もない。それを知るのに十分な握手だった。


「よし、それでは行こうか!」


 さすがに4回戦ともなると観客の注目も大きい。トップランカーの試合ともなれば尚の事だな。闘技場で互いに向き直って礼をすると、眼前にはカウントダウンの表示が光っている。あと1分か。


「そういえば、富士君に聞きたいことがあるんだが、いいかな?」

「なんだ?」


 緊張感の欠片もない爽やかな口調にこっちも軽く応じると、よかったと笑顔を見せたエイビスは言葉を続けた。


「先のイベントでマナウスの森の深くにいるボスを倒したプレイヤーがいただろう?私も何とか一度会えないかと調べていたんだけどなかなか手がかりがなくてね。でも先日ようやくそれらしきプレイヤーの噂を掴んだ。それが君達セントエルモとよく一緒に行動しているっていう話しじゃないか。よければ紹介してもらえないだろうか?」

「そんなことかよ、俺のフレなのは間違いないから、向こうに聞いて問題ないなら構わないぜ」

「いや、出来れば早急に会いたいのさ。とはいえ、次のイベントに間に合えばというだけなんだけどね」


 ふむ、予想サイトじゃ次回の大規模イベントは山か森ってのが第一候補だ。そうなると、隠密特化プレイヤーでも勧誘したいって感じだろうか。でもあいつソロだしな。勧誘は絶望的だと思うんだが。


「いや、あいつソロでやりたがってるし勧誘は無理だと思うぞ?」

「いや、僕達が欲しいのは森林戦闘の経験さ!だから、紹介してもらう際には是非うちのメンバーとのPvPを受けてもらいたいと思っているんだ」


 ここ最近はVLOじゃ会ってないけど、あいつはPvPには興味がない、特別な心境の変化でもない限りそれは変わらないだろう。それを強引に誘ったところで頷くとは思えないけどな。それに、あいつの戦闘は隠密猟師だから特殊すぎる。森林戦闘の経験としてはどうなんだろうか。


「いや、そもそもあいつがPvPに興味あるかもわかなねぇし、一度確認をだな・・・」

「ふふふ、こちらから頼んでいるんだ。それは当然のことさ。それに、まずは先のイベントで話題に上がった『双盾』の富士との対戦の方が大事だからね。トーナメント表を見た時から、この対戦は楽しみだったんだ」


 俺をカイとのPvPの為の紹介役としてだけみるのではなく、俺のこともそれなりに調べているようだ。攻略組でも最も住人からの信頼が厚いと言われるギルドのリーダーだ。俺には荷が重いのは分かり切っている。それでも、負けるつもりで戦うなんてつもりはない。


「さあ、行くよ!」


 エイビスは典型的な剣士型、盾を構えながら飛び込み、こっちの攻撃を凌ぎながら隙の少ないモーションで反撃を繰り出してくる。FFは他のメンバーが派手な分地味に見られがちなんだが、一度戦闘を見たからわかる。格上を相手にしても安定して攻撃を捌けるこいつが一番ヤバい。

 試しに剣を突き込んでみるが、盾の向きを変えるだけで横にそらされるとそのまま剣を突き返してくる。俺よりもレベルが高いだけじゃない、明らかに鋭い剣筋は盾を掠めて頬を薄く切られていた。切り下し、横薙ぎ、袈裟切りといくつかのパターンを試してみたがどれも盾を使って受け流される。

 ・・・これは、ちょっとやばいかもしれない。正直に言って勝ちの見えない戦いだったが、それでいて俺のテンションはどんどん上がっていく。上がいることを知れるってのは、やっぱそれだけモチベーションを上げることに繋がるもんだ。


「ちっ、相変わらずの盾捌きっぷりだな!ちっとも崩れやしねえ!」

「君ほどでもないさっ。今では『双盾』といえば攻略組の中でも知っている者が多い!」


 俺もエイビスもタンク。要は敵の攻撃を自分に集めて周りの被害を最小限に抑える役目だ。互いに防御を重視している分、決め手に欠けていた。

 ここで、攻守交代とばかりにエイビスが攻勢に出た。盾を前面に押し出して距離を詰めると剣で細かく切りつけてくる。盾での押し出しを盾で受けている分剣で受けざるを得ないんだが、盾で視界が塞がり思うようにいかない。これはあれだ、ちょっと形は違うが某盲目の剣士の必殺パターンだろ。どうしよ、俺には一発逆転の強烈な突きなんてねぇんだけど。


「ならこれでっ、“バンプ”」


 赤いエフェクトが立ち上り、筋力で押し返すとそのまま盾を弾き、更に殴りつけるように盾を振るう。押してす、戦術もへったくれもない泥仕合に持ち込むことでようやく五分の戦いになった。このまま攻めきるならあともうひと押しが欲しいところだ。

 押していながらも攻めきれないでいるとエイビスも“バンプ”を使って互角に持ち込み、俺の効果切れを待って盾を弾くと距離をとった。何か仕掛けてくるのは間違いないが、今の状態では迂闊には飛び込めない。


「ははっさすが『双盾』!これなら全力で相手が出来そうだ!行くぞ、“ホーリーセイバー”」

「そっちこそ流石は『聖騎士』、お約束の展開だ」

「賛辞として受け取ろう!」


 エイビスは距離を取ったまま半身になり、剣を振り上げるとその輝きはさらに増していく。あれは受けたらやばい。さすがに俺でもそれが分かり、発動を少しでも邪魔しようと一気に距離を詰めた。が、結果としてはそれが敗着となった。

 近づいた俺は剣に注意を取られて半身の陰に隠された盾を見逃していた。横振りのそれを受けると予想以上の威力に盾は弾き飛ばされ、残る剣だけでは切り下ろしを防げずに刃は体の中心を通り抜けていく。

 眼前には敗北を知らせる文字が浮かび上がる。試合開始の位置まで戻ると礼をして二人で控室まで戻って行った。


「かみ合ったときに筋力がそこまでなかったから何か他に隠し玉があるとは思ってたんだけどな、予想以上だったわ」

「それはこっちのセリフだよ。正直今回の大会ではこれを使う気はなかったんだ。だけど富士は予想以上の使い手だったし、楽しい戦いだったらついね。よく考えたら富士の本領を発揮してもらってから使わないと不公平だったと少し後悔してるとこなんだけど」

「今回は剣で受けたから正確には分からん。それでもこっちが万全の2盾で迎え撃って、全力防御でも防げて2発だろうな。それと、森林PvPの件なんだが、まずは確認してからってことでいいか?」

「当り前さ。戦闘前にも言ったけど、無理を言ってるのはこっちだからね。それと、勧誘を警戒しているなら気にしなくてもその気はないから大丈夫だよ。今回は本当に森林戦闘の経験を積みたいというのが本音だから。それより、今度タイミングが合ったらもう一度PvPをしよう。今回のは僕の中で納得がいかない」


 いや、俺を過剰評価してくれてるとこ悪いが、もうちょい粘れれば使うはずだったんだよ。それを様子見の間に一気に勝負を決めてくれちゃったもんだから出す暇なく終わってしまったってだけだ。いやぁ、互いに様子見であれだけ実力差があるとは恐ろしい。それを伝えるとエイビスは思い切り笑っていた。


「そうか。でも僕は戦術がシンプルだからあれで全力に近いんだ。あの威力のホーリーセイバーを2発防げるというのは逆に興味があるよ。セントエルモの面々は色々なパーティーやプレイヤーと臨時で組むことがあるのは知っていたけど、最近はそんな噂も聞いていなかったら、情報が古くなっていたね。他のメンバーも含めて、これは本当に楽しみだ」

「いや、俺らは全員が揃わないことが多いからそういうスタイルだったってだけだぞ。最近は全員が揃う事が多かったからあまり他とは組んでなかったけどな。それより、全力勝負なら俺はいつでも大歓迎だ。今度時間がある時にもう一回しようぜ」

「もちろんさ!その時はパーティーメンバーも連れてくるから色々な組み合わせで戦おう!」


 スレに挙がっている以上に、文字通り性格まで『聖騎士』だったエイビスとフレンドになると挨拶を済ませて別れ、二階席に戻った。見回してもアキラと東雲はすでにいない。残る3人に迎えられるとヨーシャンクが一言。


「格上を舐めすぎたな」

「分かってるよ。てことで今度最初から全力で戦やり合ってもらう事にした。交流も兼ねてるから都合が着く限り全員で参加しないか?」

「それはありがたいな。私も色々な相手との経験を積みたかったところだ」

「あそこに凄腕の弓使いいますよね。私も行きたいな」


 話を聞き、不安そうな表情なのはミリエルだけだった。話の間中俺とヨーシャンクと楓をぐるぐると見回している。まあ人見知りだし、補助以外での戦闘をしたことないしな。


「ああ、大丈夫だミリエル。FFには専用の生産職クラフターがついてる。戦わずとも何人か来てもらえれば貴重な情報交換ができる」

「そうだよミリちゃん。私も行くから一緒に行こう?」

「う、うん。楓ちゃんが一緒なら・・・」


 決まったな。残る二人が断るなんてことはないから、俺はその場で交流戦の参加を伝えるためチャットを開いた。


「そろそろ次の試合が始まるぞ」


 その後も様々な戦いにが繰り広げられた。結果を伝えておくとアキラは5回戦で、東雲は準々決勝で敗れた。その後順位を決める戦いも行われて7位と、優勝から15位までは攻略組が占めている中での入賞に俺達は大いに沸き、知り合いのプレイヤーの店で盛大に打ち上げることとなった。

 学生と同じようなプレイ時間を確保できない俺達は攻略組には入れない。良くて準攻略ってところだ。それでも、進度に関係なくこの大会を楽しめていた。まったく、本当にVRMMO系は試行錯誤と創意工夫が試されるな。

 宴会の最中、近頃VLOでは会っていない腐れ縁から返信が届いていた。ここ最近色々とやっていたようだったが、あっちもどうやら面白いことをしていたようでその成果を見せてもらえそうだ。楽しみがさらに増えたところで宴会に戻る。

 悔しさと喜びと達成感と反省と、様々な感情が混ざって盛り上がる宴会は深夜まで続いていた。


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