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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
4章 VLOの日々徒然~閑話集~
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とあるテイマーの攻略記

かなり間隔が空いてしまい申し訳ありません。

不定期はもうしばらく続きそうです。

 「晴君てさぁ、最近なんか帰るの早いよねぇ」


 通っている高校の昼休み、同じ委員会の友達に言われてドキリとした。VLOを始めてからというもの、確かに早く帰る日が増えたのは間違いない。でもそれは決して委員会の仕事を怠けているわけではなくて、キチンと仕事は終わらせている。それでもこれまでみたいなバカ話やファストフード店への寄り道は減ったように思える。うん、これはなんだか申し訳なくなってきた。


「なんかごめん、それなら今日こそどっかによって帰ろう」

「やった、じゃあみんなで行こうね」

「おーい、今日は晴大丈夫だってよ!」

「でも、妹さんは怒らないの?」

「あ・・・」


 そう、僕には妹がいる。昔から勝気で、それでいて真面目な妹は僕が寄り道をすることにあまりいい顔をしていない。そして、妹こそが僕をVLOに引き込んだんだ。しかもあんなアバターで。


「えっと・・・ちょっと確認してみていいかな」

「さすが残念イケメン」


 全員から返されてしょんぼりとしながらも、妹にメールを送る。ほとんど待つ間もない程の、驚くほど速い返信だったがそこには短い文章が一つだけ。


『遅くならないようにね』


 これは果たして行っていいのだろうか。うん、そうだね、これは大丈夫。きっと大丈夫。もしだめなら後で謝ろうそうしよう。そうだ、帰りに好きなアイスを買っていこう。

 脳内であっという間に遅れる、怒られる、謝る、物で釣るという方程式を作り上げると、みんなに振り向いてこう言った。


「大丈夫だったよ!」

「いや、その顔は大丈夫じゃない」

「まったく、これで文武両道のハイスペックだってんだから、本当に性格だけでバランスとってやがる」


 これ以上ない晴れやかな笑顔のつもりだったはずなのに、どうやら表情は嘘をつけないらしい。


 さて、学校が終わった後、みんなでカラオケに行き、皆が聞きたいという曲を歌い、皆にもいろいろとリクエストし、帰りにハンバーガーを食べて帰った。それは凄く楽しい時間で、貴重な時間だ。やっぱり、リアルもゲームもどっちも大切にしないとね。


「ねえ、今何時だと思う?」


 忘れていたわけじゃないんだ。ちょっと楽しく時間が過ぎただけっていうか、決して家でのご飯は蔑ろにはしていないんだよ。という僕の思いは、結局口がパクパク動くだけで言葉にすらならなかったわけで、要するにすっごい怒られた。リアルのバランスをとるのはすごく難しい。

 こんな感じで何か特別なことが起こるでもなく、それでも騒がしくて楽しいのが僕の日常。それに比べるとVLOは特別なことばかり起きてそれでいて騒がしい。こっちも今は僕の日常なのかもしれない。


「今日はゆっくりだったね」

「ごめんよ、ちょっとバタバタしててさ。寅助、甚助遅くなったね」


 草原でテイムモンスターの2体、それと同じギルドのリーベンバッハと遊んでいると、迷彩服を着た鬼軍曹のような出で立ちの女の子がキビキビと歩いてきた。その表情は険しくも見えるけど、あれは寅助をモフモフしたい時の顔だ。なんでみんなはリュドミラを恐い顔なんて言うんだろうね。あんなにわかりやすいのに。


「リュドミラ、甚助のブラッシングしたいからその間寅助をお願いしてもいいかな?」

「遅いわねミハエル。分かったわ、こっちにいらっしゃい寅助」

「お前は本当にリュドミラの扱いが上手いな」


 呆れた声で話しかけてくるのは僕らのギルド、キーンエッジのギルマスである弁天さんだ。僕らは4人だけの小規模ギルドだから、僕の相棒パートナーを除けばこれで全員。小規模ギルドだけど強い、それが弁天さんの理想らしい。


「おかげで助かった。今日の射撃大会、結局準優勝に終わっちまってな、かなり悔しかったらしいんだよ」

「ああそれで。でもさ、今は銃使いが少ないとはいっても、全体の2位なら誇れるのでは?」

「優勝がモフパラのうっかり八兵衛だったんだよ。あんなふざけたプレイヤーに負けたのがショックだったらしい。恨まれる八兵衛も気の毒に」


 モフパラは正式名称をモフモフパラダイスという攻略組のギルドで、そこのうっかり八兵衛はモフパラのエースだ。遠目に戦闘を見たことがあるだけだけど、あれには負けても仕方ないような気もするんだけど。それでも悔しいのはどうしようもないし、そこを最初から諦められるなら、僕らだって攻略組にはいないよね。


「料理はできたが、そっちは終えたかい?」


 僕が甚助の世話を終えた頃を見計らい、リーベンバッハさんが料理を並べてくれる。この人の料理は本当に美味しい。今日はキックバードのシチューと焼きたてのパンだ。うん、本日も素晴らしい腕前です。

 食事中に今日の予定を確認し合うと、それに向けての準備が始まる。僕は甚助の毛並みや仕草から体調を把握して、後は楽器の確認だ。それぞれが準備を終えると弁天さんが高らかに宣言した。


「それじゃあ新しい都市に向かうぞ。エリアボス退治と行こうかい」

「了解だよ」

「ストレス発散させてよね」

「みんな、ここはやっぱりエイエイオーみたいなそろった掛け声があるといいと思うんだよね。だってそもそもの掛け声の起源はっぷす!」

「うるさいわよ」


 痛い。リュドミラの流れるような水平チョップが僕の鼻っ柱にめり込んだ、ような気がする。ねえ、僕の鼻まだ残ってるかな?よし、気合も入ったことだしちゃっちゃと行きたいね。

 アイディールと次の大きな都市を結ぶ交易路の終着点には、一体の大型モンスターが陣取っている。それはテイムされたモンスターで、次の目的地であるリンクルの領主が自衛のためにおいてあるんだそうだ。一度倒してしまえばいつでも入れるし、冒険者以外は戦闘対象にはならないってんだから何の為の自衛なのかもわからないんだけどさ。入る基準が強さなら、強くて悪い冒険者は入り放題ってことになると思うんだけどね。

 ただしこのモンスターは強い。それは確かだ。ガードエレファントはビックレオをはるかに超える巨体とそれを支える太い手足、頭から生える鼻は蛇のように滑らかに動いていて、攻撃に使うと地面ごと抉りかねない。そしてなにより強力なのは鳴き声だ。至近距離で食らったプレイヤーの中にはその場で気絶したとか、鳴き声自体のダメージで死んだっていう話がよく掲示板を賑わせている。未だに攻略組以外のクリア者がいないっていうのも納得できるよね。ついでに言うなら、こいつはあの時のイベントと同じで、戦闘参加人数に応じて能力が上がるみたいなんだ。本当に生産職の人達はどうするんだろう。


「先制はリュドミラ、ついでにリーベンバッハ。その後に俺が突っ込む。ミハエルはフォローを任せるぞ」

「それじゃあ行くわよ」


 リュドミラの銃が火を噴き、その後をリーベンバッハさんの魔法が追撃をしていく。弁天さんが飛び込んで戦い始めた頃を見計らって僕はリュートを構えた。


「それじゃあ甚助、今日もがんばっといで」


 甚助に一声かけると一度嘶いて飛び出していった。寅助はこのままだ。さすがにまだ戦闘は難しいからね。味方の体力を確認しながら僕はリュートで旋律を奏でだす。それはゆったりとした曲調から始まって、すぐに音の中に一本の芯を入れたような曲調に変わる力強い曲だ。その音に魔力を乗せて紡ぎ、声にも魔力を乗せる。


「援護を開始するよ。“防人の奮戦”」


 音楽が聞こえる範囲に青く薄いベールが広がる。これは防御を高めるための歌。弁天さんと甚助が前線を維持するための生命線だ。曲はあっても歌詞はないから、適当にラララとつけてはいるけど、いつかは作詞したほうがいいのだろうか。言霊って考えもあるし、その方が効果が高いかもしれないし。


「弁天っ、スイッチだ」

「おうよ!頼んだぜ甚助!」


 リーベンバッハさんの鋭い声で飛びのいた弁天さんにすぐに回復魔法が飛んでいる。甚助はセカンドタンク、弁天さんが復帰するまで持ち堪えてくれよ。寅助は参加できない悔しさからか、毛を逆立てて鳴き、それが僕には必死に甚助を応援しているように見えていた。思わず、僕の歌にも力が入る。


「甚助よくやった!スイッチだ!」

「ミハエル、あたしとリーベンバッハは準備万端よ!」

「支援を切り替えるよ。“戦士の猛攻”」


 全員の準備が出来たのに合わせて音楽を切り替える。今度は勇壮な、いかにも突撃前の軍隊に似合いそうな軍歌のような旋律に変わる。その音に声を乗せるのに合わせ、リュドミラが飛び出していった。発砲と後に素早く銃に着剣し、ガードエレファントに向かっていく。それをリーベンバッハが援護する。


合成魔法オリジナルで行くよ。“スプリガン”」


 かなりの魔力を消費して生み出されたのはボーリングの玉位の球体だ。それはガードエレファントの周囲を飛び回り、味方が攻撃されそうになると氷の魔法を放っていく。本人曰く実は簡単だという原理は聞いたけど、敵が攻撃の時に行う魔力操作を感知して、その大きさに応じた威力の魔法を敵にぶつけるという事しかわからなかった。魔力消費が馬鹿にならないけど、これで一時的に攻撃役と援護役が増える。凄い発想だと思う。


「さあ、一気にいくわよ!」


 銃剣を装備したリュドミラは自慢の高い機動性を生かして縦横無尽に動き回って切り付けていた。“戦士の猛攻”を続ける間はこの戦い方でいくようだ。それにしてもあれだけ視界に映りながら動いていると攻撃対象になりそうなものだけど、それを弁天さんがきっちりフォローして鍛え上げた拳でターゲットを固定し続けている。

 弁天さんはメインタンクとしては珍しいグラップラースタイルだ。装備も両腕のゴツイガントレット以外はそこまでの重装備ではない。あの人の戦い方は単純で、他を捨ててでも肉体を強化して肉弾戦は何でもあり、敵の攻撃はすべて受け流して最小限のダメージに抑える、これだけだ。今回みたいな超大型のモンスターじゃなければ絞め技も投げ技も本当に何でもあり。

 それでもすべての攻撃を自分に集め続けることは出来ず、前線の3人のダメージが少しずつ蓄積されている。うん、そろそろかな。


「リュドミラ、離脱して!“僧侶の祈り”」


 奏でる音楽を聖歌のような曲調のものに切り替えた。それに合わせるようにリュドミラは大きく距離をとって剣を外し、弁天さんと甚助は防御を重視した戦いに切り替えている。リーベンバッハさんも攻撃を減らして魔力の補給と前線の回復に努めていた。

 戦闘は常に攻撃を続けられるわけではなく、特に僕らみたいな専門の回復役ヒーラーがいないギルドは特にそう。こうやって体力と魔力の回復の時間がないと戦えない。こうして火力を上げたり防御に特化したりっていう時間を順番に回すことで戦線を維持してるわけだ。まあこのギルドは攻撃大好きが2人と1頭いるから、あんまり我慢とかできないけど。ほら、弁天さんがチラチラとこっち見てる。


「こっちは大丈夫だよ。ミハエルはいけるかな?」

「はい。それじゃあそろそろ決めようか。“戦士の猛攻”」

「遅いわっ!いくぞこらぁ!」


 戦士の猛攻での戦闘継続時間が限界に近づいた頃、弁天さんが勝負に出た。両腕が真っ赤に発光していく。間違いなく決めに行く気だ。それなら僕の仕事はその為のサポートだね。曲を変える瞬間に全員が動き出す。この辺の連携はやっぱり同じギルドならではのスムーズさだ。


「甚助動きを止めるわよ」

「ヒヒィーン!」

「弁天、外さないでくれよ。“氷牢”」

「“射手の一矢”」

「よっしゃぁ!“インパクト”!」


 両手をがっちりと組み、甚助を足場に高く飛ぶとそのまま全力で振り下ろす。なんてことのない攻撃に見えて、とんでもない衝撃音が響く。ガードエレファントも堪らずに膝をついて動かなくなった。これで終わってくれればいいんだけどどうだろう。


「まあ、俺らにかかればこんなもんだろうなぁおい!」

「う~ん、メインは銃なのにこれだと銃剣の比重が大きすぎるわね。もうちょっと工夫が必要かしら」

「ブルルゥ」


 前線組はさっぱりした顔でそんなことを話しているけれど、こっちは疲労困憊だ。二人とも魔力は底を尽きそうだし、歌い続けて喉もカラカラだ。そんな様子をみてリーベンバッハさんが飲み物を渡してくれた。


「お疲れさま、今回も何とかなってよかった」

「ありがとうございます。ふふふ、やっぱり僕の相棒パートナーがいることで戦闘の幅も広がりつつあるというもの。これからさらに寅助が戦えるようになることで可能性は無限にぶすっ!」


 いつの間にか後ろに立っていたリュドミラにまだ早いとひっぱたかれて、それでも笑っていられるのは戦いに勝ったからとかそんなんじゃない。そこには悪意なんてなくて、リアルとなにも変わらない温かみのあるやり取りだからなんだと思う。

 勝利の喜びに浸った後は遠くに見える街をみんなで眺めていた。次はあそこを拠点に色んな冒険が待っている。


「あ、ちょっと待って。珍しい相手からだわ」


 誰ともなく街に向けて歩き出したその時、リュドミラが立ち止まった。誰かとチャットをしているのだろう。その表情は朗らかなものから一転して目がすぅっと細くなる。口の端も薄っすらと上がって、あぁこれは、獲物を見つけた時の顔だ。


「ねえミハエル。私達2人にちょっと楽しそうな依頼が来たわよ。といってもそれぞれ別の相手からだけどね。来週の予定は?」

「それ、もう僕には頷く以外に許されないんだろう?まあいいよ、なんか楽しそうだし。で、相手は誰から?」


 リュドミラはそう聞かれて獰猛な笑みを浮かべた。元々が軍隊戦闘的なことをしたくてここに来たっていう言葉通り、こういう時にこそ彼女は輝く。ならば相手は・・・


「同胞ね」


 まったくもってこの世界は波乱イベントに満ちている。話しはこれで決着だ。今度こそ僕らは新たな街に向けて歩き出した。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] リュドミラが暴力的なところ。 [一言] 気の知れた仲でいつものことなのかもしれないけど、仲間をボカスカ殴ってるのは知り合いだったら距離を取りたくなる。
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