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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
4章 VLOの日々徒然~閑話集~
41/102

魔道を征く

祝!100万PV達成!ということで記念に1話置いていきますね。


読んでくださっている方、感想を送ってくれた方、誤字やおかしな表現を指摘してくれる方、あらゆる方々に支えられ、気付きや意欲となり、ここまでまったりと進むことが出来ました。しばらく不定期が続きますが、これからもVLOとカイをよろしくお願いします。


 誰にだって予定というものがある。かくいう私もそうだ。いい歳して今更ゲームなどと言われるかもしれないが、幼いころからゲームに親しんで育った者として、やはり魔法を自在に操ることには夢があるというもの。

 特にこのVLOは発売前からリアリティの高さが評判を呼んでいたゲームだ。私は何の躊躇いもなく購入を決め、そして幸運ながらも抽選に当たることができた。

 抽選を通過した私の思いを述べるならば、それは興奮と狂喜の坩堝といったところだろうか。しかし、時として人生とはままならぬもの。私もそれは例外ではなく、仕事の都合で多忙となった日常に忙殺され、VLOの包装すら開けられない始末。あの恨めしい仕事の山から解放されたのは、心底楽しみにしていた初イベントを歯噛みしながら見送った後だった。

 煩雑なリアルから解放され、初めて降り立ったマナウスという街で、頬を撫でる風に心地よさを感じ、活気あふれる市場の様子に臨場感を感じる。それはまるで、中世ヨーロッパの都市に紛れ込んだような錯覚を覚えるほどだった。


「なあ、爺さんってそういう役割ロールプレイってことなのか?まさか体感が売りのゲームで爺さんプレイをやりたがる奴なんているとはな」


 興奮冷めやらぬ中、声を掛けてきたのはいかにも軽薄そうな十代後半に見える少年だった。装備は金属製で、恐らくは何かのアニメを基に作られたであろうデザイン性を重視した装いだ。その態度はただの一般人に見える私に対しては少々傲慢な態度といえる。しかしてここで反論をして何がどうなるものでもないと考え、若者の過ちは無視して通り過ぎることにした。


「おいおいおい、まさかここまで言われて何も言い返せねえのかよ。これはとんだビビリ君をつかまえたもんだなぁ。ええ?爺さん」


 私には彼が何をしたいのかがわからない。周囲に目をやるとほとんどの人が目を逸らして離れて行ってしまう。助けも期待できなさそうなこともあり、自分で何とかするしかない。解決のためには彼が何を求めているのかを聞き出さなくては。そう考えていると少年の背後から魔法使いと思しき風体の男が近づいてきたいた。


「少年、その辺にしたらどうだ?初心者目当てのPVP勝率稼ぎにしても、もう少し挑発は上手くやるといい」

「は?なんだよ。てめえ俺に文句でもあんのかよ」


 少年はついに地の性格が出てきている。何とも短慮なことである。それに対して魔法使いと思しき男は落ち着き払って少年と相対していた。


「相手は明らかに初期装備の魔法職ソーサラー、勝率だけではなく、闘技祭前の練習台としても最適ではあるかもしれないな。君のような輩の気が逸るのも分からなくはない。とはいえ、さすがに見逃すのは難しい」

「だからうるせえんだよ!てめえになんの関係があるんだよ!」


 なるほど、少年はプレイヤー同士の模擬戦闘をしたいのか。それも私のような弱者を選んで勝率を稼ぐ算段のようだな。それをあの魔法使いが止めてくれたと。

 2人の口論を尻目にこの状況の落としどころをどうするべきか思案していると、いつの間にか話の流れが変わってきているようだった。


「それはつまりは、君は初心者相手以外では勝率すら稼げないレベルだと自分で主張していることになるな」

「っ、この野郎!それだけ言うならお前からやってやる!まさかここまでコケにしといて戦えませんなんて言わねえだろうな」

「これだけ挑発をして戦わないなんて言わないさ。さて、話がまとまったところでお名前を伺ってもいいだろうか?」


 私の名を告げると魔法使いはヨーシャンクと名乗り、簡単な自己紹介をしてくれた。態度、言葉遣い、どれをとっても落ち着きを絵に描いた様な男だ。


「礼も述べずに申し訳ない。助けて頂き感謝する。ありがとう」

「いや、特に気にすることではないさ。私にも利のある戦闘だったのでね」


 話を聞くと、どうやらヨーシャンクは現在行われている闘技祭に参加しているようだ。魔法職ソーサラーの大会は終了しているから、恐らくは今週末の戦魔ミックスに参加するのだろう、これはその演習といったところか。まあこの男はそれがなくても助けに入ったような気もするが。


「さて、もしよければ戦闘中のチャットでもどうだろう。そうすれば状況に合わせた魔法の使い方についても解説が出来る」


 それは願ってもない申し出だった。私の初期選択の属性は風、その今後の使い方の参考になるのであればこれ以上ない出来事だ。


「ありがとう。ぜひそうさせてもらいたい。しかしいいのかな?それで戦闘に敗れでもしたら申し訳ないのだが・・・」

「ふふ、あのレベルなら問題ないが、まあ負けても特にペナルティもないしな。それよりも新たな魔法使いの学び場に出来るならその方が良い。・・・さてこれで大丈夫か」


 チャットがつながったことを確認すると、二人は草原にむけて歩き出す。少年からは明確な敵意が向けられているようだったがまさに柳に風、気にする風でもなくヨーシャンクは歩いていく。

 草原で互いに向かい合うと、2人を中心に青いドーム状の半円が浮かび上がった。なるほど、これがフィールドになるのか。


「さて、まず魔法職ソーサラーと近接職ファイターの戦闘においてだが、基本的な図式は明確だ」

「距離を巡る戦いかな」

「その通り。その為の方法にはいくつかあるのだが。まずは」


 戦闘開始と同時に距離を詰めようと少年が飛び出すが、その足元に炎の矢が着弾した。飛び出した勢いを殺されたところでさらに追撃が続き、被弾しないように避けたことで開始位置よりも後方まで下がらされている。

 なるほど、必ずしも当てることが必要なわけではないということか。


「本来単体の魔法はオートでターゲットに飛んでいくんだが、マニュアルならああいった使い方もあるという事だ。全属性最初の攻撃魔法はこのアロータイプ、良ければ参考にして欲しい。それから盾持ちやダメージ無視で突っ込んでくる相手にはこういう方法もある」


 小さなダメージは無視することにしたのだろう。少年は盾を構えるとヨーシャンクに向けて猛然と駆け出した。しかし、その瞬間、少年は爆発と共に横に弾き飛ばされていた。


「今のは一体?」

「範囲系魔法の事前設置だよ。設置にかかる時間と余分な消費MP以外にもタイミングのシビアさがあるのが難ではあるが、成功すれば見ての通りだ。他にもマニュアル操作を使ったこんな方法もある」


 そういうとヨーシャンクは4個の火の弾を背後に浮かび上がらせた。それがさらに4個、計8個の火の玉が次々と矢を作り上げ、一斉に少年に向かって飛んでいく。

 それは全てが異なる軌道を描いていた。3発は少年に真っ直ぐに飛んでいき盾を使わせる。残った5発は緩やかに曲がり、盾を避けて少年に命中した。少年は呻き声をあげながら後退している。直線では難しいと感じたのか、盾を構えて様子を窺っているようだ。


「さて、いくつか方法を見せたがこれらは全て機動力対策の方法だ。とはいえ少ない魔力消費で数発当ててもそこまでのダメージはない。だからといって安易に魔力消費を大きくして連発するとあっという間に魔力が尽きる。それを織り込んでの策であれば問題ないが普通であれば下策、しかし今回それを食らった少年を下がらせるだけの威力があった。なぜかわかるかな」


 突然質問を振られたが、さすがにヨーシャンクの魔力が多いからという根本を崩してしまうようなものが正答ではないだろう。ならば自分で確認するしかない。魔法ウインドウを開き、マニュアル操作で魔法使う確認するとそれはすぐにわかった。


「威嚇用とダメージ用で消費魔力を変えているということか」

「その通り。今回は最初の3発を最小魔力で、残りをその3倍の魔力にして撃ってある。結果については御覧の通りだな」


 使用している魔法一つをとってもすべてに工夫の跡がある。なるほど、これがVLOでの魔法使いキャスターの立ち回りということか。体感が売りのVRMMOにあっては流石にコマンドから選んで撃てば必ず当たるというわけにはいかないのだな。しかし、そうなると疑問もある。


「これまでの流れを総括すると、魔法はマニュアルで使わないと効果を発揮しきれないという事なのだろうか」


 その問いを待っていたのか、理解が早くて助かると笑いながら答えている。しかし、私から見てもそこまで少年の動きは悪くはないように見えるが、それをああも圧倒できるヨーシャンクとはいったい何者なのだろうか。


「はっきり言って、この辺りの初期モンスターならそもそも普通にオートで魔法を使うだけで対応できる。しかしレアモンスターやプレイヤーが相手だと、それだけで当てるのは難しいから、マニュアルもいずれは使わざるを得ないだろうな。さて、マニュアルでの魔法の行使には他にも色々あるのだが、今回使っていたのが2つ。それが“魔法待機”と“魔力調整”だ。前者は事前に魔力を多めに消費して周囲に待機させることで複数の魔法を同時使用させる方法、後者は文字通りどの程度の魔力を使用するかの調整だ。これらはマニュアルとはあるが、ショートカットコマンドさえ作っておけば、視線を読み取って勝手に選択することもできる。使いこなすにはUIユーザーインターフェースの熟考を進めるところだ。ちなみにこの二つを使って最小最速、手数重視の攻撃を行うとこうなるな。」


 話しながらも常に火の玉を生み出し続け、それは既に20ではきかない数になっている。それが一斉に矢となり、少年に向けて飛来した。盾を構えて防いでいるが、小型の盾でその全ては防げていない。半分ほどは被弾しており、体力もかなり削られたようだ。


「さて、ここまでの戦闘はすべて初期の単体魔法と範囲魔法の二つで戦ってきた。それでもこれだけの工夫が出来るが、属性のレベルが上がって魔法の種類が増えればさらに幅広い応用が可能だ。そしてもう一つ、VLOの魔法にはある特徴がある」


 それは私でもすぐにわかった。ある意味ではそれを使用したいという欲求が私をVLOへと導いたのだから。


「合成魔法オリジナルだね」

「そう。これは属性・種類を問わずこれまで習得した魔法の特性をミックスして自分だけの魔法を作り出せる。当然属性の種類、課程の複雑さが増せばそれだけ消費魔力も増えるが、これこそが魔法使いキャスターの真価を問う魔法といえるだろうな。今回は初期魔法とこれまで紹介した技術を組み合わせて作ってみたので、まずは見てもらおうか」


 攻撃の機会を見いだせず、巧みな魔法行使によって防戦一方となり追い詰められた少年は、半ば勝利を諦め、何とか一撃をと飛び込もうとしているようだった。

 直線的な突進をひらりと交わしながら、ヨーシャンクは時折単発の火の矢で応戦している。それはこれまでとは異なる消極的な戦法の様に見えて、その実巧みに相手の位置を誘導していたようだ。

 少年がフィールドの中央に立った瞬間、それは起きた。


「なっ」


 それは360度、更には上空も含めたあらゆる方向からの火の矢の雨。しかもそれはすべて魔力調整で威力を調整してあるらしく、盾で抑えられる位置は弱く、それでいて必中の火の矢の威力は高い。更には直撃した火の矢が爆発する。次々と起きる爆発の煙に包まれた少年はそこから一歩も動くことが出来ず、魔法に蹂躙された。同時に戦闘が終了したようだ。青いドームが消えていく。


「さて、初期魔法の戦闘を見てもらったがどうだったろう、少しは今後の役に立てただろうか」


 全く危なげない戦闘を行ったヨーシャンクは戦闘前と全く変わらない足取りでこちらに進み出てきていた。

 そう、言葉の通り使ったのは初期の魔法の組み合わせだけ。私に合わせての戦闘だったわけだ。私がこの域に達するには相当の時間が掛かるのだろうが、今目標をこの目に出来た事が良かった。あとはそこまでのロードマップを作って進むだけなのだから。


「勉強になったよ。まさか初期魔法だけでこれだけの工夫が出来るとは思ってもみなかった」

「そう言ってもらえると戦ってよかったと思えるな。まあ最後の合成魔法オリジナルはいずれかの属性の魔法レベルが10にならないと使えない、そういう意味では若干フライングだったかもしれないが」

「いや、それも含めてだ。基礎を修めてこそその後の応用につながるという事、これ以上なく理解させてもらえた。本当にありがとう」


 少年はいつの間にかいなくなっており、私の脅威も去ったといえるだろう。そのことについて改めて礼を述べ、ヨーシャンクとは別れることになった。VLO初日にして素晴らしい出会いを得られた。あの高みを目指して私も己の道を進むとしよう。


 私は不定期にしかログインが出来ない。ログインをしたとしても長い時間のプレイなど望むべくもない。そんな私には、トッププレイヤーになりたいなどという考えなど毛頭ない。私に許された少ない時間を生かし、楽しみ、少しずつ上っていくのだ。


 今日はその為の第一歩。まずは冒険者になろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] UIユーザーインターフェースとか合成魔法オリジナルとか明らかに振り仮名ぽいのが普通に書かれてて腹立つ
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