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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
1章 初めて尽くしの猟師道
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悪戦苦闘の二日目午前

前話に掲載忘れがあったので最後に数百字を追加してあります。初日が終わったという事だけなので気にせず読むことも出来ますが良ければ御一読ください。

 日が明けて日曜日の午前9時。俺は冒険者ギルドの依頼ボードの前に立っていた。まずは野兎へのリベンジを果たすべく野兎討伐のクエストを受けること。これだけは絶対に外せない。

 当然それだけということもなく、他にも薬草収集の依頼を受けようと考えていた。薬草もマナウスの周辺の草原で採取できるようだし、どちらも一緒に達成できるクエストだ。まあこれくらいなら植物知識Lv1でも見分けられるはずという希望が大いに混じってるけど。

 という事で二つの依頼を受けるとすぐに冒険者ギルドを出てマナウスの外に向かった。ただ、どうやらVLOには空腹度もあるみたいで、あまりに腹が減って商店街通りで串焼きやらスープやらで気付けば210リールも使ってしまったのは痛い。これで残金は610リール、正直ちょっと不安である。まあ稼げれば何も問題はないんだけどな。


 少し予定よりは遅れてしまったがやってまいりました2度目の草原。今日も草原はプレイヤーで賑わっていたけど、少し歩くと獲物が俺の前に飛び出してきた。目測で10メートル先ぐらいか。こっちに背を向けて動きを止めているのはかの仇敵野兎。今度こそきっちり仕留めると心に誓い慎重に近づいていく。

 火薬よし、弾込め良し、構えよし、照準よし、発射!

 炸裂音と共に肩に大きな衝撃が襲い、赤いエフェクトを散らしながら野兎ははじけ飛んだ。思わず拳を握りしめながらも様子を観察を続ける。

 そのままピクリとも動かないことを確認すると慎重に剥ぎ取りナイフを突き立てた。野兎は光の粒子になって消えてしまい、アイテム獲得のインフォメーションが出る。なるほど、野兎の皮か。どんなものかはわからないが獲得すると自動的にリュックに入るようだ。

 続けて見つけたもう1匹も1発で仕留めることが出来た。昨日とは違って調子はいいがこのままの調子で残り8匹の野兎を狩れるのか。残りの弾丸は18発しかないのだ。

 その後も精力的に獲物を探し続けたが、結局最初の不安が的中したのか調子が良かったのもそこまで。次の野兎には3発、その次は4発とかかってしまった。これで残りは11発、いよいよ達成が厳しくなってきた。

 当たらない原因として、始めたばかりだから当然だけど俺の腕が悪い。それは分かっている。ただ、それを理解したうえで一応言い訳をしてもいいだろうか。野兎狩りは武器の扱いを学ぶのにちょうどいいんだろう。そのせいで多くのプレイヤーが野兎に群がっているのだ。戦闘の音や話し声、時には寝そべる俺を見て笑うプレイヤー。リアルで銃を触ったこともない俺にはその中で集中を保つことなどできなかったというわけだ。

 調子が悪くなると遭遇率すら下がるのか中々新しい獲物を見つけられなくなってしまった。

 どうするかと悩んでいると、ふと昨日いくつかの商店を回った時に地図を見つけたことを思い出した。たしかマナウスは南と西に向かって街道が伸びている。東側には山がそびえたち、北側は遠目にも分かるほど鬱蒼とした森が広がっている。次の町を探すなら街道を進むのが常識で、森や山に向かうのは新しい素材やモンスターを探す人くらいだろう。

 ということで俺は仕方なく北に向かうことにした。実際に20分ほど歩くだけで随分と人が減っているが、それでもまだ数は多い。それならともう少し奥まで歩いた。


 合わせて1時間近く歩いただろうか。まだ森までは距離があるが大分近づいてはきている。森の恵みが近いこともあるせいか野兎の数も多いようだった。ここなら集中して狩ることも出来るだろう。繰り返し行ってきたことで装填作業もスムーズになってきた。銃のスキルレベルは上がってはいない訳だし、これは作業自体が良くなってきているという事だ。

 モンスターを探すとすぐに近くに3匹の野兎が固まっているのを見つけた。これなら多少のずれがあっても当たりやすい、というか真ん中あたりを狙えばどれかには当たる気がする。静かに伏せると深呼吸を一つ、中心に狙いを定めて撃った弾は予想通り左の野兎に直撃した。中央の野兎は銃声に驚いたのかすぐに森に向けて逃げていったが、右の野兎は鳴き声を上げると怒れる目を俺に向けこっちに駆け出した。

 突然の出来事に膝立ちのまま呆けてしまい、避けることも出来ずに野兎の体当たりを胸元に受けてしまった。思わず目を瞑った途端に息が詰まるような衝撃と微かな痛みが全身を駆け巡る。目を開けると青空が見えていた。さすがにまだ生きてるな。

 体を勢いよく起こすと周囲を見回した。野兎は背後に回っており、唸り声をあげながら俺を睨みつけている。野兎だってモンスター、攻撃を受けたらそりゃあ反撃をするのも当然だよな。これまではもしかしたら狙いが外れすぎて攻撃としての判定がなされていなかっただけなのかも。腰元の火薬袋に手を入れ火薬を出しながらもそんな考えがよぎったが、その後の装填を許してくれるはずもなく追い打ちをかけるように向かってきていた。


「ちょっと、待てっ」


 真横に転がり込んで何とか避けるがこのままでは弾など込められるわけがない。なんとかしなければと覚悟を決めると初心者の火薬を戻して初心者のハンドキャノンを逆手に持ち、バッターさながらのポーズをとった。突進に合わせて思い切り横に薙ぐとストックに顔面が直撃し横に転がっていく。ふらつきながらも立ち上がるが眩暈でも起こしているのか動きが鈍い。思わぬチャンスに体が反応し、野兎まで駆けつけると首元を蹴り上げた。それが止めとなったんだろう、もう野兎はピクリとも動かない。

 二匹に剥ぎ取りナイフを突き立てて野兎の皮と野兎の肉を得ることが出来た。アイテムが増えても特に重さも感じないし旅人のリュック様々だな。そのまま座り込むと大きく息を吐く。精神的な疲労なのか随分と体が重く感じる。

 正直に言って野兎は間違いなく弱いはずだ。某RPGでいう青いゲル状生命体と一緒といえるだろう。苦戦なんてありえない初期モンスターだ。それにまさかの死に戻りを覚悟した。実際に目の前にモンスターがいるという事がどういうことなのか、初の接近戦を経て改めて理解させられてしまった訳だ。

 今の戦闘の反省とか今後への対策とか色々と考えるべきことがあり、少し休憩を挟もうとしたが、本当の脅威はその後にやってきた。

 もしもに備えて装填を済ませた矢先、森から何かが走ってきたのだ。はじめは小さな染みのようにしか見えなかったそれも、近づいてくると姿を確認できる。あれは恐らく猪だ、それも牙がやたらと発達している。動物知識が働いたのか、猪の上に小さなウインドウが出ている。


≪ボア  アクティブ≫


「名前はそのままなんだな。てかアクティブって。俺何もしてないんだけど」


 思わずぼやいてしまったが事前に気付けたのは運が良かった。あの速さから逃げるなんて俺には無理で、となると残る選択肢はこの場での迎撃しかない。半ばやけくそな心持ちで草原に伏せると初心者のハンドキャノンを構える。さっきの戦闘でどうやっても1発しか撃てそうにないのは学んだばかりだ。それならぎりぎりまで引き付けて撃つしかない。

 ボアはかなりの速度で走っているのだろう、その姿はどんどん大きくなる。想像以上の大きさに外した後の末路が浮かび恐怖を感じるが、歯を食いしばり時を待った。

 50メートル、ボアの駆ける足音が微かに聞こえてくる。30メートル、この距離でも猛る瞳が見える。15メートル、ごわついた毛皮の質感まではっきりとわかる。だが、あと一息、10メートル程の距離まで引き付けると火つけ棒を差し込んだ。炸裂音と同時にボアは短く悲鳴を上げて転がり、重々しい音を轟かせながら目の前で止まった。さすがの火力というべきか、すでに仕留めているようだ。震える手で剥ぎ取りナイフを突き立てるのと同時にアナウンスが響いた。


≪銃スキルがLv2になりました≫

≪隠密スキルがLv2になりました≫


 ついにスキルレベルが上がった。これで少しは楽になるのだろうか。いや、それよりも今はアイテムか。得られたのは野生猪の皮と野生猪の肢肉だった。2種類も獲れたことに喜び、同時に感じていたことが1つ。


「ボアの方が当てやすい…?」


 そう、ボアは野兎よりも巨体だ。それが近くまで突進してくる恐怖に勝てるのならば、訓練場の的よりもかなり小さい野兎より圧倒的に当てやすいのだ。確かに食いしばっていなければ口からはカタカタと音が鳴るような迫力だ。それでも安定した成果を望めるかもしれないと考えるとやはり欲が出る。森に目を凝らすと草原との境目にはいくつか黒い影が動いていた。次が襲ってこないのは隠密のレベルが上がったからか。

 それならまずは検証だ。少し近づいてみよう。


 2メートルほど近づいただろうか。1匹の影がこちらに向けて動き出した。到達までに装填する時間は十分にある、ボアの動きを確認しながら慎重に装填を行い、伏せると先程と同じように引き付けていく。

 ボアは文字通り猪突猛進を体現するかの如く一切のブレもなく突進を続けていた。こいつだって初期モンスターであることは間違いない。だからこそなのだろうか、フェイントをかけるといった思考は全くないようだ。10メートルを切る辺りで炸裂音が響きボアは転がり込みながら息絶える。剥ぎ取りナイフを突き立てるとアイテムは野生猪の三枚肉と野生猪の肢肉が手に入った。


≪動物知識がLv2になりました≫


 最後の1体を識別した時にアナウンスが入っており、戦闘後に確認するとレベルが上がっていた。だがそれよりも今はこの充足感だ、ようやく狩りらしい狩りができた。

 これまでに見つけたモンスターは野兎とボアの2匹に過ぎないが、それでもボアはかなり相性の良いモンスターだという確信が持てる。それは継続した狩りで証明できた。残る8発をすべて命中させることが出来たのだ。得られたアイテムは野生猪の皮が6枚、野生猪の肢肉が8個、野生猪の三枚肉が2個。これまでの戦果と合わせてどれだけの価値があるのか、今から心が躍る。

 だがさっきから大事な何かを忘れているような、やるべきことをやっていないような。射撃を支え続けて痛みの走る肩についてだろうかとも考えるが恐らく違う。いつまでも思い出せないことに不安感が拭えない。


「あ」


 たぶん、ものすごく間抜けな声だったと思う。視線の先には草を食べる野兎、何かを忘れている俺、簡単なことだった。火薬も弾もないのにまだ野兎を4匹しか狩っていない、このままでは依頼を完了できないのだ。たっぷりと5分は悩んだ挙句に出した結論はひどく野蛮な方法だった。


「くらえっ」


 振り抜いた足はしっかりと野兎を蹴り抜く。跳ねる野兎追いかけてはさらに蹴ること2回、合わせて3回の蹴りで野兎は仕留められる。

 リアルでこんなことをしたらあっという間に動物虐待で通報されてしまうだろう。でも忘れちゃいけないのはこれはゲームで、こいつは人に害をなすモンスターだということ。何よりも依頼の完遂に必要なことだった。猟師とはかけ離れた方法ではあるが20分ほどの狩りで残りの野兎を狩るとウインドウにアナウンスが表示される。


≪野兎討伐の依頼を完了しました。冒険者ギルドに報告してください≫


 時間を確認するとすでに12時になっていた。大分腹も減ってきておりそろそろ戻らないと腹具合的にも厳しい。まだ狩れる野兎は多いが帰還を優先し、帰路の途中で薬草を探すことにした。目につく草に対して端から植物知識を使用していく。

 どうやら薬草はぽつぽつと群生している膝丈の茂みの中にあるようだ。草をかき分けると一際濃い緑色をした植物が生えている。植物知識を使うと。


≪薬草≫


 しっかりと植物の上に名前が表示された。剥ぎ取りナイフで根元を削ぐとそのまま手に入れることができ、自動的に旅人のリュックの中へ。途中で必要数に達してアナウンスが入ったが、俺にとっても必要な物だし目についた茂みからはしっかりと収穫しながらマナウスまで戻ることにした。

 採取には予想以上に時間がかかり、マナウスに着くと1時を過ぎていた。まずはリアルの食事からか。門を潜り、ギルド通りに入ると小道に入ってログアウトを行う。


 リアルでの昼の食材は半分ほど残っているお好み焼き粉にキャベツ、豚肉、卵、鰹節、あげ玉、青のりだ。キャベツを刻み、生地を作り、混ぜ合わせて焼き上げていく。

 男の一人暮らしだと特に手の込んだものにはならず、それが何風なのかも考えずにすべて混ぜて焼いてしまう。作っている間も、食べている間も考えるのは初心者のハンドキャノンの射撃精度の向上方法だ。

 昨日のログアウト後に再度調べたが、あれのモデルは恐らく火竜槍と呼ばれた銃だ。今はその持ち手を棒からグリップとストックのついたものに換装している。ちなみにグリップは根元から削ればかなりゴツいマスケット銃みたいなシルエットになる。あとはバイポットがあれば精度が上がるかもしれない。作るなら必要なのは青銅か鉄か辺りだろう。結局は資金次第という結論にしかならないけど。

 その後は買い物と身の回りのことを済ませ、少し掲示板も見ておくことにした。

 銃関連のスレを重点的にいくつか覗いてみたけど、どうも銃はかなり癖の強い武器ってことで評価の分かれる武器らしい。火力は強力だけど当てるのは難しく、連射性能が低くオーバーキルになりがちだから対多数戦闘には向かない。というのが批判としては多い。利点は何よりも高火力であること、そして銃を新調することで改善される正確性みたいだな。

 スレは銃だけでなく、商店の品ぞろえをまとめた物から店主の性格まで幅広い。その中で目当てのスレを見つけると場所だけをしっかりと覚えておくことにした。

 今後の方針が決まり、調べものが終わると再びベットに横になる。さあ、午後のプレイを始めよう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新再開されていたようで、最初から読み直させていただいてます。 誤字報告にて冒頭の残金関係で2通り報告させてもらいましたが、これ以降の話もわりと細かい所持金についての話しが出てました。なの…
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