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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
3章 イベントは生産職とともに
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始まりの森へ

一つ前を中途半端な時間に上げてしまったことで、一日一話じゃなかった件について。

やっちまいました!

3章はこの話を含まずに、残り4話となりますので、よろしくお願いします。

 司令部に沈黙が訪れた。敵の本拠地は割れたのに、どう考えても現在のモンスターの総数が合わない。それはどこか俺達の理解の外にいる、見えないモンスターの戦力が圧力になり、攻撃に移ることができないということだ。

 もし他にモンスターの戦力があるというのなら、それはどこか。ひたすらに考えていたが、先に答えに行き着いたのは錦の方だった。


「確認しておきたいんだが、見つけたゲートから出てきたモンスターはどの程度がゴブリンだったのかわかるか?」

「大体6割くらいがゴブリンだったな。他はステップウルフとハイランドタイガーが半々って感じだと思う」

「今の敵の主力は牙狼とハイランドタイガーにビックレオ。という事は残る戦力は他から持ってきたと考えるべきか。そうなると一番怪しいのはやはり北だな」


 これにはガイルを除く他の騎士の表情にも疑問が浮かんでいた。それを受けて地図を睨んでいたガイルが呟く。


「ここにサンブレードの砦があった。報告ではかなりの急造で造りの甘い代物だったという。となればだ、多少開けていて見つかりにくい場所は他にもある中で、なぜここだったのか」

「サンブレードは本丸が落ちる前に逃亡したはず。この賊がもしもゴブリン達と連携をしていたとしたら、本命を隠すための目眩ましなのだとしたら。私が敵ならここかここにモンスターの居留地のようなものを用意します」


 モンスターは北から補給していた。その案に対して様々な意見が交わされる。PCプレイヤーやNPCノンプレイヤーを問わず活発に行われる議論にAIのレベルの高さを感じるな。

 まあ、俺もさすがに何も話さないで聞いているだけってわけにはいかない。というより、気になることが一つあっただけなんだけども。


「すまん、一つ聞きたいんだが」


 俺が声を発したことで、その場にいた兵士や騎士が静まり返ってこちらを見た。いや、そんなに大したことを聞くわけではないから申し訳なさを感じてしまう。


「仮にモンスターの居留地が北にあったとして、それをどうやって移動させてるんだ?今は四六時中冒険者や騎士団が目を光らせているわけだし、ゲートの様子も観察してきた。見つからずにひたすら排出なんてできるのか?」


 当然の疑問だったのだろう。他にも同じようなことを考えていた者たちはいたらしく、今度は答えを持っているかもしれない錦とガイルに視線が集中した。

 2人はそれへの回答も用意できていたらしく、特に焦ることもなく口を開いた。


「カイ、それについても推測ではあるが考えがある。私もこれだけの目がある中で見つからずに移動させ続けるのは無理があるのは分かっている。だからこそ、解決の糸口はこれまでの出来事から探さないといけない。そうなると話にあった白い虎か、まだ未発見のモンスターだ」


 いくらなんでもそれは、と言いかけたところで、錦の隣に立っているガイルが深く頷いているのを見付けて口を閉じた。少なくとも、可能性以上の何かを知っている。そう感じたからだ。


「うむ。私も幼少の頃の寝物語にしか聞いたことがないが、かつていた偉大な探検家が、この大陸のある場所にて聖域を守護する聖獣と出会ったという。それは白く美しい獣だったそうだ。聖獣は非常に聡く、穏やかだったが、聖域を侵す不届きものがいた時には眷属を従え、召喚し、誰よりも雄々しく戦ったという。伝説か空想の物語だとは思っていたがな」


 聖獣というワードはそれはそれで非常に気になるが、もし本当にそのモンスターなら、最初のイベントで戦っていいモンスターではないような気がする。というか俺は遠慮願いたい。

 これ以上ここに留まり、身の丈に合わないクエストを受けることになると困るので、俺はこの辺で下がらせてもらう事にした。


「まあ、今後がどうなるかは別としても、俺のクエストは完了でいいのか?さっきかなりアイテムを消耗したから補充しときたいんだが」

「ご苦労だった、おかげで大きく前進できたよ。また何かあったらこちらから連絡させてもらう」


 ガイルには頷きを返して拳を合わせる。見た目の年齢も近いからか少しずつ戦友って感じが強くなってきたな。向こうが気にしてないのもあって、話し方も普段通りになってきてしまっている。


「錦はここにいるか?」

「できることなら。だが私達はパーティーだ、その和を乱すつもりはない」

「いいんじゃないか?2人には俺から言っとくし、むしろ気の済むまで頼む」

「毎回すまないな。カイのおかげで我々はこのイベントを存分に楽しめている、感謝しているよ」


 作戦本部を出てからは鉄心とアイラの元を回ったけど、2人ともそれぞれの作業に熱中しているようだった。それでもそこはやっぱり同じパーティーだ。今回のクエストから学んだアイテムがあったそうでそれを作っておいてくれたらしい。いざという時の為にありがたく受け取って第3拠点を出ることにした。

 最前線はモンスターと騎士団と冒険者がせめぎ合う戦場ではあったが、だからこそ周囲の様子を観察して歩けば戦闘中のパーティーの合間を縫って、戦わずに進むことが出来た。次から次へとモンスターを探して彷徨う冒険者たちがひしめいているだけあって、モンスターはあっという間に捕捉されている。

 第2拠点を過ぎてからは多少の戦闘は会ったけど、死に戻ることなくマナウスまで戻ってくることができた。

 俺は真っ先にプレイヤーマーケットに向かう。想定よりもアイテムを大量に使ってしまい、さすがに予備のアイテムだけでは賄いきれなかったからだ。材料を購入すると残金がまた440リールとお寒い限り。いつになったらリッチマンになれるのやら。

 ついでとばかりにログを確認すると潜入系のスキルがまた軒並み上がっていた。普段同じようなことをしてもこんなに上がる気はしないんだけど、やっぱりイベントクエストだからかすいすいと上がっている気がする。


≪歩法スキルがレベル9になりました≫

≪気配察知スキルがレベル11になりました≫

≪敏捷強化スキルがレベル7になりました≫

≪集中スキルがレベル9になりました≫

≪隠密スキルがレベル13になりました≫

≪投擲スキルがレベル3になりました≫

≪歩法スキルがレベル10になりました。技能ポイントを1P得ました≫


 能力の確認後はマーケットの片隅で煙玉の製作に没頭し、すべての準備を終えるとクエストの確認に広場へと戻ることにした。朝に比べると住人の様子は普段通りに近くなり、潜入していたゴブリンの影響は薄いように感じるな。

 それよりも気になったのは、傷を負った兵士が広場に向けて運び込まれていることだった。それは数人ではきかない、かなりの人数だ。広場に続く大通りにも列ができてきており、広場に着くとそこはさながら野戦病院の様相を呈していた。


「ごめん、何があったかわかるか?」


 事情がわからなかったこともあり、近くのプレイヤーに声をかけると少し青い顔をしたプレイヤーが答えてくれた。


「それが、俺にもよくわからないんだ。南の方ではモンスターの総攻撃が始まったって聞いていたんだけど、そこで負傷した兵士がこんなすぐにここに運ばれるはずもないし、もう、何がなんだか」


 短く礼を言うと俺はすぐに広場の騎士の姿を探したが、どうやら向こうも俺を探していたようだ。混雑するなかで突然腕を捕まれると、そこには見たこともない中年の騎士が立っていた。

 かなり焦っているのか口調には余裕が感じられない。内容は分からなくても、それだけの緊急事態ってことだな。


「貴公は冒険者のカイ殿で間違いないだろうか」

「はい、そうですが」

「良かった。まさかマナウスに戻ってきてくれていたとは。緊急で悪いのだが、どうしても受けてもらいたいクエストがあるのだ。話だけでも聞いてほしい」


 さすがにこの状態で否と言える神経は持ち合わせていない。もとから断る気もないけども。首を縦に振ると騎士は広場の一角に案内してくれた。そこにはすでに数人のプレイヤーが集まっている。


「こんちわっす、あんたも突然呼ばれた感じですか?」


 話しかけてきたのは金髪にピアス、鎧も金色に塗装された派手なプレイヤーだった。過去から呼び出されたオレ様キングがコンセプトなのかも知れないが、それならもう少し威厳を、というより言葉遣いを何とかしてほしい。ギャップが凄すぎて初対面に突込みを入れてしまいそうになる。


「そうだよ。で、これはなんのクエストか聞いているか?」

「わっかんないんすよねー、でも俺は北のクエストだと思うんすよ」


 く、激しく突っ込みたい。見た目と口調のギャップの大きさが気になる。他のプレイヤーも同じ思いなのか、男をとても残念そうに見ていた。

 その後も金髪の男が1人軽快に独演を続ける中、周囲がうんざりとしてきた頃に1人の騎士が声を掛けてきた。


「待たせて済まない」

「いやいや、全然っす。これで逆にクエストがどんななのか気になるってもんすよ。やっぱり俺としては…」

「よし、ちょっと黙ろうか」


 我慢の限界だったのだろう。1人の勇気あるプレイヤーがヘッドロックをかましたことで、金髪男は何か言うたびに突っ込まれ、しかしやたらと嬉しそうである。まさか、と疑いたくなるな。


「取り込み中悪いが、本題を伝えたい。南で敵の総攻撃が開始されると同時に、北の森に大型のウルフ型モンスターが現れた。騎士団の兵士が対応したが一蹴され、相当の被害が出ている。今回の依頼はこれの討伐だ。時間がないため、受けるかどうかはこの場で判断してもらいたい」

「はいっ、はいっ!俺ん所はそれ受けまっす!」


 男は即答で受けたが他も似たようなものだ。俺も含めその場に集められた12パーティーすべてが参加することになった。なんとなくの空気として、最初に金髪男に突っ込みを入れたプレイヤーが主体となっていくつかの質問をしている。

 今回は敵がこちらの連携を削ぐためのアイテムを持っていることから、最初から他のパーティーとの連携は取れない。そして、時間制限付きのようだ。これについては騎士が詳しく説明してくれた。


「我らもただ被害を増やしていたのではない。奴等に魔法を駆使して幻術空間に留めておるのだ。その中に入れるのは最大で6名、幻術の強度からいって複数のパーティーが入ることはできないようになっている。そしてこの幻術空間は2時間と少ししかもたない魔法だ。よって討伐期間は今より2時間とする。それだけの時間があれば第1拠点の騎士を呼び戻せるしな。だが、騎士の負担を減らせれば、それだけ南が楽になる。よって、複数体狩れた場合は報酬は上乗せという事にする」


 最後の説明を聞いたプレイヤーは弾かれたように走り出していた。俺は素早く、でも特に急ぐことなく北の森に向かう。その間に錦に連絡を取ることにした。


「どうした、なにかあったかな」

「聞きたいことができた。クエストを受けて2時間以内に大型のウルフを狩ることになったんだけど、南に似たようなモンスターは出るか?」

「その話か。今確認しているイベントモンスターの中にウルフ型のモンスターは2種、ステップウルフと牙狼だ。大型ということは牙狼で間違いないだろう」


 残念ながら南に行ったときに牙狼と遭遇することはなかったから、実際の姿かたちすら俺は知らない。牙狼の特徴について確認していると、すぐに森に到着した。

 この辺りまでは騎士団やプレイヤーが頑張っているからたいしてモンスターはいなかったけどここからはきつい戦いが待っている。俺は気持ちを新たに森へ1歩を踏み出した。

 森の中に入ると、そこは普段よりも空気が張りつめているように感じる。余りの空気の違いに肌がピリピリとするような感覚まで覚えてしまう。まったく、毎回のことながらこれがゲームだってことを忘れそうになるな。

 餞別として、もしもに備えてとアイラから受け取ったアイテムを背負箱から取り出した。


≪猟師の糧食 レア度2 重量1≫

 古来より猟師が良く食べてきた糧食。小型のパンを乾燥させてあり、触感が良い。食材にマレの香草を使用したことで、一時的に体臭を抑えることが出来る。

 効果:体臭抑制(小) 満腹度回復12%

 製作者:アイラ


 まさに今の俺に必要なアイテムだ。色々書いてあるけど要するに乾パンだな。それをポリポリと齧りながら進んでいくと程なくして、あの時のような空間の揺らぎを見つけることが出来た。

 今回は中に何がいるのかわかっている分、入るのに躊躇はない。止まることなく一歩を踏み出す。気を付けるのは最初から見つかっている状態で戦闘が始まるのかどうかってことぐらいだ。


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