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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
3章 イベントは生産職とともに
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マナウス騎士の権能

期間が空いてしまい申し訳ありません。

今後の投稿についてと、現在の進捗状況については活動報告にあげる予定です

 ついてくるプレイヤーの目が怖い、あれは完全に殺る気の目だ。黒壇の背負箱を装備してからは時代錯誤な猟師と薬師のハイブリッドみたいになっているし、どこをどう見ても攻略組には見えない姿をしている。こんな頼りないプレイヤーと一緒にいるならパーティーの組み換えができなくても一緒に連れて行こうって感じだろうか。

 代表者なのか大柄な全身鎧に身を包んだ男が目の前に進みでる。これは威圧する気満々だな。


「おい、名前は?」


 なんとも高圧的な物言いだこと。もしかしたらそういう役割ロールプレイなのかもしれないが、どう考えてもプレイヤーはおろか、住人達にも理解はされないんじゃなかろうか。


「カイだ。君の名前はなんていうのかな」

「俺はヴィンランドだ。悪いんだけどここからはお前はソロでプレイしてくれ。その方がこの3人もレベルが上がって助かるだろ」


 最初からこちらの言い分を聞く気はなく、自分の思いを通すことしか考えていないようだ。その様子は外見だけであれば落ち着いているようでいて、実際は興奮しきっているように感じる。

 俺も覚えがない訳じゃない。ワールドカップで贔屓にしてた国が負けそうなときとか、大会での予選突破が掛かったときとか。自分はいつも通りだと感じているだけで、本当は興奮していたし、視野が狭くなっていた。

 俺の首が縦に動くのを睨みつけるようにして待っていたヴィンランドだったが、それに答えたのは俺ではなかった。


「だから何度も言ったはずだ。今回は我々から頼んで一緒に参加させてもらっていると。悪いが他のプレイヤーと組んで参加する気はない」

「それは最前線に出てないからだろ?錦ならすぐにトッププレイヤーになれるんだからこんなところで燻ってる場合じゃないだろ。他の生産職クラフタープレイヤーの中には前線に出てるやつだっている。このままじゃどんどん落ちてっちまうぞ」

「だからさ、俺達はそういうのを求めて遊んでるんじゃないんだって。なんでわからないのかな」


 駄目だな、解決の糸口がまったく見えない。むしろますます混迷の度合いを増してきてしまっている。これは一度ログアウトしてしまわないとどうにもならないかもしれない。そう考え始めた時、横合いから1人の騎士が割り込んできた。


「いい加減にしないか。ここは第一拠点とはいえ前線だぞ、言い争いをしたいならマナウスにでも戻ってからしてもらいたいものだが」

「あれ、ガイルさん」


 騎士はマナウスで市街地の見回りをしていたガイルだった。ここまで来たってことは前線の騎士が不足してきているんだろうか。ガイルも気づいたようで片手を上げて挨拶をしてくれる。


「カイか。まずはこの騒ぎについて説明してもらってもいいだろうか」

「はい、俺達はここにいる4人でパーティーを組んで参加していました。私以外は生産職クラフターです。今日は無理のない範囲で前線も見てみたいということで南に来たんですが、彼らが強引に3人を最前線に連れて行こうとしたため抵抗、現在に至ります」


 腕を組んで話を聞いていたガイルは一つ頷くと口を開いた。


「なるほどな。君達、いや君が代表なら君に伝えるか。悪いが彼らには我々のクエストを受けてもらいたいと考えている。今回はパーティーを事前に決めて参加を募っていることもあり、途中の変更は認めていない。悪いが諦めてもらおう」

「おいおい、これは俺達プレイヤーの問題だろうが。いきなり割り込まないでほしいんだが。とにかくNPCは黙っていてくれ」


 ヴィンランドの言葉を聞き、ガイルの顔には明確な怒気が現れた。それだけではない、ガイルが入ってきたことで様子を窺っていた兵士たちも怒りをあらわにし、中には武器に手を掛けている者もいる。たしかNPCってのはこの世界における差別用語の一つのはずだ。


「今の言葉、取り消し謝罪する気はないか?今なら向こう見ずな冒険者の過ちの一つとして笑って許すこともできるが」

「あん?誰が取り消すかよ。俺が何か間違ったこと言ったか?あぁ?」


 もはや限界だったのだろう。周囲の兵士達から憤怒の声が聞こえる。

 ヴィンランドの周りにいるプレイヤーは流石にまずいと思っているのか小声で止めに入っていた。ヴィンランドも勢いで言ってしまった内容の不味さには気付いているようだ。明らかに表情が強張っている。それでも言ってしまった手前、それを押し通すことにしたようだった。


「なるほどな、不死の呪い故の傲慢か。それではその伸びきった鼻っ柱を叩き折らせてもらうとしよう」


 どうやらガイルからヴィンランドに向けてPvPを申し込んだようだ。だが、ヴィンランドは動じてもいない。

 最初から受ける気がない。それは外から見ていた俺にもわかる。しかし、ヴィンランドは何度も指で何かを叩くような仕草を見せていた。


「はあ?なんで俺があんたとのPvPを受けなきゃならねえんだよ…あ?なんだ?これ、なんで受けるしかコマンドないんだよ、どうなってるんだ」

「私との決闘を避けることは許されない。さて、拠点を壊しては問題だ。さっさと行こうではないか」

「ふざけるな、なんで俺がこんな下らないことを」


 もはやこの流れから抜けることは出来ないようだ。強制的に拠点の外に連れていかれると2人を中心に青いフィールドが展開され、すぐに戦闘は始まった。

 俺達は当事者なだけあり、さすがにこの戦闘を最後まで見届けないといけない。そんな周囲の空気に流され、ぼんやりと戦闘の様子を見ていると、錦が静かに頭を下げてきた。


「本当にすまない、面倒に巻き込んでしまったな」

「気にするな。そもそも礼を言うなら俺じゃなくてガイルにだろ。それにしても、予想はしていたけど恐ろしく強いな」

「そうだね。普通こういうゲームなら、プレイヤー側の方が強かったりするのが普通なんだけど。あのヴィンランドも攻略組の下位だから決して弱くはないんだけどな」


 そう、ガイルは剣技、戦い方、心理戦とどれをとってもヴィンランドを上回っていた。単純な技量としての差も大きいのだろうけど、スキルレベルも根本から違うように感じる。

 一通り力の違いを見せつけた後はなにやらスキルを使ったようで、頭から鎧ごと両断してしまった。

 戦闘の様子を見ていた兵士達からは大きな歓声があがり、全員が拠点にあるリスポーン地点を見ていた。


「あれ、この戦闘はPvPじゃないのか?」

「私は戦闘は門外漢だ。知るはずがないだろう」


 本来ならPvPで負けても戦闘前の状態に戻るだけなんだけど、ヴィンランドはそのまま光の粒子になって消えると拠点の中央で復活した。これはつまり、死んだってことだ。ヴィンランドは何やら指を動かして、多分ステータス関係を見ていると目を見開き大声を上げた。


「ふざけんな!なんで俺のスキルのレベルがこんなに下がってるんだよ」

「何の不思議もない。我々には不死の体はないが、それでも君達を抑えるためのスキルを身に付けている。今回はそれを使っただけの事だ。これに懲りたら少しは周りにも気を向けられるようになるのだな」


 ヴィンランドはまだ何か言いたそうだったが、ガイルに一睨みされると大人しくなり、仲間と思しきプレイヤーたちと消えていった。周囲の兵士達も清々したという表情をしている。うん、やっぱり個人の行いによって住人の感情度みたいなものが変化してくんだろうな。彼はこれでマナウスではかなり悪目立ちしてしまったことだろう。


「さて、軽い運動を終えたところでカイ、話を良いだろうか」


 さて、今回はどんな内容なのか、本人も言っていたことだしクエストの依頼なのは間違いないんだけど、俺達に出来ることはそう多くない。促されるままにあるテントの中に入っていくとそこは簡易的な司令部となっているようだった。こうなるとさらに内容が気になるな。


「君ならあれ位はどうにかなるとも思ったのだが、彼はこの探索作戦以前から悪い意味で有名でね。それがここへきて兵士達を見下すことがさらに増えたそうだ。兵士達の我慢の限界も近くこのままでは冒険者との関係も危ぶまれるし、私がやらせてもらった」

「いや、こちらこそ助かりました。我等はあくまで生産職クラフター、あの場をどうやって収めるか見当もつかないところでした」

「そんな謙遜はここでは必要ないさ。北のホーンラビットの群れの中で完全にその身を隠しながら偵察を終えられる技量を持った男がリーダーなのだ。それならあの程度の冒険者は軽くあしらえる」


 そんな何を言ってるんだみたいな目で見られても無理なものは無理だから。いくらばっさりやられたっていっても攻略組のプレイヤーだからね。勝ち負け云々よりも何秒もつかの戦いになっちゃうから。


「まあその話は置いておこう。今回の用件だが、あるクエストを受けてもらいたいと考えている」

「先程も言ってましたがクエストですか、ここまで連れてきたということは何か特殊な内容という事でしょうか」


 鉄心の質問にガイルが重々しく頷いた。とはいえ俺達相手に戦闘のクエストが発生なんてことはないはずだ。となると配達か探索あたりのクエストになるのだろうか。


「実はクエストは二つある。一つは南の第三拠点の先の探索。もう一つは敵の大規模侵攻に備えた防塁と迎撃用の兵器の製作だな」


 なるほど、これはまたもや二手に分かれて参加するタイプだな。まあ互いの特性を生かすならこうなるのは当然ではあるんだけど。3人を見ると判断は俺に一任すると表情で伝えてきた。それならばせっかくのご指名だ、俺たちなりにイベントを最大限に楽しむなら断る手はない。


「わかりました、お受けします。ただ、まずは細かな内容を教えていただいても?」

「助かるよ。南の探索に関しては北と同じようなものだな。だがまずはあれだけの敵がどこから沸いてきているのかを突き止めたいと考えている。カイに頼みたいのはその発生源の探索だな。鉄心、錦、アイラには拠点防衛戦に備えての迎撃兵器の整備と最前線での補給だ。具体的には鉄心と錦は製作技能を生かして迎撃用の大砲の部品製作を依頼することになる。アイラには緊急時に備えて非常用の糧食を作ってもらいたい」


 おお、今回は3組にわかれての作戦か。3人が持つ製作スキルの方向性から割り振るなら、まあ無難な選択だな。内容はそれだけではないようで、錦にはそれとは別にもう一つ、クエストがあった。


「それから錦にはもう一つ頼みたい。チームでこなしてきたクエストの報告を確かめたが、僅かな情報から敵の狙いを看破し、迅速な対応を見せてくれた君は間違いなくこのチームの頭脳だ。しかもパーティーという単位に縛られず、状況に合わせた2面作戦を立案した柔軟な発想も高く評価している。そこで、布や革の製作自体にはそこまで大きな時間は掛からないだろうから、その後に作戦本部に合流してほしい」

「なるほど、承りました」

「よし、それではこれで内容は伝えられたことだし、早速第3の拠点に向かうとしようか」


 話が終わると司令部はにわかに慌ただしくなっていく。聞けばガイル達もこれから第3拠点に向かうらしく、ついでということで、拠点までは騎士団が護衛についてくれることになってしまった。話がまとまると、後は早々に退散することになった。

 出立は10分後、さすがにこの時間では製作も出来ない。俺は最初から準備が出来ていたこともあり、中途半端な時間が出来てしまったので、銃の整備でもしながら待つことにしていた。

 近くで同じようにそれぞれの道具を磨いている3人を見ていると、勝手に決めてしまったことへの申し訳なさを感じなくもない。


「大丈夫そうだから受けたけど、これで良かったか?」

「そんなこと気にしないで。それよりも、兵士の糧食ってどんなのか凄い楽しみなんだから!」

「俺もかな。大砲の製法を学べば間違いなく今後に生かせるだろうし」

「愚問だな。今回のイベント最前線の作戦司令部に入れるのだぞ。これで私は司令部に居ながらにしてイベントの全情報に触れられる可能性があるということさ」


 それぞれに楽しみを見つけられているようだけど、それは俺だって同じだ。要するに敵の本拠を探すわけだし、やっぱり燃えるものがあるよな。

 4人がそれぞれに期待を膨らませていると、騎士団はすぐに揃い、出発となった。

 行軍中に兵士と色々と話し、北のサンブレードは無事討伐できたことや南の戦況が泥沼化してきていること。マナウス内ではあの後も90体以上のゴブリンが見つかり、現在は空き家を中心に騎士団と冒険者で捜索を続けていることなど、様々な情報を得るかとができた。

 話しながらも周辺の警戒は怠ってはいなかったが、道中のモンスターはすべて騎士団が受け持ってくれるサービス付きだ。わずか1時間で第3拠点までたどり着くことができた。

 生産職の3人はすぐに持ち場に移動するが、錦は終わり次第本部で俺のサポートにもついてくれるそうだ。

 ちなみに今回は途中で見つかるかやられたとしてもそれまでの情報を錦に伝えておきさえすればそこまでは達成扱いになるらしい。まあ腕の見せどころだな。

 俺達だけではなく、兵士達もそれぞれが慌ただしく持ち場に散っていく。さて、久しぶりのソロパートだし張り切っていこう。

 まずは様子見とばかりに拠点の出入り口から草原を窺うと、かなりのモンスターがプレイヤーや兵士と戦っている。さすがに最前線は第1拠点の比じゃないな。そのまま出るとあっという間に見つかる未来しかないため、1度司令部に戻ることにした。


「おや、まだ出立していなかったのか」

「数が多すぎて一筋縄じゃいかないなと思って。とりあえずこれは今回は必要ないから預けておいても?」


 そう言って黒檀の背負箱を差し出すと表情を緩め、受け取ってくれた。俺が戻るまでは厳重に保管してくれるそうだ。ちなみにオプションの竹筒は取り外して腰につけたままにしてある。


「じゃあ行ってくる」

「よい報告を期待する」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後に黒檀の背負箱を渡した相手は明記されませんでしたが誰でしょうか。顔見知りっぽい会話からガイルかなと思いましたが確証は持てず。
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