初めての訓練と商店巡り
サブタイトルが誤っていたため訂正しました。
最後の文章を載せ忘れていました。数百字ではありますが追加で載せてあります。
富士と別れてすぐに時間を確認すると今は11時。昼まではまだ時間があるし少し練習しておこう。
ギルド通りを歩くと確かに冒険者ギルドと同じ旗を掲げた建物があった。
中に入るとそこにはまばらにしか人がいない。あまりこういう施設は人気がないのだろうか。そう思いながらカウンターにいる受付嬢に声を掛けた。
「すいません」
「はいいらっしゃい。ここは冒険者ギルド所属者用の訓練所です。利用したい方は冒険者証の提示をお願いします」
冒険者証ってこういう時にも必要なのか。感心しながらも素直にカードを差し出すと、受け取った受付嬢は内容を確認してすぐに冒険者証を返してくれた。
「カイさんですね。今日はどのような訓練を行いますか?」
「銃の訓練を行いたかったんですが」
「銃ですね。銃本体は貸し出し用もありますがどうしますか?」
貸し出しもやっているみたいなんだけどまずはこれだ。これで狙いをつけられるようにならなければ。
「いえ、銃はありますので」
「かしこまりました。弾丸と火薬は訓練所の物を使用してもらいます。10発単位で火薬込で10リールとなりますが」
自分の所持金を調べることすら忘れていたことに気付き、2100リールあることを確認すると20リールを渡した。これで残りは2080リールだ。まあこの金額が安いのかもわからないから、いずれ必要な物の金額は調べることにしよう。
「こちらが弾丸と火薬になります。銃の訓練は火器演習場でお願いします」
案内されるままに火器演習場に着いた。演習場は野外に設置されており的は15メートル、30メートル、50メートル、100メートルと分かれている。的の奥は外れても着弾がわかるように板が貼ってある。
ふむ、10メートルがないのは逆に近すぎるからだろうか。とりあえずは15メートルで練習だ。
火薬よし、弾よし、先程と同じように脇と右手で棒を固定する。そのまま火付け棒を穴へ。炸裂音と共に弾は的を外れて右上に着弾した。
うん、着弾点が分かった方が修正しやすいな。後は少しづつ微調整していこう。
その後は購入した20発を討ち続けたのだが結局1発も命中することなく終わってしまった。弾は右へ左へ上へ下へと不規則にずれている。
腕が未熟なこともあるけど、これは恐らく発砲の際の衝撃によるものだろう。それをコントロール出来ていないことで着弾が散っている。構えに問題があるのか、筋力的なものなのか。撃ち方も色々試さないとな。
課題が見えてきたところでとりあえずはここまで。ログアウトして昼飯だ。
ログアウトを実行するとあっという間に見慣れた天井が見えた。ベットから起き上がると冷蔵庫を物色する。玉ねぎ、キャベツ、ぶなしめじ、豚肉、ソフト麺か。焼きうどんにでもしよう。
いつも通り料理をし、食べている間、頭の中では先程の光景が繰り返されていた。
何とかしてあれを野兎に撃ち込みたい。そして高らかに笑いながらウサギ鍋を作るんだ。その時は野菜はバーゼルさんから買おう。
食べ終わると視線は自然と本棚に向かっていた。本棚の一角を占める銃と猟とマタギの本。なにかヒントはないだろうかとも思う。
しかしVLOで持っているのはリアルでの最初期の銃に近いように思う。細かくは覚えてないけど、そもそもが音で驚かせること目的で、当てるにしても恐ろしく低い命中度を数で補う物だったはず。さすがにそういう古い銃を扱った本はないし、対策だって載ってもいない。
正直最初からライフルとはいかなくても火縄銃くらいはあると思っていたが何事もそう上手くはいかないようだ。
それでもなにかないかと知っているライフルをいくつか思い浮かべると何かが引っ掛かり、それが明確にはわからないままなんとなくライフルの写真集をめくっていく。そして気付いた。
「これならやりようもあるかも」
思いつくといてもたってもいられず、VRギアを被りベットに寝転ぶ。視界が暗転するとログアウトした訓練場の隅に立っていた。駆け足で受付まで戻ると受付嬢に声を掛ける。
「あの、貸し出し用の銃を見せてほしいのですが」
「貸し出し用ですね。少々お待ちください」
そういってカウンターの奥に下がると三つの銃を持って現れた。
「こちらが貸し出し用になります。左から練習用ハンドキャノン、初心者のハンドキャノン、マスケット銃になります」
ちゃんとした銃あるのかよ!心の中では全力で突っ込みを入れながらもそれ以外にはないことを確認した。ついでではあるがもう一つ確認しなければならないことがある。
「ちなみにこのマスケット銃って購入したらいくらくらいになりますかね」
「武器屋では8万リール前後で販売していますね」
高い、高すぎる。これはすぐには無理だ。やはりまずはこの改良からだな。
「ちなみにこの辺に木工系の加工を行ってくれる場所はありますか?」
「それでしたら二つ隣りが木工ギルドになりますよ」
「よかった。あとは何か書くものと紙をお借りしたいのですが」
作業を終えて礼を言うとそのまま木工ギルドに向かう。そこには多少ではあるがプレイヤーの姿も見られた。奥には工房があるようで中にはそこで作業をしている人もいる。個人的にも興味はあるがまずは目的を達成しよう。
木工ギルドの受付はやたらと筋肉質なお兄さんだった。丸太のような腕をしており、この腕で殴られでもしたら一撃で死んでしまいそうだ。筋肉兄さんは真っ黒に日焼けした顔をこっちに向けると白い歯を見せてにやりと笑顔を見せた。
「どうした、木工ギルドの入門希望か?」
「いえ、ちょっと作ってほしいものがあったのでその依頼を出来ないかと」
「どんなものだ?」
これなんですが、そう言いながら初心者のハンドキャノンを机に置き、絵を見せながら説明を行う。
「要するにただの棒じゃなくて持ち手をつけるのと肩口での固定が出来るように棒じゃなくて先端だけ縦に幅を持たせたいということだな」
「はい。出来ますかね」
「ちょっと待ってろ。確認してみる」
今回思いついたのは、どうせならグリップとストックをつけてしまおうという事だった。できればバイポットも作りたいところではあるがそれは財布と要相談という事で。果たして金額はどの程度になるのだろうか。筋肉質なお兄さんは戻ってくると二つの木材を見せてくれた。
「作るのは問題ないみたいだな。木材は安いラブナ辺りがいいだろう他にもキーグもあるがあまり勧めない。どちらも加工料込みで1500リールといったところか」
差し出された木材を見ながらすでに心を決めていた。残金が気になるがこれはどうしようもない出費だと思おう。
「ではラブナでお願いします」
「よし、それじゃあサイズを測るからこっちにきてくれ」
サイズを図り、出来上がりに2時間ほどかかるという事で町の中を見て回ることにした。初めてのVLOの都市という事もあって色々と気にはなるが、使っていいのは500リールまで。それだけは守らなければ。
まずは銃と火薬、弾丸の価格を調べようか。石造りの街並みを商店街通りに抜け、武器屋を探す。商店街通りは随分と閉まっている店が多いように感じるが、それでも看板に剣があしらってある店を見つけて中に入った。
なぜだろう、武器屋というだけで心が騒ぐな。店内には同じような気持ちのプレイヤーが多いのか口元を抑えたり、隠すことなく喜びににやけている人が多い。そして俺もまたその仲間入りを果たしていた。
武器屋の中を一通り見て回ると色々なことがわかった。どうやら火薬、弾ともにいくつか種類があるようだ。店売りだと火薬は初心者の火薬、劣勢火薬、火薬の三種類。弾は初心者の弾丸、さびた弾丸、通常弾の3種類だった。火薬と弾はこのままグレードが上がるだけなんだろうか。散弾なんかもあるなら今後の可能性が広がるな。
未来に希望を抱くのもいいが、今最も重要なのは火薬と弾の価格。一番安い初心者セットで揃えても10個セットで300リールだ。さっきの野兎を何体倒したのか知らないけど、場合によっては一度も外さなくても赤字の可能性がある。あの時はなんてもったいないことをしたんだろうな。
とりあえずマスケット銃の価格は見なかったことにして店を出ることにした。安くて68000リール、高いものは100000リールだ。これは無理だろ。
買えないものは仕方がない、気を取り直して続いては防具だな。こっちも確かめなくては。ちょうど隣が防具屋だったため迷わず入店。その店では革製の鎧から布の服までが揃えてあり布や革製品が陳列されていた。
新しい装備は確かに欲しいけど俺はマタギを目指すんだ。出来れば毛皮製品がいい。まあここでは取り扱ってないみたいだけど。急場しのぎってことにしてとりあえずはこの革の鎧を目指すか。…上下セットで3000リール、遠いな。
その後も一通り見て回り時間は午後3時になっていた。そういえば何時に依頼をしたのか覚えていない。完成したのか確認のために一度木工ギルドに戻ることにした。冒険者ギルドで依頼の内容を確認してから木工ギルドに戻ると筋肉質の兄ちゃんから威勢よく声を掛けられる。
「おう戻ったか。悪いがあと10分待ってくれ。そろそろ取り付けに入るからな」
「はい、わかりました」
どうやら少し早かったみたいだ。その間に何をしようか。所持品の確認を行うとそこには技能玉が入っていた。…忘れていたわけではない。決してそんなことはない。ただ、少しだけこの世界に浮かれていただけなんだ。次からは気を付けよう。技能玉を使うといつもの効果音が聞こえた。
≪技能玉を使用しスキルポイントを1P得ました。現在は1Pです≫
すぐにスキル取得ウインドウを開くと取得できるスキルを確認する。ふむ、結構いろいろとあるんだな。悩みそうだけど実はいろいろな店を回って気付いたことがあった。それはこのままでは装備どころか回復アイテムなんかもそろえられないという事だ。銃を使う事を辞めるつもりは全く考えていないが弾すら買えないのでは困る。そこでこれだ。
≪スキル・植物知識を取得しました。 残りスキルポイントは0Pです≫
これで討伐クエストをこなしながら採集クエストも出来そうだ。あとは調合をとればポーション作成も出来るわけだし。ただこの流れだと猟師というより生産職になりそうだな。だけど、自給自足な猟師って考えるとこれはありだ。凄くありだと思う。今後の取得スキルについても考えているとカウンターから声がかかった。
「おいカイくんよ、出来たみたいだ。隣のカウンターで受け取ってくれ」
受け取りカウンターに行くとそこには俺と同じような服装の女の子が立っていた。最初から切っていたマーカー設定をオンにすると頭の上には緑色のマーカーがついている。ちなみに緑はプレイヤー、青はNPC、赤はモンスターだったはず。
他にもあったはずなんだが、最初から使う事もないと適当に流し読みしていたために、マーカーについてはぼんやりとしか覚えていなかった。
「もしかしてとは思うけどプレイヤーですか?」
「そうですよ。木工ギルドに入ってるミオといいます」
「初めまして、カイと言います。もしかしたらこれもあなたが?」
爽やかに笑いながら頷くと銃を差し出す。持ち手はきれいな木目が見えておりうっすらと光沢がある。
「今回はすぐに使用したいとのことだったので、木の加工は私が。表面加工は私の師匠が行っています。艶出しの光沢は私にはまだ出せないのとスキルの乾燥が使えないので。材料と工賃を合わせて1300リールになりますね」
「あれ、受付では1500くらいって言ってたんだけど」
「はい。本来ならそうなんですけど、私はまだ見習いなのでその分は勉強させてもらいました。いい経験になりましたし、実はこれが私の初仕事だったので親方がそれでいいと言ってくれまして」
値引きはラッキーだったわけだ。ミオから受け取った銃は以前よりも少し重くなっているが、グリップは十分手になじむしこれは使いやすそうだ。
さっそく撃ってみたいという思いに駆られる。これはすぐにでも訓練場に戻らねば。
「どうです?攻撃力には変化はないですけどグリップとストックでの効果、他に重量が増えた分安定感が増えるので、それもあわせて反動を少しは抑えられるかと思います」
「いいですね。ありがとうございます」
支払いを済ませるとすぐさま訓練場に向かう。今回も弾丸は20発分を購入すると火器演習場へ。
まずは前回と同じような構えからだ。火薬、弾を詰めると右手でグリップを握り、少し引き寄せてストックを脇で挟む。しっかりと固定し火つけ棒を穴に差し込む。炸裂音が響いて弾は的の僅か下へ。そのまま5発まで撃ち続けると命中は1発。よしよし、当たるではないか。
続いて別の撃ち方を試してみることにした。火薬と弾薬を詰めたら地面に這ってグリップを握り、ストックを肩に押し当て頬を寄せて固定する。本来なら先端に固定具を使うが今はない。そこでグリップの底をそのまま地面につけて安定感を出す。狙いをつけたら火付け棒を穴へ。炸裂音と共に弾は的に着弾した。残りの弾もすべて使い切るまで連続で撃ち続ける。今度は15発撃って5発が的へ。
「ふう、こんなもんかな」
時間を確認するとすでに5時を回っていた。ここにきてもう1時間30分以上は経っている計算だ。その間に撃ったのは20発だということを考えると1発撃つのに驚くほど時間が掛かっていることになる。さすがにこれじゃ戦闘では先制攻撃以外では使えないな。
まあ元々動いてる獲物に当てるのは厳しい上に、当たれば野兎なら一撃みたいだしいいんだけどさ。何はともあれこれでようやく狩りが出来る。
思いついた工夫を形にしただけに気持ちが逸っているのが自分でもわかる。でも残念ながらタイムオーバー、ログアウトの時間だ。夕飯の準備も身の回りのこともあるし、とりあえずはここまでにしておいて続きは明日にしよう。
こうして記念すべきVLO初日は訓練場でのログアウトで終えることになった。