表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
3章 イベントは生産職とともに
25/102

泉の奥へ

 一度ログアウトをし、朝から用意しておいた炒飯をかき込むようにして食べると、トイレだけ済ませてすぐにログインし直した。まさかの15分で再ログインだ。ちなみに夜の分も作って冷凍してあるから今日の家事は特に何もないってことになる。

 みんなが戻る前にといそいそと調合に精を出し、煙玉の製作に乗り出す。一度作っているからレシピから自動製作もできるけど、手作業の方が経験値も効果も大きい物が出来る。黙々と作業を煙玉を1つ作ったところで鉄心が最初に戻ってきた。


「あれ、俺が一番だと思ったんだけど、カイは食べるの早いね」

「朝のうちにまとめて作っておいたしな。それとこれを渡しておく」


 鉄心は渡された煙玉を色々な角度から見ている。純粋な生産職なだけあってアイテムの詳細が俺よりも細かく見えてるんだろう。

 よく考えたら生産品の鑑定の出来る能力を取った方が良いのだろうか。生産職クラフターは生産系のスキルだけでやっているのか今度聞いてみよう。


「凄い、知り合いに煙玉を自作してる人いないから驚いたよ。これはカイが作ったんだよね。どうやって使えばいいの?」

「作ったのは俺だな。使い方は簡単だ。その紐を引き抜くと摩擦熱で火薬に着火する仕組みだ。引き抜いてから炸裂までに2秒のラグがあるからすぐに投げればそれでいいよ。煙は6メートルくらいまで広がるから、監視中に不測の事態が起きて逃げるときにでも使ってくれ」

「ありがとう!それにしてもカイは生産スキルもとってたんだね」

「まあ狩猟用の罠を作るのに役立ちそうだからな。それと引き抜く紐についてなんだが、必ず勢いよく引き抜いてくれよ。中途半端だと着火しないみたいなんだ」


 煙玉の簡単な使い方をレクチャーしていると錦とアイラも戻ってきた。煙玉についてはあとで鉄心から伝えてもらう事にして、今はクエストだな。

 時間が経つほどに気付き、怪しむプレイヤーが出てくる。せっかくなんだから最初に楽しめるよう、すぐにでも出発してしまおう。

 3人と別れると再び『マナウスの森のモンスター調査』を受け、森に向かった。

 森でやることはそうは変わらず、まずは見つからないことを第一に行動する。ただ一つ異なるのは、最初から泉の近くに陣取り、偵察を終えて戻っていくホーンラビットを追跡するというところだ。それでホーンラビットの向かう先にあるものを見つけ出す。

 森の中はモンスターが少なく、スムーズに移動できた。2匹ほどホーンラビットを見付けたけど、追いかけたりはせずに森の奥に進んでいく。泉までもう少しという所で大きな茂みを見付け、そこに身を隠すことにした。後は待つだけだ。

 森の様子に気を配りながら、“気配察知”の範囲を変えて何度も確かめていく。

 それにしても、この毛虫とか羽虫とかって必要だったのだろうか。ゲームだから我慢もできるけど、これがなければもっと森で活動する冒険者プレイヤーが増えると思うんだけど。


「来たか、この動きなら当たりかな」


 木々の茂みの中で息を殺して待っていると、数分で1つの反応があった。このままならあと10秒もかからず目の前を通り過ぎる。

 出来る限り姿勢を低くし、モンスターをやり過ごしてから顔を上げると、白い毛玉が森の中に向かっていくのが見えた。ようやく今回のスタートラインに立つことができたな。それじゃあ追跡開始だ。

 初めて泉を越えて、ひたすらホーンラビットの後を追う。

 以前に富士達と森に踏み入れた時に、泉の奥からはフォレストホースが通常モンスターとして出てくる。と聞いていたこともあって緊張していたが、通常のモンスターが少ないのはここも同じようだ。森の中は不自然なほどに静まり返っていた。

 時折立ち止まるホーンラビットに合わせて立ち止まり、その隙にメモの地図に移動経路を書き込んでいく。

 ホーンラビットの移動に合わせたこともあって想像以上に時間は掛かったが、それでもかなりの距離を進んだ。錦の記したポイントまではもう少しだ。

 目的に近づくにつれ、期待感も増すがそれ以上に神経使わされることになった。森の中を行き交うホーンラビットの数が増えてきたからだ。ここからは最初のターゲットに拘らず、一番安全に追跡できるホーンラビットを見極めていく必要がある。

 茂みや木陰を見付けては音をたてずに移動し、周囲のホーンラビットの数を把握したうえでそれらの視線を意識して次の茂みに移動する。これまでの道のりよりもさらに時間が掛かってしまったが、着実に目的の場所に向けて進んでいた。


「ん?あれは、人間か?」


 気配察知を行うと毎回のようにホーンラビットが10匹程掛かるようになったころ、ようやく終わりが見えてきた。ホーンラビットの進む先に4人の男が集まっていたのだ。

 ぎりぎりまで近づき目を凝らすとぼんやりとその姿が見える。手に持っているのは恐らく鞭、この状況であの装備だってことは、あいつらは≪調教≫持ちの可能性が高い。

 男は戻ってきたホーンラビットから何かを受け取り、別の男が何かを渡すとホーンラビットは再び森へと消えていく。

 あれだけ意思疎通がとれてるならもう間違いはなさそうだ。錦の予想ではここに砦があって終点になると考えていたけど、それはここより先にあるのかもしれない。ということで今度はあの男たちの追跡が必要になるが、ホーンラビットは男たちの元に集まることもあって出入りが激しく、身動きが取れなくなっていた。

 男たちは紙を広げてなにやら話していたようだが、少しすると一人を残して森の中へ消えていった。


「この奥に一体なにがあるのやら」


 ここはリスクを負ってでも進むべき。そう判断してもう一度気配察知を使う。周囲のホーンラビットの数はそう変わらないが、その位置は常に動いている。タイミングさえ間違えなければ見つからずに行けるはずだ。

 茂みの中でじっと待っていると、その時はすぐにやってきた。ホーンラビットが数匹かたまって男の所へと向かったのだ。時間にして数分の空白でしかないが、今を逃してしまったらもうチャンスはないかもしれない。

 自分を奮い立たせて茂みを抜けると、ホーンラビットの反応の少ない方へと向かう事にした。あの男たちがこちらに気付いていない以上、森の奥からさらに迂回して戻るとは考えられない。それならば、一度モンスターの少ない場所まで出てしまった方が早いと考えたからだ。

 特に根拠のある考えではなかった。それでも、途中から明らかにモンスターの数が減っているという事はあながち間違ってもいなかったということ。結構な数のホーンラビットの中を進むよりもかなり早く先へと進めそうだ。

 男がいた場所を越えて先に進むと木々は減り、切株が目につくようになっていった。伐採した木で何を作っているのかを考えていると、すぐに大きな砦があることに気が付く。黒曜団クエストの時の砦よりも2回りは大きい砦だ。

 防護柵の奥にはガラの悪い男たちの姿が見える。黒曜団の盗賊のような見た目だな。

 調教持ちの人間がいたから予想はしていたけど、相手がモンスターではないのは意外だった。

 内容をメモに書き込むと一区切りだ。騎士団の依頼としても、錦たちとの目標としても、北に戦力があるのかどうかについてはわかった。問題はここからだ。敵の情報を出来る限り調べたうえでマナウスへ戻るのか。まずは情報を騎士団に報告し、残りは別のプレイヤーに任せることにしてここは一旦退くべきなのか。

 答えのでない問答を続けているとコール音が響いた。相手の前を確認すると錦の名前があり、一度連絡をつけてから判断しようと考えて、砦を離れることにした。


「カイ、今少し話せるだろうか」

「ああ、ただ色々あって長い時間は話せそうにない」

「予想は当たっていたか」

「ああ。場所は錦の出したポイントから更に1キロくらい北に行ったところだ。まだ戦力はわからないけど、盗賊っぽいのがメインで数人の調教持ちがいる。調教したと思われるモンスターなんだが、今のところはホーンラビットしか見ていない」


チャットの音声が遠くなると奥で鉄心と話している声が聞こえる。状況を伝えているようだ。


「実はこちらも進展があった。あまり時間がないようだから簡潔に伝えよう。食料庫に侵入していたのはハイランドラットというモンスターだった。街中を縦横無尽に移動しているのもあって、簡単には寝床を教えてくれそうにないな。こちらはしばらく追跡を続けることになりそうだ。余裕があるようなら同じモンスターがいないか探してみてくれ。以上で定時報告を終える」

「いい情報をありがとう。夕方までには終えられるように頑張るよ」


 まさか錦はこっちの心情を読んで連絡を寄越したんじゃないだろうな。これで俺には引き下がる選択がなくなってしまった。まあ流石に中に入ろうとまでは思わないけど。

 仕方がないのでまずは砦を外側をぐるりと回ってみることにした。ここまで敵が来ることを予想していないのか見張りの数は少ない。これならホーンラビットの密集地を抜ける方がずっと難しかったな。

 きっちりと身を隠しながら調べていくと、この砦は規模こそはかなりのものだが肝心の盗賊が少ないように感じる。

 その辺の理由なんかも調べてみたいが、まずはモンスターの確認か。砦の西側にそれらしき檻が多数あったが中は空だった。やはりこの時間は偵察に出ているようだな。モンスターの確認については調教持ちの監視で調べ上げるしかない。

 30分ほどかけて砦の外見や構造、モンスター用の檻の位置から大体の盗賊の数までを調べていると、砦の門に家紋のような紋章があることに気付いた。

 門とは距離もあって、ここから紋章を詳細に描くのは無理だと一度は諦めようかとも思った。でも、せっかくのイベントだ。楽しまないと損だろう。それに見張りの人数を考えてもいけるのではと思い直して近づいてみた。

 近づいてみても、気をつけてさえいれば見張りには気付かれそうにはない。門を見上げると、遠目には小さく見えた紋章もかなりの大きさがあることがわかった。

 ふむ、太陽のモチーフの中に一振りの剣、しかもシャムシールのような曲刀だな。ある程度覚えてしまうと後は一目散に安全圏まで引いて見た内容を絵にしていく。


「これ以上は収穫もなさそうか」


 砦に到着してかれこれ1時間、知りたいことはだいたい調べられたな。最後に調教師がいたポイントまで戻りそこでも1時間近くかけてモンスターの監視を行った。が、結局いたのは全てホーンラビットだけというこれといった成果のない監視になってしまった。

 いや、ホーンラビットだけしかいないという結果を得られる監視だったと思う事にしよう。そうでも考えないと報われないし。

 帰りは安全に戻ることにして、森を大きく迂回するルートで帰ることにしていた。東側に迂回し、来た時よりも気楽に進んでいくと、遠くから声が聞こえてきた。


「うわぁ、こっちに来るな!あっちいけ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ