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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
3章 イベントは生産職とともに
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森の調査とイベント推察

 森の中におけるスニーキング技術。今回のイベントに臨むにあたって改めてこの技術について考えることとなった。当然該当スキルのレベルアップは有効なはずだけど、それだけではないリアル由来の技術があるはずだ。

 聴覚強化がなくても周囲の音は聞こえる。風下を意識することで匂いで気付かれないようにできる。モンスターの視線を意識して動くことで気付かれないにする。他にも様々な点で工夫の余地がある。

 今週の狩りでは常にスキル以上にその技術を意識して臨んでいた。1週間では大した成長は見込めていないかもしれないがこれで終わりじゃない。必ず今後の狩猟生活に生きてくるはずだ。

 とりあえずこのクエストでの目標はどのモンスターにも見つからないことだな。

 森に入る前にそれらの技術について反復するように思い出し、それから森へと踏み入っていった。


「こっちにもいるんだな。あれはうさぎか。あの角はもらったら一撃で死ぬかも」


 いつもより明らかに静かな森に不気味さを感じつつ、10分もせずにこれまでは森にはいなかった大型のうさぎを見つけた。鋭い一角を持つ大型犬並の大きさのうさぎだ。


≪ホーンラビット 状態:警戒≫


 名前とどこで見つけたかをメモに記していく。これでこのホーンラビットは記録したし、すぐに他のモンスターを探すのも一つではある。でもちょっと思いついたこともあるからこいつをひたすらスニーキングしてみよう。

 安全第一、最悪見失ってもいいし、もし見つかったら戦わずにすぐに逃げる。そのくらいの気持ちで距離をとって観察を続けた。

 ホーンラビットの状態は初めて見る警戒状態だけあって常に周囲を気にしているような、何かを探しているかのようにも見える。

 戦闘はしないことに決めたこともあって既に銃はホルスターにしまい、俺はほぼ四つ這いになって移動していた。“気配察知”を何度も使用して周囲の様子も探りながら。自分で始めておいてなんだけど、ゴールがあるわけではないだけに精神的にもくるものがあるな。

 ホーンラビットは30分かけて森を移動し、緩やかに西へと向かっていた。途中まではそのままなにも起きないのかと思っていたけど、突然北に向けて走り出した。

 まだ行ったことのない場所は危険もあるだろうと判断し、泉を越えたらそこまでとして切り上げることにしてスニーキングをつづけていたけど、結局ホーンラビットはそのまま泉の奥に消えてしまい次の獲物を探す。

 その後は1時間ほどかけて4体のホーンラビットを見つけた。そのどれもが最初は周辺を調べ、突然周囲を警戒しながら北へ向かっていく。

 ホーンラビットの動きに色々な疑問が浮かびつつも、途中でアイラからクエストを終えた連絡が入ったこともあり、一度マナウスに戻ることにした。

 森に入る前に掲げた目標は達成した。でも気になるのは統一されているようにも感じる行動と、明らかに従来のモンスターの数が少ない森の様子についてだ。追跡が楽なのはある意味ではそのおかげかもしれないんだけど。

 森を抜けてからは急ぎ足でマナウスに戻ると城門にアイラが待っていた。


「やっほー。そろそろ来ることだと思ったよ。そろそろ鉄心と錦さんのクエストも終わるし、時間早いけど昼食にしようよ!」

「そうだな、俺はクエストの報告に行ってくるから店だけ探しといてくれ」

「ふっふっふ、私は料理系生産職ですよ?天気だっていいんだからここで作るよ。みんな終わったらここで集合して外で食べよう」

「じゃあ2人にも連絡しといてくれ。報告が終わったら戻ってくるから」


 一度広場へ向かうとそこはまだ多くの人が集まっていた。ざっくりではあるけど100人くらいはいて、みんな次のクエストを物色しているようだ。

 報告用の臨時カウンターで報告を行い、情報を記録したメモ用紙も返却する。受け取ったメモを見ていた兵士が何かに気付いたように呟いた。


「ホーンラビットは北に向かってる?しかも4匹そろってか」

「何か気になることでも?」

「いや、南はヒュージラットが見つかってるんだがな、そっちは揃って南に去っている。調べてみないことには何もわからないがもしかしたら北にもなにかあるのかと思ってな。それにしても、この短時間に単独で4匹を気付かれずに追跡しきるとはね」

「運も良かったとは思うけど、パーティー組むよりソロで潜った方が見つかりにくいかもしれないな。それじゃあまた何かわかったら報告に来るので」


 今回は一連のイベントをすべて終えてから報酬を受け取れることになっている。その為今は毎回報告を行うだけだ。

 これで要件は終えたとばかりに広場を後にし、早く飯を食おうと急いで西の城壁を目指した。鉄心と錦もクエストを終えたらしく3人が揃っていた。すでにアイラが敷物を広げ、鉄心が料理を並べている。錦は周辺警戒か。


「悪い遅れた、警戒替わるよ」

「助かる。私では見えないといるかもわからないのでな」


 今日はプレイヤーの大半がマナウスに集まっている。周りを見回しても相当数のパーティーが目に入る。これならそこまでの警戒は必要なさそうだし、定期的に気配察知でいけそうだな。


「さあ、食べるよー」


 さすがは料理プレイヤー、外で食べるのに合わせて手で取りやすいサンドイッチやミニハンバーガーを始め、野菜も串を使って食べやすくまとめてある。まあ何より美味い、これに尽きるな。特にこのハンバーガー、一口サイズで食べやすく、色々な味がある。このチリソースみたいなのとか一体どうやって作ったんだろう。


「さて、一応みんなの情報をまとめときたいんだけどいいかな」

「そうだな、それじゃあ私からいこうか。私のクエストは革防具の補修、最初は兵士の装備補修をつづけていたんだが、途中から南の草原を探索していたプレイヤーが増えてきたんだ。そこでその時にプレイヤーから聞いた情報と他の職人から集めた情報をまとめてみた」

「それ俺もおんなじことしてた。もしかして同じような情報多いかも」


 言葉を挟んだ鉄心に対して、同じ情報が多いことを予期していたのだろう。錦は深く頷くと言葉をつづけた。


「ふむ、では何か違う情報があったときは差し挟んでもらおうか。まず兵士は人数を生かして拠点構築と防衛を基本に動いているな。彼等のおかげで本来はセーフティーエリアではない場所でも安全に休息が出来るようになっている。事前情報でもそうだったが、やはり今回は南に注目が集まっていることもあって有力なギルドが集結している。よって探索を行っているプレイヤーも現在は7割近くが南に集中している状態だそうだ」

「そういえば南にできた拠点だとそこでクエスト受けられるから往復しなくていい分たくさんのクエストを受けられるって言ってたよ。おかげでレベルの低いプレイヤーも護衛をつけてもらって、拠点に物資の補給をするみたいな外での活動が増えてきたみたいだね」


 北の森にしか行ってなかったから知らなかったけど、たったの数時間でそんなにも探索が進んでいたのか。なんか感覚的には浦島太郎な気分だな。それにしても周りにいる誰かからの情報収集か。次からは色々なプレイヤーにも声を掛けてみよう。1人感心して頷く俺を尻目に話は続いていく。


「なるほど、そうやってスキルレベルに差があってもイベントを楽しめるように展開してあるということか。後は装備の修復頻度が増えてきているように感じるな。特に奥地に向かっている攻略組の装備だ。どうもかなり強力なモンスターが多数出てきているらしい」

「あ、それ俺も聞いたよ。草原では絶対に出ないはずのモンスターがいるんだけど、ある場所を越えたら突然攻撃的になるんだって」


 どういうことだろう。警戒線みたいなものが定めてあって、そこを越えてきた時から防衛行動に移るってことか?もしかしたら北側にも同じようなラインがあるかもしれないな。


「ふむ、そのあたりは今後の変化を見守ることになりそうだな」

「あとは、前線組の補助の為に生産系プレイヤーが拠点に移動するって案が上がってるって聞いたくらいかな」


 2人の情報はこれで全部のようだった。それにしても生産職の情報網って凄いんだな。既に前線組と変わらない情報を持ってるんじゃないだろうか。そのまま先に生産職の報告をという事でアイラが続けた。


「うーん、正直私はそこまでの情報はないかなぁ。今のところは作った料理のほとんどが前線に送られていて、作ったらすぐなくなる戦場みたいな感じになってるんだ。でもさっきのクエスト中に2回だけ材料の補給がいつもより少しだけ少なくて、料理が足りなくなりそうになったんだよね。聞いてみたらもともとこのイベントの為にプレイヤーの8割を支えられるだけの食材を確保して食糧庫に入れてあったんだって。それを提供する時間で分けてあったらしいんだけど、そのうちのいくつかが消えてるみたいなの」

「消えた?それは盗まれたという意味か?」

「どうだろう、みんな忙しくしてるし盗んでるところを見た人はいないの。でも食糧庫の周辺に食材が落ちてたこともあったみたいで、誰かが持ち出してるんだろうとは思うって言ってたよ。私の情報はこれだけかな」


 これまでの拠点に関する情報とは別の意味で不可解な変化だな。もとよりマナウスはとても治安が良い。それこそ極稀に盗みがあるくらいだ。それがそこまで頻繁に起きているとなればイベントに関係があるのかもしれない。これに関するクエストが出てくれさえすれば簡単に進められるんだけど、さすがにそうはいかないか。

 さて、残るは俺の報告だ。


「俺は北の森でモンスターの調査をしてきたんだけど、本来いるはずのモンスターの数が極端に減って代わりにホーンラビットってのがいた。状態が最初から警戒になっててかなり周囲を気にしてたしやってることが偵察っぽいのが気になったな。全部で4匹見つけてそのまま後を付けたんだけど、最終的には全部泉の奥に逃げるように向かってったんだよ。報告したら南に大量に見つかってるヒュージラットってのは見つかると一目散に南に向かうらしくて、両極端なのが気になるって言ってたな。兵士の様子だとかなり気になってたみたいだし、もしかしたら今後北の調査も力を入れるのかもしれない」

「クエスト中にはモンスターには気付かれなかったのか?」

「そうだな。その辺はかなり気を使ってたから何とか見つからなかったよ」

「この地図にホーンラビットの動きを書き込んでもらってもいいか?」


 錦はマナウスの森の南部分の地図を取り出して俺に渡した。メモ帳も提出しちゃったしな、完璧には分からないと前置きした上で地図に線を引いていく。

 4本の線を引き終わり、改めて見てみると少しずつ蛇行しながら森を横断していた4匹がばらばらの地点で突然一目散に森の奥に向かっているのが分かる。

 鉄心はアイラと片付けを始めているが錦はしばらくの間ピクリとも動かなかった。それが突然動いたかと思うと紙を付け足し、ホーンラビットの足跡に合わせて大きな円を描いた。そして森の奥へ向かう線を伸ばしていくとそれは全てある1か所で交差していた。


「カイ、済まないんだがもう一仕事頼んでもいいだろうか」

「任せておけ。これは俺向きの内容すぎてちょっとワクワクしてるところだ」

「2人してどうしたのさ?俺達にも教えてよ」


 鉄心とアイラにも地図を見せ、錦が簡単に説明をしていく。最初は2人とも何を言っているのかわかっていなかったようだが、理解が進むにつれて自然と表情が引き締まっていく。自分の推論を熱っぽく語る錦を見ているとこの手の謎解きが好きなんだろうってのが伝わってくるな。内容が内容だってのもあるだろうけど。


「という事でカイにはもう一度同じクエストを受けてもらう必要がある。私達も同行したいが、森ですべてのモンスターに見つからないなんて芸当は到底無理だ。そこでこちらはアイラの件を追ってみようかと思う」

「私の?でもクエストに出てるようなものじゃないよ?」


 錦にはかなり明確なビジョンがあるのだろう、静かに首を振ると声のトーンを落として話を続けた。


「恐らくだが、このイベントはクエストをひたすら受け続けてのクリアも出来るのだろうがそれではすべてを解決することは出来ないように作られているのかもしれない。むしろこの食材泥棒のようなクエストにならない問題、これを解いていくことが実は誤答を避ける最善の手かもしれないと予想している。特に、食材に関しては私は内部に侵入した何者かの犯行だと考えているのでね。これを機に敵の姿をしっかりと拝んでおきたいのさ」

「それなら俺達はカイが戻るまで3人で見張りだね」

「ああ、これは生産職かつ料理系プレイヤーが食糧供給のクエストを受け、その際の些細な周囲の変化に気付き情報を集めた上で食糧庫の場所を調べる。これだけの内容をクリアしないことには取っ掛かりすらないものだ。今気づいてるのはもしかしたら私達だけかもしれない。それならば」

「この物語を一番楽しめるのは他ならぬ私達になるということだ、ってことでしょ?なんか楽しそうだね」


 俺の今の気持ちを正直に言おう。その監視めっちゃ気になる、そっちで一緒に張り付いて監視したい。そうか、だから錦は済まないがなんて言って俺に森の探索を振ったのか。ただ問題なのはこっちはこっちでものすごく興味があるってことだな。いっそ体を2つに分裂させる魔法とかあればいいのに。


「リアルで飯食わないとだから俺は一回ログアウトするけどみんなはどうする?」

「私もご飯食べてくるね」

「あ、俺も行くかな」

「よし、それでは30分後にここで一度落ち合おう」


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