参加の仕方
申し訳ありません!予約投降したと思っていたらしていなかったという凡ミス!もう一つ上げますのでお許しください。
日が傾き始めるまで実験を繰り返したことで、ダメージが発生しないで最大の発煙量の組み合わせを見つけることが出来た。残るは最後の仕上げ、紙玉に詰めた状態で煙玉として使用に耐えうる性能にするにはどれだけの発煙薬を詰めればいいのかだ。
まずは紙玉に玉の3割くらいの発煙薬と着火装置も入れる、着火装置の火が発煙薬に引火するように丁寧に設置した。余ったスペースには枯草を詰める。これで完成だ。
≪煙玉 レア度1 重量1≫
紙玉に発火装置をつけ、中に発煙薬を詰めた煙玉。麻紐を引き抜いた熱で着火して使用するため、炸裂までのタイムラグがある。
発煙薬の量:3
なるほど、紙玉の中にどれだけの発煙薬を入れたかもわかるわけだ。なにはともあれ雛形としてはこんなもんだろう。
時間は掛かったが無事煙玉は出来た。が、早くしないと日が暮れて発煙性能の改良まで手が回らなくなってしまう。
ということで完成したからには急いで確認だ。立ち上がって伸びをした後に腕を回して準備をすると、煙玉の紐を勢いよく引き抜いて煙玉を投げた。放物線を描いて飛んでいく煙玉は弧の頂点に達したところで炸裂、煙はきれいに広がり周囲が見えなくなってしまった。
慌てて煙の外に出ると、直径で3メートルほどの範囲が煙に包まれていた。それも風になびいて徐々に薄まっていく。
「思ったより良かったけどもう一声欲しいところか」
次は紙玉の5割だ。着火装置も入れてるから合わせて7割は埋まってる。残りに枯草を詰め込むと同じように投げてみた。こんども弧を描く途中で炸裂する。
さすがに同じ轍は踏めないと投げた瞬間に逃げ出したこともあって、何とか煙に呑まれないで済んだみたいだ。今度の煙は直径6メートルくらいだろうか。
相手の目を眩ませられればいいだけだし、性能としてはこれでいいんだけど、どうせなら一つくらい無駄に豪華なのも作っておきたい、そうこれは男のロマンだ。発煙薬の分量も目途がつき、最後は紙玉がなくなるまで煙玉を作ることにした。成果はこの通りだ。
≪煙玉 レア度1 重量1≫×12
紙玉に発火装置をつけ、中に発煙薬を詰めた煙玉。麻紐を引き抜いた熱で着火して使用するため、炸裂までのタイムラグがある。
発煙薬の量:5
≪煙玉 レア度1 重量1≫×1
紙玉に発火装置をつけ、中に発煙薬を詰めた煙玉。麻紐を引き抜いた熱で着火して使用するため、炸裂までのタイムラグがある。
発煙薬の量:8
これでよし。完成した煙玉は竹筒の右に収納する。これで複数の敵と遭遇しても最悪逃げやすくなるはずだ。
一息ついて時間に目をやると既に午後6時を過ぎていた。もっと簡単に済むはずだったんだけど、まさかこんなに時間が掛かるとは。
できれば今日中に料理もやってみようと思ていたけど時間がないし今日はやめとこう。料理は後日ということにして、片づけを済まして立ち上がると、そこで俺は閃いた。そうだアイラの屋台で食べてみよう。
アイラに連絡をとって食材を卸したいことを伝えてみると、屋台にはいないからと商店街通りの酒場の名前を伝えられた。屋台は今日は休みらしい。
名前だけ教えられてもな、自力で探せってか。まあ細かな住所を言わなかったんだから商店街通りの大通りに面しているんだろう。初日にあった八百屋のおっちゃんとも挨拶をかわし、キョロキョロと見回しながら通りを歩いているとその店はすぐに見つけることが出来た。ここは確か初日には開いていなかった店のはずだ。てことはやっぱりプレイヤーの店なんだろうか。
中に入ると仕事終わりの客が酒を飲み、料理を食らい、笑顔で話していたり胸倉を掴みかねない勢いで怒鳴り合っている姿が見える。席は満席なようで、かなりにぎわっているようだ。人数が多くてアイラを見つけられないな。一応ついたことは連絡を入れておくか。
「アイラ、酒場に着いたんだけどどこにいるんだ?」
「お、早い。今迎えに行くからちょっと待っててね」
店の名前しか教えてくれていなかったし、もしかしてここはアイラの店なのかもと思っていたが、どうも違っていたようだ。明らかに私用の装いで現れたアイラは俺を見つけると声を掛けた。
「やっほー。こっちこっち、ここじゃ騒がしくて話せないから個室を取ってあるんだよ。鉄心と錦さんももう来てるよ!」
「いや、俺はアイテムを売りにだな…」
「いいからいいから、どうせ夕飯食べてないんでしょ?一緒に済ませちゃおうよ」
まあ飯は食いたかったし、ちょうどいいか。アイラの後をついていくとさっきまでの喧騒が嘘のように静かな部屋に通された。さすがにこの辺はゲーム、遮音性はばっちりだ。
「鉄心、錦、すまないな。突然押しかけてしまって」
「そんなのは構わないさ。カイは我々にとってはこれ以上ない上客だからな」
「本当だよ、むしろ話を聞いてこっちが誘ったくらいなんだから」
笑いながら話す様子を見ていると、相変わらずこの3人はいつ会ってもVLOを心から楽しんでいるのだと感じることができる。俺の周りにはそういうプレイヤーが揃ってるってのは本当に恵まれていると思う。
PKとかのスタイルも十分に理解できるけど、被害が他所に向かうプレーを嬉々としてやってのける奴等ってのとはそこまで積極的に繋がりたくはないしな。
「いきなりで悪いんだけど、このままだと手持ちがなくてここの飯代すら払えそうになくてな。先にこれ買ってもらっていいか?」
そう、今の俺の財産は870リール、今日の朝よりも減ってしまっている。まったくなんでこんなことになったんだろうなぁおい。ほんと反省はしているが後悔はしていない。
またお金ないのかと笑う鉄心を尻目に買い取ってほしい食材をテーブルに並べていった。
「バイソンのお肉だ~。これがあるってことはもうタイアで狩りをしてるってこと?」
「今日は知り合いと一緒だったからな。ソロだとまだ無理」
「そっかぁ、バイソンのロースってあんまり入ってこないから定期的に買い付けしたかったんだけどな。肢肉、ロース、モツ合わせて2200リールだよ」
「よかった、これで飯が食える。あと売るってわけじゃないんだけどこれって調理できるか?」
俺が最後に取り出したのは闘牛王の舌だ。俺じゃさすがにまだ扱えないだろうけど、次に狩るのがいつになるかわからないしこればっかりは一度は食べておきたい。そんな思惑もあって清算後に出したんだけど、なぜかこれに鉄心と錦も反応を見せた。なに?二人もタン食べたいの?
「2人はそんなにタンが好きなのか?じゃあみんなで食べるか。で、アイラはこれの…」
「違うから!いや違わないし食べたいけど違うから!これってバイソンリーダーのドロップだろ、もしかして『小麦を荒らす巨牛』の隠れミッションをクリアしたの?」
「隠れミッションかどうかは知らないけど、午前中にクリアしてきたよ」
なぜか2人は絶句している。アイラは調理してみたいって意味で絶句している。あ~、なんだ、何か言ってくれないとどうしたらいいかわからないんだけど。
「そうか、という事はカイは既にイベントの参加条件を満たしているんだな」
「あれ、もう知ってたのか。来週の土曜にあるっていう探索クエストだろ?そんなイベントってほどのものじゃないんじゃ」
「やっぱりカイは公式情報見てないんだね。今日の昼ぐらいに突然イベント情報欄が出来て、土曜から日曜にかけて初のイベントがあるって告知されたんだよ。大規模イベントは初めての実施ってこともあって、今回は参加資格について明記されてたんだ。全部で3段階あって、それぞれに特定のクエストのクリアが必要なんだよ」
「へえ、てことはバイソンリーダーを倒したことでどれかには引っ掛かったってことか」
鉄心は頷くとそのまま説明を続けた。
「『小麦を荒らす巨牛』においてバイソンリーダーを討伐しているプレイヤーのいるパーティーってのは第1段階の条件だね。こないだ言っていた『泉の水質調査』も入っていて、これをクリアしているプレイヤーのいるパーティーは第2段階。第3段階は1と2のクエストをクリアしていないプレイヤーのパーティー。この3段階で期間中に受けられるクエストとか行動の自由度が変わってくるらしいんだよね。まあパーティーって書いてあるけどクリアしてればソロでも行けるみたいだよ」
知らなかった。どうやらイベントとして情報が出回っているらしい。マナウスにいるプレイヤーもその情報を聞いて、なんとか条件の良い参加が出来るように該当するクエストに押し寄せてるようだ。今日中にクリアできててよかった、本当に。
「でもそっかぁ、やっぱりカイはそのパーティーで参加?」
「いや、俺は臨時で入っただけだし、組む人見つからなかったらソロで参加しようかと思って」
「本当?ねね、もう組む当てあるの?」
アイラはそういうとにじり寄って来て上目使いでこっちを見ている。それだけいい条件で参加したいってことなんだろう。まあ俺は純粋な戦闘職ってよりは限定的な条件下で力を発揮する方だし、戦闘主体パーティーと組まんでもいいんだけどさ。案外鉄心たちが組んでくれるんだろうか。
「まったく、鉄心たちが組んでくれるなら一緒にやるか?」
「いいのか、私達はまだフォレストホースすら倒していないんだぞ」
「いいんじゃないかな。黒曜団クエストやって思ったんだけど、クリアに必要なのって必ずしもモンスターを倒す戦闘力なわけじゃなくて、その状況を打開する策とかその為の柔軟性とかだろ。そういう意味じゃみんなと組む方が色々なことができそうだ」
「カイ!今日は好きな物を好きなだけ食べてくれ!俺達で奢るから!」
いや、別に奢ってもらわなくてもいいんだけどさ。なんか鉄心が嬉しさのあまりおかしなテンションになってるな。
「やったぁ!決まりだね!やっぱり知り合いと組んでやった方が楽しいもんね!」
アイラも楽しく参加したいってのはあったみたいで嬉しそうに料理を取り分けている。慎重に考えているのは錦くらいか。ヨーシャンクといい錦といい俺の知ってる落ち着いた参謀系の奴はみんな苦労性だな。
「本当にいいのか?こんなことを言うのもなんだが私達は戦闘をほとんどこなしてきていない。それこそ戦闘系のスキルだけなら平均で3か4がいいところだ。討伐戦のようなイベントであれば足を引っ張るしか出来なくなってしまうが」
「それ言ったら俺だって対多数戦闘じゃ何の役にも立てないよ。でもイベントが2日間あって、その間ずっと戦ってるなんてありえないだろ。絶対生産職の力が必要になると思うんだけどな。そうなったら俺はみんなに助けてもらわないといけなくなる。そうやってみんなで参加できた方がいいだろ?だからみんなと組ませてもらえるとありがたいんだけど」
「そこまで言ってもらって断ることは出来ないな。私達はそれぞれの得意分野を生かして貢献できるようにしよう」
「よし、それじゃあ話はまとまったね。新しいパーティーの結成と来週のイベントに向けて、かんぱーい!」
新しい町で見つかった素材や食材。それを自分達ならどうやって生かしていくのか。そんな生産職らしい話を聞きながら酒場での夜は更けていった。
パーティー戦闘に生産活動にイベント参加の決定と、本当に今日は密度の濃い1日だった。