初めてのVLOと初めての狩り
ということで今回のみ2回連続で投降しました。
今後は週末に1話、5000字程度を投稿していきたいと思います。
目を空けるとそこは古風な木造の部屋だった。目の前には簡素な机と椅子に座った落ち着いた感じの女の人だけ。たぶん、ここで色々な登録とかするんだろうな。
それにしても、事前に聞いていたとはいえここまでリアルなのか。この木製の壁の手触りなんて本物にしか感じられない。正直目の前にいる女性が本物かもわからないんだが。俺の困惑をどう受け取ったのか、柔らかな笑みを浮かべると対面の椅子を示しながら話しかけてきた。
「ようこそVariety of live Onlineの世界へ。ここでは基本情報の入力と各種チュートリアルを行う場所となっております。私は担当のエリーと言います。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そのまま言われるがままに名前やスキルの選択を行っていく。一通りの選択を終えると目の前に仮想ウインドウが表示された。
名前 カイ
選択武器 銃
スキル 銃Lv1・罠製作Lv1・隠密Lv1・動物知識Lv1・料理Lv1
設定は以上でよろしいでしょうか Yes・No
とくに問題はなかったのでそのままYesを選択する。
「かしこまりました。ではこちらの書類を貿易都市マナウスの冒険者ギルドに届けてください」
「えっと、マナウス、ですか?」
「はい。この建物を出て東に見える都市がマナウスになります。こちらで登録を行わないとクエストの受注やイベントの参加が出来なくなりますのでご注意ください。ではこれよりチュートリアルに移りますがご希望されますか?」
そう聞かれてウインドウの端にある時間表示に目を向けた。今は9時30分、待ち合わせは10時。これは受けている時間がないか。
「すみません、後で受けに来ることってできますか?」
「申し訳ありません、こちらの建物は一度外に出ると再度入ることはできません。ですが同じ内容がヘルプに載っております」
「そうですか、それじゃあチュートリアルはやめておきます。ありがとうございました」
「わかりました。それではこれで初期設定を終了します。多様なる冒険の世界をどうぞ心ゆくまでお楽しみください」
そう言って頭を下げるエリーさんに挨拶をし、扉を開いて外に出る。そこは草原の真ん中だった。踝ほどの若草が生い茂り、所々膝丈の草がまとまって生えている。草は風に揺れてさわさわと音を立て、緑の匂いを運んで来る。
「これはもう現実と変わんないな」
そう呟いて後ろを振り返ると同じような草原が広がっており、今出てきたはずの建物がない。そして草原の先に小さく町が見えていた。
「こういうところはゲームなんだな」
そういえば装備はどうなってるんだろう。装備ウインドウを見ながら確認していくと、今の装備は簡素な服の上下と簡素な帯、簡素な靴に旅人のリュックか。
武器はどこだ?そう思いながら体中に手を回すが特になにもない。そこでアイテム欄を確認するとあったのは初心者のハンドガン。これが最初の銃かと感慨にふけりながら装備してみると、手に突然ずしりとした重みを感じた。
それは意外に長く、木の棒の先に青く錆びた色合いの金属がついている。それはどこからどう見ても鈍器に見えた。
「え?」
5分程色々な角度から眺めていたがこのまま途方に暮れていても仕方がない。後は歩きながら確認するとしてまずはマナウスまで行って藤と合流しよう。
道中歩きながらも作りをいろいろ調べたが、どうもこれはリアルでの最初期の銃の一つだったように思う。
色合いからして青銅と思われるが、これが筒になっていて銃身にあたるんだろう。で、根元に小さい穴と付属の棒、ウインドウにあった弾丸袋と火薬袋は帯に装備できる。この筒に初心者の火薬と初心者の弾丸を入れて、この棒は魔力を消費して熱を持つのか。で、これを小さな穴に入れて着火、と。
ふむ、これはあれだな。子どもの頃に見た狼に育てられた少女が出てくる映画で似たようなのを見たことがある。
使い方がおぼろげながら分かったところで都市の入り口に近づいていた。衛兵に会釈しながら通り抜けるとそこは石造りの家が連なっている。
「本当に中世ヨーロッパってイメージだな」
口元はにやけ、周囲をきょろきょろしながら歩く姿は多分かなり怪しい。でもよく見ると周りにいる人にも同じようなことをしている人がいる。わかるよ、君もプレイヤーだろ?…いかん、そんなことしてる場合じゃない。
時間を確認するとまだ待ち合わせの時間までに余裕がある。これならギルドの登録も出来そうだ。でも、ギルドってどこだ?
「あの~、すみませんちょっと道を尋ねたいのですが」
こういうのは住んでる人に聞くのが手間がなくていい。八百屋と思われるおじさんに声を掛けた。やっぱり客商売をしてる人の方が聞きやすいし。
「おうなんだ?」
おじさんはにっこりと笑いながら尋ねてくれた。ほうらね、いい人だ。
「ここの冒険者ギルドを探しているんですが場所が分からなくて」
「なんだ、兄ちゃん冒険者か、それならギルド通りだな」
「ギルド通りですか?」
「おう。あっちに広場があるだろう?この町はその広場から三つの大通りがあってよ、どんな店が多いかでギルド通り、宿屋通り、商店街通りって呼ばれてるんだ。本当はちゃんとした名前があるんだけどもうそれで定着してるし俺達もそう呼んでるのさ」
「なるほど、ということはここは商店街通りですか?」
その通りと頷くとそれぞれがどの通りなのかを教えてくれた。ということはあっちが冒険者ギルドという事か。
「ありがとうございます、助かりました」
「気にすんな。マナウスが安全なのも冒険者あってこそさ。困ったときはお互い様だな。それとこれを持ってけ、俺の自信作だ」
その手には真っ赤に染まったリンゴがあった。売り物を貰ってしまっていいのか迷っていると言いたいことがわかったのかおじさんは笑い出す。
「こういうのはな、ただの好意だ。受けとってくれ」
「ではありがたくいただきます。そうだ俺の名前はカイっていいます。今度はちゃんと野菜を買いに来ますね」
「おう!俺は八百屋のバーゼルだ。店は毎日開いてるからな、いつでも来いよ」
バーゼルさんと握手を交わすとそのまま広場にむかう。しかし、あれが本当にNPC?気のいいおっちゃんにしか感じなかった。というか、しっかりとこの世界を生きてる、そんな感じだ。
楽しい時間だったわけだが少し話し過ぎたか、すでに10時が近くなってしまっていた。これは先に合流したほうがいいな。
今日はサービス初日だ。それも開始後1時間の。もう少し考えておくべきだったかもしれない。
広場はプレイヤーと思われる人で溢れていた。これは藤を見つけるのは無理かもしれない。何なら一度ログアウトして細かい場所を決めた方がいいか。迷っていると突然腕を掴まれた。驚きながら振り返ると多少変わっているもののすぐに気づける顔があった。
「驚いた、本当に顔ほとんどいじってないのな」
「お互い様だろ。というより良く見つけられたなふ」
「おい」
勢いで名前を呼ぼうとしてチョップを食らった、頭をさすりながら痛みの再現凄いな、とどうでもよい考えがよぎってしまう。
「まあぶっちゃけ俺らはあんま関係ないけどほとんどはリアルに関係ないんだ、今後知り合いが来てミスんなよ?」
「悪い、気を付ける」
互いににやりと笑うとすぐにフレンド申請が送られてきた
≪富士からフレンドの申請が来ています受けますか? Yes・No≫
迷わずYesを選びとりあえずは広場を抜けてギルド通りを歩いてみた。
「で、どうよ?」
「凄いな。もう一つの現実世界ってのもわかる気がする。NPCとかもう普通の人だろ」
「だろ、やっぱりなぁ、面白そうだろ?」
なぜだろう、富士はものすごく得意げな顔でこちらを見ている。まあ、誘ってくれたのは確かなんだ。ここは富士を立てておくのも悪くない。富士とくだらない会話を続けながら、互いに登録を終えていないことがわかりそのままギルドへ。そこは3階建ての石造りの建物だった。入り口の脇には赤い旗が掲げられておりよくわからない紋章が染め抜かれている。中に入るとやはりそこもかなりの賑わいを見せていた。
「結構待つかな」
「いや実際にはやることなんてほとんどないしすぐ順番がくるさ」
富士の言葉通り30分も待たずに名前を呼ばれる。促されるままにカウンターに座ると目の前の職員に書類を差し出した。
「なるほど、カイ様ですね。冒険者ギルドへようこそ。ここでは簡単な受付を行わせていただきます。」
≪チュートリアルを受けますか?Yes・No≫
「受付ってどんなことをするんですか?」
「主に依頼受注と報告の方法、マナウスの町の概略の説明となっております」
横を見るとタイミングよくプレイヤーが動き出した。
なるほど、たぶんあのでかいボードが依頼用のボードでそこに貼ってある紙が依頼。受けたいならその紙を受付へか。クリアしたら受付で報告でいいわけだ。これなら大丈夫だろうし、とりあえずNoっと。
「かしこまりました、それではこちらが冒険者証となります、紛失しないよう管理をお願いします」
「はい、ありがとうございました」
こんなに簡単に済んでしまってしまっていいのだろうか。待てよ、そもそもギルドがこれだけならなんでここの通りがギルド通りなんだろうか、ちゃんと聞いた方が良かったのか。若干の不安も感じながら富士と合流する。
「さて、これで晴れて冒険者なわけだがこれからどうする?」
「どうっていわれてもな」
「まあまずは戦闘か。とりあえず戦うか」
戦闘と聞くだけで不安もあるんだが、なんで富士はこんなにも元気なんだろうか。全く理解できない、これがβプレイヤーの馴れなのか。
「大丈夫だって。せっかくだし、手頃な依頼受けて一緒に狩ろうぜ」
「わかった。でもどれが何なのかよくわからないしとりあえずは任せていいか」
「おし、じゃあ野兎からだな」
≪富士からパーティ申請が来ています。受けますか? Yes・No≫
とりあえずパーティーを組み、町の外へでる。そこではすでに何人かのプレイヤーがモンスターを狩っていた。
あれが野兎か、なんというか見たままなんだな。プレイヤーは野兎を相手に剣を振り回している。それなりに外しているが数回あてると野兎は動かなくなっていた。
「ここでいいか。よし、カイ準備はいいか?」
「ちょっと待ってくれ」
心の準備が全く出来ていないし、武器の準備はもっと出来てない。慌てて初心者のハンドガンを降ろし、筒に紙に包まれた火薬を入れていくそれを棒で底まで押し込む。これは突き固めた方がいいのか?わからん、とりあえずこんなものだろう。そこに弾丸を入れ準備完了。…作業しながらずっと感じていたことなんだが、これってもしかして。
「びっくりだろ?まさかの手動装填」
富士はすでに知っていたのか笑いながら問いかけてきた。
「本当だな。まあ俺はこういう方が好きだけど。後は火つけ棒に魔力を込めて…よし大丈夫だ」
「まずはあいつだな撃ってみろよ」
富士が剣の先で示したのは10メートルほど先にいる野兎だった。照準の合わせ方もよくわからないままとりあえずは右手で構え、恐る恐る穴の中に火のついた棒を入れる。その瞬間、炸裂音と共に衝撃が襲い尻餅をついていた。野兎は?ふむ、どうやらかすりもしなかったようだ。隣からは微かに笑い声が漏れている。よし、最初に塞ぐべきはその口という事か。
「当たれば一撃なんだけどな、βの時もみんなそんな感じだったよ。まあ弓も似たり寄ったりだったけどよ。当てるにはそれなりに練習も必要だろうし、少しずつやってくしかない。てことでとりあえずこっからは俺も参加するぞ」
そういうなり走り出すと野兎に切り付けている。いけない、こっちはまた装填しなければ。火薬、弾丸、よし獲物はどこだ。次はあいつだな。今度は片膝をつき脇と腕で1か所と手でも固定した。これでどうだ。炸裂音と共に今度は尻餅をつくことはなかったがやはり弾丸は当たっていない。それどころか野兎の様子がおかしい。こっちを見て、あっちを見て。
「キュップ」
笑った?ねえ今もしかして笑った?どこ狙ってんのこれがサッカーなら超特大ホームランですよ、もしかして最初から狙いは私の腹筋かな?それなら作戦成功だ。今私の腹筋はねじ切れんばかりだよ。さあ次はどんな笑いを頂けるのかな、みたいな?
ようしやってやる、必ずお前の眉間に弾丸をぶち込んでやる。
…当たりません。すでに十発は撃ってるのに全く当たりません。少しずつ近づいてはいるんだが、弾丸はあと20発しかない。それまでに当たるだろうか。次の弾を装填しようと準備を始めたその時、ポーンと高めの音が響いた。
≪野兎討伐が完了しました。冒険者ギルドで報告してください≫
え?驚いて振り返るとそこには富士が立っている。どうやら笑いをかみ殺すのに必死らしいその顔は奇妙に歪んでいる。
「なんだよ」
「いや、頑張ってるなと」
「そうか」
「ああ」
そのまま冒険者ギルドに報告に行く。報酬は技能玉と200リールだった。技能玉は使うとスキル取得用のポイントが貰えるらしい。今回は初依頼クリアのボーナスか。あとはリールだが、これはこの世界の通貨の単位だ。それを二人で割るから一人100リールか。安いのか高いのかわからないな。まあその辺は追々ってことでいいとしても、これは由々しき事態だ。
「どうした?」
「いや、このままじゃ間違いなく残りの弾を全部使っても当たるようになる気がしないんだよ。どこかに訓練所みたいなとこないかなと」
「あるぞ?通りの先にギルド所有の訓練所がある。そこならほとんど金かけずに練習できるな」
あるのか。ということはだ。
「富士、すまないんだが」
「おう、いいぞ~。こうなるとは思ってたし。この後βの時のフレも紹介しようかと思ってたけどカイは今度にするか?」
「そうだな。さすがに必要最低限のスキル身に着けてからにしないとひたすら足を引っ張ることになるし」
「わかった。それじゃあ大丈夫と思ったら連絡しろよ」
「助かる」
こうして初めての狩りは失敗の連続によって幕を閉じることになった。