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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
2章 イベントへ至る道
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報酬分配


 富士が叫んだことが引き金になったのか、皆次々に喜びを爆発させている。視線を巡らせると東雲は静かに握り拳を何度も作っている。らしいといえばらしい仕草だ。アキラと楓は手を取り合って喜んでいる。それを尻目にヨーシャンクが近寄ってきた。


「初見では敗北も考えていたんだが、カイのおかげで何とかなった。ありがとう」

「俺?むしろみんなのおかげだろ。全員いてこその戦果だ」

「それは確かにそうだ。だがバイソンの援軍が来た時、正直私には2人を同時に援護できるだけの魔力は残っていなかった。カイが3体を単独で仕留めたからこそだ」


 この中の誰か一人でも欠けていたらこの勝利はなかった。俺はそう感じているが、そのどこに重点を置くかは人による。

 これ以上この話題を続けても功労者の押し付け合いになってしまいそうだな。互いにわかっていながらも、そんなわかりきったやり取りを楽しいと感じてしまう。なんたらハイってやつかもしれないな。

 俺達のやりとりに気付いたのか富士がにやつきながら様子をうかがっていた。


「男が二人そろって何してんだよ。誰が殊勲かなんてわかんねえし、全員が全部出して勝ったんだ、ガッツポーズでいいんだよ」

「いや、俺は感謝を伝えようとしてだな」

「ヨーシャンクは回りくどいのさ。ありがとうの一言で済んじまうことをなに落ちのない漫才にしてんだよ。思わず割って入っちまった」


 全員でひとしきり笑い、称え合い、それからタイアに戻ることにした。さすがにここからさらに連戦を重ねるほどのタフさはない。ボス戦の疲労困憊と空腹も相まって、もはや気分はゾンビの行軍だ。

 バイソンの姿が見えるとひたすら迂回して戦闘を避けて帰路に就いた。


「あ~ついたっ、長かった。今すぐお風呂に入りたい」


 アキラが言葉とは裏腹な明るい声で伸びあがった。まあしばらくはこの達成感と満足感に浸っていたい。とはいえこのままというわけにもいかずそれぞれが宿屋で体の汚れを落とし、昼を食べてから再ログインすることになった。


 そして俺は今部屋のシンクの前に立っている。決して昼食に迷っているわけではない。というより既に力うどんを食べた。洗い物をしながら考えているのは料理についてだ。

 必要最低限の調理器具で幅広い料理を作るには何が必要か。包丁、まな板、鍋とフライパン、後は調味料。このあたりは必須だとしても、残りは何だろうか。味噌を手に入れたし、湯にとくのにお玉もあった方がいいな。あとは…箸か、いや、その場で作ればいいか。

 その後も某料理紹介サイトを使って猟師飯を検索していく。そうして必要そうな物があればメモにしていった。

 情報がある程度揃ったところで今度はこっちだ。VLOの公式サイトにアクセスして現在解放されているスキル一覧のページを開いた。今回の狩りで貯まった3ポイントをどう使うかを決めるためだ。

 そうはいってもすでに歩法と跳躍は取ろうとは思っているから、残りはあと一つ。もっとも他に欲しいスキルが見つかればいくらでも変更はするけど。

 気になるものを端から知らべると面白いスキルがいくつか見つかった。料理を生かすことの他に、以前から考えてはいたが今回の戦闘でより必要性を感じたこと、その解決にはこれが必要かもしれない。可能なところは自己完結、現地調達も視野に入れるならこの辺が鉄板だろう。

 調べものが一段落ついたところで時計に目をやるとすでに午後2時に近づき、約束の時間が迫っていた。慌てて洗濯物を干すとベットに横になる。少しばかり遅れてしまっただろうか。


「すまない、待たせた」

「問題ないですよ。まだ誰も来てないので」


 急ぎ足でタイアの冒険者ギルドの前に着くと、そこには東雲しかいなかった。全員が揃うまでは時間があるかもしれないし、のんびり待つとしようか。

 戦闘で消費した弾丸を確認し、リュックの中身を整理していく。まあ俺は弾丸しか使ってないしドロップは富士とヨーシャンクに渡して管理してもらっているから荷物も少ないし、数分とかからずに終わってしまった。

 こうなると隣に座る寡黙な青年との話題に困ってしまう。あまり沈黙を苦にしないような性格っぽいけど、どうせなら仲良くなりたいところだ。


「そういえば東雲ってリアルで武術やってたのか?」

「ええと、物心ついた時からずっと槍術をやってます。でも、なんで気付いたんですか?」

「なんでって言われてもな。動きが違うとしか言えないんだけど」


 俺としても熟練している動きとシステムアシストを受けた動きの差としか言えず、その差も言葉に出来るほどのものではない。そんな曖昧な表現で伝えると、それで理解できたらしく納得がいった表情をしていた。


「そうですね、たしかにシステムアシストを使っているプレイヤーの動きは似通っているように感じます」

「武道やってるとそういうのってわかるもんなのか?」

「人によってスタイルが違ってたり、元々運動やってたかとかでも違いはあります。それでも根本の筋が同じです。何度かPvPもやりましたけど、近接系のプレイヤーは特に動きが似てますね」


 なんか、最初に思ってたよりよく話すな。実はただの人見知りだったのかもしれない。東雲はやはり戦闘を目的にVLOを始めたようで、ここでの経験をリアルに生かすことの方が目的だったらしい。それが富士に誘われて言われるがままに各地で戦う内に旅自体が楽しくなってしまったようだ。

 さすがにVLOに傾倒しすぎるってことはないみたいだけど、会話の端々からなんとなく学生のようにも感じるし、こう言っては何だが凄く微笑ましい。ゲームでの戦いをリアルにフィードバックって発想がもう漫画的で面白い。


「なんだよ、楽しそうじゃねえか」

「おお、富士。ちょうど戦闘の話してたんだよ。お前の動きって読みやすいらしいぞ」

「いや、富士さんは両手盾とか変則的なことが多いからよくわからないです。意味のわからない動きするし」

「そんなに褒めんなよ。それに東雲もようやく打ち解けたか、口調が戻ってるな」


 どうも東雲はこの中ではいじられキャラのようだな。かわいそうに、富士の餌食になっている。本人も律儀に突っ込みを返すから富士が益々調子づいてしまっている。すると背後から富士の頭をひっぱたいたプレイヤーが、その手には…ピンクのスリッパ?嘘だろ、そんな物まで再現できるのか。手にしていたのはやっぱりアキラだった。


「なーに東雲で遊んでんのよ、私も混ぜなさいよ」

「いや、アキラさん、俺で遊ばないでほしいんだけど」

「いや、東雲は渡さない!こいつだけだなんだ、俺のボケを全部返してくれるのは!」


 いや、何言ってんだこいつ。ヨーシャンクを見ると同じように苦笑し、楓は楽しそうにコロコロと笑っている。このままではいつまでたっても3人の漫才を見せられてしまう。ここは心を鬼にして止めよう、そうしよう。


「よし、それじゃあそろそろ…」

「なによ、カイも東雲指名なの?駄目よ、絶対あげないわよ」

「いや、その話題じゃねえよ、東雲の話題から離れろよ」


 だめだ、失敗した。俺が撃沈したことで悟ったのかヨーシャンクが口を開いた。一応言っとくけど遅いからね?もうわかり切ってることだけど、このギルドのかじ取りはヨーシャンクにしかできそうにない。


「さて、そろそろクエストの報告といこうか。私と富士で行ってくるから4人は待っていてくれ。さあ、富士行くぞ」

「はいよ~、それじゃあ報酬とドロップの分配もしてくるからその間に次の予定でも考えといてくれ」


 二人が冒険者ギルドに入っていくと各々がようやくログのチェックを行っていく。そういえば俺もチェックしていなかったな。そもそもボス戦前に戦闘系がほとんど上がったからもう上がっていないと思い込んでいたわけだが。調べるとレベルがまた上がっていた。ついでだから欲しかったスキルも取得してしまおう。


≪敏捷強化スキルがLv4になりました≫

≪隠密スキルがLv9になりました≫

≪アクロバットスキルがLv3になりました≫

≪歩法スキルを取得しました。残り技能ポイントは2Pです≫

≪跳躍スキルを取得しました。残り技能ポイントは1Pです≫

≪調合スキルを取得しました。残り技能ポイントは0Pです≫


 さて、これで後はスキルのセットだ。今回の取得でついに取得スキル数が10を超えた。しかし、プレイヤーがセット出来るスキルは最大で10個まで。今はまだいいが今後は本当に必要なスキルを厳選していく必要がある。

 とりあえずセットスキルを整理することにして、すぐには使いそうにない生産系スキルと入れ替えた。スキル構成はこんな感じだ。


セットスキル:≪銃Lv7≫≪隠密Lv9≫≪気配察知Lv5≫≪アクロバットLv3≫≪跳躍Lv1≫≪歩法Lv1≫≪敏捷強化Lv4≫≪集中Lv5≫≪動物知識Lv5≫≪植物知識Lv4≫

セット外スキル:≪料理Lv1≫≪罠製作Lv1≫≪調合Lv1≫


 ふむ、戦闘職っぽくなってきたな。狩り向きのスキル構成になってきたし、後は≪発見力強化≫とかでも取ろうか。まあすぐにってものでもないし、しばらくは貯めてくのもいいかもしれない。

 3人も確認を終えたようだ。すでに次にやりたいことを話している。そこへ富士とヨーシャンクも戻ってきたんだが、なんとも言えない表情をしていた。もしかして情報にあった程には実入りの良いクエストではなかったのだろうか。いかん、俺のリールが逃げていく。


「待たせたな」

「何よその微妙な顔は」


 他のメンバーも2人の様子には気付いていたようだ。報酬について聞かれると先程の表情とは一変して富士がにやりと笑った。おお、随分とあくどい顔をしていらっしゃる。


「そっちはいい感じだ。てことで説明よろしく」

「少しは自分でもやろうと思ってほしいものだな」


 やれやれといった様子でヨーシャンクが報酬について説明してくれた。しかし、そのヨーシャンクにしても予想以上の報酬だったのだろう。話す前から口元は笑っている。これは期待せざるを得ない。


「報酬についてだが、結論からいって総額で7万8400リールだ」


 あまりの金額に誰一人声が出ない。それもそのはずだ。フォレストホースを何体狩ればその額が手に入るのだろうか。金額が高額だったこともあって、大声で喜びを爆発させることも出来ず、全員が小さくガッツポーズを作っていた。


「今回はそれにさらにドロップ品がついてくる。重要な話もあるんだが、まずは分配をしてしまおう」


 送られてきたのは1万3000リールと以下の素材だった。


≪闘牛の肢肉 レア度1 重量2≫×6

タイアの周辺に生息するバイソンの肢肉。筋張っており非常に硬いが煮込むことで多少は柔らかくなる。タイアの農産物を荒らすことでも有名なため討伐も多く、大陸全土に輸出されている。

≪闘牛のロース レア度1 重量1≫×4

タイアの周辺に生息するバイソンのロース肉。肢肉に比べ柔らかく、脂肪も乗っていることから非常に人気がある。タイアの農産物を荒らす事でも有名なため討伐も多く、大陸全土に輸出されている。

≪闘牛のモツ レア度1 重量1≫×4

タイアの周辺に生息するバイソンの内臓。見た目から忌避されがちではあるが、タイア周辺の都市では愛好家も多い。

≪闘牛王の舌 レア度1 重量1≫×1

タイアのバイソンを従えるバイソンリーダーの舌。非常に肉厚で柔らかい。数が少なく流通がほとんどないことから、リーダーを狩った狩猟者のみが食べることのできる一品として知られている。


 うん、ものの見事に食べ物ばっかりだな。料理用にいくつかはとっておきたいけど、残りはアイラに卸して何か作ってもらうとしよう。タンも今の俺じゃ調理できなさそうだし。


「うっし、みんな確認終わったか?こっからが本題だ」


 富士の言葉を聞いてホクホク顔だったギルドメンバーが笑顔をひっこめた。さすがに切り替えの上手な連中だな。あの2人があんな表情で戻ってきたんだ。相応の内容なんだろう。


「クエスト報告の後にギルド職員から声を掛けられてな。なんでも最近、マナウスの周辺に見たことのないモンスターがいるみたいなんだ。それも姿を確認するとあっという間に逃げて行っちまうらしい。冒険者ギルドでは一連の報告から調教を受けたモンスターじゃないかって考えているらしい」

「う~ん、新しいイベントっぽいけどそれだけじゃ何とも言えないんじゃない?」

「話にはまだ続きがある。この見解がどうやらマナウスの領主にも伝わっているようなのだ。マナウスは交易都市、人の栄える地にはモンスターが寄り付けなくなるのは必定だ。それ故に知能あるモンスターは何とか都市を破壊しようとするし、マナウスは破壊行為には細心の注意を払って警戒をしている。そして今回、その調査任務が行われることになった」

「俺達もそれに参加するってことか?」


 富士の問いにヨーシャンクが静かに頷いた。ただ、この内容なら別に伝えるのに困ることでもないはずだ。何をあんな表情をしていたのだろうか。


「それなら、転移ゲートでマナウスに戻れば今日中にクエストを出来そうですね。せっかくのどかな場所に来たから少し残念ですけど」

「いや、それがさ。クエストの実施日が来週の土日なんだよ」

「「「あ」」」


 楓、アキラ、東雲が何かに気付いたようだ。楓はいたたまれない表情でこちらをチラチラと窺っている。

 うん、なるほどね。話の展開が読めた。というか俺は今回の臨時メンバーだし何をそんなに気を使っているんだか。それでも俺に気を使ってくれるその心遣いが嬉しくもあるのは事実だけどな。


「なるほどね。富士、このクエストって受注条件あるのか?」

「どうも条件対象のクエストがかなりあるみたいでな。パーティー内に誰か1人でもそのうちの1つをクリアしている奴がいれば受けられる。悪いなカイ」

「いや、ようやくフルメンバーが揃うんだろ?それで一緒に冒険しないとかそれこそ何の為にギルド作ったのか本末転倒だろ」

「本当にすまん。今度飲んだ時は奢るわ」

「よし、次は高い店を予約してやろう。みんなもだぞ。ったくなんでそう辛気臭い顔してるんだか。俺はソロプレイヤーだ、イベントまでに誰か見つかれば組むかもしれないし、偵察とか調査なら正直1人でも問題ない」


 俺の言葉にそれ以上謝ろうとするやつはいなくなったけど、何とも言えない空気が漂いすぎている。珍しいことにヨーシャンクに至ってはかなりやっちまった感が表情に出てフリーズしてしまっていた。

 とりあえず今日の目標は達しているわけだし、仕切り直しにした方がよさそうだ。が、それを俺から切り出した方がいいのか。ちょっと悩んだが富士がいるギルドなんだ、まあいいだろう。


「さてと、それじゃあ富士」


 いきなり話を振られた富士だったがその辺は付き合いの長い間柄、意図はしっかりと伝わったようだ。軽くうなずいて話を合わせてくれた。


「オーライだ。まあさすがに辛気臭いまま冒険なんて楽しくもならないしな、ボスも倒したし、今日はここまでってことにするか?」

「おう、俺も今回の狩りで見つけた課題があるし、さすがにこのままだとソロの方がきつくなるしな」

「やっぱ銃ってソロ少ないよね。あたしみたいにβの時のスキルに追いついてなくてスタイル安定しないとかもあるのかもしれないけど、それにしても少ないよ。初期銃きついとかもあって尚の事だし、ちゃんとスタイル安定したらソロ戦闘見せてよね」

「まかせとけ、俺も興味あるからアキラも魔法剣使えるようになったら見せてくれよ」


 話の流れに上手くアキラが乗っかってくれたこともあり、場の空気もかなり良くなってきた。というか予定が狂うことなんていくらでもあるだろうし、ましてやVLOはゲームなんだからそこまで気にすることもないんだけど、やっぱりリアルとそう変わらない感覚だからこそ本来の人となりがでるのかもしれない。それだけセントエルモには良いやつが多いってことでもあるわけだけど。


「それじゃ、今日はここまでにするか。ぶっちゃけバイソンリーダーはまだ俺らには若干早かったし、カイが抜けた戦力をきっちり補えるようにしないとだしな」

「そか、それじゃあ俺も装備整えにマナウスに戻るかな」

「あたしはもうちょいタイアでスキルの底上げしたいなぁ」

「じゃあ俺らはこっち残るか。何狩るかはボード見て決めようぜ」


 とまあこんな感じのやりとりを挟んで富士達とは分かれることになった。それにしても今日はまだ半日しかやってないのに、随分と濃い狩りだった気がする。次に会う時には新しいメンバーとも会ってみたいところだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] >富士の問いにヨーシャンクが静かに頷いた。ただ、この内容なら別に伝えるのに困ることでもないはずだ。何をあんな表情をしていたのだろうか。 ここ富士は一緒に行って戻ってきたので話は聞いてますし…
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