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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
2章 イベントへ至る道
18/102

バイソンと小麦畑

「あの、このクエストはまた受けられますし、よければそろそろ昼食にしませんか?」


 楓が控えめに提案すると、特に反対もなく一度タイアに戻ることになった。ボスには遭ってみたかったのはあるが、正直空腹も堪える。このままだとタイアに着く頃にはかなりの空腹を感じることになりそうだしな。

 それにしても、富士達と冒険に出るとスキルがぐいぐい上がっていくな。バイソンが近くにいない時に確認すると、例の如くまとめて上がっていた。


《銃スキルがlv7になりました》

《隠密スキルがlv8になりました》

《気配察知スキルがlv5になりました。技能ポイントを1獲得しました。残り技能ポイント1P》

《集中スキルがlv5になりました。技能ポイントを1獲得しました。残り技能ポイント2P》

《植物知識スキルがlv4になりました》

《動物知識スキルがlv5になりました。技能ポイントを1獲得しました。残り技能ポイント3P》


うむ、一気に技能ポイントが3Pも貯まってしまった。これなら新しく生えたスキルも取得出来るな。


「よければこれをどうぞ」


 レベルアップについては確認していると楓がそう言って何かを差し出してくれた。渡されたのはハムとサラダ、それに卵が挟まれたサンドイッチだった。富士やアキラは空腹だったのかすかさずかじりついている。食材知識を取得していないため、名前以外のデータがわからないのが悔やまれるな。今後の目標に出来たかもしれないのに。


「そういえば、カイも料理スキルを取得していたのだったな。あれからは料理はしているのか?」

「全然だな。理想としては森の中で狩った獲物を鍋とかで食いたいんだけど、リュックの容量的にも調理器具を入れる余裕がないんだ」


 ヨーシャンクは一度俺のリュックを一瞥すると、なぜリュックを新調しなかったのかと不思議そうに聞いてきた。どうもヨーシャンクの中では真っ先に新調するべき物だったようだ。


「まあ先に装備をってのが考えにあったしな。これまでは重量ギリギリにはなっても明らかに不足しているって感じでもなかったし」

「甘いな。いいか、住人が営む道具屋で蜘蛛の糸製のリュックに切り替えると総重量が170まで上がる。それだけでも調味料や調理器具を入れても旅人のリュックよりも容量が残るんだがな」


 何てこった。リュックに関してはそこまでの危機感もなかったし何も調べてなかったな。これを何とかすれば料理が死にスキルじゃなくなる。見た目だけじゃなく、生活スタイルも猟師のそれを踏襲できるわけだ。

 新たに知った情報を自分なりに整理しながらサンドイッチを口に入れた。リアルでも馴染みの深い、それでいて手作り感のある味わいに空腹度以上に心が満たされるのを感じる。作り方による僅かな味の違いを再現したことか、心に響く感覚を再現したことか、どちらに驚けば良いのかわからないが改めて料理の持つ魅力を感じることができた。楓に感謝である。


「ねえ、ちょっと、あれってもしかしてもしかしない?」


 アキラが突然、興奮したように声を上げた。指差す先には、明らかにこれまでで一番大きな、さらには角が伸びて捻れているバイソンがいる。


「あ~、別にいいんだけどさ、普通こういうのって出直してから出るもんじゃねえのか?」

「敵が毎回空気を読んでくれるとは限らない」

「そうだな、それにあいつが今回の目標だ。狩らないといういう訳にはいかないな」


 男どもは全員が臨戦態勢に入っている。アキラも狩る気満々だな、楓は、もう少しピクニック気分を感じていたかったのか少し残念そうではあるが。俺としてはもはやあのバイソンがリールの固まりに見えて仕方ない。さあ、始めようじゃないか。

 とはいえこれで違っても恥ずかしいので、一応近付いて名前の確認はしておいた。


《バイソンリーダー 状態アクティブ》


 うお、こいつ既に臨戦態勢だ。俺か楓じゃないと気づかれずに近づくのは難しいかもしれないな。戦術の確認もしたが、基本はバイソンと同じでいくことにした。

 初撃を入れられるのが嬉しいのか、獰猛な笑みを浮かべて富士が歩き出す。気持ちを抑えられなくなったのか、少しずつ歩みを早め、最後には駆け出して剣を突き込んだ。バイソンリーダーもそれを待つことなく、富士に向けて角を振り回す。風切り音が聞こえ、すぐに鈍器を金属に叩きつけたような鈍い音が響いた。富士はとっさに盾で受けたがそれでも数歩よろけて後退している。


「やっべぇ、パワーありすぎだろ」

「援護する」


 横合いから槍を突き込み、東雲が牽制していく。富士は防御に撤し、東雲が攻撃で注意を逸らす、二人掛かりでようやく抑え込めるようになってきていた。


「均衡がとれてきたな。カイ、そろそろいくぞ」

「了解、東雲の攻撃に合わせて飛び込むんで援護よろしく」

「まっかせなさい!さあとっとと突っ込んで!」


 未だパターンの読めない戦況にありながら、それでも仲間の動きから攻防を読み、バイソンリーダーが角を大きく振りかぶった所で弾かれたように飛び出した。

 荒れ狂う角を剣を放り投げ、両手で盾を持った富士がしのぎ、間隙を縫うように東雲の槍が首もとへ滑り込む。その突きの一つがバイソンリーダーの目を捉え、大きな鳴き声と共によろけ、たたらを踏んだ。

 タイミングとしてはこれ以上は望めない。叫ぶように声を上げて富士の背中に向けて大地を蹴る。


「富士、背中!」

「しゃあ、こい!」


 富士の背中を足台にして更に跳ぶ。しかし、フォレストホースよりも更に一回り大きな体を飛び越えるのは難しく、背に乗るような体勢になった。

 あの巨体だ、こうなるのは最初からわかっていた。着地を待つことなくすぐさま発砲し、背を蹴って飛び越える。


「ヴァオォォム!」


 かなりのダメージが入ったのか、首を振り回して反転し、そのまま距離を取っていった。危うく踏み潰されそうになり、慌てて転げながら避けると、振り返ったバイソンリーダーは鬼の形相をしていた。


「突進だ、俺の後ろに回れ!」


 バイソンリーダーが駆け出すよりも早く動けたのがよかったのだろう、ギリギリではあったが富士の後ろへ転がり込む。


「よっしこい、ガード」


 富士は盾を両手で構え、アーツ名を口にする。全身が青く光り、その光が富士の前に壁のように広がっていった。

 バイソンリーダーは構うことなく青い壁に突進した。何かにぶつかったような音が鳴り、その瞬間、俺の横から飛びだした東雲が槍の穂先を口にねじ込む。顔が僅かに反対側に振れたのを見逃さず、富士がアーツを放った。


「スイング!」


 初撃の比ではない、いっそ車両同士がぶつかったと言われた方が納得できる音を立て、バイソンリーダーは右に逸れていった。そこへ、更なる追撃が続く。


「ファイアーランス」

「エアカッター」


 放たれた魔法は足に直撃し、巨体が横滑りをしながら転がっていく。一連の攻防のあまりの派手さに一瞬呆けてしまっていたが、まだ戦闘は序盤だ。すぐさま装填をして顔をあげると、既に富士と東雲がバイソンリーダーを押さえ込み始めていた。

 なんとまあ頼もしい味方だこと。俺も少しでも良い仕事をしないとな。

 戦闘は1時間を越え、相変わらず攻撃のパターンがわからないままだったが、それでも全員にこのままいけば勝てるという感覚があったと思う。しかし、その思いを容易く裏切られることとなった。


「多分もうちょいだ、気張っていくぞ!」

「はい!」

「しくじるなよ」

「富士が一番凡ミスが多いと思うんだけど!」

「同感だ」

「ヴォォオオオ!」


 富士の激にバラエティ豊かな返事が返された頃、バイソンリーダーが空に向かって大きな声で鳴いたのだ。何か新しい攻撃かと身構えたが、それはリーダーとしての仕事の合図だったようだ。遠くから地を駆ける音が聞こえてきたかと思うと、バイソンリーダーを守るように2体のバイソンが立ちはだかった。


「嘘でしょ、3体は流石に反則」

「たが、やるしかあるまい」

「一発の火力を考えたら俺が1体だよな」


 あまりの出来事に全体の動きが止まりかけたその時、富士が声を張り上げた。


「心を揺らすな!ボスがこの位やるのは当たり前だ、戦闘指揮は任せたぞ!ヨーシャンク!」

「私が全力で援護する!カイ、東雲は左右のバイソンを叩け。楓は富士のHPコントロール、アキラは富士の援護だ。富士は防御特化で足止めだ。富士が落ちる前にバイソンを仕留める!」


 ヨーシャンクの指示を聞き、全員が動き出す。俺も何かに突き動かされるようにして駆け出した。もう他に気を配る余裕なんてない。距離はあったがそのまま発砲、僅かに外れはしたが右のバイソンは俺を獲物に決めたようだった。

 よし、これで確実に1体は釣り出した。そのまま俺の特性が生きるフィールドに引っ張り込んでやる。

 バイソンが届く前に走り込んだのはタイア小麦の畑だ。ある程度深くまで進んでそこで伏せる。ここは風下、こっちが音を立てなければそうそう見つからない。しかもここは小麦を食い荒らされたことで天然の迷路と化している。天然迷路の中を音を立てないように、慎重に進んで居場所を変えると姿が消えた場所までは見ていたのだろうバイソンがさっきまでいた場所で周囲を見回していた。

 ここなら狙える。そう確信すると四つ這いで距離を空ける。といっても両手に銃を持ってるから肘を使ってるけどな。

 すぐには見つからないと思える場所まで下がると装填し、再び距離を詰める。向こうには見えていなくても、こっちは気配察知で見えている。静かに背後に回り込むと落ちていた石を拾い上げバイソンの前方に向けて投げた。

 突然前方から音がしたバイソンは唸り声を上げて突撃の準備を始めていた。でもそれじゃあ背後の警戒が甘い、脚の付け根を狙い、至近距離で弾丸を撃ち込んだ。


「よし」


 思った以上に流れ良く戦えていたこともあり、小さくガッツポーズを取りながら畑を転げ回るバイソンから距離を取る。バイソンリーダーが呼んだだけあってかなりの大物だが、流石に2発で倒せないってことはないだろう。

 装填が終わると再び近づく。するとバイソンがこれ以上はないという大声で鳴いていた。まさかこいつも仲間を呼ぶんじゃないだろうな。そのまま様子を見ていると、突然バイソンと目があった。まさか、今のはソナーかなにかなのか?少なくともあの様子じゃ迷いなく俺を捉えている。そしてそのまま突撃モーションをとりだした。


「ボアの次はバイソンとチキンレースかよ」


 捕捉された以上もう逃げられない。後はボアで鍛えた引き付けて撃つ、いつも通りの戦闘だ。ボアよりもはるかに巨体のバイソンが突撃してくる中、妙に落ち着いて銃を構えた。


「やったな。援護なしに倒してきたじゃないか」

「場所が良かっただけだよ」


 畑から戻るとヨーシャンクから声を掛けられた。東雲も既にバイソンを倒し、富士の援護に回っている。富士は両手に盾を持ち、バイソンの攻撃を受け止めていた。あいつはいつの間に盾を出したんだろうか。


「このまま突っ込む」


 短く切り出すと答えを待たずに飛び出す。こいつは今、俺への意識は全くない。それなら、今こそが絶好のチャンス。姿勢を低く、富士の影に隠れるように進み、最後は東雲の後ろから回り込む。バイソンリーダーの視線が富士に向かったタイミングで銃を突きだした。


 「ヴォォオオオ」


 バイソンリーダーが初めて地面を転げている。それだけダメージが蓄積されてきたってことだ。この機を逃さず魔法での追撃が続くが、起き上がったバイソンリーダーは再び天に向けて咆哮を放った。遠くから鈍い足音が響く。


「また?勘弁してよもう」

「富士、次は何分なら保つ?」

「よくて5分、最悪2分ってとこかな」


 ヨーシャンクはちらりと俺に視線を向けて唸る。いや、言わなくてもわかるさ。俺は単独で狩ればいいってことだろ?


「大丈夫だよ。援護なしでもやれる」

「すまないが頼んだ」


 バイソンリーダーが取り巻きを呼ぶこと3度、ギリギリの戦いを強いられながらも乗り越え、明らかにこれまでとは違う反応が見られるようになってきた。戦闘中、足を引き摺るようになったのだ。これで弱ってないなんて嘘だ。俺達は最後の猛攻を掛けていた。


「足を止める、攻撃を集中させろ。フレイムウィップ」

「仕留める」

「流石にしつこいわね、ファイアーランス!」

「トリプルアロー」


 当然俺も参加だ。燃え盛る鞭が絡み付き動けない隙に、脳天に合わせて撃ち込んだ。大いにふらつき、息も絶え絶えって様子なのにそれでも倒れない。こいつは本当に何て体力してるんだ。


「まだまだぁ!2連スイング!」

「全員離れろ!ライトニングスピア」


 それは見たことのない魔法、というか初期選択にはない雷属性の魔法だった。ヨーシャンクの目の前にできた光から、雷がいびつに伸びて黒い巨体の中心突き抜ける。バイソンリーダーはそのまま数回痙攣を起こしたかと思うと大きな音を立てて崩れ落ちた。


「もう、起き上がってこないよな」

「私もそうだが、楓とアキラもMPが尽きかけている。これで立ったら勝機はないな」


 全員が緊張の眼差しでバイソンリーダーを見つめていたが、ちゃんと倒せていたようでピクリとも動かない。

 誰一人話すことのない沈黙の中、なんというか達成感のようなものが腹の底から沸き上がってくるのを感じていた。流石に叫びだすのは恥ずかしいと思っていると、そんなことはお構いなしの男が大声を張り上げた。


「よっしゃぁあ!やった、エリアボス討伐成功だ!」

「やったよ、ついに倒した、夢じゃないよね?やったよね!」

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