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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
2章 イベントへ至る道
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出会い

 鉄心も何か黒鉄で作りたそうだったが今は財布の中身が寒すぎる。とはいえせっかくの黒鉄だ。その内頼める物も見つかるだろう。

 装備の方はお金が足りなくなるのが怖くて、錦にその場でお金を渡し2人とはわかれた。

 懐に余裕が出来るはずだったんだが既に残金は1420リールしかない。それでも狩りをするならいつだって消耗品が必要になる。武器屋に向かい予備の弾を30セット購入し、食品店で携帯飲料と携帯食を購入した。ちなみに水は重量別に購入出来て革袋入り、今回は3つで150リール。携帯食は3食分をセットで売っていて3つ購入して300リールとなっている。

 食べ物なんかはマーケットで買うよりはこっちの方が安いし今はこれで我慢だ。何が我慢って、麩菓子の味を抜いたものにちょっとの塩とよくわからない酸味とほのかな甘み、このトリプルパンチがうっすらとくる。吐くほど不味くはないのが我慢できてしまって悔しい所だな。

 食事への現実逃避を終えて残金を確認すると…何という事でしょう、私の財布の中に残っているのは70リール。金を稼ぐ傍から消えていく清々しいまでの自転車操業状態。このままではこの先もゲーム内で貧乏生活を強いられてしまう。

 状況打開の一手として土日に森に向かい、浅い位置で採集を行い稼ぐことを考えているんだが、その為にも今日はボアを沢山狩ってなんとか資金を稼がねば。

 物資の補給が済んだら今度は冒険者ギルドに向かう。クエストを請けるのは当然だけど、今回は銀行の利用がメインだ。

 冒険者ギルドでのチュートリアルをちゃんと受けていればすぐに知っていたはずのことだが、冒険者ギルドでは銀行機能用の受付がある。よくあるゲーム的なリールとアイテムを預けられるあれだ。俺にはそこにどうしても預けておきたい物があった。


「カイさん、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「銀行を利用したくてきました」

「では、リールとアイテムの選択を行ってください」


 目の前に現れたウインドウを操作し、黒鉄の蹄鉄を預ける。黒石の欠片はイベントアイテムのせいか預けられなかったけど、これで何かあっても安心だ。それと、70リールは預けるのが申し訳なく感じてそのままにしておいた。操作を終えると受付の人に挨拶をして冒険者ギルドを後にする。

 道具類の準備が整ったところで最後にやったのはスキルの獲得だ。スキルポイントの割り振りだが、これはもう決めてあった。迷わずに3つを選択して取得する。


≪敏捷強化スキルを取得しました。残り技能ポイント2P≫

≪集中スキルを取得しました。残り技能ポイント1P≫

≪気配察知スキルを取得しました。残り技能ポイント0P≫


 跳躍や視力強化のようなスキルも魅力的ではあるが今回はこれだ。他の気になるスキルも成長すればいずれは取得出来るわけだし。

 思っていたよりも時間が掛かってしまったがこれで準備は万端だ。

 マナウスを出ると北に抜け、もはや恒例となりつつあるボア狩りを始めた。

 寄せて撃つ、文字にして5文字の活動を順調に繰り返していたが、スキルの成長によって少し変化も出てきている。隠密のレベルが5になったからなのか、以前よりも近寄らないと気付かれなくなったのだ。野兎に至っては横を通り過ぎるまで逃げ出さない始末。もう少しレベルが上がったらボア相手にも先制攻撃を仕掛けられるようになるかもしれない。

 新しく獲得したスキルの集中と気配察知についても狩りの中で使用感を確認してみた。集中は撃つときに意識するとほんの少しだけ周囲の動きが遅くなって、雑音とかも小さくしてくれている、気がする。状況によっては無い方がいい時もあるかも知れないけど、まだ誤差の範囲以下だし地道に育てて今後の使用感を確認してみないと何とも言えないな。

 気配察知は自分の周囲10メートル前後のプレイヤー、住人、モンスターの気配をなんとなく察知できるみたいだった。突っ込んできたボアには反応して、その辺で草を食べている野兎には反応がなかったりとまだ完全とは言えない。それもレベルが上がれば改善されていくだろうし、察知できる距離が延びたりモンスターの名前なんかもわかるらしくてこっちも今後に期待だな。

 敏捷強化については正直集中よりもよくわからないというのが本音だ。しばらくはセットしたままにしておいて様子見を続けることにしておいた。最後に少し前にとったアクロバット、これは草原だと使い道がないから森に行ったら確認しよう。

 で、隠密だけの時には全く気にしてなかったんだけど、パッシブ系のスキルは魔力やスタミナをある程度消費した状態で常時発揮、それ以外はオンにすると徐々にMPを消費していくようだ。

 一つなら自然回復もあるからそれなりの長時間使用し続けられるんだけど、この手のスキルを一緒に使うと消耗が大きすぎる。敏捷は問題ないけど他の2つは明らかに隠密よりも消費が大きいのだ。集中と気配察知については、今後はピンポイントで使うとか工夫が必要になってきそうだな。

 スキルの確認も終えたところで早速狩りへと戻ららねば。リールを集めて少しでも生活を楽にしなくてはならない。


「えっと、だな。君、いや彼女?どっちなのかな、まずは少し落ち着きたまえよ。ね?ほら、やっぱり世の中大切なのは分かり合う事だと思うんだ。うん」


 もう少し森に近づこうと北に向けて進んで少し経った頃、少し離れたところに焦りながら何かに話しかけている男がいた。話しかけているそれはプレイヤーでも住人でもなくモンスター、というかボアだ。

 男は金髪のイケメンで、沈む豪華客船に載っていた男の子といった感じだろうか。あ、ボアの突進を転げながら避けた。

 よく見るとすぐそばに褐色の肌をした女性プレイヤーも一緒なのに気付いた。なんとジーパンにタンクトップ、肩には革ジャン的な上着を掛けていた。なんてハードボイルドだよ、世界観仕事しろ。

 凄いスタイル良いな。とかも思ったけど、そんなことよりも衝撃を受けたのは、左手に握られているマスケット銃だ。う、うらやましくなんてないんだぞ。でも、どうやってお金を稼いだのかはぜひ教えて頂きたいです。


「いいからもうあきらめなさいよ。とっとと撃って次いきたいんだけど」

「待ってくれよ、もう少しな気がするんだ。あと少しで分かり合えっすぉう!」


 凄い語尾だな、いや間違えた。凄い回避だな、ローリングを駆使して紙一重で避けている。男の方は鞭が武器のようだが腰に留めたまま一向に使うそぶりをみせなかった。時間が経つほどに女性の表情が険しくなっているけど色んな意味で大丈夫だろうか。


「あと5回チャンスをくれよ。説得して見せるから」

「多いわよ!なんでそんな出来るかもわかんないことにこんなに時間かけないといけないの!」

「ごめんなさい!それならあと2回、それで今回は諦めるから」

「じゃあとっととやんなさい!」

「はい!ありがとうございます!」


 何をやってるのかは全く分からないけど、素晴らしいまでのかかあ天下だ。というかあそこまでのイケメン作っといてそんなんでいいのだろうか。まったくもって残念すぎる。

 結果としてはよくわからない説得を2回続けて失敗し、その瞬間にボアは女性に撃ち抜かれていた。砕けた光を見ながら男は心の底から残念そうな顔をしている。

 声を掛けるべきか悩んでいると、戦闘の様子を見ていたことに気付いたのだろう女性の方が声を掛けてきた。


「あら、あなたも銃使い?」

「はい、初めまして。カイといいます」


 頭を下げると笑いながらそんなかしこまらくていいと言われてしまった。その後2人からも自己紹介を聞き、男がミハエル、女性がリュドミラという名前なのがわかった。まさかとは思うが軍服でも着たいのだろうか。それはさておき、一体何をしていたのか聞いてみるとミハイルは目を輝かせて話し始めた。


「やっぱり気になるよね!そうなんだよこれは説得なんだ。だけどこれがまた難しくてね。いや、言い訳はしないよ。なぜならこれは僕に課せられた新境地を切り開く為に神が与えた大いなる試練なのだから。というのもつまり事の発端は昨日マナウスにっぷす!」

「長いわよ」


 割といい音の拳骨が顔面に入ったな。ミハエルはそのまま仰向けに倒れている。ダメージは多分入ってないけど、その分ゲームのシステムからは外れるからちょっと痛そうだ。

 ああ、立ち上がったけど目が真っ赤。あんな仕打ちを受けても、やっぱり権力差がありすぎるのか文句の一つもこぼしていない。


「すまないがリュドミラ、説明を頼んでもいいだろうか」

「ごめんなさいね。簡単にいうと昨日このミハエルがモンスターに餌付けしてたら初期選択にはなかった調教のスキルが生えたのよ。それで早速テイムしたくて挑戦、この有様ってわけ」

「なるほど、調教。ということはVLOはモンスターと共闘出来るってことなのか?」

「まだモンスターをテイムできてないからその辺はまだわかってないんだけどね。うちは基本4人でパーティー組んでるから戦力が増えるのは歓迎なんだけど、こんなんで本当に大丈夫なのかしら」


 話を聞いて公式の掲示板を調べたが、まだ調教を成功させたという情報はなく、スキルの取得方法すら明確にはなっていない。ざっと見ても今は検証系プレイヤーが方法を模索しているスレがあるだけだった。

 中には取得条件が分かって居たり、もしかしたらすでに調教を成功させていても黙っているプレイヤーだっているかもしれない。それでも現状ならミハエルは調教に関してのトッププレイヤーの一人ってことになる。


「スレにも載ってないのか。まあ他のゲームだとテイム系はぎりぎりまでHP削って何かするか、倒した後に起き上がるのが常道だよな。」

「それはもう試したわ。今はひたすら説得、私は一体何に付き合わされてるのやら」

「リュドミラ、君だって戦力の補強には賛成していたじゃないか。それにテイムできたらモっふす」

「黙ってなさい。はあ、本当に疲れるわ」


 素晴らしいリバーブローだな。まあ心中お察しいたします。しかしさすがに多様性が売りのVLOだけある。思いつくプレイスタイルに合わせたスキルは条件次第で生えてくるようだ。

 しまった、新しいスキルに驚いて主題を忘れるところだった。資金繰りの方法、ぜひ聞きださねば。


「ちなみにそれってマスケット銃であってるか?」

「そうよ、これを買うの本当に大変だったわ。なんで銃だけあんなに武器の値段が高いのかしらね」

「だからそれは事前に運営からの説明があったと伝えたはずだよ。そもそもリアルだと火力が圧倒的な火器を用意するにあたって色々あったって。火力をある程度維持したままゲーム内でのバランスを保つために扱いを難しくしたり、スキルの調整、武器の値段を上げてある。まあ現実でも最初は目も眩むほどの大金が必要だったわけだし」

「ああ、それで銃にはアーツがないのか。なんか納得がいったかも」


 富士が使った盾の“スイング”にヨーシャンクが使った火属性の“ファイヤーアロー”、これらはスキルのレベルを上げることで使用可能になるアーツだ。その他富士の剣、楓の弓やヨーシャンクの杖にも武器の特徴を生かしたアーツが存在しているはずだが、俺の銃にはいまだにアーツがない。それは高すぎる火力のバランスをとった結果だったということになる。

 今のところ当たればボス以外は一発確殺、火力だけみれば銃は頭一つ以上は抜けている訳だしな。もしかしてずっとアーツはないままなのかもしれない。俺はそれでも困らないけど。


「カイはよく初心者のハンドキャノンを使ってられるわね。使いづらくないの?」

「正直すごい使いづらい。でも他の銃を買う資金がなかなか貯まらなくて。リュドミラはどうやって貯めたんだ?」

「私はパーティーでボス狩りを繰り返したわね。後は他の初心者と交渉して、泉の水質調査を手伝ったわ。見返りに蹄鉄を一つでね」


 なるほどその手があったな。パーティーの人数が足りてないところに声を掛けて、泉の水質調査をクリアできないプレイヤーを手伝ったのか。でも、そうなるとおかしなことが2つある。


「泉の水質調査のドロップってイベント報酬だから分配できないんじゃないのか?」

「それは黒石の欠片だけよ。あとは普通に分配できるわ」


 富士め、あの時はどうでもいい嘘ついたな。俺にドロップ品を全部渡すための口実のつもりか。でも受け取った以上は今更返せないし、今回はありがたく受け取るが、いずれしっかりと返すようにしよう。

 本題に戻りまして、あのイベント戦闘に限らず銃使いはパーティー戦に向かない。それが今のところのVLOにおけるプレイヤーの総意と言える。当時のリュドミラは初心者のハンドガンを装備していたはず。果たしてその評価を覆す戦略があったのだろうか。

 黒鉄の価値についても気にはなるけど、こっちはあとで本職の鉄心にメールして価値を聞いて確認することにしよう。


「リュドミラはパーティーではどうやって立ち回っている?銃はパーティーでは生かしにくいのが現状だろ」

「どうやってって言われても…」


 聞かれたリュドミラはぽかんとしながら首をかしげていた。どうしたんだろう、何か変な質問をしてしまっただろうか。二人して不思議そうな顔をしているとミハエルが笑いながら答えを出してくれた。


「そんなの簡単、リュドミラは銃と剣の両刀使いってだけなのさ。恐らくだけどカイは銃のみ使うスタイルなんだろうね。僕としてはむしろそっちの方が驚きだし、ほとんどの銃プレイヤーは最初はなにか別の武器も使えるようにしてあるはずだよ」


 ミハエルの説明はまさに目から鱗が落ちる思いだった。たしかに、銃の使い勝手の悪さを補うにはそれもありだ。

 面白そうな話しが色々と聞けそうではあったけど、今は互いに狩りの最中だ。草原での立ち話が原因で死に戻りなんて目も当てらない。あまり時間もないことから互いにフレンドリストに登録して別れる事になった。

 色々な意味で濃い2人だったし、初めての銃使いの同胞としてもいずれは再会したいところだ。


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