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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
9章 猟師の弾丸は雪原を割って
112/125

時として、後には引けないこともある

 翌日。

 今日は別の問題に向き合わなければならなかった。


 隠れ里の亜人種たちをどうするか。

 食料支援、あるいは受け入れができるのか。俺たちはアイラと青大将を中心に準備してくれた備蓄があるが、マナウスの懐事情はまた別だ。


 俺は森ルートの本部に向かい、ガイルの代理として話を聞くことになっていた。

 今日も騎士団本部は、忙しなく伝令の騎士が駆け回っている。


「カイ殿、こちらへ」


 案内された部屋には、補給担当の騎士が集まっていた。

 机の上には地図と帳簿が広げられ、数字がびっしりと書き込まれている。


「食料の持ち出し、か」

「はい。協力的な亜人種の里を発見し、その中に敵側の技術士官となっていたものがいます。食糧支援と保護を条件に、有益な情報を渡す用意があるとのことです」

「聞いたよ。お偉方からは、是が非でも情報が欲しいと言われた。が、こちらも食料不足は深刻だ」


 そばにいた騎士が口を開いた。


「現状では、物資提供は難しいかと。このままではマナウスの冬越えもギリギリです」

「そんなに……」

「戦いで備蓄が減っただけじゃない。マナウスに荷を運ぶ行商人が襲撃されている。おかげで物資が届かないんだ」


 騎士が帳簿をトントンと叩く。


「騎士団は戦線を支えるのに手一杯です。冒険者も同様で、集まった人数はわずかです」


 騎士団員を積み荷の護衛に引き抜けば戦線が押され、前線に残せば戦線は維持できるものの食料がぎりぎりになる。不足しない可能性があるなら後者を選ぶってことか。


「済まないな。だが、物資が届けば話は変わる」

「物資……」

「ここを見てくれ」


 帳簿の最新の欄、そこには今日到着するはずだった、キャラバンの名が書いてある。


「これは商人ギルドの超大型のキャラバンだ。これが到着すれば、食料事情は大きく変わる。多少の融通も利くはずだ」


 商人が荷を運ぶ。キャラバン。もしかしたら参加しているか。


「……聞いてみるか」


 俺は相手がログインしていることを確認し、連絡を取った。


『兄さん?珍しいね。元気してる?』

「元気元気。というかいきなりすまん。時間あるか?」

「いいけどどうしたの?」


 コール先からは聞き慣れた声。いつもと変わらないようで、後半には少し楽しそうに言葉が響く。


「食料事情で色々あってな。お前、イベントで食料とか運ぶって言ってたろ?」

『それね。実は今、結構大変なの』


 妹は淡々と説明を始めた。予想通りに商業ギルドのキャラバンに参加し、トラブルに見舞われながら、数日がかりで搬送を続けてきたらしい。


『本っ当に大変だったの!住人の商人はルートへのこだわり強いし!モンスターがちょっとでも寄ってくると散ってくし!』


 おぉ、一度火が付くと愚痴がとまらんとまらん。

 詳しい内容を聞くと、頭を悩ませる問題ばかりだったようでご苦労様としか言えなかったが。一通りストレスの種を聞くと、ひとまずは落ち着いた。


『それで、あと少しってところでゴブリンに襲われ始めたの。私たちじゃモンスターとキャラバンの対応を一緒にやるのが難しくて、今は作戦会議中』

「もしかして、今タイアのあたりにいるのか?」

『すごい当たり!どうしてわかったの?』

「騎士団から物資が止まってるって聞いたんだよ。ちょうど資料を見てたんだ」


 それにしても、妹もなかなか面白い体験をしているようだ。


「一応聞くけど、頭数一人増えたくらいで何とかなりそう?」

『ゴブリンライダーが率いる狼部隊みたいなのが5部隊くらい。それと別のモンスターを含めて全部倒せるなら兄さん一人でもなんとかなるわ』

「無理ゲー」


 妹は少しだけ声を明るくした。


『ということで兄さん、富士さんとか空いてるなら誘って手伝いにきてー。兄さんなら来れるでしょ?』

「いや、俺は乱戦は向かな—―」

『兄さんに頼るのは申し訳ないけど……他には思いつかなくて』


 こっちとしても、渡りに船か。


「……分かったよ」

『助かる!タイアで待ってるね』


 通話が切れる。

 今回は頭数が必要。ということで最後の頼みの綱、ハンドメイドとセントエルモを合わせた連絡チャットに勧誘文を飛ばすことにした。


『急募!タイアで足止めされた食料輸送キャラバンの護衛求!!報酬は応相談!!ちなみに今すぐ来れる奴限定で頼む』


 正直すぐには返信が来ないと思って送ったが、思ったよりみんなの返信が早い。

 えっと、なになに?


『おいカイ。俺にもミーナちゃんから連絡来たぞ笑 ぶっちゃけ暇だし付き合うぜ』

『ふむ、カイがそちらに行ってくれるなら助かる。私は動けんが、いつでも連絡してくれ』

『あの、報酬、相談に乗ってくれるんですか?内容次第なら私とミリエルで伺います!すっごく伺います!!!!!!』

『食材を襲う悪漢とな?それは一大事であるな。吾輩、食を蔑ろにする輩は許せぬ質でな。ぜひ助太刀させて頂こう!』


 あ、待って?すっごいキワモノパーティーが爆誕しそうなんですけど。しかもそのうち2人程、死ぬほど暑苦しい…うわぁ、行きたくない…。

 こうして、1人がリモート参加の変則6人パーティーが産声をあげた。



 タイアの街門前に到着すると、そこには大量の荷馬車が並び、隊列を組んでいた。これはこれで壮観だ。

 ただ、立往生を余儀なくされていたからだろうか。馬は疲れた様子で雪をよけ、食べるものを探している。

 住人の商人だろうか。彼らは一様に顔色が悪く、不安げに周囲を見回していた。

 キャラバンを周囲を点々と囲んでいるのは、護衛のプレイヤーだろう。彼らも思い思いに座り込んでいた。


「兄さん、こっち。無理言ってごめんね」

「まあいいさ」


 妹が手を振る。ウールのような素材のロングコートを羽織り、背には大きな杖を背負っている。

 その横には、以前に話に聞いていた妹の友人が二人。妹の友人で、商人兼魔法使いの弥生と、護衛役の前衛ユーグだ。


「おっ、どーも!あなたが噂のお兄ちゃんさんか!今回はよろっ…!」


 おお、脇腹にいいのが入ったな。

 ユーグにパンチを突き込んだ弥生は、何度も頭を下げながら口を開いた。


「すみません、すみません!今回は助っ人、ありがとうございます!あ、この馬鹿はほっといてください!」

 

 こっちのパーティーが濃くなったから、そっちはせめて薄味で頼みたかったんだが。腕が確かなら仕方ないか。

 妹――ミーナに向き直る。


「状況は?」

「最悪よ」


 ミーナはうんざりしたような表情で続けた。


「ゴブリンライダーが厄介ね。ちょっと空の荷馬車で試したんだけど、あいつら荷馬車に一撃入れたら即離脱。おかげで捕まえられないし、荷馬車の速度じゃ逃げられないの。無理したら荷馬車と積み荷をやられるわ」

「進めなくなって一日経っちゃいました。住人の商人の人たちは、解散も視野に入れ始めてるんです。ミーナが商人たちをまとめる為に奔走してるからなんとかなってるんですけど…」


 ここまで頑張って来て解散されるのはさすがにキツイか。


「さて、どうしたもんかね」

「兄さん、隊列だけなら私達で制御できると思うの。だから、ゴブリンライダーたち、何とかならない?」

「なんとか、ねえ」


 すごい無茶ぶりだな。というか、どう聞いても商人のモチベーションが最低な気がするんだが、そこは大丈夫なのだろうか。


「商人は何とかできるように頑張るから。兄さんの名前も少し借りちゃったけど。公式映像の件、実は結構評判がいいの」


 あ、それやめて。富士が来たらもっとやめて。あいつが暴走してしまう。

 ただ、到着していない富士よりも、周囲の商人たちがざわついた。


「俺も噂はちょっとだけ聞いたよ。そんなすごい人が来てくれたんなら、本当にいけるのか?」


 鉄心たちから聞いた時には半信半疑だったけど、どうやら本当に少しだけ名が売れてるらしい。

 商人たちからの期待と疑念のこもった視線を浴びている間に、今回のパーティーが到着した。


「よう!久しぶりだな、ミーナちゃん。元気してたか?」

「はい、元気にやってます!家庭教師の件は本当にありがとうございました!」


 富士の後ろからはぞろぞろと他のメンバーも歩いてくる。


「お久しぶりです、カイさん。今日は全!力!で!参加させてもらいますね!ね、ミリエル」

「…よろしく、お願いします」


 めったに見ないレベルでやる気に満ちている楓と、楓の後からは人見知りを発動したミリエルが顔を覗かせる。

 ああ、隣の大男にはビビるよな。前回の記憶、上裸のマッスルポーズだもんな。


「先日の鑑賞会以来であるな!今日は悪漢の討伐、よろしく頼むのである!」


 どこまでも響きそうな大声で、青大将が豪快に笑う。

 ちなみに、冗談のつもりで言った報酬の応相談だが、楓とミリエルだけ本当に報酬がついた。なお、報酬内容を漏れ聞いたアイラも、クレプスクルム向けの食料を少ない在庫からやりくりして作ることを条件に、同じ報酬をもらうことが決まっている。


 すまんウェンバー、お前の尊い犠牲を俺は決して忘れない。

 ……いや、涎を垂らして喜びそうだな。


「で、だ。実際のところどうする?お兄さん」

「すまんがカイで頼む。どうするって言われてもなあ。ゴブリンライダーってそんなにキツイか?」


 聞かれたユーグは腕を組んで空を見上げた。回答に悩む感じなのか。


「俺もライダーだからさ、敵としてならそこまで怖くはないんだけどな。群れが多いのと単純にカバー範囲が広すぎて無理、みたいな」

「だだっ広い平原だもんなあ」


 ユーグは有名な攻略クランにいるらしく、戦闘については一任されていたらしい。集まったメンバーを加えて相談していると、背後からざわめきが聞こえ始めた。


「おい、もう限界だ」

「マナウスまで届けられないんじゃあ仕方ない。解散でもいいだろう」


 ざわめきが増す。住人の護衛が押しとどめるが、商人の方が数が多い。

 これはまずいな。

 その時、ミーナが小さな声で呟きながら前に出た。


「ごめん、兄さん。私も恥を忍ぶから、ちょっとピエロをお願いね」

「はい?」

 

 ミーナが住人の商人たちの前に出る。すると、あれだけ広がっていたざわめきがぴたりとやんだ。


「あ、姐さん…」

「ミーナの姉御」


 あぶねぇ!吹き出しかけた。

 え?なに。お前、姉御って呼ばれてるのかよ!なにがあったんだよ!

 笑いを堪えながら弥生を見ると、申し訳なさそうにつぶやいた。


「逃げそうになる商人を、片っ端から捕まえて発破かけてたら、気付いた時にはこうなってて」


 多分俺が考えていることが分かったんだろう。ミーナににらまれ、首をすくめる。富士が俺の肩に手を乗せた。


「聞きなさい!ここに、私の兄を連れてきました!騎士団でも話題に上る、切れ者の軍師です!皆さんも兄の戦場での活躍は聞いたでしょう!彼がいれば大丈夫!この状況は必ず打破できます!皆さん!私を信じてください!!」

「え、おま、なに言ってくれちゃってんの?」


 震える声が口からこぼれる。力づくでも止めようと一歩を踏み出したいが、体は一切動かない。振り向くと、富士が見たことないくらいいい笑顔でこちらを見ていた。


「ぶっふ!いやぁ、はっは。本当に来てよかっ、いや、よろしく頼むぜ。ひひっ、戦場を、打破っできる、名軍師様!ぶふっ!あっはははは!」


 こいつ、言葉が途切れるほど笑っていやがる。


「くそ、離せ!そこまで笑うならいっそその手を放して転げまわってろ!こ、こいつ!」


 富士の腕力に全力で抗っているうちに、大勢は決してしまった。

 俺はどうやら、切れ者の軍師ってやつを演じる必要ができたらしい。


「おい、恨むぞミーナ」

「心からごめん。でも私もこれはやり遂げたくて」

「気にすんなよミーナちゃん!素敵なお兄様が、今からいい案出してくれるぜ!……ぶふっ」

「お前、あとで覚えておけよ」


 気を取り直していくとして、問題は俺にはそんな知識はかけらもないってことだ。なら、頼る相手は一人しかいない。

 いまだに震えの止まらない右手が動き、コール音が鳴る。


『ふむ、私の出番かね?まずは簡潔に状況を頼む』

「ああ。色々あったが簡潔にいく。俺がお飾り軍師で、錦が本当の軍師だ。助けてくれ」

『…頭でも打ったか?』


 混乱が一周したのか、自分でも意味の分からない言葉が飛び出した。とりあえず目の前で爆笑する富士に左ストレートをねじ込む。

 その後、状況とこちらの戦力をミーナから聞き取り伝えると、錦はすぐにアイデアを出した。


『聞く限り、おそらくは商人のメンタル崩壊が制限時間になっているタイプだ。であれば時間がないからすぐに始めよう。伝達の混線を避けるため、通信役はカイに一本化する。そのほか住人の護衛はばらけさせて敵の一撃を受けるだけに専念させる。そちらにはユーグがいるのだろう?青大将もいるから狩場を二つ作れるな』


 錦がいてよかった。俺は、あたかも通信なんてしていないかのように振る舞いながら商人たちに指示を出す。

 荷馬車は重要度の高い食料を積み込んだものを中心に配置、鉱石や布、住民向けの商品は外側に配置する。


「敵は遠距離攻撃の手段はほとんどないらしいから、俺と楓、ミリエルは一番大きな屋根付きの荷車の上に乗る」

「兄さんも乗るの?」


 ミーナが首を傾げる。


「軍師じゃないのに全体を見ないといけなくなったからな」

「ごめんって。でも、来てくれて本当に助かったよ」


  富士たちも配置についた。ぶっつけ本番だけどやるしかない。


『みな、準備はいいな?では、始めよう』

「全体、前進!」


 こうして俺の軍師プレイ(仮)が始まった。

 キャラバンが動き始めてすぐ、敵も姿を現す。遠くに見えた小さな点は、見る間に大きくなっていく。

 やることはシンプル。錦と護衛の双方に、情報を正確に伝えることだ。だが、これが思っていた以上に難しい。


「左はユーグ!右は青大将で受けて正面は?」

『いや、正面を富士で受けて、右は住人の盾』

「それだ!」

「何が⁉」

「あっはっは、俺は?」

「ちょっと黙れ!いや正面!」

 

 迎撃を始めると現場はさらに混乱し、聞くべき情報と伝えるべき情報が錯綜する。

 俺の言葉が飛ぶごとに、全員が右へ左へと移動する。

 そこからは、矢継ぎ早の叫び合いが続き、もはや内容は断片的にしか覚えていなかった。


「右に氷の壁を作って!」

『いや、それは左だ』

「やっぱ左!」

「もう使っちゃったわよ!」


「食料を狙う不届き物に天誅を下さん!燃え上がれ!我が上腕二頭筋!」

「おい、青大将が暴走した!」

『上腕二頭筋か?それとも大腿四頭筋か?』

「それ今関係ある⁉」


 あまりにも交錯しすぎる情報にてこずりながらも、何とか敵を減らして進み、数台の荷馬車を犠牲にすることで何とか依頼は成功させることができた。

 マナウスに到着したとき、商人たちは口々に礼を言い、なぜかプレイヤーたちからは拍手を送られた。

 最後に、妹は少し照れたように笑った。


「兄さん、ありがと。やっぱりいざってときは頼りになるね」

「…まあ、なんとかなってよかったよ」


 ただ、誓った。俺は今後二度と軍師と名のつくことはしないと。そして、あのパーティーは二度と組まないってことを。

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