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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
9章 猟師の弾丸は雪原を割って
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更新と見舞いの先に

 日曜日。

 俺は朝早くからハンドメイドの工房を訪れた。自分を強くすると決めたなら、できることはすぐに手を付けたほうがいい。

 レストランを通り抜け、2階のエントランスを抜けた先、工房スペースに足を踏み入れた瞬間、鼻の奥に金属と木材の匂いが広がった。

 メインのベースを持たない俺にとって、鉄心達の工房は戦いの準備をする場所でありながら、友人の家くらいの気安さを感じている。


「お、来たねカイ。それで、今日はどんな相談かな?」


 設計図に目を落としていた鉄心が顔を上げる。隣には錦が座り、ウッディは木材を運び、黒べえは個人ブースから身を出して小さく会釈していた。


「依頼に来たんだ。新しい武器を作りたい。セルグ・レオンをベースに銃剣型。遅ればせながら、近接戦闘を取り入れるよ」


 言った瞬間、工房の空気が変わった。

 鉄心の目が細くなる。

 その横で、木材を抱えていたウッディがピタリと動きを止めた。


「銃剣型か。面白いねえ!」


 持っていた設計図を丸めながら、鉄心はニヤリと笑う。


「ふふん。カイと知り合ってから銃の知識も増えたからね。リアルベースならスパイク型かな?でも、せっかくだし、世界観に合わせてファンタジーな見た目を目指す?」


 鉄心は新しい紙をテーブルに広げ、ウキウキとした様子で俺の言葉を待っていた。


「銃身の下側に刃をつけたいな。銃口より前まで突き出る形で。VLOならそれである程度の剣戟ができるようにならないかな、と」


 俺の言葉を聞いて何やら設計図の端に書き込んだ。


「なるほどねぇ。う〜ん、セルグ・レオンの銃身の長さ分の刃か…。それだとかなり重くなるから取り回しは大変だよ?」

「今の状態から軽量化を図るか、剣の刃渡りを短くするか。それでも難しければ新しく小型化したものを作り直すか、銃身を切り詰めることを考えてる。」


 鉄心が腕を組む。

 その横で、ウッディがすでに木材の種類を選び始めていた。


「軽量化と耐久性の両立なら、こっちのウェノンウッドがいいかな。元々銃身の下側は木材で覆ってるから、反動の逃がし方に工夫の余地もあるね」

「ケースは俺が作ろう。銃剣を取り付けたまま収納することも考えるなら、作り直したほうがいい」


 ウッディは心底楽しそうに、錦は表情を変えずに静かに言った。冷静な声だけど、どこか楽しそうだ。


「魔核は使うよね?なら銃剣かインゴットへの付与は俺がやれるよ」


 制作ブースから出てきた黒べえが腕を鳴らす。


「銃剣の刃は細身になるよ?ちなみに優先するなら切れ味と耐久のどっちがいい?」


 鉄心が確認してくる。


「切れ味もあるなら嬉しいけど。優先したいのは打ち合っても壊れにくい耐久力。斬撃主体で、俺の機動力と組み合わせやすいようにしたい」


「了解。じゃあ刃は俺が鍛造するとして、実はいい魔核があるんだよね。黒べえに魔核の付与は任せよう。インパクトホーンの魔核とかありじゃないかな」

「なるほど、強制ノックバック機能か」


 黒べえが口を挟む。え、何その機能。二人はなにやら楽しげに話しており、完全に置いてけぼりだな。ちなみに、もっと南のエリアに出るレアモンスターらしい。


「盛り上がっているところ悪いんだけど、魔核をつかってアーツの付与というか、そんなことできるのか?」

「できる。というか最近発見されたってのが正しいかな。今のところ、魔核の付与効果の乗せ方は大きく分けて2つあるんだ。一つは金属とか木材に合成して素材の性能を強化すること。これが従来の使い方。もう一つは魔核の元になったモンスターの特性を反映すること。ちなみに、上手く使えば両取りだってできるよ。」

「今回は、使用に条件をつけてリソースを節約する…。相手を切ること。エネルギーを満たさないと使用できないこと。この辺を制限に組み込めば、任意でノックバックの衝撃波を出せる可能性がある」


 ……それは、正直ありがたい。


 俺はどこまで行っても銃使い。近接戦に移ったあと、一番怖いのはそこから離脱できないことだ。

ノックバックの衝撃波なら、色々な使い道がある。


「そっか。リソース確保と重量バランスを考えるなら、銃身を切り詰めるのは必須かも。かなり短くするから、射撃の時の正確性は少し下がるし、反動とマズルフラッシュとかは大きくなっちゃうけどね。そのかわりに、ノックバックはそれなりの性能にできると思う。」

「それは大丈夫だ。これでも銃なら多少は詳しいからな。リアルで銃身切り詰めた実例も知ってるし、メリット・デメリットは調べたことがある」


 それを聞いて鉄心は頷くと、紙に手をかざした。紙が僅かに光ると一瞬で銃の設計図が浮かび上がる。

 おお、セルグ・レオンのだな。

 鉄心はそこから銃身を切り詰める長さを書き込み、銃剣の案をいくつか書き込んでいる。


「それでいいなら小型化での作り直しはなしかな。それとさっきは細身って言ったけど、銃剣は長めのナイフにするよ。それなら打ち合う強さを確保しやすいし、銃剣装着時以外も使えるようになるからね」

「コンバットナイフ型か。時代と常識を超えた夢のコラボだな!」

「いや、ごめん。さすがに何言ってるのかわからない」


 キョトンとした様子の鉄心をよそに、錦は苦笑していた。


「まったく。黒べえにせよ鉄心にせよ、ここは何かしらのマニアの集まりではあるが、カイも大概だな」

「皮革マニアがよく言うよ」


 書き上げた設計図を見て、鉄心は満足そうに頷く。そこに、錦たちが次々と書き込みを始めた。

 他の作業の手は完全に止まっている状況だ。ありがたさと同時に申し訳なさもある。


「ありがたい限りだけど、全員忙しいだろう?いいのか?」


 そう聞くと、ウッディが笑いながら答えた。


「仲間のためだよ。…なんてクサいこと言うのもいいんだけどさ。実はカイの装備をうちで作るの、結構な実益があるのさ」

「忘れたか?こないだ公式のまとめ動画に取り上げられていただろう。カイは今、プレイヤーと住人の中での認知度が一段階引き上がっている状態だ。つまり」


 口角を上げた錦の言葉を鉄心が続ける。


「僕らの装備で活躍するカイはさ、ハンドメイドの広告塔兼装備説明のベースモデルなんだ!わかりやすい広告塔がいると、無茶を言う客が来た時に、難しさとかデメリットを具体例で説明しやすいからね。それに、専門家のアズマさんが作った銃には完成度では叶わないけど、あれは奥の手でしょ。せめて普段遣いのほうは俺達の手を入れたいってのは前にみんなで話してたんだ」


 まったく、嬉しいことを言ってくれる。

 それはそうと、住人からの認知が上がった?森にいることが多かったからか、特には感じないんだけどな。


「それじゃあセルグ・レオンを置いて行ってね。午後までには作るから。さあ、楽しくなってきたぞ!」


 銃をテーブルに置くと、鉄心たちは実物と設計図を見比べて、楽しそうに話している。

 あとは任せるだけとハンドメイドを後にしようとすると、職人談義を見守っていた錦に呼び止められた。


「カイ、ちょっと話がある。森ルートのことについてだ」


 錦はイベントの3ルートの作戦を取りまとめる統合本部の手伝いをしている。ある意味俺よりも森ルートに詳しい貴重な存在だ。


「ここ数日、プレイヤーパーティーのクエスト成功率が著しく下がっている。聞き取りでは、プレイヤーに対して、敵の対応が早すぎるとのことだ。統合本部では、冒険者の行動が何かしらの理由で漏れているという前提で調査を進めている」

「亜人種陣営側の内通者がいるってことか?」

「それも考えられてはいる。しかし――」


 錦は森ルートの地図を広げた、森ルートの中でも西側に書き込みが集中しているな。


「敵の動き方なんだが、事前にすべてを知っていて対策をしてきている、というわけではないようだ。苦戦を強いられやすい場所も偏っている。どちらかというと、プレイヤーの戦い方をその場で知り、対応されている。と言ったほうが感覚的には近いらしい」

「……なにかしらの索敵手段があるってことか」


 話しながら、真っ先に思い出すのはあの名称不明のクリスタルだな。あれも見つけたのは森の西側だ。


「同じものを思い浮かべているだろうな。私もあれが使われているだろうとは思っている。しかし、発見数なのか、解読量なのか。なにかしらのトリガーを満たしていないせいだろう。騎士団側では解読が難航し、調査の優先順位が下がっている」


 あのクリスタルが関わっているとして、まあ十中八九探査系のアイテムだろう。ソナー装置に聴覚強化系あたりの可能性が高そうだな。平原ルートの祭壇と祈祷士みたいなエリアバフ系も厄介か。ホークマンを視力強化して上空から戦況把握、なんてのもあるかもしれない。


「森に入るときは、これまで以上に気をつけて行くといい。もしかしたら、カイも気づかぬ内に敵の術中にはまっているかも知れない」

「わかった、気をつけるよ。それと何かわかったら連絡を入れるようにする」

「ああ、そのときは森ルートの方に頼む」


 ガイルの救出作戦。あの時の敵ははたしてクリスタルを使っていたのか。ふとそんな考えがよぎりながらハンドメイドを後にした。


 ハンドメイドから出た後は、その足で治療所に向かった。騎士団の負傷者が増えていることで建物を増築したらしく、すぐに見つけることができた。

 建物内は、薬草と消毒液の匂いと静けさが漂っている。

 受付で教えてもらった部屋に向かうと、ガイルはベッドに横になっていた。左腕は失われ、厚く包帯に覆われている。


「来たか、カイ」


 その姿とは裏腹に声色は力強く、意識もはっきりしている。

 俺が近づくと、ガイルはゆっくりと上体を起こした。


「無理はしなくていい」

「これくらいはできるさ。こんな姿でも騎士だからな」


 そう言って笑うが、笑顔の目元に残る隈が妙に痛々しい。


「傷の様子はどうだ?」


 俺の質問に、ガイルは無意識に右手で左腕をさすろうとする。手は空を切り、ガイルの目が一瞬見開かれた。 


「かなり回復してきているそうだ。このまま行けば、数日で戦闘復帰してみせるさ。…それよりも、カイ殿は今日はどのような要件かな。ただの見舞いというわけではないのだろう?」

「メインは見舞いだよ。まあ聞きたいことがあるのってのも本当だけど。…ガイルが捕まっていた地域、あそこを俺達は森ルートと呼んでいるんだが、最後に会ったのは栄枯の馬留の先だろ?平原側にいたはずのガイルが、どうしてあんな奥地にいたんだ?」


 俺の質問にガイルはなるほど、とひと言つぶやき、語り始めた。


「そうだな。元々は栄枯の馬留の先に深く入り、調査をしていた。対象はドワーフ族についてだが、詳細は言えん。そして、山道の中でギムレッド王国の最初の侵攻に巻き込まれた。あの辺りは木々が少なく見晴らしが良いからな。奴らに見つからぬため、森に入った。だが、進んだ先で敵とばったりと合ってしまってな、戦闘の末に捕まったのだ」


 そこまでを一気に話し、周囲を確認した後、身を乗り出して小声で続けた。


「森に入ったあと、ただでは帰れぬと相手の拠点に忍び込んで偵察を強行した。そうして多くの者の会話を盗み聞く中で、面白い情報を得たのだ。曰く、現王国の支配から逃れた者たちの隠れ里がある、と」

「隠れ里…?たしかにコボルト族の隠れ里は森にあるけど」


 リゼルバーム以外に、ということなら俺も聞いたことのない情報だ。本来ならあれだけの敵がひしめく森の中に、隠れ里を作れるとは思えない。が、リゼルバームは結界をはることで実際に隠れていたわけだからな。存在していても不思議ではないか。


「マナウスの森の奥。敵すら通ることのない、西に深く入った場所だそうだ」

「ずいぶんと具体的に場所を知ってるんだな。もしかして、見つけたのか?」

「いや、私は行けていない。が、捕まる直前に逃亡中のエルフを救った縁でな。その際に教えてもらったのさ」


 敵すらいないライン、ね。俺達がガイル救出に使ったルートのさらに西側。崖の先ならあり得そうか。


 「逃げていたエルフは無事に助けることはできたのだが、多勢に無勢だった。救出し、送り出すことはできたが……途中からシュトーバーなる将軍が出てきたことが決定的な敗因になり、捕まったのだ」


 ガイルは悔しそうに唇を噛む。

 それにしても、ガイルもシュトーバーとの因縁が生まれていたとは。本当に迷惑な存在だ。


「エルフの娘は言っていた。隠れ里には結界がある。しかし、複雑な結界は張れなかったため、通り抜ける方法も存在すると」

「……ガイル、その隠れ里は今も無事なのか?」


「分からん。敵も脱走者がいることくらいは把握しているはず。いずれ、その里も見つかる可能性はある」


 治療所の静けさが、やけに重く感じた。


「カイ。お前は森での戦いの専門家でもある。森に入る際、頭の片隅にでも置いておいてもらえるとありがたい」


ガイルの目はこれまでにないほど、真剣だった。

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