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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
107/125

リグMB01

――銃工房アズマ。


 木の看板に刻まれたその名は、銃使いの間では知らぬ者がいないほどの名店だ。

 俺がその店を再び訪れたのは、このイベントが始まる直前だった。


「持ち込んだ素材、全部つぎ込ませてもらった。それにしても、魔力タンク構造に魔樹(デーモンウッド)の魔核を直前になってねじ込んでくるとは……随分と贅沢な組み合わせだな」


 カウンター越しに腕を組む店主アズマは、職人気質の鋭い目をしていた。


「ははは、ちょっと妖精のお姫様を運ぶ機会が突然訪れまして、特別報酬の欄にあったものだからつい、ね」

「ふん、まあわからんでもないさ。それに、おかげでお前さんの希望だった長射程で高火力の銃が作れた。ただし――」


 アズマは完成した銃にそっと手を置いた。

 黒の結晶石でできた銃身に、青い紋様が走る。まるで魔力が脈動しているようだ。


「今回に限っては、弾丸も黒の結晶石でいいって話だったからな。素材は全部使い切った。壊れたら終わりだ。簡単な修理はできても、完全な復元は無理だと思え」

「肝に銘じておきます」


「弾丸は十発。そのうちすでに魔力を込めてある弾は六発。残りはまだ魔力を込めてないから好きに使え。魔核に事前に貯めた魔力で撃ち出すが、連射で3発、それで魔力はすっからかんになる。よく憶えとけ。それと3連射はオーバーヒートの可能性もある、くれぐれも取り扱いには気をつけろよ」


 俺はこれまでよりも一回りは大きな銃を手に取り、重みを確かめた。

 冷たい金属の感触が、妙に心地よかった。


「ありがとうございます。ここぞって大一番で使わせてもらいます」

「お前さんなら使い方を間違えるなんてこともないだろうし、好きにしな。まあ老婆心をだしていいなら、貴重だからってビビッて使わずに後悔、なんて馬鹿な真似するんじゃあねえぞ」


 なぜか、あの時のアズマの言葉を思い出す。


 使うべき時があるなら、それは今だ。

 息を吐き、引き金を絞る。銃口から青白い光が走り、魔力弾が一直線に飛ぶ。空気が震え、雪が弾ける。


 着弾。


 処刑台の上で、オーガの巨体が衝撃で吹き飛んだ。

 魔力の波紋が広がり、周囲のゴブリンたちが悲鳴を上げる。


「今だ、行けッ!」


 俺が叫ぶより早く、ウェンバーとシルフレアが左右から飛び出していた。


「よっこいしょおおおお!」


 ウェンバーは地面に手をつき、魔力を流し込む。

 雪の下から木の根が伸び上がり、敵の足を絡め取った。木の根からはツタが伸び、先端を丸めてフレイルのように敵を弾き飛ばす。


「邪魔よ、どきなさいっ!」


 シルフレアは剣に白銀の輝きを灯し、一直線に処刑台へ駆ける。その動きは風のように軽く、迷いがない。

 俺はすぐにセルグ・レオンへと持ち替え、援護射撃を開始した。


「ウェンバー、右! シルフレア、ウェンバーが止めた敵を足場にしろ!」

「サー!イェッサー!」

「言われなくても!」


 銃声が雪原に響き、敵が次々と倒れていく。だが、拠点の奥から新たな影が現れた。

 そりゃあいるよな。


 コボルト、ゴブリン、ホークマン。

 オーガこそいないが、様々な亜人種が雪煙を上げて飛び出してくる。


「あらぁ、やっぱり隠れてた!」


 ウェンバーはそう言いつつ、周囲を見回して何かを探している。


「予想通りだ。攪乱を続けろ!」

「わかってる!」


 ウェンバーは魔法を自在に操り、敵の足を止めながら拠点内を駆け回る。その動きはまるで森そのものが味方しているかのようだ。

 その上、自分が救出に向かうと見せかける動きを随所に入れているあたり、戦い慣れている。

 敵の目の多くがウェンバーに向かうようになった頃、シルフレアは敵を切り捨てながらするすると進んで処刑台へ到達していた。勢いのままに処刑台を駆け上がり、素早くガイルの縄を断ち切った。


「人間、立てるな?」


 女性らしい澄んだ声が、雪の上に響く。

 ガイルは一連の出来事に驚いたように目を見開き、やってきたシルフレアを見上げていた。


「……エルフ…?あなたは……?」

「私はシルフレア、カイのパーティーの一員。今は時間がない。すぐに立ちなさい」

「カイ殿と? なるほど、そういうことか。……恩に着る」


 ガイルはふらつきながらも立ち上がる。

 その視線が処刑台の外へ向き、俺を探しているようだったので、とりあえず叫ぶように指示を出した。


「ガイル! シルフレア! ウェンバー! 撤退だ、急げぇぇぇッ!」


 これまでの人生でもなかなか出す機会のなかった、雪原に響く全力の大声。

 正直言って、焦りが声だけで伝わりそうだな。


 銃をリグMB01に持ち替える。


「信じて進め!俺がこじ開ける!」


 放たれた銃弾は、無数の敵を吹き飛ばし、言葉通りに道を作り出した。


「……あそこか。相変わらずだな……!」


 ガイルはかすかに笑い、シルフレアの肩を借りながら処刑台を降りる。いや、そんな悠長な時間はないよ⁉


「ウェンバーが敵を引きつけている。今のうちに行くわ」

「ウェンバー? ああ、あのコボルトの……」

「説明は後。今は逃げることだけ考えなさい」


 シルフレアはガイルを支えながら、雪を蹴って走り出した。


「カイ殿……恩に着る」

「礼は後でいくらでも聞く!とっとと撤退するぞ!」


 ポーションを投げつけながら叫んだ瞬間。

 拠点の奥から、重く低い声が響いた。


「逃がすと思うか、人間ども!」


 雪煙を割って現れたのは、黒い毛並みのコボルト。だが、普通のコボルトとは違う。

 鎧をまとい、鋭い眼光を放っている。一番のポイントはその巨体。オーガ並みといっても差し支えない。長剣を2本、まるで短剣のように軽々と扱っている。

 その横に、一人のホークマンが舞い降りた。手に持った紙を広げ、黒いコボルトに見せている。


《コボルト東将 シュトーバー 状態:警戒》

亜人国所属:東軍将


《シュトーバー副官 ウェイザルギア 状態:興奮》

亜人国所属:東軍将副官


 部隊指揮官を飛び越えて、将軍の一角と来ましたか。まったく、こんな少数相手によくもまあやってくれる。


「索敵完了しました。敵は3名のみ。撤退位置から見て、使用ルートはこのあたりかと」

「よし。予定通りに包囲網を狭めていく。敵を3人と侮るなよ」


 コボルト指揮官は流暢な人語で命じた。

 その声は冷静で、無駄がない。


「……まずいな」


 セルグ・レオンを構え直す。

 敵指揮官の登場。そして、周囲から迫る伏兵。

 頭の中では、クエスト前に確認した周辺の地図情報、そして実際に踏破した往路の環境が巡っていた。

 クエストの山場は救出なんかじゃない。これから始まる、撤退戦だ。


 拠点を抜けた瞬間、冷たい風が頬を切った。

 雪原の向こうに、木々の切れ間から急斜面が見える。


「こっちだ!斜面を下って南に走るぞ!この先にある崖下に沿って逃げる!」


 俺が叫ぶと、ウェンバーが目を丸くした。


「ワォ!あそこって足場最悪なのでは⁉」

「だからだ!敵だって全員がこの地形に向いてるわけじゃない!少なくともゴブリンよりは俺たちのほうが速い!」


 事実、鬼人やゴブリンは足場の悪い地形にてこずっている。逆に、俺達は森や山が主戦場。

 ウェンバーの木魔法が加われば、速度差を活かしやすい。少なくとも、常に全方位から狙われる状況は避けられる。


「了解!魔法で補助するよ!」


 ウェンバーが地面に手をかざすと、雪の下から木の根が伸び、斜面に沿って小さな足場を覆い始めた。

 踏み外しそうな場所には根が絡み、滑り落ちそうな部分には板のように広がる。


「人間、走れるな!」


 シルフレアが横目でガイルを見て確認する。


「……問題ない。ポーションで多少は戻った。行ける」


 ガイルは息を荒げながらも頷いた。

 イベントの仕様なのか、ポーションを複数使っても回復は頭打ちだったが、移動くらいならなんとかこなせるようだ。


「よし、行くぞ!」


 そうして、俺たちは斜面を駆けて下っていく。


 足場は悪い。

 雪が崩れ、岩が転がり、風が吹き抜ける。

 だがウェンバーの根が次々と足元を補強し、走る速度を落とさずに済んでいた。さらには、通ったあとの足場はそのまま枯れて、絡みつくトラップに変わる念の入れようだ。


「まったく、本当に頼りになる」

「でもちょっと、魔力が、もたないかも……!」

「無理はしないでやりきりなさい!」

「う〜ん、むちゃくちゃ!」


 ウェンバーは渡されたMPポーションを飲み干し、新しい根を伸ばす。

 それでも視線はチラチラと動き、坂上の黒いコボルト、シュトーバーを追っていた。

 そんなことに気を取られていると、背後から敵の咆哮が響いた。


「来るぞ!」


 振り返ると、斜面の上から鬼人たちが雪煙を上げて迫ってきていた。

 その上空には、ホークマンの影。


「空は任せろ!」


 セルグ・レオンを構え、飛びかかってくる鳥型モンスターを撃ち落とす。銃声が雪原に響いて羽が散り、エフェクトになって消えていく。

 次の相手を探す。ちらりと見えた重装備のホークマン、副官のウェイザルギア。

 一瞬、ウェイザルギアと目が合った。兜の下で口角を上げ、近くの鬼人に指示を出している。


「お前を落とせば!」


 弾丸が放たれると同時に、金属のぶつかる甲高い音が響いた。ウェイザルギアは変わらずに空を羽ばたいている。

 あの野郎、斧の側面で銃弾を弾いたのか。

 その後の射撃も斧で弾いていたが、最後の一射は全身を屈めるようにして避けていた。


「弾を、見切ってるのかよ!」


 ウェイザルギアは空中で旋回して態勢を立て直すと、鋭い軌道で斧を振り下ろしてくる。


「うおおおっ!」


 かろうじて避けたが、片足を踏み外しかけた。

 興奮状態ってなっていたはずなんだが、一撃を入れたらすぐに距離をとる位には冷静らしい。このあたりはシュトーバーの指揮能力の賜物か。 


「人間、下がってなさい!」


 後ろでは、飛び込んできた鬼人の刀をシルフレアが剣で受け止め、火花が散る。

 足場の悪い斜面での攻防。だがシルフレアは軽戦士らしく、体重移動で敵を崩し、逆に斜面下へと落とす。


「シルフレア、無理すんなよ!」

「そっちこそ、足元には気をつけなさい!」


 その声には、戦意の高さがうかがえる。だが息は荒く、額には汗が滲んでいた。

 ウェンバーの魔力も心もとなくなってきているはずだし、そろそろか。


「ちょっとギャンブル、していいか?」

「おっけー!何したらいいです?」

「安全なソリを作ってくれ!」


 俺が何をしようとしてるのか、予想がついたらしい。嬉しそうに笑みを浮かべて頷いた。


「いくぞ!」


 手持ちのすべての爆発型の魔法石を投げていく。

 斜面の上で魔法石が発動し、爆発だけではない揺れが襲ってきた。


「ちょっと、嘘でしょ…」


 ふふ、シルフレアも気づいたな。


「名付けて、雪崩作戦!みんなで楽しくソリ遊びでもしようじゃないか」


「ひゃっほーう!さっすがカイさん!ささ、みんな乗ってね〜!」


 重低音を響かせて押し寄せる白い流砂に、敵は次々と飲み込まれていく。

 ソリ、というよりはでかいボブスレーにのった俺達は、これまでの速度が嘘のような速さで斜面を下っていった。


「ねえ!岩場にでもぶつかったらどうするの!」

「このあたりの地形は地図で確認してある!ここはきれいな斜面だし、岩場地帯まではまだ猶予がある!それより大事なのはタイミング!ミスったら死ぬからな!」

「カイさん!あれ!あれにしよう!」


 なぜかウェンバーは嬉しそうに大木を指さしている。

 確かに。位置的には悪くない。


「よし、行くぞ!死ぬ気で蔦をつかめ!せーの、今だ!」


 ボブスレー型のそりを乗り捨てて飛び出す。伸びた蔦をつかんだ。必死になって蔦にぶら下がると、その下を雪崩が呑み込んでいく。

 そうして雪崩が過ぎたあと、ウェンバーが口を開いた。


「そろそろ限界だから切っちゃうよー」


 斜面を下りきり、空以外の敵の追撃をひとまずはかわした。

 ようやく一息ついたな。 


「ここからは、崖の合間を進むぞ。空の敵の動きを少しでも制限する」

「まったく、人間の考えることってこれだから…」

「ふっふふ、カイさんはこれが醍醐味!面白くていいよねぇ!」

「助けてもらった身でなんだが、寿命が縮むな。まさか自然の猛威を再現するとは」


 反応は三者三様だが、概ね肯定的に受け止めてもらえたってことにしておこう。

 それに、追撃が止んだのは一時のことだ。雪崩に飲まれた敵の救出にしばらくは人手が取られるだろうが、体制が整えばすぐにでも追撃が再開してしまう。

 それまでに、少しでも距離を稼がなければ。

 切り立った崖に挟まれた谷底は、中央に小さな川が流れている。


「川の近くは足場が悪いわ。崖沿いにすすみましょう」

「うーん、さすがに魔力が厳しいですね」


 ここまでみんなにはだいぶ無理をさせたからな。ウェンバーの出す根や蔦は伸びが遅くなり、全員の歩みが少しばかり遅くなっている。


「……まずいな。予想より敵の立て直しが早すぎる。」


 後ろから、遠く響くのは鬨の声。

 翼をたたみ、先頭を駆けて味方を鼓舞しているのはウェイザルギア。シュトーバーが崖上から全体を把握しながら指揮をとっている。ここにきて、一番嫌な体制だな。

 このままじゃ後ろにはすぐに追いつかれる。そうなれば…


「急ぎなさい。捕まったら包囲されての乱戦になるわ……!」


 背後からはウェイザルギアの率いる部隊。

 左右は崖に挟まれている。


 逃げ道が、なくなる。

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