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Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
8章 猟師の冬は北を見据えて
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敵陣を進め

気付けば前話で100話になりました。相も変わらず間の空きやすい更新ですが、ここまで読んでいただける方がたくさんいることがモチベになり、更新を続けられています。ありがとうございます。

 3パーティーは敵陣の右を大きく迂回して進んでいる。プレイヤーの身体能力は高い。一番遅いプレイヤーに合わせてもリアルとは一線を画す速さだ。


「どっからはいるの?やっぱり奥から?」


 ウキウキした声で聴くアキラに、ヨーシャンクは人差し指を小さく口元にあてた。どうやら誰かと連絡を取っているらしい。連絡を取り終えると小さく口角を上げた。


「前線を支援している狙撃隊のプレイヤーから連絡があった。バフ要員と思しき魔法使いを見つけたということだ。位置的にも十分狙える。我等はそこを第一目標、敵現場指揮官を第2目標とする」


 よく考えれば双眼鏡だってあるし、銃種は誤射を避けるなら高台作るか。

 ヨーシャンクから魔法使いの位置が共有され、俺たちは進行方向を90度左へ切り替えた。

 場所は敵陣のちょうど中腹辺り、2ポイントか。


「どうやって入るんだ?」

「私の雷魔法で動きを制限したところに突っ込む。我等は2番手で入るぞ」

「これは、カイさんの一人勝ちですかね」

「始めるぞ、スパーク」


 走りながら杖を取り出したヨーシャンクは小さく魔法名を呟いた。かざした杖の先が光が灯り、大きな静電気のような電気が走る。一拍置いて放たれた電撃は、敵に直撃するとそこから扇状に広がった。

 次々と感電し、動きの鈍った敵の元に最初のパーティーが突っ込むと、難なく敵陣への突入を果たしていく。


「こっからの作戦は⁉」

「いつも通りだ!」

「臨機応変ですね」


 進行方向には敵はいない。俺たちは左右の敵に捕まらないように進むだけだ。

 右からゴブリンナイトが飛び込んでくる。アキラが剣で受けて蹴り飛ばす。左からは斧を持ったホークマンが敵を飛び越えてくるが、東雲が斧の一撃を受け流して一撃を見舞う。続いてきたハーフリングのナイフ使いにはヨーシャンクのファイヤーボールが直撃する。アキラはちらりと左に視線を向けるとナイフを投げ、道が狭くなると東雲が飛び込んでこじ開ける。


「ここで銃は自殺行為だな」


 俺は竹筒に手を突っ込みいくつかの魔法石を取り出す。スキルに投擲をセットしてあることを確認し、声を上げた。


「スキルとアーツのリキャストは⁉」

「僕は大丈夫です!」

「15秒ほしい!」

「広範囲阻害系は20秒!単発なら回せるがMPが半分になるところだ!」


 右に魔法石を3つ投げる。地面につくと発動し、石壁が連なって移動を阻む。その先にもう一つの魔法石、炸裂すると近くにいた4体ほどを纏めてノックバックさせた。

 背負箱から片腕を抜き、ぐるりと回して小部屋から竹筒にポーション類を移す。最後に魔力ポーションを一つ取り出してヨーシャンクに手渡した。


「もう一回右を押し込んだら前に行かせてくれ!」

「心得た!」

「今よ!行って!」


 もう一度4つの魔法石をばらまき、敵が引っかかるのを見届けながら前にでた。


「補給は⁉」

「ありがたい!ヒーラーの魔力が心もとない!」

「あと最前線がちょっときついかもっす!バフがきれて押しのけられなくなってきました~」


 後ろを見る余裕はない。ただただ大きな声を張り上げる。


「ヨーシャンク!先頭スイッチ!」


 答えも聞かず、ポーション類を取り出すと次々と投げつける。前線の剣士にはポーションを、僧侶にはMPポーションを、剣士の二人には追加でバフ系のポーションも投げつける。


「右です!」


 ヒーラーの声に視線を向けた時には、右肩には深々と矢が突き立っていた。左手で矢を抜き取り、ポーションをかける。


「大丈夫ですか」

「気にするな、大したダメージじゃない」


 魔法のバフほどの効果はないが、それでも先頭の二人は何とか持ち直した。

 左では弓使いが次々と至近距離で弓を射っている。あ、矢はもってこなかったな。


「前をあけてくれ~、いくぜスプラッシュ!」


 魔法使いの男が叫ぶと、大量の水が生み出され、波となって前方を襲った。飲み込まれた敵は次々と押し流され、踏ん張っていた敵も水が引くと剣士に切りつけられている。

 魔法には疎いけど、かなり消費の激しい魔法を使ったな。すぐに竹筒からMPポーションを取り出して手渡した。


「いい魔法だな」

「ポーションあざっす!」

「いいタイミングよ!いい魔法持ってるじゃない!」

「前線スイッチします!」


 敵を散らしたタイミングでアキラと東雲が最前線に飛び出した。アキラが敵ののど元に飛び込んで独楽のように舞う。切りつけられた敵を東雲の槍が襲う。


「よし、聞いていたポイントに近い。広範囲バフ魔法の遣いてはこの辺りだ!」

「それじゃあ、ちょっと燃費の悪いことしても許されるわよね!魔法剣・風!」


 アキラの剣に見てわかるほどのエネルギーが込められる。剣から噴き出した風は、振るわれるごとに敵を追加で切り裂いていく。東雲はアキラの魔法剣発動を見て一つ、後ろに下がった。


「いくわよ!剣姫の舞・風雅!」


 ふわりと、流れるような足運びでアキラは敵の間を抜けていった。敵の攻撃を躱し、受け流しながら、まるで諸具合などないかのように進んでいく。それだけなら確かに雅な舞だ。すれ違う敵に切り刻まれるようなエフェクトが発生し、よろけていきさえしなければ。


「え、なにあれ怖っわ」

「すごいですよね。鍛錬でよく対面しますが、嫌な動きです」

「いや、そっちじゃなくて」


 一度は衰えた進行速度が急速に戻っていく。動きが早くなればなるだけ後ろも楽になるはずだ。あとはバフ魔法の使い手を探すだけだ。


「いいこと考えた。東雲、槍で俺を空中に打ち出せたりしない?」

「はい?いや、できるとは思いますが」

「じゃあ頼んだ。ついでに後方から順番にアイテム配るから真上で頼む!」


 あの藤と組んでいるパーティーだ。これくらいのアドリブは日常茶飯事だろう。俺は軽くかがんだ東雲の横に跳びあがり、その瞬間、足にかなりの衝撃が襲った。

 体が浮き上がるが、4、5メートルってところだ。ぐるりと周りを見渡す。

 右手奥に一際大きな奴が左右に手を振り回しながら声を上げている。装備も豪華だし、指揮官の可能性が高いな。前方少し進行方向から逸れた場所、20メートル程先にはぽっかりとあいたスペース。真ん中に貫頭衣の鬼人が何やら祈りをささげている。


「あれか!ていうかあれで違ってもさすがに許してくれよ」


 近くのゴブリン兵が魔法使いの腕を引いている。俺たちに捕まる前に後方に下がる気か。させてたまるか。

 空中で一瞬、体が浮くような感覚があり、すぐに髪が逆立ち始める。竹筒から一回り大きな魔法石を取り出し、大きく振りかぶった。


「アキラ!爆発の方に向かえ!目標が逃げる!」


 右腕を全力で振り抜く。目標に対して俺にできるのはここまでだ。さすがに空中は目立ちすぎた。斧が、魔法が、矢が俺を狙って飛んでくる。

 とっさに投げた魔法石が斧にぶつかり衝撃を生み出す。しかし、物量が違う。


「あ~、これはまずった」


 思いついた時はいい方法だと思ったんだけどな。こんな敵軍の真っただ中で空中に飛び出して、敵の要に向けて攻撃かましてヘイトを買わないわけがない。

 そんなことを考えながらも、ナイフを取り出して投げつけ、魔法の一つを打ち落とす。迎撃できるのはこれが限界か。

 両手を交差し首と頭を守る。足も丸めて小さくなり、衝撃に備えた。


「任せろ!壁障波!」


 飛び込んできたのは、上裸の筋肉質なプレイヤーだった。翳した両手から六角形のエフェクトが出て、矢を弾き飛ばしている。

 いくつかの攻撃は防ぎきれずに体で受けているのを見ながら両手足を使って着地する。すぐにポーションを取り出すと大きな背中に投げつけた。


「助かった」

「気にするな!目標も見つかったしな」


 ちょうど一番後ろのパーティーに合流する形になり、補給をしていく。バフポーションも喜ばれたけど、一番欲しがられたのは魔法石だった。


「あれ欲しいんだけど!石壁出るやつ」

「はい、これ3つな」

「ノックバックの奴はまだあったりする⁉」

「ほいこっちも3つ渡しとく」

「よしよしよし、これでまだいける!」

「ありがとう!」


 後方の補給を終えると一つ前のパーティーへ。そこでも補給を済ませる。ついでに背負箱の中身を整理して、竹筒にも補給をする。回復系は残量が3分の1ってところだな。


「魔法使い、打ち取ったり~」


 気づけば敵のいないスペースに踊り出たアキラがそのままの勢いで鬼人の魔法使いを切り捨てていた。魔力がきれたのか、風の魔法が剣から消えていく。ほい、魔力ポーションっと。


「あとは敵指揮官ですが」

「ちょい右にそれっぽいのがいた、んだけどな」


 ぞわりと全身が震え、その場を跳び退く。上空から鉄球でも落としたような音が響いた。吹き上がった砂煙が晴れると、そこには小さなクレーターが作られていた。クレーターの奥には巨大な亜人が仁王立ちで立っている。

 3メートルはあろうかという体躯は暗緑色で、全身を革の鎧が覆っている。一本の角が額から生え、大きな口からは2本の牙が見えていた。クレーターを作り出した巨大な斧を片手で軽々と持ち上げると肩に乗せた。


「あれ、ですかね」

「あれだろうな」


《気高き戦士 ヒュブレストル 状態:激高》

亜人国所属:前線指揮官


 前線指揮官は確定で、種族は鬼人かオーガってところか。あとは、バフ使いを落した以上、この簡易神殿みたいなスペースが必要なくなる。


「俺たちが後ろを抑える!ヨーシャンクたちは指揮官を頼む!」


 ヨーシャンクが口を開きかけるが、それよりも早く剣士パーティーが後ろを抑えに走った。


「いいの?おいしいとこだけって感じになっちゃうけど」

「仕方あるまい。ここまでの戦いを見たが、消耗的にも火力的にも我々が適任だ。だが、すぐにでも後ろに向かえるように頼む。申し訳ないが、カイは中央で全体のフォローだ」


 アキラと東雲は距離をとって敵を抑え始める。ここまでの戦闘を見た感じ、ここが一番強い。ヨーシャンクがいけるって判断したんならあとは信じるだけだ。

 3つのパーティーの中央に立つ。セルグ・レオン標準型を装備し、モンクにかみつく牙狼に銃弾を叩き込んだ。

 さあ、決戦だ。


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