表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Variety of Lives Online ~猟師プレイのすすめ~  作者: 木下 龍貴
1章 初めて尽くしの猟師道
1/96

腐れ縁に誘われて

3章あたりまでは休まず行きたいと思います。よろしくお願いします。

 学生時代、自身のルーツを知ろうと家系を辿ったことがある。別に先祖は偉人だったとかを期待したわけではなく、ただ漠然と、なんとなく気になって始めただけだった。それが予想以上に面白くなり、大学二年生から三年かけて辿れるだけ辿って行き着いたのは、東北の隅っこで猟師を生業にしていたということだった。


 小学校から同じ進路だった友達はそれを聞くと残念だったなと言って笑っていた。でも、俺は落胆なんて少しもしていなかったんだ。むしろ調べるごとに分かるその厳しい生き様に憧れを持ったくらいだ。

 だって、銃一つで山に分け入って熊とか撃つんだぜ?で、それをみんなで分けて生きていく。こんなにも逞しい生き方が他にあるだろうか?たぶん沢山あると思う。でも、あの時から俺にとって猟師は特別な生き方になったのを覚えている。


 あれから時も経ち、無事に就職もでき、忙しくも充実した生活を送っている。


「なあおい海、聞いてるのか?」

「え?ああごめん藤、ぼーっとしてた。あ、すいません。たちぽんとおでん三種盛り一つ」


 騒がしい飲み屋の一角、対面に座っているのは猟師と聞いて笑った友人の藤代裕也だった。互いに就職をしてからも連絡を取り、今もこうして数か月に一度は飲みに行ってる。こういうのが腐れ縁の典型なんだろうか。


「いや、だからさ。社会人になって最初はばたばたしてたけどさ、二年たって大分余裕出来てきただろ。でも都合はそう簡単には合わないから遊ぶのは難しい。そこでこれだ」


 そう言って藤はパンフレットを差し出した。それは来年から始まる最新のVRMMOゲームのものだ。えっと、なに?俺ゲームするの?


「この年になってゲームするのか、俺と藤でオンゲってこと?」

「確かにオンラインではあるんだけど、まさかVRMMO知らないのか?」


 さすがに知ってるわ。軽く突っ込みを入れながらパンフレットに目を通していく。


 VRシステムは軍事・医療分野のみでの使用という規制が敷かれていた仮想現実体感システムだ。それが近年になって規制が緩和され、VRMMOとしてゲーム業界を中心に盛り上がっている。人気の理由は様々だが、ゲームであることを生かした剣と魔法の冒険や、宇宙体験から果てはリアルな農業まで、何でも体験できることにあったはずだ。


「う~ん、スキルとって、あとはプレイヤーの行動次第で成長していくのか。面白そうだけど、何せ俺はこれまでずっと健康体だったし、自衛隊とかに入ってたこともない。今はゲームもやってない。だから実際にどうなのかが全く想像できないな」

「だから今日呼んだんだよ。俺はこれのβ版があたってずっとプレイしてたんだ。なんていうかこう、もう現実っていうか、それ以上のことが出来るんだよ」


 藤はふざけているのではなく、間違いなく面白さを伝えたいのだろう。しかしこの説明ではこのゲームがどんなものなのかまったく分からない。とりあえずこの辺から確認していくか。


「いや、まったく伝わってないよ。そもそもこのスキルってどんな感じなんだ」

「スキルか?簡単に言えば資格とか免許とかが近いな。初期選択で武器を決める、あとは戦闘とか生産系の補助スキルを5つ選択。それで武器とか能力アップとかのスキルを取るわけだ。でも最初にとれるスキルがすごい少ないんだよ。そっからはなんとかして新しいスキルを発生させるしかない。関連するスキルのレベルを上げたり特殊な行動を繰り返すと習得出来るようになるんだ。あとはスキルレベルが5毎にポイントをもらえるからそこから新しいスキルを取っていって、そうやって自分好みのキャラクターを作っていくのさ。まあセットできるスキルは上限があるから状況に合わせて組み替えていくことになるがな」


 なるほど、自分の行動がそのままスキルにつながるのか。そういえばパラメーターってどうなってるんだろう。


「当たり前だけど能力値もあるんだろ?」


 その質問に藤は難しそうな顔をした。説明が難しいと言いながらそれでも話しを続ける。


「能力値もちゃんとあるさ。でもパラメーターは非表示なんだ。それに確認する方法もない」

「は?」

「そういうのをマスクデータって言うんだけど、その辺はβ中も話題になってな。結構なプレイヤーが検証をしたんだ。分かりやすかったのが筋力値。例えば同じ大槌を最初は持ち上げられなくても筋トレを続けたら気付いたら持てるようになったとか、同じ装備でも初期よりβ終了間近の方が明らかにダメージが通ってた。詳しい方法はわかんないけど筋力でもどの部分でとか色々あるみたいだぞ」

「なんか、凄い不満の出そうなシステムだな」

「別にそうでもなかったな。パラメーターについては最初からわかってたし。あ、おねいちゃん、ビール二つね」


 愛想の良い店員が元気な返事をするのをよそに、俺はパンフレットを読み込んでいた。自身のプレイ方法でスタイルを確立していく、これは凄く俺好みではある。問題はタイトル通りの多様性があるかどうかだ。そんなことを考えながら新しいビールに口をつける。その様子を見て何を考えているのかが分かったのだろうか、ニヤニヤと笑いながらぼそりと呟いた。


「珍しいのがこのゲーム、王道の中世の欧州みたいなイメージなのに初期武器に銃があるんだよな。やればお前の好きな猟師生活が出来ると思うんだよな~」


 その後酔った藤から延々とゲームに誘われ、最後にはもし抽選に当たったらやるってことで手を打った。そもそも相当期待度の高いゲームらしいし、当たるかもわからない。


 ただ、気持ちとしてはかなり前向きになっている自分には気付いていたんだよ。それもこれも藤のあの一言のせいだ。


 予約はそのまま店に行って済ませて、それから半年後、忘れた頃にそれはやってきた。仕事帰りにやけに分厚い茶封筒を開けるとそこには当選の文字と各種書類が。藤も受かったことを確認して、書類の多さにげんなりしながらも手続きを終わらせ、ハードを用意した。そんなこんなで、いよいよサービス開始当日。


 こんなにもワクワクしながら土曜日の朝を迎えたのは学生時代以来だな。説明書で事前に最初にとれるスキルは調べた。プレイスタイルも完璧。身体データの同期も調整済み。藤とは最初の町の広場で落ち合う約束もした。何も見落としはないはずだ。


 9時まであと10分、5分、1分、よし、時間だ。ログイン。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ