妹と結ばれる運命から逃れていたら悪役令嬢と恋をする
俺には前世がある……
って言ったら厨二病に聞こえるが本当の事だから仕方ない。
その前世の記憶から察するにここは恋愛系のゲームに酷似していた。
名前や生い立ち、周りの環境を考えるとそうであると嫌でも理解した。
そして、妹と恋愛する未来も……
あぁ、実妹に手を出す最低野郎に生まれ変わりとは……
いや、手を出される方なんですがね。
既に天の導きか分からないがお風呂でばったりやお着替えに遭遇など、いやいや、ラノベじゃないんだからと言う体験をしまくっている俺が言うのだから間違いない。
そして、妹も満更じゃ無い様子なのが怖い。
ゲームだから許される事であって実妹に手を出すなんて現実で良いのか?
いや、ダメでしょう。
しかも、エンディングがとあるアパートで慎ましくお腹が膨らんだ妹とバイトしながら今を精一杯生きてますって貧乏だけど幸せですってな感じで終わるのだがいやいや俺のこの先の人生詰んでんじゃね?
妹に手を出し、バイトしながら甲斐性は無く生きて愛があるから幸せ?それは違うだろ?世の中は金だ。
全てとは言わないが金が無いのに幸せを掴む事が出来るかと聞かれたら俺は違うと答える。
やはり、お金があると心の余裕もゆとりも出来る。
なら将来を考え、まずは勉強して、良い高校に通い、就職する。
そう思い、今まで生きてきた。ここがゲームの世界と酷似していようが俺は全うに生きる!
あれが俺のパーピーエンドと言うのなら酷い人生である。
物語だから許される事も現実では許されない。
実妹と出来て、逃げる様に生きる人生なんて絶対に嫌だ。
その思いで過ごした。その努力もあり、妹との仲の良い兄妹感で母とも父ともギクシャクせずに高校を卒業出来た。
一人暮らしを始めて会社も良い企業に就職出来て、毎日が充実しており、たまに妹が泊まりに来たりするがこれ位なら許容範囲だ。
初めは何故この男に転生したのかと悩んだが顔は良いし、俺が妹に手を出さなければ申し分のない生まれ変わりだ。
しかし、妹がいるからか彼女が出来ないのは難点だ。
遊ぶ時はいつの間にか妹同伴だし、周囲からはシスコンだと思われ、その通りだから受け入れたがシスコンでも貴方が好きですって女性を待っていたが来なかった。
いや、待っていては出来無いと気がついた時には高校3年生で卒業で気になった子や仲の良かった子は彼氏いるし、社会人になって仕事に追われる毎日で恋人をつくっても恋人の為の時間を取ってあげれる自信はなく未だに独身を貫いていた。
妹も高校2年になると女性らしさが増し、悶々とする事がしばしばあるのが今の悩みだ。
……なるほど、ゲームの彼は童貞を拗らせて妹に手を出したのか。
その知識があるおかげで無意識に誘ってくる妹に手を出さずに済んでいる。
まぁ、これが俺の日常でこの先も続くのかとボンヤリと考えていたのだが現実とは厳しかったようだ。
「ん?冴木君、君の席は撤去してあるからもう来なくていいよ」
……うん、意味が分からなかった。
係長に納得出来無いと言ったが聞き入れてくれず、部長に話をしに行ったら退職扱いだと言われた時には頭の中が真っ白になり意気銷沈し、気がついたら家の近くまで帰っていた。
俺は落ち込んだ気持ちを振り払い、家に帰るとそこには家具も荷物も何もなくなっていた。
俺は何が起こったのかも理解出来ずにただ呆然としていると声をかけられた。
大家さんだった。
すごく気の毒そうな表情をされて無言で紙と何かのカードを渡された。
俺は訳も分からずに紙を見るとここまで来る様にと書かれていた。
本来なら怖がったり不気味だと感じるのだろうが全てを失った事がショックで何も考えれずに素直に紙に書かれている場所へ向かった。
向かったは良いが着いたのは高級マンションだ。見上げると30階はあるのかなと見上げた。
カードはセキリティーカードの様でそれでマンションの中に入れた。指定された階に行くと一つだけドアがあった。
紙には入る様にと書かれてあるので空いていると思い開けると本当に開く。
「やっと来たわね」
至極楽しそうに弾みのある言葉が耳に入ると俺は声の主を見て目を見開く。
出会う事はないと思っていた人物だったからだ。
凄い美人だが高飛車で我儘、傲慢と絵に描いたような悪役令嬢をこなす優里香だった。
携帯を取り出し急に電話をし始める。
「えぇ、ちゃんと来ましたわ。ご苦労様。報酬は後で振り込んでおくわ」
そう言うといつの間にか優里香の後ろに黒服の女性が2人いて、俺を一瞥すると外に出て行った。
あの電話で大体の事が分かった。
「何故、君が俺にこんな仕打ちをするんだ」
怒りが湧いたがそれでも喪失感の方が多く、怒気も出ない。
「そんな事はどうでも良いわ。それより貴方は今日からここに住んで貰うわ。いわゆる下僕ね。ここの部屋の管理を任せるから後はお願いね」
そんな事ってと声を上げようかと思ったら急に言われた事の方にびっくりして言いたかった言葉が吹っ飛んでしまった。
「なっ!意味が分からない!俺と君が一緒に住むのか⁉︎それは不味いんじゃないのか?」
「大丈夫ですわ。私が傷モノにされたら私の婚約者側の方も貴方を黙っていませんし、私のお父様もですわ」
身勝手な言葉に俺は言い返す。
「そもそも会社や俺の家をどうしてくれるんだ?訴えるぞ」
「あの会社は私がお父様から貰ったものですから何をしても良いのですわ。それに誰に訴えます?その辺の弁護士を雇った所で私に勝てるとも?お父様が全て片ずけてくれますわ」
何でもアリだな!って思ったがそう言われるとゲーム内でもその様な事が出来ると書いていたのを思い出し、青ざめてしまう。
「お仕事なら大丈夫ですわ。私が貴方を養ってあげますわ」
優里香はふふっと笑う。
誰のお金だよっとツッコむのはダメな気がするので考えるのを辞めた。
俺は言い返す事を放棄して部屋の中に入る事にした。
周りを見ると凄く散らかっていて、えっ?ここって女の子の部屋だよね?って思ってしまうくらい汚かった。
尋ねる前に言い訳の如く優里香は言う。
あと3日後にハウスキーパーが来るから今日は汚いのだと。
部屋が綺麗だろうと汚かろうと優里香は掃除が出来ないという事実に溜息をつく。
仕方なく掃除を始める俺は少し落ち着きを取り戻した。
これは妹と優里香と優里香の婚約者である妹の攻略対象が絡んでいるかもと冷静に考えていた。この考えは遠からず当たっている。
掃除の間に見知らぬ俺を住まわせて良いのかと尋ねたら、俺の事を調べてから実行したらしい。
悪いようにはならないだろうと俺は優里香の提案を受け入れる姿勢に変えた。
……別に権力とか怖くてそんなのに負けた訳じゃないんだからな。
片ずけ終わると優里香はびっくりしていた。
……そんなに片ずけ出来る人間が珍しいのか?
そして、ご褒美と言いソファーでくつろいでいる優里香は足を差し出し舐めて良いと言い出した。
ふざけるなとカッとなったが優里香の「お父様に」との呟きで一気に冷める。
躊躇っていると舐めるのを急かされる。
……おかしい。
ご褒美だよね?なんか違う気がする。
しかし、逆らえずに足を舐める俺を見て、優里香は頬を色っぽく染め満足げに見下していた。
暫くしたら解放されるかと思っていたが2週間も経ち、一向に解放する様子もないし、ご褒美と言う名の屈辱を受け、携帯も繋がらず、身内にも連絡出来ず、外に出る時はこの間見た黒服の方々がついてくるので逃げ出さない様にされているのが分かる。
……これって軽く軟禁と誘拐の域じゃないの?って思ったがバレなきゃ良いんですって言葉が過ぎり、世の中理不尽だなって思ってしまった。
だが、一緒に居るってのは良くも悪くも共同生活だ。
初めは優里香の事を恨んでこの可愛げの無いガキめ、絶対に後悔させてやるって気持ちがあったが今は薄れてきている。
優里香は良くも悪くも素直なのだ。我儘なのも何でも手に入る環境下で優里香にとって当たり前なのだから我儘は我儘ではなくデフォルトなんだと理解した。
父親からは与えられるだけ与えられ、望む物は大概手に入っている。
俺が掃除をしたら次からハウスキーパーを呼ばなくなり俺にさせる様になり、外食ばかりしていたようだが俺が料理が出来る事を知ったら作らせて気に入ったらしく、毎日作るようになった。
素直に嫌いなモノは嫌いと言い好きなモノは美味しいと喜んで食べるのだから悪い気はしない。
そんな生活を続けていくうちに優里香のやっている事に疑問を持つ。
我儘は一種の表現ではないかと。そんな場面を何度も出くわすと後は解けたパズルの如く当てはまっていく。
父親に物を欲しがるのは会いたいから、我儘を言うのは構ってほしいからだ。だが、表現が酷くて彼女の本質を理解できないだろう。
友という友は居ないと分かる。何故かって?それはまっすぐ何時も帰ってくるからな。
友を作るのも結局、我儘を言えば、勝手に出来ると思っているのだろう。
金目当ての人間は集まってくるし、ただ、優里香も馬鹿じゃない。
ちゃんとどんな人間か理解し対応する。だから、何時まで経っても友も出来ずに自分を苦しめ続ける。
寂しいから我儘を言う。我儘を言うから1人になる。1人になったら我儘をと繰り返す中で彼女は自分を変える事を諦めたのだろう。
だから、何時まで経っても傷つき、夜にたまに泣いている。
何時からだろう。
ほっとけなくなったのは?
何時もは俺に意地悪そうにしていても時より見せる寂しそうな目は俺に見捨てられるのを恐れているのが分かる。
きっとこんな生活してなきゃ彼女の事を理解してあげれてなかっただろう。
父親と久々のディナーだと言い、張り切って出て行ったが数分経ってから落ち込んで戻ってきた。
何があったから察しがつく。
父親の予定がずれ、時間が取れなくなったのだろう。
せっかく今日の為に服も買ったのに意味がなくなったと自笑する優里香。
部屋に戻ろうとした落ち込んだ優里香に美味しいディナーを知っているから行かないかと誘ってしまった。
この時、彼女が本当に年相応に見え、脆くか弱い姿にきっと俺は惑わされたのだろう。
服装が合わないとハイブランドの服を買ってもらい、俺の知る唯一のレストランに優里香は機嫌を直してくれた。
その時の笑顔は綺麗で思わず見惚れてしまったのは内緒だ。
しかし、毎回支払いをさせる俺って周りから見たらタダのヒモ野郎って思われているかもと内心泣いた。
そんな生活を2ヶ月続けると互いの距離感も近づき、言いたい事は分かる。
優里香の執事の如く、俺は優里香にご奉仕していた。
いや、してないけど毎日、優里香より朝早く起きて朝食の準備をし、起こして互いに朝食を取り、学校へ送ると部屋の掃除をし、時間が経つと晩飯を作る為に買い出しに黒服さんを呼ぶ。そして、買い終わると晩飯を作り始め、19時には晩飯を食べれる様に用意する。そして、御飯を食べ終わった後、片付けを済まし、お風呂を終えると優里香のご機嫌取りと一日のスケジュールが無意識に完成されていた。
そんなある日、優里香の様子がおかしかった。
尋ねると婚約者との婚約を破棄したそうだ。
何故と尋ねると相手には好きな女がいるのだと。
……俺の妹だな。
だが、優里香は思ったよりスッキリとしている。
しかし、時より不安げに俺を見ているのが気になる。
年頃の女の子はよく分からない。
そして、終わりは唐突にやって来た。
もう出て行っても良い自由にして良い、好きにしろと言われたが彼女の顔を辛そうだった。
話を聞いてみると始めは嫌がらせから始めた関係だがこれ以上、俺と親しくなって嫌われたくないからみたいだ。
根は素直なのに本音を言わず、我儘で隠し、傲慢な態度で他人に理解されない。
短い間だが過ごした時間に偽りはなく、少しは優里香を解ってあげれたと思う。
本当は出て行って欲しくないのに嫌われたくないから関係を辞める。
これが彼女なりの俺への謝罪なのかもしれない。
だが、こんな危なっかしい彼女を守ってあげられる奴は現れるだろうか?
難しいかもな。
俺以外ではーー
あぁ、分かったと言い、これから自由にすると伝えると泣きそうな顔でさっさと出ていけばと言われる。
そんな優里香を壁に押し付ける。
「お前は俺の全てとは言わない。仕事も生活の場も積み上げてきたものを奪った。今から元の生活に戻ったらと言われて戻れると思うのか?」
そう言うと優里香は青ざめる。今更、自分のやった仕打ちに気がついたのかポツリと嫌われたくないと呟く。
なら始めっからやり方を間違うな。他者を思い遣れ、人を想いやれば自分も想われるって何故気が付かない。だが、彼女も不幸な生い立ちだ。何でも与えられ、本当に欲しいものは与えられてない。
だから人恋しく、構って欲しいのに構ってもらえず、不器用に歪になっていった。
必死に怯えを隠す優里香に言う。
「お前は俺から奪ったからな。俺はもう家もない。だから、ここに住まわせてもらう。それと仕事は前の様な好条件のモノは中々見つからないから見つけるそれまではここでお世話になる」
俺がそう言うと優里香はキョトンとする。
「だから、これからもいてやるって言っているんだよ」
恥ずかしくなってそっぽを向く。優里香は言った内容を徐々に理解したのか恨んでないのと聞かれる。
そりゃ恨み言の一つや二つあるがほっとけないのが本音だ。
そう言うのも釈だし、良くパーティーの誘いの手紙を見るから話をそらす。
お嬢様だしパーティーとか行かないのかと聞くと行かないと言うので何でと尋ねると嫌われているからと答えた。自覚はあるらしい。直せばと言ってやると煩いと睨まれる。
だが、その睨みも今は可愛げを感じるから不思議だ。
俺はこの先もこの捻くれ者を相手する事を選んだのかと思うが後悔はない。
これで強制下僕から自称下僕へシフトチェンジだな。
その後、親と一回連絡をした。何かの事件に巻き込まれたかと心配されていた。
まぁ、近いモノに巻き込まれてましたとは言えずに言葉を濁し、安心させた。
そうして、半年近く経ったある日だ。
優里香と共に出かけて家に帰ると妹が居た。
妹は俺に気がつくと安堵の表情を浮かべ、優里香をきつく睨む。
「貴方が私の兄に何をしたのか慶に調べてもらったわ。ふざけているわよね?やってはいけない、踏み越えちゃいけない事だよね?」
優里香はたじろぎかけたが負けずに睨む。
「確かにやり方はいけなかったわ。もう反省したし、友希与には謝ったわ。そして、今はこうして一緒にいてくれる仲までなったわ。だから貴方に言われる事は何もないし、貴方には関係ないわ」
「関係なくない!兄は優しいからそれを貴方は漬け込んだのよ!兄が許しても私は許さない。金持ちって何をしても許されるっておかしい!慶も力にはなれないって言うし何なのよ!お兄ちゃんは騙されているのよその女に!目を覚まして!あぁもぅ!いい加減お兄ちゃんから離れなさい!手を離せ!お兄ちゃんを返して!お兄ちゃんは……お兄ちゃんは私だけのモノよ!」
「貴方には慶がいるじゃない!私の婚約者を奪っていて何を言うの?友希与は私のよ!誰にも渡さないわ!」
「慶?私に言い寄っているけどタダの友達よ。そんなに欲しんならあげるわ。それに婚約を破棄したのは貴方でしょ?貴方が勝手に好きになって勝手に婚約結んで破棄して自己中すぎだし、そんな女がお兄ちゃんとだなんてふさわしくないわ」
あっ、これはダメなパターンだ。
売り言葉に買い言葉ときて、互いに言葉が悪く、そんな事を思ってもいないのに相手を傷つく様に汚く悪意のある言葉へ変えている。
止めようとしたら二人同時に思いっきり睨まれ、牽制された。
……実は2人共仲良しじゃないのかって位に息が合っていた。
シスコンの俺に妹を止める手段がない様に下僕である俺に優里香を止めれないのは仕方ない事だ。
行く末を見守るしか出来ない俺はヘタレじゃないはずだ。
妹が帰ろうと俺の手を掴んだら優里香が叫んだ。
「私から、もう奪わないで‼︎貴方は何もかも持っているわ。私の欲しいモノ、手に入らないモノ、貴方は沢山持っているじゃない!一つ位貰ったって良いじゃない!」
「お兄ちゃんはモノじゃない!私より貴方の方が沢山何でも金で手に入るじゃない!意味わかんない!それにお兄ちゃんは私と幸せになるの!私と結ばれる運命なのだから貴方には渡さないわ」
は?っと優里香は目を丸くする。俺もあれ?っとなるが妹の暴走が止まらない。
「慶だって、ただ仲が良いだけだったのに貴方が勝手に嫉妬して空回りしたせいで慶は私に気を持っちゃったし、周りからはお似合いだの何だの言われるハメになるし、私には将来を決めたお兄ちゃんがいるのにあんたのせいよ!」
優里香は俺を見て、妹を指差し大丈夫なのと聞いてきたが俺はなんと言えば正解なのか分からず曖昧に笑顔で誤魔化す。俺も戸惑っている事は伝わったのか俺から目をそらす。
「貴方も歪だわ。それに兄妹で結婚とか言い出すのはちょっと……」
「何?それは世間体の話でしょう!本人同士の意思があれば大丈夫よ!その時は結婚出来る国に行って結婚すればいい」
「その考えは間違っているわよ。日本ではその考えを受け入れられないと思うし、貴方の両親の事を考えても同じように言えるわ」
「何も知らないクセに貴方はこっちの事情に口を挟まないで!私は小さい頃からお兄ちゃんと結ばれる為だけに色々と努力してきたのだから報われても良いじゃない!それに貴方は犯罪紛いの事をお兄ちゃんにしたのよ!お兄ちゃんもこの嫌われ者に言ってやって!」
え?ここで俺に振るの?
「友希与……」
優里香も俺を不安げに見る。
前の言葉だけなら妹がおかしんじゃないと反論出来るがその後の言葉は優里香にとっては後悔の部分だ。
不安げに見つめているのは落ち目を認めているからだ。
だが、俺は既に妹へ伝える言葉は決めている。
「なぁ、葵。俺は此奴の家族になってやりたいと思う。今は歪な関係だ。だけどな、おかしな話で俺はいつの間にか此奴に惚れてしまったんだ。不器用で自分を表現出来なくて、いつも我儘を言う事でしか人に接することが出来ず、そんな自分に対して不機嫌で他人を感違いばかりさせて、負けず嫌いだから意地を張って、他人から誤解され、自業自得なのに傷ついている。誰かに構って欲しいのにやり方を知らなくて自分を傷つけてしまう。だけど、やっぱり人が恋しいくて構って欲しいと繰り返し、誰にも理解されずに苦しんでいる。出会いは間違っていたが今は俺は優里香の支えになりたいと思っている」
そう言うと優里香は目を丸くしていた。
そういや、自分の気持ちを伝えた事、無かったなと考えていると妹が悔しそうな切なそうな表情になり言う。
「お兄ちゃん、今まで隠してきたけど私だって気持ちは偽れない。私はお兄ちゃんが好きなの。愛しているの」
「俺も妹としてお前を愛している。だけど、優里香は女として愛している。分かってくれ」
妹はプルプル震え、目に沢山の涙を溢れそうにしながら叫んだ。
「お兄ちゃんのバカー‼︎もう知らない!」
そう言い残し走り去ってしまう。後で親に連絡してフォローしとくか。
優里香に帰ろうと手を差し出す。
優里香は恥ずかしそうに手を取ったのが印象的だ。
その後、優里香がよそよそしくなった。
いや、急に我儘を言わなくなったと言う方が正しい。
そんな日々が続くと心配になり問いただした。するとしおらしく優里香からこう返ってきた。
「我儘言って嫌われたくない。友希与にはずっと側にいて欲しいの」
か細い声で絞り出す様に最後は呟く。
「バカだなぁ、俺はもうお前のそんな所も受け入れている。そうだな、傲慢な態度や我儘な言動や行動も全てだ。じゃなきゃお前じゃねぇ。こういうのを話すのは恥ずかしいが俺が惚れたのはそう言う女だ」
そう言うと耳まで真っ赤に染まる。何かを呟いたが聞き取れずまた聞き返す。
「……スしなさい。だから、私にキスしなさい!」
俺は優里香の言葉にびっくりして、恋人じゃないし無理と反射的に言い返してしまう。
優里香はそっぽを向いて不機嫌そうに言う。
「私の恋人にしてあげるから今キスしなさい。何でも受け入れてくれるんでしょ?」
「あぁ、そうだな。俺と付き合ってほしい」
そう言い抱きしめ口を重ねる。顔を真っ赤にした優里香を暫く抱きしめ離す。恥ずかしそうに優里香は言う。
「私の恋人にしてあげるんだから光栄に思いなさい」
照れた様な恥ずかしい様な優里香に思わず笑いが漏れる。
「なっ!今笑いましたね!私の何処に笑いどころがあったのですか!全く、友希……」
最後まで言わせずにまた口と口を重ねた。
「俺とこれからも一緒にいて欲しい。それに今の優里香の照れ具合も可愛いな」
「……煩い」
不機嫌そうにまたそっぽ向く優里香に俺は笑った。
俺はこの先も優里香の我儘を受け入れるんだろうな。