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(だめだ。ここに居ちゃいけない。
に、逃げるんだぁ・・・)
直感的にそう感じた。だが、動こうとしても恐怖のあまり動けないのであった。
周りの人たちも同じように体を震わせている。
同じように直感的な恐怖がそうさせているのだろうか。
動けたところで朝のラッシュ。この人数。混乱でそう早くは逃げられない。
と考えていた次の瞬間、斑模様から
ぼとんっ
と這い出る事に成功したらしいものが姿を現した。
2メールはあるであろう巨体が立ち上がった
皮膚は爛れているが四肢は太く強靭で、
眼光は鋭く口は裂けているように大きく牙がむき出しになっている。
(な、なんだこれ 逃げないとっ)
自分の認識を大きく逸脱したその存在を前に動くことができない。
その巨体は、腕を持ち上げ始めた。
徐々に視点が手と思わしき部位に向けると、
手には大きな鉈のようなものを持っていると認識した瞬間。
ぶぉおん!
ぶしゃぁあああ
巨体の近くにいた数人の胴を切り裂いた。
その数人がもう命が無いこと分かった。
それもその筈、体が二つに切り裂かれて生きていられるはずが無い。
ぼとんっ ぼとんっ と先ほど聴いた音がまた聞こえた。
同じような巨体が出現し 同じように数人を切り裂いた
そして 静寂は解き放たれた。
「きゃあああああああああああ」
「うっぁああああああああああ」
「にげろおおお」
悲鳴を上げ逃げ始める。四方八方に。
あれだけ動かなかった足も。堰を切ったように動き出す。
駅改札がある方へ逃げざるを終えない。
逃げている最中、事の真相を知らない人は何事か戸惑っている間に。
数を増やしている巨体達に一閃させる。
ぶしゃぁああ
我先にと奥に奥にと逃げ惑う人々。
ブゥゥーン
更に聴いたことの無い羽音が近づいてきた
「ぎゃああああ」
それは、巨大なハエのようなものが多数の足で捕まえた瞬間だった。
一部の足は腕を貫通していて、もがいても振りほどくことは出来ないだろう。
「助けてくれえええ うああああああ」
そのまま、外に連れ出される。
鉈を持った巨体よりも多く発生したそれは。
ドンドンと人を捕まえて外に出される。
奥に逃げたくても人が多すぎて逃げることが出来ない。
(何してんだよ! 早く進めよ 早くしないと殺され)
ざしゅっ
(がはっ)
左肩に痛みが走る 見ると自分の左肩から巨大ハエの足が生えていた。
「っ!!ああああああああ!」
あまりの激痛に失神しそうになるが
右手を使って足を抜こうと試みるが
ざしゅっ
「あがっ! ああああ!」
右肩にも同じように足が生えた。残りの足で体を包み込むように覆われ。
身動き一つ出来ない状態になった。
捕獲完了と見るや、巨大ハエは動き出した。
外へ。意識が朦朧とする中見えた景色は想像絶する地獄が広がっていた
品川駅周辺だけでなく、鉈のようなもので切り裂かれる人々
自分と同じように連れ攫われるもの。
見たこと無い巨大トカゲによって火だるまにされるもの。
(あぁ なんだこれ 夢だ 夢に違いないよ)
(退屈でいいから、夢なら覚めてよ)
途切れかけた意識の中、夢であってほしいと願う。
退屈な日々。退屈な毎日でも構わないと。
意識が切れる寸前。巨大ハエは あの斑模様に自分を連れたまま姿を埋めていった。