家族の話
この作品で語られることに対して信憑性はありません。
私には少しばかり、人ではない姉妹がいる。
その姉妹……姉の方は私が生まれるよりもほんの少し早く我が家にやってきた。
ほんの少しだけ年上の姉は、ベビーベッドで泣き喚く赤ん坊の私をなだめる様に猫なで声で歌い、私とそう変わらない大きさの体でふんわりとやさしく包み込んでくれた。
猫特有の、しなやかでさわり心地のいい体で。
姉といっても、どこにでもいる三毛猫である。
それを姉と呼ぶのも珍しいだろうが、とにかく姉なのだ。
幼少の私に善悪を教え、年少の私に思考することを教え。
青年になった私に、出会いと別れを教えてくれたのもすべて姉だ。
もしやすれば両親以上に言葉にできないものを教えてくれたのではないのかと今では思う。
……ただ、年寄りになると冗談がきつくなるのはどうにかならないだろうか?
「まぁまぁ、そう言わんでもええじゃないか。こうやって今は在るのじゃから。」
と、歳のわりに手入れされた毛並みで元気そうに話す姉。
こうやってひざの上に乗せていると、今も昔も同じように柔らかい体をしているのを感じてなんともいえない思いになる。
私の家族は姉……ミケが生きていることを知らない。
それ以前に、私の父親に最後を看取られたハズなのだ。
私とは違って、子猫のころの姉から見続けていた父親でも。
今更出て行ったところで信じるわけがない、受け入れられるわけがない。
尻尾が裂け、猫又妖怪になった姉の姿を。
『猫は九度の生を受ける』らしい。
曰く、一般的な猫の寿命が十年もない時代からの言い伝えらしい。
一度死んだ猫は、同じ魂のまま毛皮を着替え、主の下へ戻る。
そうやって人の一生に寄り添って共に過ごすことが、昔からの猫なりの従順さだったという。
「まぁ、そんな中にも失敗する奴はいつでもおったがのー」
と、一度死を経験した姉は語る。
「魂が弱いのか肉体が弱いのか知らんがの?九度分の寿命を一度に体が受け入れることはないそうな。」
私は陽だまりの中、姉の回想を眠らないように聞くことしかできなかった。
「じゃが、1度死んで残りの八度分なら話は別じゃっての。八度分を一身に受け、限界を超えるとこうなるのよ。」
と、二つに分かれた尻尾を得意げに顔元に伸ばす。
「八は最大の数じゃからの。九(久)は自然の法則に逆らうが八はそうではないからの?」
「なぜ疑問系なんだよミケ。」
「姉さんと呼びんしゃい。なぜといわれても、誰かに聞いたわけでもない推測でしかないからの。確信なんぞないわい。」
名前で呼んだら怒られた……
「ま、感謝はしておるからの?弟がこうやって起こり得ない出来事に関われる人での。」
嬉しい感謝だ。が、同時に複雑でもある。
別れというのは正しく訪れるべきだと、私は思っている。
そういう点では、分かれたはずの姉と再会することは間違っているのではないかと今でも思う。
死というのは本来、どうやっても超えてはいけない絶対の基準であるべきはずなのだ。
とか、難しいことを考えていたら眠気に襲われた。
ふとひざを見ると、姉は丸まって気持ちよさそうに寝ている。
猫の魅力に乗っかって、私も日差しの中で眠ってしまうとしようか……