06
依頼者の家は東門の近くにある大きな屋敷だった。
この屋敷の商人はかなり稼いでいるようで、周りにある家とは段違いにデカイ。
貴族の屋敷みたいな感じで庭も広かった。
噴水や銅像、池まで付いている。下手な貴族より良い家に住んでいるんじゃないだろうか?
草むしりをするのは間違いなくこの庭だと思う。
ドアに付いているベルを鳴らすと執事っぽい白髪のおじさんが出て来た。
パリッとしたスーツが出来る執事感を溢れさせている。
「何のご用でしょうか」
「ギルドから草むしりの依頼できました。」
この紳士の名前はゼパルというらしい。
見た目通りこの屋敷の管理を任されている執事さんのようだ。
「草むしりの範囲はこの屋敷の庭全域です。あなたには1時間の草むしりを
お願いします。全て終わらせる必要はありません。報酬は200ゼニーです。」
ゼパルさんはそれだけ言うと屋敷に引っ込んでしまった。
どうやらこのクエストは1時間草むしりをするだけのクエストのようだ。
庭は1時間で草むしりを終えられる広さではないが、取りあえずやってみることにしよう。
・・
草むしりを始めて気付いた事がある。
この屋敷の庭には雑草に混じって薬草が生えているのだ。それもかなりの量がだ。
これは予想でしかないが、このクエストはお金がなくて薬草まで手が回らない初心者への救済クエストじゃないだろうか?
30分程草むしりをしただけなのに薬草を15個も採取できた。
これは異常な数だと思う。
おかげで採取のレベルも2に上がっている。
地味で楽しくない作業だが、採取の経験値と薬草の数がドンドン増えるので笑いが止まらない。これで少量とはいえお金まで貰えるというのは出来すぎじゃないだろうか?
集中して作業をしていると時間が経つのもあっという間だ。
依頼終了の時間になり、ゼパルさんが外に出てきた。
「時間です。今日は御苦労さまでした。報酬の200ゼニーとなります。」
ゼパルさんから報酬を受け取る。
ゼパルさんは俺が受け取るのを確認すると屋敷に戻ろうと扉に手を掛けた。
「待ってください。」
「どうかしましたか?」
それを俺は止める。
これはゲームだし相手はNPCだ。別に言う必要はないと思う。
でも俺はこのクエストで本来手に入る事のない薬草を35個も手に入れている。
これは勝手に持って行って良い物ではないはずだ。
「実はこの庭で薬草を大量に採取していまして。いや、これは花壇に生えていたとかではなく雑草に混じって生えていたものなんですが。」
「そうですか。雑草と一緒になっていた物ならばそれは私達には雑草と変わりません。自由にしていいですよ。」
ゼパルさんはそう言うとニッコリと微笑んだ。
な、なんてダンディに笑うんだろうかこの人は。
「しかし、それをわざわざ報告するのには好感がもてます。またアナタには色々頼むかもしれません。」
「はぁ、それは別にかまいませんが。」
ゼパルさんは満足そうにしながら今度こそ屋敷へと戻って行った。
扉が閉まると同時に『ポーン』という電子音が響く。
【称号を入手しました。】
「なんか隠し称号発見しちゃった?」
攻略サイトにはこんな情報は書かれてなかったのであまり知られていない情報だろう。
攻略サイトでは戦闘クエストばかりが攻略されていて、こういうクエストはあまり攻略されていないってところもあるだろうが、この情報は書きこんだ方が良いんだろうか?
まぁ、気付く人は気付くだろうし別に良いか。
俺は依頼も終了したので宿屋を探す事にした。
因みに依頼は受付で紹介された場合はギルドに報告しないといけないが、掲示板でのクエストでは報告しなくてもいい事になっている。
そういうのは依頼主がプレイヤーの行動を含めてギルドに報告するシステムになっているらしい。
そう言う事なのでギルドには寄らずに宿屋を探すことにした。
ライフアークには宿屋が満室になることがない。
大勢で遊ぶゲームなので、見た目通りの部屋数だけだと野宿するプレイヤーの方が多くなってしまうからだ。
宿のカウンターで貰える鍵を宿部屋の扉に差し込むと、扉と部屋が繋がるようになっている。
満室になることがないので宿屋はプレイヤーのお金の問題とか店のサービスの違いで選ぶことになる。
この商業都市エグベアには大中小の3つの宿屋があった。勿論大きな宿屋の方が料金は高い。
まだ駆けだしの俺には選択肢なんて無いようなものだ。一番小さな宿屋しかお財布事情を考えると泊まる事が難しい。
と、いうわけで俺は今、一番安い宿屋【猫の日向亭】の前にいる。
ここの宿屋は朝食付きで1日200ゼニーになる。お財布的にはこれでも大打撃だ。
今日の稼ぎがピッタリ消える。まぁ、薬草も増えたしスキルも上がっているのでマイナスではないが。
レベルは全然上がっていないけど、それはこれからというものだろう。
――次は戦闘も沢山してレベルを上げたいな。
俺はそんな事を考えながらログアウトのボタンを押した。